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Future  作者: 神山 備
第二部 それぞれの未来(みらい)
44/55

おしどり夫婦 M-28 

 私は、パパの葬儀の後、懐かしい千葉の家に帰った。


 ママは元々小柄で食も細い人だったけど、パパが亡くなってからはますます食が細くなり、一段と小さくなってしまった気がした。だから、心配で一人置いてカナダに戻れなくなってしまったのだ。


「未来、あなたそろそろあっちに戻らなくて良いの」

そうこうしている内に、ママの方からそう聞かれた。

「ママを一人で置いてなんか帰れないよ」

「私は大丈夫よ」

私の言葉にママは笑ってそう返した。

「ねぇ、一緒にカナダに来ない? あっちで一緒に住もうよ。実はね、アンヌがどうしてもママをカナダに連れて来いって、毎日メールが来てるのよ」

「カナダへ? 無理だわ。第一、マーさんの49日が明けてもいないのに」

ママは手を振りながらそう答えた。

「じゃぁ、49日が終わったら」

「イヤよ、あなたは言葉が解るから苦でもなかったでしょうけど。それに、この歳で外国暮らしなんてまっぴらごめんだわ。」

「じゃぁ、旅行ならいいでしょ。顔だけでも見てやってよ。本当に会いたがってるのよ」

私がそうやって尚も食い下がると、ママはやれやれといった様子で、

「しょうがないわね、じゃぁ考えておくわ」

と、渋々旅行ということで承諾した。


 そして、私は半ば強引に49日が明けたすぐ後、カナダに行くための2人分の航空チケットを用意した。明日香も、

「その方が急にさびしくならなくて良いわよ」

と賛成してくれていたのに……


-49日の法要が終わって、いざカナダへと向かうことになった前日の朝-

早起きのママがいつまで経っても起きてこなかった。

「ママ、具合でも悪いの?」

と、私がママの部屋を覗くと、ママはその声にも反応しないで眠ったままだった。渡航の用意とかあったから疲れているのかな……一旦はそう思って部屋を出ようとした。でも、何だか様子がおかしい気がした。第一、耳が異様に良いママが、部屋を覗いて起きなかったことなんてなかったもの。

 私は恐る恐るママに近づいた。そして……私はママがもう息をしていないことに気付いた。

だけどママの顔は、本当に眠っているだけのようにしか見えない、安らかでホッとしたような顔をしていた。


――ママのお葬式で――

参列者の人々は口を揃えて、

「飯塚さんのご夫婦は本当に仲が良かったですもんねぇ。だから、ご主人が奥様を放っておけなくて迎えにこられたんですよ」

と言った。

だけど、私はそうは思わなかった。

 確かに高校生だった頃のように、二人に愛が全くなかったなんて今は思っていない。パートナーとして家族として、ママは精一杯パパを愛していたのだと思う。

 それでも私は、ママがパパへの恩返しを全うしたから、自分の本来あるべき場所に戻って行った……そんな気がするのだ。


 私は、パパ・ママの荷物の整理を終えた後、明日香に後の事を頼んでカナダに戻ることを決めた。

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