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Future  作者: 神山 備
第一部 2人の未来(みく)
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夢 C-1

 ああ、何か変な夢見ちゃった……私が25歳になって家出してる夢。その家も東京じゃなくて千葉だったし。


 私の名前は飯塚未来、高校二年生で17歳になったばかり。でも、今朝の夢って何かすごくリアルだった。そう思いながら、私は部屋を出て階段を降りると、

「おはよう」

ってママに声をかけた。

「おはよう、未来。今日はどこにも寄らずに戻ってきてね」

ママは、挨拶の後そう言った。

「何で?」

「今日から弥生さんの従兄弟の克也君が勉強見てくれることになったから」

げっ、勉強!? 弥生さんって言うのは、ママのお友達のお医者さん、大学病院の勤務医。克也さんというのは、その従兄弟で医大生。フルネームは広波克也と言うらしい。

「え~っ、勉強なんてやだよ。」

「未来、この前のテストで成績ずいぶん下げたでしょ? これでどこか大学いけるの? その話を弥生さんにしたら、克也君を行かせるって言ってくれたのよ」

確かにこの前のテストの結果は散々だった事は認めるけど、勉強なんて見てくれなくて良いよ、弥生さん。いや克也さんか……どっちでもいいけど。


「おはよう、志穂」

そこにパパが起きてきて、ママと朝のキス……はぁ、この2人は結婚18年目にして娘の眼も気にしないでそういう事が平気で出来る、超の付くほどのラブラブバカップル。

パパの会社にママが入社したとたん、パパは一目ぼれで猛アタックの末結婚。ママは因みにその会社の社長の娘だったもんだから、金目当てだとかもいろいろ言われたらしいけどね。パパがそういうややこしい事の出来る性格かどうか見れば判るじゃないの。

 ま、それは置いておくとしても、以来パパは『俺の趣味は志穂だ』と豪語するくらいの愛妻家。この2人を見続けると胸焼けするから、早いうちに避難しよっと。

 私は、髪をセットするために、急いで洗面所に避難した。


 で、私はどこかに逃亡したいという気持ちを何とか抑えて、その日はいつもよりちょっぴり早く帰宅した。

でも、克也さんはもう他の生徒さんを受け持っていて時間が合わないとのこと。内心『ラッキー』と思ったら、すかさずママは続けた。

「それでね、克也君のお友達を行かせるからって今克也君から連絡があったの」

えっ、ピンチヒッター用意したって!? いいのに、頼まなくて……そしたら勉強なんてしなくて良いのに。

私はぬか喜びだった事に心の中で舌打ちした。

だけど……

「お邪魔致します、広波君の紹介で参りました」

ウチに現れたその人を見て……私は一目で恋に堕ちてしまったのだ。初めて会った気がしない。運命感じちゃった……かも(あはっ、大げさ)。

「はじめまして、結城秀一郎と申します。あなたが未来さんですか?」

その人……結城秀一郎さんは、照れながら玄関先でそう、私に挨拶した。

 秀一郎さんは人懐こい笑顔で私を見て、

「さぁ、どこからやりましょうか。どこが解らないか言ってもらうと良いんですが」

と聞きながら、私の数学の教科書をぱらぱらとめくった。でも、そんな笑顔でそんな質問をされたら、ただでさえ解らないものが更に解らなくなって、もうどうでも良くなっちゃうんですけど……

「ねぇ未来さん、この問題は解りますか?」

秀一郎さんの口調はとても優しく丁寧だった。私がいつも接してる都立高校の男子なんかは足元にも及ばないような紳士!

 それでも私は……その時家族の誰も、結城と言う名字に反応する事はなかった。思えばママは小さな会社だけど一応社長令嬢だったのだし、通っていたのは有名なお嬢様学校。その時のご学友の弥生さんは今、勤務医をしているけど、大病院のお嬢様。そのセレブな一族の克也さんの幼馴染なんだから、あのYUUKIと結びついてもおかしくはないのだけど、克也さんのピンチヒッターでカテキョを買って出た時点で私たちはその選択肢を外していたのだ。

 別に経済的に必要のない彼がカテキョを引き受けたのは、『ダブルブッキングなんて言ってもヤヨねぇには通用しないんだよ。悪いっ、頼むよ!』と克也さんに泣きつかれただけだし、その話を秀一郎さんがお家でしたら、彼のお父様は『YUUKIだけじゃなく、いろんなことを経験するのはいいことだよ』とあっさり許されたからだったんだけど。


「やっぱり克也みたいには教えられないなぁ、僕は。それに、未来さん全然僕のいう事頭に入ってないですよね。克也は時間的にムリだとして、もっと上手く教えられる人にお願いしたほうが良いかも知れませんね」

秀一郎さんが困った顔をして私を覗き込んでそう言った。

「い、いえ……結城先生の説明、とっても解りやすいです。別の人だなんて言わないでください」

その時私は勉強がどうのと言うより、これで彼と会えなくなってしまうのが嫌で、慌ててそう答えてしまっていた。

「先生は止めてください。そんなガラじゃないですよ。」

それに対して秀一郎さんはそう言ってはにかんだ。


 成績が上がらなきゃ違う人に頼まれてしまうかも! 先生に来てもらうためには成績上げなきゃ!!

些か本末転倒って感じだったけど、私はちょっと真面目に勉強するようになった。

 結果、成績が上がったんだから、動機不順だけど大目に見てよね、ママ。


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