日本へ M-25
私の中で、パパはいつでも元気な存在だった。特に、離れた地で暮らすここ14年ばかりの間は、私の頭の中でパパは全く歳を取ってはいなかった。
でも、よくよく自分の歳を考えれば、パパももう78歳。喜寿を超える年齢に達していた。
私は大急ぎで飛行機のチケットを取ると、荷物をまとめ、日本に向かうことになった。
【ママン、帰るのはいつ?】
私の首筋にアンヌが泣きながらキスをしてそう聞いた。私が迷いながらそれに答えあぐねていると、
【行っちゃヤダ!】
と私に縋りついた。
【アン】
そんな、アンヌにジェラールは優しく呼び掛けた。
【ミクを困らせちゃいけないよ。ミクの本当の家は日本にあるんだからね】
【だからって、ママンがもう帰ってこなくても良いって言うの?】
すると、アンヌはそんな風に反論した。
【誰もそんなことは言ってないさ。でもね、アンにとってミクが大事なように、ミクにもミクのダディは大事なんだよ】
【そんなの、解ってるけど……】
解っていると言いながら剥れているアンヌの手を取って、私は言った。
【ねぇ、アン……私はね、帰ってこないつもりはこれっぽっちもないわ。ただ……私のダディの様子がここではちっとも判らないからどれくらいかかるか判らないし、ダディにもしものことがあったら、私のママンは一人ぼっちになってしまうから】
【じゃぁ、グランマをここに連れてきて!一緒に住めばいいじゃない】
するとアンヌはそう言った、私はママの事をグランマと言ってくれた事が嬉しかった。
【ありがとう…アンがそう言ってくれて、嬉しいわ】
【もうそれくらいで良いだろう、アン。飛行機の時間に遅れてしまうよ。さぁ、テオもそんな所で拗ねてないで、ミクに行ってらっしゃいのキスぐらいしたらどうだ】
ジェラールが軽くため息をついてそう言うと、テオドールが目線を下に落したまま私の頬にキスを落とすと、私に背を向けた。
【じゃぁ、行こうか】
私はジェラールの運転する車に乗り込むと、空港に向かった。
空港に着いて、搭乗手続きを済ませた私に、彼が言った。
【ゆっくり行って、うんと親孝行しておいで。私たちはいつでもここで待っているか。】
その言葉に、私は彼の首に縋りついて、搭乗のリミットギリギリまでそうしていた。
そして、14年前とは逆の道を辿って、私は懐かしい日本の地に降り立ち、パパの待つ病院を目指した。