泣き虫になった訳 4 M-9
「話は板倉さんから聞いた。とにかく、何にしても帰って来い」
パパは憮然とした様子で私にそう言った。
「心配している様だから言っとくが、父親のことは聞かんでおいてやる。というよりな、なまじ名前なんか聞いてしまうと俺はそいつを殺しかねないからな。それにな……たとえ間違いで授かった命だったとしても、子供には罪はない。生きたくても生きられない命だってあるんだ。俺たちには生きようとしている命をなかったことになんてできない。
未来、子供はもう家族のものだ。みんなで最高に幸せにしてやればそれで良いことじゃないか」
その昔、趣味はママだと豪語して家族を何より大切にしてきたパパだから、その言葉が私の耳に重く響いた。
そして、――生きたくても生きられない命――それはたぶん、暁ちゃんのことを思っているのだ。
暁ちゃん、私はあんたに何もしてあげなかったのに、お姉ちゃんのこと助けてくれるんだね。……ありがと。
「ねぇ、私ホントにウチに帰ってもいいの?」
「当たり前だ、他にどこに帰るところがある」
そうだね、他に帰れるとこなんてどこにもないし、このまま意地を張って残る気力も、パパの今の言葉で無くなっちゃった。
パパ、甘えさせてもらうね。
でも……今のこの状態であの子の顔を見るのは正直辛いな。
「私、帰るね。じゃぁ、『ドルチェ』に行って来るわ」
「『ドルチェ』って?」
ああそうか、私のバイト先のことは知らないもんね。
「私が今、バイトせてもらってる喫茶店。すぐに代わりの子を探してもらわないと。マスターの菊池さんに話してくる。」
どうせ、早めに行って昨日のことを話さなくちゃとは思っていた。それでも、使ってくださいと言うつもりだったけど……辞めるといわなきゃならないのか……さびしいな。
「じゃぁ、私も一緒に行くわ」
すると、ママもついてくると言った。
「ママもその方にお礼がしたいし、親が迎えに来てるって言えばあなたも切り出しやすいでしょ」
「俺はその間に部屋を片付けておく」
「……うん、分かった。2人ともありがと」
私は頷いてそう返事したものの寂しかった。バイトだし、事情が事情だから、菊池さんはすぐに了解して両親と帰るように言ってくれるだろうから。
でも……短い間だったけど、私はここの暮らしが大好きだった。
私はママと一緒に 『ドルチェ』に向かった。春は名のみの風が私の頬に当たる。