オトウサマ 2 C-5
私は秀一郎さんのプロポーズを受けた。で、秀一郎さんが私の両親の承諾をもらいに来る事になった。
私が、
「久しぶりに結城先生がウチに遊びに来たいって言ってるの」
と言った時はパパは、
「そうか、もう勉強じゃないんだから、一緒に酒でも飲もうって言ってくれ」
なんて張り切っていた。でも、パパすぐに酔っ払うのにな。
だけど、いざ秀一郎さんが家に来て、彼のスーツ姿を見たとき、パパの顔色が変わった。
「結城君、今日は何の用だ」
声にも妙に凄みあるし……
「今日はお父様に折り入ってお話があって参りました」
秀一郎さんは、いつものように折り目正しい口調でそう言うと、パパに深々と頭を下げた。
「残念だが、俺にはない。それに俺は君のお父様じゃない。解ったらさっさと帰ってくれ!」
それに対して、パパは握りこぶしをぷるぷるさせながらそう言った。今にも殴りそうなのを必死に堪えてる?何故??
「それから、未来には二度と会ってくれるな! あの子の事は心配してもらわなくても結構だ。俺たちでなんとでもできる」
は? 何それ、パパ……何か激しく誤解してない? 秀一郎さんも困惑した表情でその場に立ち尽くしている。
「聞こえてるのか、出て行けって言ってるんだ!!」
「すいません、何か私、怒らせるような事をしたり言ったりしましたでしょうか」
秀一郎さんは首をかしげながらそうパパに尋ねた。
「怒るも何もないだろっ! 娘を傷物にしといて、それが言う台詞か!!」
き、傷物!? 何それ!!
「ちょっとパパ、何勘違いしてるのよ!!」
「何を勘違いしてるだと! こいつはお前をもらいに来たんだろうが!!」
ま、それに間違いはないんだけど……ないんだけど何か違う気がする。
「ええ、だから今日は未来さんとの結婚を前提にした交際をお許しいただこうと思って参りました」
「だから、認めないって言ってるんだ、何度言えば解る!!」
パパはついに秀一郎さんをグーで殴った。
「何するの!? 何でパパ、認めてくれないの?? 昨日パパ、秀一郎さんと一緒に飲みたいって言ったばかりじゃない」
「それとこれとは話が違う、娘を傷物にされたとあっちゃ……」
うー頭痛いよぉ、どうしたらそういう発想になったのかな。
「私がいつ、傷物になったって?!誓って言うけど、私たちまだそんな関係じゃありません!!」
「へっ?」
たまりかねて爆発した私に、パパは驚きの表情を向けた。
「そうじゃないのか? まだ学生の男がこんな上等なスーツを着込んで、しかもこんな低姿勢でお父様って言ってきたもんだから、てっきりそうだと……」
パパは私の言葉に急にトーンダウンして、小さな声でごにょごにょそう言った。
「秀一郎さんの言葉が丁寧なのは、今日に始まった事じゃあありません!!」
「す、すまん……そう、だったかな」
パパは大きな身体を縮めてそう言うと軽く頭を下げた。
「その……私は結婚するまでそういう事をするつもりはありません。ただ、未来さんと結婚したい気持ちは本当なので、就職して忙しくなる前に、承諾を頂きたいと思ってお伺いしただけなんです」
「そうか……そういうことなら、まあ……いいか」
更に秀一郎さんの一言ですっかり萎れてしまったパパが、秀一郎さんに握手を求めた。
「ありがとうございます」
秀一郎さんが笑顔でその握手を受けた。
「じゃぁ、パパ、秀一郎さんにちゃんと謝りなさいよ。何も聞かないで殴るなんて、サイテーよ」
「ああ、申し訳ない。痛かったか?」
私がホッとしてそう毒づくと、パパは照れながら秀一郎さんに謝った。
「そんな、とんでもない。大事なお嬢さんをいただきにあがるのに、それくらいは覚悟してましたよ。父が母と結婚したいと祖父母に申し出た時には、祖父に3~4発殴られたと聞いてましたから」
へぇ、そうなんだ。でも、お父様たちの場合、本当にデキ婚だったらしいから、それはそうかもね。私はそう思ったけど、それを今口にだしてしまったら話がまたややこしくなりそうなので黙っていたけど。
そして、この後、秀一郎さんの上等なスーツの謎――秀一郎さんがYUUKIの跡取りだという事が分かって、パパとママはあんぐりと口をあけて固まった。
パパがホントに小さな声で、
「やっぱり、ダメだったらダメだ……」
と力なく言うのが聞こえた。