10年目の真実(marine side) 1 M-16
ママが龍太郎さんの子供を!?
私も、夢の中の世界はパラレルワールドなんじゃないかと思い始めていた。でなきゃ、こうもいろんなことが一致するはずはないもの。
私も妊娠中、しかも双子……それがきっかけで、こっちとあっちがつながったのかも知れないって。でも、そうするとこの子たちは秀一郎との……なんだろうな。
散々迷った挙句、私はママにそのことを尋ねていた。
「ねぇママ、ママは龍太郎さんと付き合っていたときに生理がすごくきついこととかあった?」
私の質問にママは首を傾げながら肯いた。やっぱり身に覚えがあるんだ!
「普段は軽い方なんだけど、一回だけ吐き気はするし目眩はするしで、早退したことあったけど。一回だけだったんで良く覚えてるわよ。でも、何故?」
「うん?ううん……なんでもない。」
聞いてはみたものの、理由を聞き返されるとすんなりと口からはでなかった。
「何でもない訳ないでしょ? 今更、そんなこと聞くんだもの」
「うん…あのね、母親教室の仲間にさ、生理がきついだけだと思ってたら流産だったって後で医者に言われて、今回すごくナーバスになってるのがいるんだ」
その言葉に案の定ママの顔が歪んだ。
「知らないうちに?」
「うん、後で看護師さんに聞いたら、『そういうこともたまにありますよ』って言われた」
ママはそれを聞いて小刻みに震え始めた。やっぱり聞くべきではなかったのかもしれない。
「ゴメン、なんだか頭が痛いの。部屋で休んできて良い?」
ママはそう言って寝室に入ると、音楽をかけた。物悲しいバイオリンの調べ……「アルビノーニのアダージョ」だ。私はママと違ってクラシックには全く興味はないけど、この曲はママが折に触れて聞いているので知っている。
どれだけの時間がたったろうか。そろそろ夕食の用意を始めても良いころになってもママは部屋から出てこない。よっぽど頭が痛いんだろうか。
その時、電話が鳴った。
「はい、もしもし飯塚です」
「あ、未来ちゃん? 志穂です。夏海さんは?」
「ちょっと待ってください、ママぁ電話!」
私は扉の前に行って呼びかけたけど、ママからの返事はなかった。ぐっすり眠っちゃってるみたいだ。
「寝ちゃってるみたいです。すいません、起きたら電話するように言いましょうか」
「ありがとう、じゃぁそうして」
「はい、解りました。」
私がそう言って、電話を切ろうとした時、志穂さんが言った。
「ねぇ、何か音楽かけてる?」
そう言えば、さっきから、リピートモードになってるみたいで、ずっとアルビノーニのアダージョがかかり続けている。あまりにも長い間かかりすぎていて、かかっている認識すら私には無くなっていたけど、そう言えば今日は耳の良いママにしては音量が大きすぎるような気がする。
「ええ、ママがアルビノーニのアダージョを聞いてますけど。私、ちょっと変なこと言っちゃったんですよね。だから、落ち込ませちゃったかな。ママ、凹むといつもあれ聞いてますから」
「アルビノーニのアダージョ! ねぇ、未来ちゃんあなた、夏海さんに何言ったの!? それより夏海さんを見て来て! 早く! 早く!!」
志穂さんはアルビノーニのアダージョと聞いた途端、にわかに焦ってそう言った。私は、志穂さんが何故そんな風に声を荒げて焦っているのかまったく解らなかった。
だけど、そんな私が首を傾げたまま、ママたちの寝室を覗いて見たものは……静かにベッドに横たわっているママと、空になった風邪薬のビンだった。