どっちが夢 M-5
翌朝目が覚めた私は涙を流していた。夢とは言え、幸せな私と秀一郎との出会いに。
でも、変なのは変だった。夢の中の私も、私の事を夢に見ていて首をかしげているし、私はパパの実家近くの一戸建てに住んで都立高校に通っている。しかも、それはママの出身校。
パパはパパのままだったけど、ママはなんと秀一郎のママの志穂さん。因みに私のママの名前は夏海と言う。昨日寝る前に今までの事を思い出したりなんかしたから、ママの願望を夢に見ちゃったのかなぁ。
おまけに名前だけだったけど、広波克也まで出てくるし……
広波克也……それは一昨日までの私の上司で、私の彼だった男。まだ未練なのかな……もう、そんなものはないと思ってるんだけど。
それより何より一番変だったのは秀一郎の顔だった。全然違うだけならまだしも、あのヤナのおじさんを若くしたような顔だったんだもの。
こんなのママは間違っても望んだりしないわ。夢の私は一目ぼれしちゃったけど、私はNGよ。こっちの秀一郎のほうが良いわ。ま、ヤナのおじさんと結婚した志穂さんの娘だから、それもありなのか……夢に突っ込みいれてもしょうがないんだけどね。
私は、加奈子さんたちに、
「もう行く所も家族も今はないんです」
って泣きついて保証人になってもらい、「いたくら」の近くにアパートを借りて、修司さんの幼馴染の人がやっている喫茶店で急に人が足りなくなったと言うので、バイトで入れてもらえることになった。
独りぼっちになったって言うウソは彼らにはとっくに見抜かれていたんだけど、人の良い彼らはそれでも私を放っては置けずに面倒を見てくれていたみたいだ。
そして、独りになった解放感なのか、はたまた寂しさなのか-私は眠るたびに歪んだ幸せなもう1人の私の夢を見るようになっていった。
そのうち私は、どっちが夢?って思うくらいに……