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Future  作者: 神山 備
第一部 2人の未来(みく)
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10年目の真実(chiffon side) C-11

 あの後、お義母様は戸田さんたちの名前を私が知っていたことを何も聞いてはこなかった。たぶん、あの後話題になってただろうに。

 結婚して半年が過ぎたころ、妊娠していることが分かった。しかも、双子。

「双子を妊娠してるからって、3人分食べなくていいのよ。それより、早産になることが多いからくれぐれも無理しないようにね」

私が双子を妊娠していることを知って、清華のお兄ちゃんのお嫁さん、乃笑留さんが妊娠中の食生活のアドバイスをしてくれた。乃笑留さんは病院の管理栄養士をしている。

「ホントに今の若いお母さんって、何考えてるか分からない人、多いんだもん。あ、結城さんがそうだとは言わないのよ」

乃笑留さんだってまだまだ若いのに、ため息をつきながらそう言った。

「ちゃんと『朝ご飯食べたよ』って報告受けて、よく聞くとスナック菓子だったりね。そんなのがザラだから……」

いくら何でもお菓子を主食にはしないけど、私。でも、お世辞にも良い食生活だとは言えないかも。

「ま、悪阻で食嗜好が変わるのは事実だけど、自分の欲求に任せてケーキばかり食べてたりとかね。ホント、指導のし甲斐があるってものなのよ」

「そうなんですか」

「妊娠ってことの意味を知らないのかな。命を何だと思ってるんだって説教したくなるのをこらえるのに必死にならなきゃならないのよ」

小柄でお人形さんみたいな彼女のオバサンチックな発言に、私は笑いを堪えるのに必死だった……あの一言を聞くまでは。

「知らないうちに妊娠して、流産までしているケースまであるんだから。ウチみたいなのが特殊なんだとしてもよ、そこまで呑気になれるもんなのかしらね」

乃笑留さんのママはある病気を抱えていて、それこそ自分の命を引き替えにしてでもと彼女を産んだのだと、前に清華に聞いたことがある。

それにしても、流産してることに気づかない人もいるの?!私はある1つの憶測が頭を過って固まってしまった。

「流産が分からない人がいるんですか?」

そう彼女に尋ねた声は震えていたかもしれない。

「ただ遅れた生理がかなり重いなとしか思わなかったとすればね……どうしたの? 結城さん」

急に考え込んでしまった私を、乃笑留さんは怪訝そうに見つめた。


 本人が気づいていない内に流産していることがある。その一言で私が囚われてしまった1つの憶測…

 向こうのママ(つまりはこっちのお義母様)ももしかしたら知らないうちに流産しているのではないだろうか。そして、その事実を私のように何らかの形で、龍太郎さん(つまりはお義父様)だけが後年知ってしまったとしたら……しかも、お互い別の相手と結婚して、その人と子供まで成した後で。


 私たち子供には口が裂けても言わないんだけど、志穂さん(こっちではママ)は龍太郎さんとの結婚って最初は偽装だったみたい。親たちの手前でだけ結婚して、志穂さんは別の男性と付き合っていた。 だから、龍太郎さんは、秀一郎さんを自分の子供だと思ってなかったみたい。徐々に自分にそっくりになっていく秀一郎さんに戸惑いながらも、ムリにそれを否定していたという。

 でも……秀一郎さんが自分と同じ病に冒されたことで、本当に自分の子供だと認めざるを得なくなって、ママと別れたことを後悔しての衝動死だったと彼女らは見ている様だ。

 だけど、龍太郎さんは秀一郎さんが自分の血を分けた本当の子供だと、とっくに気付いていたのではないだろうか。それでも、それはあっちのママではなく、志穂さんだったから生まれて来たのだ。そう思っていたのだとしたら……

 そう思って、新しい出会い・家族を大切にして生きてきた龍太郎さんはある時知ってしまったんだ。本当はあっちのママにもちゃんと子供が出来ていたってことを。

 体調を崩したあっちのママをその時に病院にすぐ連れて行って流産だとはっきり診断されていれば、自分に原因があるかもしれないと検査もしなかっただろうし、龍太郎さんの性格なら、生まれてこれなかった命でもそのことの『責任』といいう形であっちのママとの結婚を進めることができたんじゃないだろうか。実際、こっちでは、梁原さんとの子供の秀一郎さんを自分の子として迎え入れている訳だし。

でなければ、龍太郎さんはあっちの秀一郎さんを本当に可愛がっていたみたいだから、秀一郎さんが11歳にもなって命を絶つのはおかしすぎる。


 あっちのママにも子供ができていた。そう考えれば全ての辻褄が合うのだ。


 だけど、この事実をお義母様に確認するのは気が引けた。妊娠中の今、何気ない様子でそういう話題を出すことは可能だけど…それに龍太郎さんが死んでいるのはあっちの世界での話だし。

 折角のプロの栄養指導なのに、その日の乃笑留さんの話は、何も私の頭には残ってはいなかった。


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