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Future  作者: 神山 備
第一部 2人の未来(みく)
25/55

お義母様のご学友 C-10

 私は大学を卒業して、どこかに就職することもなくそのまま、すんなりと秀一郎さんと結婚した。もう一人の私の壮絶な生き様をつぶさに見ている私には、何だかそれが後ろめたい気もした。私だけがこんなに幸せで良いんだろうか。

 そう、梁原さんや畔上さん、さらに清華や乃笑留さんまでいることを知ってからは、私はあの夢は夢ではなくパラレルワールドなのだと思うようになっていた。


-*-*-*-*-

「こんにちは」

「あら、未来さんいらっしゃい」

 ある日、結城の実家を訪ねると、そこには戸田(旧姓皆川)悠さんと、中山(旧姓速水)容子さんがいた。2人ともお義母様の高校時代の同級生で、あちらの私は、ママの親友として何度も顔を合わせていた。

「はじめまして、未来です」

私はお二人に挨拶した。

「へぇ、これが秀ちゃんのお嫁さんか。結城が言うように、確かに夏海に似てるよ」

と、戸田さんが言った。

「そう?」

「うん、似てるよね。大体男の子なんて、無意識に母親を求めるもんよ。ま、なんせ旦那様があれだから……余計なんじゃない」

「そう、そうなのかしら……」

あけすけない調子で言う中山さんの言葉にお義母様の瞳が揺れる。


「で、今日は何?」

「あ、この間のクラシックショコラなんですけど……何か上手くいかないんですよ。それが聞きたくて。ちゃんと連絡してからお伺いすれば良かったですね」

「良いわよ、木曜日はいつも家にいるって言ってるんだし」

私が謝ると、お義母様は手を振りながらそう返してくれた。

「あのクラシックショコラ? 結城の大好物じゃん」

すると、中山さんがそう言った。そう言えば、あっちのママと志穂さんがそう言いながら、そのケーキで紅茶(プリンスオブウェールズという銘柄の)を飲んでいたのを思い出した。

「へぇ、そうなんですか。秀一郎さんも好きなんですけど、お義母様みたいに上手く出来なくて」

「やっぱ、親子だね。夏海」

しみじみとそういう戸田さんの言葉にお義母様の肩が揺れた。よくよく考えてみれば、梁原さんも皆さんとは同窓生、お二人とも顔は知っているはずだ。そんな梁原さんにそっくりになっていく秀一郎さんの事……本当は分かっているはずだろうに。たぶん、血のつながりより深いつながりを暗にお義母様に言おうとされているのだろうな。素敵な方々だと私は思った。

プリントアウトされたレシピを私に手渡したお義母様は、いつも通りの穏やかな笑顔だった。

「あ、強力粉なんですか? 今まで薄力粉使ってました。だから、生地に弾力がなかったんですね」

私は自分の間違いを確認すると、

「お邪魔しました。じゃぁ、戸田さんも中山さんもごゆっくり」

と言って、実家を後にした。私がそう挨拶をした時、戸田さんはびっくりした顔をした。私はそれが最初何故だか分らなかったんだけど、エレベーターのボタンに手をかけた時、やっと自分のしたことに気付いた。

(あ、私……まだお二人の名前聞いてなかった!)


 きっと変だと思ったに違いない。だけど今更戻って訂正するのももっと変。あまりにもすごすぎて、私が見ているもう一つの世界の話、できるわけないもの。

 私は逃げるように自宅に戻った。

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