お義母様 1 C-12
-結婚6年目-
子供を産んでからは、ほとんどもう一人の私の夢は見なくなっていた。双子の子育ては半端じゃなく忙しいし、妊娠中という特殊な状態が私たちを更に密につなげていたのだろうし。それでも時々は見るから、私はあっちの子供たちの成長にその都度驚かされる。
ウチは、両方のパパママに果ては妙子さん……この方は秀一郎さんのお祖父様の内縁の奥様。皆さんが妙子さんと呼ぶのでお祖母様とも呼べず、結局わたしまでがそう呼ぶことになってしまった。その妙子さんまでが入れ替わり立ち替わり関わってくれる。そんな子供たちもようやく幼稚園に入園し、送り迎えの僅かな時だけど、羽を伸ばせるようにもなった。
明日香は看護師となり、この春から青年海外協力隊でなんとアフリカに旅立ってしまった。軍事紛争とかどうなのよ……などという家族の心配をよそに、
『アフリカの夕日、マジ最高!』という一言を添えた夕陽の写真が送られてきた。それが明日香なりの『心配しないで』の意思表示。確かにそれは、写真でも息を飲むほど綺麗ではあったんだけどね。
「へぇ、明日香ちゃんも元気でやってるのね。」
私はその日、子供たちの写真のついでに、お義母様にその写真を見せた。
「どうせなら、元気な顔の写真でも送ってくれば良いと思いません?」
「充分楽しんでる様子が伝わってくるじゃない。それで許してあげれば?」
「ま、そうなんですけどね……」
そう、明日香は専業主婦の私からは眩しいほど生き生きと輝いて見えた。双子って大変な分、楽になるのも一気だって聞く。私も今から何か頑張れることを探したほうが良いのかもしれない。
「ねぇ、頂き物があるんだけど、持って帰らない?」
お義母様はそう言うと、キッチンからお肉のパックを持ってきた。
「そういうのお義父様お好きなんじゃないですか」
「好きなんだけどね。もういい歳でしょ、少し控えさせないとね。それに、ほのかが家を出てからは、今までほどは食べなくなったわ」
明日香がアフリカに行ったすぐ後、秀一郎さんの妹、ほのかちゃんが結婚した。相手の鳴澤さんのアメリカへの赴任が決まって、急遽挙式-そして渡米という、慌ただしい旅立ちだった。
でも、ほのかちゃんからは毎日と言っていい程、スカイプで電話がかかってくる。
「結婚してるって言う自覚があるのかしらね、あの子」
今度はお義母様が頭を抱える。
「大丈夫ですよ。ほのかちゃん、お義母様に似てしっかりしてるもの」
「そうかしら?」
「そうですよ」
自分の身内は心配になるものなのかもしれない。
お義母様は、お肉のパックを入れる袋を探しに再びキッチンに向かった。
-がたん-
その時、キッチンで何かがぶつかる物音がした。
「お義母様、何かあった……!」
様子を見に行った私は、キッチンでお腹を押さえて脂汗を流しながら蹲っているお義母様を発見した。