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Future  作者: 神山 備
第一部 2人の未来(みく)
4/55

あの人 2 M-4

 龍太郎さんのお葬式が終わった後、ママは龍太郎さんの奥さん(つまりはあの人のママ)の志穂さんに会って、とても仲良しになった。それも私には納得がいかなかった。ママもだけど、志穂さんも旦那様のかつての恋人をどうしたら受け入れる気になるのかしら……そう思っていた。

ある日ママが、

「今日ね、秀一郎君が来るの。大好きなサッカーが病気で出来なくて寂しいみたいなの。仲良くしてあげてね」

とあの人が初めてウチに来るこをを告げたときも、私はそれを鼻であしらっていた。

なのに……


「はじめまして、結城秀一廊って言います。未来さんですか」

って聞く男の子なのに色白で(これは病気のために運動が禁止されていたからなんだけど)長いまつ毛をしたあの人――憎いパパの敵の息子――であるはずの結城秀一郎をかわいいと思ってしまった。一生懸命自分のことを話す姿に胸が高鳴った。

私は妹と同い年、つまりは5歳も年下の秀一郎に一目で惹かれていた。高校生の私が、小学5年生の秀一郎に……


 それは血のなせる業とでもいうのだろうか。


 それが、血のなせる業だと言うのは、それが私の妹明日香にもまた同じ効果を発動したようだったからだ。

 私と違って同い年の明日香は、すぐに打ち解けて、それこそ生まれながらに知っているかのように仲良くなった。

だけど、高校生にもなっていた私は、それを醒めた眼で眺めているフリをすることしか出来なかった。

 いっこうに打ち解けようとしない私にママは、ママと龍太郎さんが何故愛し合いながらも別れたのかを語った。


 龍太郎さんの父親は、東証一部上場企業の社長で、龍太郎さんはその会社を継ぐべく教育を受け、育てられた。

 家柄を重んじる大正生まれの彼の祖母は、ごく当たり前の家庭のママとの結婚をあからさまに反対した。それでも龍太郎さんは最初は押し切ってでも結婚しようとしていたらしい。

だけど……龍太郎さんは自分が子供の頃罹った病気が元で、通常ではまず子供は望めないのだと知ってしまう。

 跡取りが出来ない事でママが辛い立場に立たされることを懸念した龍太郎さんは、何も真実を告げることなくママに一方的に別れを告げた。そして、親の勧める相手、志穂さんと結婚した。

 だけど……出来ないはずの子供ができたのだ。それが秀一郎。秀一郎は龍太郎に準えるように同じ頃同じ病気に罹って……そして龍太郎さんは9年前、謎の死を遂げた。

「未来の歳なら、もうこの話も解ってくれるんじゃないかと思って……」

ママはそう言った。


 ママはずるいよ。そうやって、自分の弱さを娘にひけらかして何になるって言うの?

その話を聞いた私は、秀一郎に運命を感じてますます惹かれてしまっていた。


 私がママの事を聞いたときパパはその場にはいなかったけど、別には聞いていたのかもしれない。最初は別行動だったパパが、いつしかその輪の中に合流した。

 元々野球大好きのパパは、病気で好きなサッカーが出来ない父親を失った少年の事を放っておけなかったのかもしれない。

 あるいは、彼の中に暁ちゃんの姿を重ね見ていたのだろうか。


 私には生きていれば明日香より1歳年上の弟、暁彦がいた。とは言っても、私は顔さえ見たことがない。暁ちゃんは死んで生まれてきたのだ。

 ママはそのことで錯乱状態に陥り、自分の産んだ暁ちゃんに会わせてももらえなかった。今でもその話になると、ママは必ず涙ぐむ。

「男の子なのに色白で、きれいな子だったよ」

とパパがいつだったかぽつりと言った事があった。


 それから、今度はそこに2人の同級生で龍太郎さんの親友、ヤナのおじさん(初めて会った当時は独身だったから、おじさんなんて口が裂けても言えなかったけど。ママと同い年なら、私には充分おじさんだよね)が加わるようになった。ママ曰く、

「志穂さんが私に似てるから心配なんじゃない?」

ですって……パパがママ以外の女の人に言い寄るなんて、あるわけないじゃないの!


 そう……そんな事あり得ないけど、ママはふと夢見てしまうのかもしれない。ママと龍太郎さんが結ばれて、その代わりと言うと語弊はあるかもしれないけど、パパと志穂さんが結ばれれば――きっとみんながハッピーエンドになるんじゃないかって。


そんなことを考えながらいつの間にか眠っていた私は変な夢を見てしまった。


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