幸せ M-23
「で、さぁ、一つだけお姉ちゃんに謝らなきゃならないんだわ」
特別養子縁組での顛末を話し終わった後、明日香が私に言った。
「何?」
「私、二人の名前勝手に変えちゃったのよ」
「名前を変える?」
私にはにわかにはその意味が解らなかった。
「正確に言うと漢字を変えただけなんだけどね。たっくん、達也って達するっていう字だったでしょ、それを龍にしたの。それからほのかちゃんは、ひらがなからお義母さんの穂と、私の香で穂香。
私ね、龍也は本当のとこ龍彦にしたかったのよ。そしたらパパがね、『俺に変な気なんか回すな。漢字ならまだ知らないから今から覚えさせればいいが、名前自体を変えてしまったら、龍也は混乱するぞ』って聞かないの。私だってママだって、あのころたっくんって呼んでたのにね。だから、たつやのまま字だけ変えるってことになったの」
「それ、別にあやまることじゃないじゃん」
明日香は私が付けたくても付けられなかった名前に変えてくれていた。嬉しくて涙がこぼれそうになるのを必死にこらえて、わざとそっけなくそう言った。
「だって、戸籍上だけじゃなく、本当の意味での親子になりたかったんだもん。だから、お義父さんの名前も、お義母さんの名前も私の名前も盛り込んで付けちゃった。私って、欲張りだよね」
「ありがと……」
欲張りな娘がこんなにみんなのことなんか考えたりしないよ、そう思いつつ私はついにこらえ切れなくなって、涙をこぼしながらようやくお礼だけを言った。
「ううん、お礼を言うのはこっちの方よ。お姉ちゃんがあの時二人を産んで、そして手離してくれなかったら、私は子供を持てなかったから」
何でもないような調子で明日香はそう返した。
別に私やあの子たちに気なんか遣わずに、自分たちの子供を産めばいいのにと思った私に、明日香は続けてこう言った。
「私ね、再発したのよ。今度は摘出した訳じゃないんだけど、もう怖くってムリ」
「明日香……」
何で、この子だけがこんな辛い思いをしなきゃならないんだろう。そう思った私の気持ちを察したのか、明日香はなおも続けた。明日香の口調は軽かった。
「ねぇ、お姉ちゃん。まさか、私がかわいそうだとか思ってないでしょうね。私、かわいそうなんかじゃないよ。たっくんだってほのかちゃんだっているし、それだけじゃないの、私には全世界に子供がいるのよ。いっぺんには何人だか把握してないわ。それくらい、子沢山なんだから。」
「へっ?」
「私たちね、貧困で教育も受けられない世界の子供たちの里親になってるの。今年も一人増えたわ。その子たちからね、『勉強させてくれてありがとう』『ご飯を食べさせてくれてありがとう』って手紙が届くのがすごく楽しみなの」
「……」
私はそれに対してどう返していいのか分からなかった。
「他の人と比べなくたって良いじゃない。他の人なんて関係ない。私はね、今自分がホントに幸せだと思っているから」
そして、そう言いきった明日香の言葉には、一点のくもりも迷いもないように私には思えた。