エピローグ(marine side)
【ミク、何を一生懸命書いているんだ?】
私が夜中、パソコンを叩いていると、ジェラールにそう言われた。
【うん? いろいろあったけど、私の人生って面白いかなと思って、今までの事をぽつぽつと書きためてるの。でも、日記にするのも面白くないかなと思って、少し違うことも書き加えて小説にね】
本当は全部事実だけど、パラレルワールドなんて信じてもらえるはずもないので、私はそう言った。
【えっ、ミクが主人公? 見たい!】
すると、彼はそう即答した。そんなジェラールに私は、
【見たいって日本語よ、解らないでしょ? 私、自分の文章翻訳なんかしないわよ】
って返した。本当は見られるのが恥ずかしかったからなんだけどね。
【それでも良いからって言ったら、君は見せてくれるのかな?】
【良いけど……】
読めない日本語の文章を見てどうするつもりよと思った私に、彼は一言、
【君は翻訳ソフトの事を忘れてないかい?第一、私がもっとミクの事を知りたいと思うのはイケナイ事なのかな】
と言った。あ、しまった、忘れてた。翻訳ソフトの精度って今はかなり良いのよね……
それに、私は彼の『もっとミクの事を知りたいと思うのはイケナイ事なのかな』という言葉にも感動していた。
【じゃぁ、私の見ていないところで、翻訳ソフトで勝手に見てくれるって言うんなら良いわ。】
私は渋々という調子を装ってそう答えた。
数日後…
【ミク、これ不思議で感動的で……本当に良いよ。私だけじゃなくてもっといろんな人に見てもらいたい。ただね、1つだけ気になるのは「future」って言葉が多用されてるんだけど、これ何? 意味がつながらないんだけど。】
私は、それを聞いて吹き出した。それは、精度が良くなった翻訳ソフトでもカバーできない、最後の欠点とでも言えるもの。
【ああ、それは私の名前よ。私の名前は、英語では未来を意味する単語になるから、名前だと思わずに訳しちゃうのよ】
【そういうことか! それを除けばすごく良かった。そうだ、Webででも発表すればいい。絶対にウケるよ。企業名や個人名を変えればいいんだ】
謎が解けたジェラールは私にこの話を発表するように言った。
【ダメよ、これ龍太郎さんの事が書いてあるし、見る人が見れば判っちゃう】
【大丈夫だよ、誰も君が書いてるなんて思いやしないさ】
【それに、私の名前が未来だから「Future」なのよ。名前を変えたら、この話成立しなくなっちゃうわ。】
【君は、ハンドルネームに本名を使う気かい? ねぇ、出そうよ、これ。君と君の家族との生きた証にもさ】
書いたものの、人前に出すつもりなんて少しもなかったのに、ジェラールは一生懸命私にWebに載せるように説いた。はじめは絶対にイヤだと思ったけど、ものすごく熱心に言ってくれることと、『生きた証』という言葉が私を捉えた。
私は、自分の事に先立って、ママの事から書くことにした。
タイトルは「Parallel」にした。気持ちは最初からつながっていたのに、決して交われなかった彼らの道筋を思って、「並行」という単語を充てた。
そして私は、パソコンに向かって言葉を紡ぎ始めた。
――私の……私たち家族の生きた証を――
Future -fin-
長い間、お付き合いありがとうございました。以上をもちまして、「Parallel」シリーズ全て完結でございます。
「Parallel」の一話を書き出したときには、この物語がこんなに長い物語りに発展するとも、語り部が未来だったことも分かってはいませんでした。
そもそも、タイトルが全て何故英語になっているのだろうと、自分でも首を傾げていたくらい。
この作品を書き始めてやっと、ああ、英語圏で書いていたからなのねって、自分が納得した次第です。
2人の未来の世界は完全に枝分かれして別々の物を築きはじめました。