表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Future  作者: 神山 備
第一部 2人の未来(みく)
22/55

父親(後編) 1 M-13

 うとうとしていると、携帯で起こされた。この着信音は……良かった、清華さやかだ。私は家に置きっぱなしだった携帯電話に手を伸ばした。


「もしもし」

「あ、やっとつかまったよ。おかえり。ミクすけごめんね、チクっちゃって」

清華は開口一番、私に謝った。

「良いよ、おかげで踏ん切りもついたしね」

「シカトしようかとも思ったんだけどね、あのおばさん、わざわざ電話くれてんだし、なんか良さ気だったし」

「うん、板倉さんには随分お世話になったんだ。今回の事がなきゃ、私ずっと名古屋で暮らしてたと思う」

「そっか。それで……おばさんの話、あれホントなの?」

加奈子さん、清華に子供の事話しちゃったみたいだ。

「ホントだよ」

私が肯定すると、清華はしばらくの間無言だった。

「ホントなのか……独りで育てるのは大変だからね。ウチのノンちゃんとこ、ノンちゃんはもう6歳になってたけど、それでもサユママはすごく苦労してたもん」

ノンちゃんと言うのは清華のお兄ちゃん、周人さんの奥さんの乃笑留さんという人の事。ノンちゃんのお父さんはノンちゃんが小学校に上がる直前、交通事故で世を去った。

 それで、ノンちゃんのママはたった一人でノンちゃんを立派に育て上げ、ノンちゃんは今、管理栄養士をしている。

「で、どうするの?あっちには知らせるんでしょ」

あっちって言うのはたぶん、克也の事だろう。

「ねぇ、メールに切り替えていい?」

「あ、うん…いいよ。じゃ、一旦切るわ」

清華が着信を切ったので、私は徐にメール画面を出して入力した。

-ゴメン、隣のリビングに明日香がいるから、聞かせたくなかったんだ。それで、産むには産むけど、克也に知らせる気はないよ-

そう入れて送ると、間髪いれずに清華から返信があった。

-んなこと言ったって、あっちは父親でしょうが。いくら親が決めた婚約者でも、状況はこっちが有利じゃない。押しちゃえ押しちゃえ!-

有利か……私が克也だけを思っているのなら、そうなんだろうな。

-有利とかそういう問題じゃないのよ。というか、克也じゃないかも知んないの-

そう送ったら、ムンクの叫びのようなデコメが施されたメールが送信されてきた。

-!!!まさか、あの子と!? それ、聞いてないよぉ!!-

清華には本当は秀一郎が好きだということは話してあったけど、さすがに今回の事は話してはいなかったのだ。

-そのまさか。だから、私は秀一郎から離れるために名古屋に行ったのに-

私は続いてそう送信した後、ため息をついた。

 そう、父親として確率の高いのは克也より秀一郎の方……明日香とはまだだったらしくて、初めての彼にはコントロールなんて利くはずもなく、酔いも手伝ってあっという間に私の中で果ててしまった。そのことにまったく不安を感じなかったと言えばウソになる。

 ただ、私は龍太郎さんとママが別れた原因って『病気のためにふつうには子供はできない』と医師に診断されたこと。そして、その同じ病気に秀一郎もかかってしまったってことに、一縷の望みを抱いていたのだ。そのなけなしの望みだって、治療は日進月歩で進化しているし、結局志穂さんは秀一郎を産んだ訳だし。ただの気休めでしかなかったのだけど。


-そりゃ、イタイな。それでもやっぱり産むんだ。-

そんなことを思っていた私に、けがをした人のデコメを入れたメールが届く。

-うん、秀一郎の子供なら、どうしたって産みたいよ。それにウチ、弟が死んで生まれてきてるんだ。だから、生まれようとしてがんばってる命は殺せないってパパが言ってくれてさ、父親の名前も聞かないし、全面的にバックアップするって言ってくれたんだ。-

-そっか、じゃぁ、がんばれってしか言えないけど、ガンバレミクすけ!!-

清華の最後のメールにはマッチョな力こぶが躍っていた。

-ありがとう、清華-

私たちは、そこでメールを終えた。


 それからしばらくして、また着信音がなった。今度はワンフレーズ聞いただけで私は固まった。それは、秀一郎の着信音だったから。それでも私は、一度深呼吸をしてから、徐に着信ボタンを押した。

「何?」

平静を装いそう聞いた。

「帰って来たって明日香から聞いて……」

「うん、今日帰ってきた。いっぱい…電話くれたんだね。」

私がさっき久しぶりに着信履歴を見たとき、そこにはものすごい数の結城秀一郎という名前が羅列されていた。たぶん、明日香から私が携帯を持たずに出たことは聞いているだろうに……

そして、息の音がして(たぶん深呼吸したんだと思う)

「明日香に聞いたんだけど、あれ……」

と遠慮がちに私に尋ねた。

「それはないよ」

秀一郎の言葉を最後まで聞くこともなく、私はぴしゃりと跳ね返した。それは絶対に子供の事に決まっているから。

「ってか、電話なんかでそんな話しないで」

今この部屋にいないまでも、すぐ隣のリビングに明日香はいる。そんな中ではどんな話もできない。明日香はママのように自分が出ていない電話の受け答えまでする耳は持ってはいないとはわかってはいても。

「じゃぁ、会いたい。」

「明日なら……時間取れる? 明日にはママも仕事に行くだろうし、抜け出して秀一郎んとこいくけど」

「午前中は授業があるけど、昼からなら。でも、今日帰って聞いて明日また東京まで出てくるのって、身体に障るといけないし、俺がそっちに行くから」

秀一郎のマンションに行くと言った私に、秀一郎はそう返した。

「じゃぁ、2時に〇〇駅のXXで待ってる。」

身体の事をいたわってくれるのは正直うれしかったけど、こんな話を外でするのはちょっと辛いな、そう思いながら私は少し家から離れたターミナル駅のファミレスを指定していた。

「分かった。」

秀一郎はそう言うと、電話を切った。


 ああもう!明日香がすぐ近くにいる空間で、こんな話するなんて本当に心臓に良くない。

疲れちゃった……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ