秀一郎さんのお家 2 C-3
「母様、紹介するよ。彼女が、飯塚未来さん」
「はじめまして、飯塚未来です」
私は秀一郎さんに紹介されて、緊張しながら彼のお母様に下げた頭を上げて……すごくビックリした。
だって、それはこの間から夢に見ているもう1人のママの顔だったから。
「未来さん、どこかで以前にお会いしましたっけ」
彼女の顔を見ながら固まってしまっている私を見て、秀一郎さんのお母様は不思議そうにそう言った。
「いえ……いいえ。」
夢でなんて言ったら笑われちゃうから言えない。
そのとき、奥から彼のお父様まで出てきた。
「いらっしゃい、僕もう待ちきれないから出て来たよ。へぇ、あなたが未来さん……」
そう言った後、彼のお父様は一瞬口籠もった後、秀一郎さんを肘でついて、
「お前が一目ぼれした訳がわかったよ。母様にそっくりだ」
と、ニヤニヤしながらおっしゃった。それにしても一目ぼれ? 聞いてない……そんなこと聞いてないよぉ。
「あ、父様それ、未来さんには言ってないのに…」
そう言われて、秀一郎さんも照れまくっている。
「言ってなかったの? 未来さん、秀一郎ね、初めて君の家に行った日からそりゃ煩かったこと! 口を開けば未来さんがだったな」
「父様!? いい加減にしてください!」
お父様の言葉に、秀一郎さんは真っ赤な顔をして怒っている。そして、それを見たお母様がクスクスと笑い出した。
「それって、まるで龍太郎みたいよ。引っ込み思案で思ってることの逆を言うとこ!」
「親子だから、似てて何が悪い」
自分に水が向けられて、お父様は憮然とした表情でお母様にそう返した。
「そりゃそうなんだけど、あんまり似てるんだもの、可笑しい」
お母様は手足までばたばたさせて笑っていた。笑いすぎたのか、その眼に涙まで浮かべていた。でも、そんなに笑う事なんだろうか……こんなことを思う私は変?
その後、階上の……マンションなのに部屋の中に階段があって、2階(ホントは9階??)の秀一郎さんの部屋で正式に、
「これから卒論で忙しくもなるし、それが終わればすぐ、父の会社で働く予定なんだ。だからそれまでに決着したいと思って。
未来さん、僕と結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?」
って言われちゃった。いきなり、結婚ですとぉ~!!! このぶっ飛びな展開に、些かどころか全然ついていけませぬ……
「もちろん、即答してもらおうなんて思ってないけど、考えてくれないかな」
「……はい……」
私は蚊の鳴くような声でそう返事するのがやっとだった。
しばらく経って、ようやく気を取り直した私は、秀一郎さんに質問した。
「あのぉ、1つ聞いても良いですか? お父様の会社って、もしかしたら……」
「YUUKIだよ。知らなかった?」
……やっぱり。全国に名を轟かす東証一部上場企業の名を事も無げに彼は口にした。
彼の名は結城秀一郎、今まで結びつかなかった方がおかしかったのかもしれない。
大変な事に…なったかも。私は結城家をお暇したあと、大きなため息をついた。