闇の住人
お久しぶりです。美野です。
薄暗い森の中に不愉快な高笑いが響いていた。
段々大きさを増すその笑い声は不気味で不愉快である。
しかし、その声も長くは続かなかった。・・・男の声が止むとほぼ同時に男が倒れた。
否、男の首が落ちたのだ。身体は立ったまま、男は首を無くしていた。
「五月蝿いな・・・」
真っ暗闇からあらわれた青年が、眠そうな声でこと切れた男へ声をかける。
だが、当然返事は無い。青年は暫く黙った後立ったままの男の身体を全力で蹴り飛ばした。
「起きろ。何時まで狸寝入り決め込む気だ、一目連。」
蹴り飛ばし、木に激突した男の身体はそのまま地面へどしゃりと落ちた。
だが、身体はすぐに動いた。指、腕、胴が順番に起き上がり二本足で立ち上がる。
「酷いぜ、鎌鼬。いきなり首を跳ね飛ばすなんてよー。」
少し離れたところにあった首がひとりでに喋り出す。首はケタケタと笑いながら眼を開け、鎌鼬をじろりと上目使いに見上げた。
「こちとら、今さっきやっとこの人間に乗り移って身体を手に入れたってェのによぉ。」
身体が首の傍まで来ると、首を持ち上げ胴の上の定位置へ乗せる。すると、斬り落とされた首と胴の間の切れ目がすぅと消え去りくっついた。
「あーぁ。やっと身体が手に入った。チッ、面倒だった。」
心底機嫌が悪そうに呟くと、鎌鼬が森の入口の方へ歩き始めた。
ある程度離れたところで一目連が気付き、慌てて追いかける。
「何処へ行くんだァ?」
「貴様が身体を手に入れるのに手間取ってくれたおかげで、予定が大分遅れているのでな。ちと暇な間に近道を見つけておいた。」
言いながらも歩調を緩めない鎌鼬の後を一目連は追った。
夕闇に包まれ始めている木々の間をすり抜け、奥へ奥へ歩を進める。
ふと一目連が空を見上げると、血のように赤い空が広がっていた。
正に逢魔ガ刻ってやつだなと思っていると開けた場所へ出た。
下界に広がるのは人間の住む街が広がっている。
「・・・此処か?お館様のいる都は。」
「あぁ。」
大小様々な建物が立ち並び多くの人が往来し、栄えている都。
龍脈、霊気が入り混じる街のどこかに主殿がいる。
「楽しそうだな。」
「当たり前だろォ?こんの何処かに、お館様がいんだ。」
こんなデカい隠れ鬼なんざそうそう無ェやァ。と気持ちを隠さず言う一目連に鎌鼬は苦笑しつつ確かにと思っていた。久しぶりにお館様に会える。それも楽しい遊びのその後で。
二人の背後にはいつの間にか数多の妖怪が集っていた。
「時間はたっぷりある。」
「遊ぼうぜェ」
“酒呑童子”