伏せられたフォトスタンド(中編) 1 C-8
「未来さん、未来さん……」
目覚めた私はすごく汗をかいていた。
「大丈夫?ひどくうなされていたようだけど」
お義母様が心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「あ、大丈夫です。変な夢見ただけですから」
ホント、ビックリした。あっちの秀一郎さんと私がいきなり、その……あんなことしちゃうんだもん。考えるだけで顔が真っ赤になっていく。あ、でも私も来年は結婚するんだよねぇ。でも、先に夢で経験するのは何だかなぁ……いろんなことが頭を過っていく。
そんな黙ったままで赤くなってしまっている私を見たお義母様は、
「寝てまた熱が上がったんじゃない?」
と、私のおでこに手を当てた。
「熱は…下がったみたいね」
「ええ、もう大丈夫です」
お義母様、これは熱のせいではないですから。
「でも、もう少ししたら秀一郎が帰って来るから、そしたらあの子と車で病院に行けば良いわ。そのまま家まで送らせるし」
「あれ? 秀一郎さん、定時に帰って来られるんですか?」
私はそれを聞いてびっくりした。秀一郎さんはお義父様が『こき使う』と言われたように、まだまだ新入社員の今、早くに帰れることなんて滅多にない。
「あなたが眠った後、あなたの携帯に休憩時間に電話してきたのよ、あの子。出ないと心配するかと思って出たら、様子を話したら逆に心配しちゃって。『僕が未来さんを病院に連れて行くから。必ず定時に終わって帰るから、母様が連れてったりしないでよ』ですって」
「うわっ、そうなんですか? すいません」
「謝ることなんかないわよ。仕事より親より彼女が大事。それで良いのよ。龍太郎はすぐに仕事を優先させるから、病気がまた出ないかといつも冷や冷やするんだから」
お義父様は、若い頃大病をなさったと聞いている。
私はその時、部屋のシンプルだけどモノの良いドレッサーの上に置かれたそれには似つかわしくない些かチープなフォトスタンドを見つけた。中に入っている写真は、秀一郎さん? ……微妙に顔が違う。人懐こい笑顔はそのままなんだけど、何だか大人びていて、しかも写真がかなり古い。少し変色していた。
「ただいま!」
その時、玄関で元気な声がした。秀一郎さんの妹、ほのかさんが学校から帰って来たのだ。
「じゃぁ、秀一郎が帰って来るまで待ってて頂戴」
お義母様は、私がその写真を不思議そうに眺めているのに気付くと、フォトスタンドを伏せてほのかさんを出迎えに部屋の外へと出て行った。
――あれは、きっとヤナのおじさんだ――
実際に会ったことはないけれど、私はそう思った。彼はママの向こうでの旦那様。
でも、何でヤナのおじさんの写真がお義父様とお義母様の寝室に飾られているんだろう。
私は、もう一度写真を確認したい衝動に駆られたけど、お義母様が戻って来られるかもしれないと思って、そのままベッドの中にいた。