第6話 そして現実から非現実へ
俺はまさにヘコんでいる。
なぜかって?
いや・・・・、この件をする元気もない・・・。
白河が拉致されたという事実。
役に立たなかった俺・・・。
一応、警察に連絡はしたし、目撃者も他に居たから・・・。
とは思うんだけど。
白河、どこに連れて行かれたんだ・・・。
あいつら、白河を拉致して、いったいどうするってんだ?
まさか殺す?
いやいや、仮にも有名人だ。
身代金か・・・?
それとも、可愛いあいつにあんな事やこんな事を・・・・!?
「だああああああああああああああああ!!!」
「うるさいっ! 静かにしてられんのか、お前はっ!!」
「は、はい、すみません・・・」
如月さんだ。
もう自分の力じゃどうにも出来ないと思った俺は、如月さんを頼って来た。
これ以上、頼もしい人はいないと思ったからだ。
如月さんには、ここに来て、すぐに事情を説明した。
すると、
「ちょっと待っていろ」
と、さっきからずっと端末を操作している。
タバコをスパスパと、もう何本も吸っている。
如月さんでも、さすがにどうにも出来ないよな・・・。
警察でも探偵でもないんだし・・・。
ニュースでもやってるかなと、テレビのリモコンに手を伸ばし、スイッチを入れた。
ガヤガヤと流れるCM。
チャンネルを変えても、ドラマの再放送や、料理番組しかやってない。
さすがに、まだニュースにはならねえか・・・。
「くそっ!!」
行き場の無い切なさと苛立ちで、言葉を吐き捨て、テレビを切った。
すると、如月さんは操作の手を止め、椅子をクルリと回転させ俺に向き合った。
「まったくうるさいな君は。そんな泣きそうな顔をするな、白河君の居場所が分かったぞ」
「えっ!! マジすかっ!?」
俺は身を乗り出した。
「ああ。三坂学園のすぐ近くだ」
「え・・・そんな近くに」
良かった・・・。
まだなんとかなるのか?
でもなんで学園のすぐ近くに?
いったい誰が・・・?
「でも、どうして居場所が分かったんですか?」
最初に浮かんだ疑問を聞いてみる。
「ん? ああ、簡単だ。彼女は私のツボ・・・んんっ、いや有名人の彼女が心配でな。昨日あった時に、盗聴器内臓の携帯・・・んんっ、いやGPS内臓の携帯を渡しておいたのだよ。教えてないが、あれは色々特殊機能が着いていてな、スタンガンにもなるし、護身用としても役に立つ」
なるほど・・・さすが如月さんっておいぃぃっす!!
教えとけよっ!!その機能っ!!
しかも、ダメでしょ、盗聴しちゃ!!
犯罪ですよ?
それから、是非、今度俺にもその盗聴を・・・
って、おいぃぃっす!!
まともな思考に戻せっ俺っ。
「ま、まあ深くは突っ込まないっす。。で、どうしたら・・・・」
「質問はするな、ちゃんと説明してやる」
「君から聞いた情報で分析した場合、恐らく彼女を拉致したのは、拉致屋だろう」
「拉致屋・・・ですか?」
「ああ、さらい屋とも言うな・・・まあようするにヤクザが絡んでいる訳だが、そういった商売を生業とするもの達もいる」
やっぱりヤクザか・・。
事務所にも嫌がらせがあったって言う話しだし、
昨日も襲われてたしな・・・。
「てことは、身代金目的の誘拐って感じですかっ!?」
「いや、十中八九違うだろう」
きっぱりと言い切る如月さん。
え・・・じゃあどうしてと、困惑する俺。
「実は、今いる場所に心辺りがあってな・・」
「そうなんですか!?」
「まあな。ここには私設だが、研究所がある」
そう言って、モニターを指差す。
三坂学園の、2つ隣の区画でカーソルが光っている。
結構大きい区画だ。
そこには、以前、如月さんがいたことのある研究所で一緒に研究をしていた、元同僚・・・いや、研究者仲間と言った方がいいか、いわゆる顔見知りが住んでいるらしい。
如月さんと同じ研究所で・・・・。
てことは、やっぱりその人もかなり変わってるんだろうな・・・。
まてよ・・・てことは・・・
「まさか、白河を実験体にするつもりじゃ!?」
「それも違うな」
「じゃ、じゃあなんで・・・」
如月さんは、いつもの癖なのか、頭をボサボサとかきむしり、タバコを持った指で、
「教えてやる」と俺を指差した。
「彼は、私と同じ趣味を持つ、いわゆる少女愛好家だ。美少女をこよなく愛している」
なにサラッと自分の恥ずかしい趣味暴露してんだ、この人。
いやしかし・・・
「じゃあ、今のあいつ、やばくないですか!?」
「なにがだ?」
「だって、そいつロリコンなんでしょ? そんな変態野郎が少女拉致してすることって言ったら・・・」
「性奴隷か?」
「ぜ、絶対そうだろ」
「ふむ。君の心配も、もっともだが、それは無いだろう」
「私が保証する」と言い切る如月さん。
ま、この人がそう言うなら間違いないんだろう・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
場所は変わって、ここはとある研究所の一室――――――――
私は眠らされ、気が付いたらここにいた。
そしてなぜか、可愛いらしい女の子と遊んでいる。
「真琴真琴~~~、次はなにして遊ぶ? ん~~プレスタはもうあきたしぃ~、携帯ゲーム機でぇ、あ、それとも、カードゲームで対戦でもするぅ?」
「う、うん・・・ねぇ、七星ちゃん。それもいいけど、私、ここから出たいなぁ~って」
「え~、無理だよ~。だってこの部屋、出口も入り口もないんだよぉ」
「そ、そうみたいだけど、七星ちゃんもずっとこのままじゃいやでしょ?」
「うん・・・でもぉ、この部屋、面白いものいっぱいあるんだもん」
この見た目、中学生位の女の子は、七星ちゃん。
幼い感じがとっても可愛らしい。
ちょっと、雰囲気があいつの妹、彩乃ちゃんに似てるかな。
私はこの子に起こされた。
きっとこの子も、連れ去られたに違いない。
「七星ちゃんは、どこから連れてこられたの?」
「え? え~とねぇ、分かんないかなぁ」
「分からない? 覚えてないの?」
「ん~、そうかも」
「遊ぼ~よ~」と、スカートを引っ張る七星ちゃんを横目に、この部屋を見渡す。
部屋には、普通に家具が据え付けられており、可愛いぬいぐるみやら、たくさんのゲーム機やら、占いのグッズやら、漫画本やら・・・とにかく遊べるもので埋め尽くされている。
おまけにテレビ、ベッド、ソファー、まであり、冷蔵庫には食料もたっぷり入っていた。
唯一ある扉は、開けるとユニットバス。
何度も確かめてみたが、他に扉は無かった。
完全に閉じ込められてしまっている。
「どうしよ・・・」
こんなところで、いつまでも居られるわけがない。
あ~、携帯があればな~。
持っていた鞄と携帯が無くなっていた。
万事休す・・・と思っていたら、
そういえば!
これがあったんじゃない!
如月さんから貰ったぬいぐるみを思い出す。
スカートの腰にぶら下げた、クマの可愛いぬいぐるみ。
取り外して、「どうやるんだっけ・・・」と考える。
横で、七星ちゃんが、「ああ、クマのぬいぐみだ~」見せて見せて~と騒ぐ。
「ごめんね、ちょっと、向こう行ってて」
むぅ、つまんないと寂しそうにする七星ちゃんだけど、今はそれどころじゃない。
改めて、クマを見つめ直すと、
「こ、こうかな」と、そのお尻をむにぃっと押した。
すると、モアモアの毛を掻き分け、にゅっと100円ライターのような物が出てきた。
ボタンが三つ付いている。
「確か、この青いボタンを押して・・・。」
カチっと押すと、テュルルルルルルと電子音が鳴り始める。
やった!
そう、これは、如月さん直通の小型携帯だった。
ありがとう! 如月さん!!
すぐに電話は繋がった。
「白河か」
「如月さん!!」
「現状を説明出きるか?」
さすが、如月さん、もう事情が分かってるのね。
「え~とですね、今、部屋に閉じ込められて・・・」
プシュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あ・・・・れ・・・わ・・・た・・し・・?・・・」
突然、霧のようなものに当てられ、気が遠くなる私。
携帯からは、「おいどうした、白河」「聞こえないのか?」「返事をしろ」
と、声が聞こえている。
が、その時、
グシャッ!という音とともに、携帯は足で踏み潰された。
そこには、ニヤリと不敵な笑みを作る女の子。
「ダメでしょ真琴、お痛しちゃ。もう少し、楽しもうかと思っていましたのに」
声が聞こえるが、良く聞き取れない・・・。
私は膝から崩れ落ち、倒れる瞬間―――――彼女の顔を見た。
幼い顔で、大人っぽい表情の女の子、彼女は―――――――――
・・・・・・・・・・・・・・・。
「ここが、その坂爪研究所なんですか?」
俺と如月さんは、白河が幽閉されている研究所へ来ている。
何しに来たかって?
もちろん助けに来たに決まってる。
しかも、
「あいつは私の顔見知りだ。一緒に行こう」
と、如月さんも来てくれたので、とても心強い。
目の前には、研究所というより、でかい屋敷。
てっきり、どこかの金持ちが住んでいるのかと思ったら、研究所だったとは。
「わざわざ、研究所らしくしても仕方がない。例えば、君の家のすぐ近くに何の実験をしているか分からない研究所があれば、どう思う?恐らく不気味に感じることだろう」
というのが如月さんの話し。
確かに、如月さんの研究所も見た目さっぱり、というか、その存在すら分からないようになってるけど。
しかし、屋敷の周りは、高い塀に囲まれているし、入り口も馬鹿でかい鉄格子の門になっている。
いったいどうやって中に入るっていうんだ?
どうしたもんかと、考え込んでいると、
「じゃ、行くぞ」
と如月さんは、門の端にある、インターホンを押した。
「ピンポーン」
「ええ!? 普通にピンポン!?」
「何が可笑しい? 他人の家に来たというのに、この方法以外に何がある」
あ、いや、そうかも知れないけど、如月さんの事だ、きっとまたとんでも装備でドカーンと行くとばっかり・・・。
「はーい。どちら様ですかぁ~」
しかも普通に出た!?
「お久しぶりです。如月です」
「あ~、みくるちゃ~ん、おひさ~」
「今日は遊びに来ました」
ぶっ、なんですか!
その友達来ました見たいな感じは!?
「いいよ~ん、入って~」
しかもいいのかよっ!!
ゴゴゴゴゴゴーと鉄格子が開く。
「その、坂爪さんとは、良く会ってるんですか?」
坂爪さんとは、坂爪博士。
その彼が、如月さんの元研究者仲間だ。
「ん? ああ昔はな。ああなってからは、一度しか会ってはいないが」
「ああなって?」
「まあ、行けば分かる」
ふ~ん、まあいいか。
如月さんが謎なのは、毎度の事だ。
しかし、「みくるちゃん」ってなんだ・・・?
突っ込みどころが多すぎる・・・・。
門を抜け、庭を進む。
進む進む。
歩く歩く。
ひ、広い・・・。
門まで軽く100メートルはありそうだ。
しかし、庭?といっても、花や木のような植物は無く、閑散としている。
ただ広い。
本館は、趣のある洋館風。
だが、周りは無機質なコンクリートの建造物だ。
遠くには、別館のような建物がいくつかあり、さらには左右に見えるプール場・・・。
これが私設だなんて、本当かよ・・。
やっと玄関・・・大きな木製の扉の間まで来ると、
ギギィィとドアが開き、中から少女が現れた。
「ようこそいらっしゃいました、どうぞ中へお入り下さい」
「へ? 来栖先輩?」
黒いメイド服を着たその少女は―――今日、屋上で会ったアイドルの来栖先輩だった。
いつもの怪電波は無いものの、まちがいない。
「先輩?こんなところで何やってんですか? ひょっとしてメイド修行とか?」
先輩が居るなら白河も無事かなと、安堵した俺は、笑顔で聞いた。
「・・・・・・・・・・」
あれ? 反応が無い。
ひょっとして機嫌悪いとか?
「俺の事忘れましたか?今日昼間、階段で一緒に居た・・・・」
「・・・・・・・・・」
来栖先輩は、表情を全く変えず、俺を見つめている。
若干、首を傾けているのは、疑問系の意志だろうか。
可笑しい・・・。
何かが可笑しい。
疑念が渦巻く中、俺は一番聞きたい事を聞いた。
「話したくないなら別にいいです。ただ、白河は無事なんですよね?」
「・・・・・・・・・」
白河の名前にも一切無表情だ。
これじゃ、埒が明かない。
こうなったら力技と、つい彼女に手を差し延べた時、
「やめておけ」
その間、沈黙していた如月さんが俺を制した。
「彼女はクローンだ。恐らく何も知らないし、何も分からない」
「クローン?クローンってあの、クローン牛だのクローン羊の、あれですか」
「ああ。一つの細胞から細胞分裂を起こさせ、全く同一の固体を作り上げる技術だ。当然、髪の毛1本あれば事足りる」
こ、この先輩がクローン・・・?
そ、そんな事って・・・マジか?
見た目全く一緒だぞ?・・・って、だからクローンなのか。
いやしかし、人間だぜ?
そんな馬鹿な。牛じゃあるまいし・・・・。
俺が訝しがっていると、「現実を見ろ」と説明の続きが始まった。
「・・・だが、それぞれ遺伝子が全く同じでも、その固体の成長過程によって、見た目や外見は変化する。一卵性双生児、いわゆる双子が良い例だろう。彼らは、全く同一の遺伝子を持ちながら、お互いに違う経験を得て内面や外見を変えていく。つまり・・・・・
しまった!
例の病気が始まった!
確かに知りたい情報だが、何を言ってるのか、さっぱり分からん。
何とか話しの隙間に入らなければ、日が暮れてしまう!
「あ、あのー、もう少し分かり易く、短くお願いします。」
「ふむ。精一杯簡単に話したつもりだが・・・そうだな。要するに、この子はクローンだが、君の知っている先輩とは違って、経験を積んでいない。すると当然、筋肉の付き方や骨格も変わってくるはずだ」
ああ、なるほど。
つまり、運動すれば筋肉が付くし、牛乳を多く飲めば、骨も太くなるって事だろ?
「君が間違える程だ、この固体の完成度は相当なものだと言えるだろう」
なるほど・・。
「話しかけても無駄なのは、経験・・・つまり、彼女は特定の会話しか、学習していない為だろう」
長い説明で、どっと疲れた・・・。
ようは、この子は見た目だけ、来栖先輩って事だな。
ややこしいので、こいつは先輩αと呼ぶ事にしよう。
「案内してくれ」と、如月さんが告げると、「こちらへ」と、手招きして歩き出す先輩α。
玄関から入ってすぐの広間から、目の前のでかい階段を登って行く。
登る登る・・・・。
どんどん登る。
しかし…百歩譲ってだ。
先輩がクローンなのは理解したが、どうして先輩なんだ?
如月さんの言葉を思い出す…。
『彼は美少女愛好家だからな』
……。
確かに、来栖先輩はアイドルだし美少女だけど……う~む…。
まいっか。
悩んでも分からん!
科学って凄いね!
などと考えつつ、階段をまだまだ登る。
だあああああ!!
どこまで登るんだよっ!
エレベーターは無いのかここはっ!
鍛える為に、一段飛ばしで行った方がいいですかね?
息が上がって、一人置いてけぼりをくらっていると、階段が無くなり、突き当たりを曲がる二人。
最上階かよっ!
どんだけ客に失礼なんだよと思っていると、どうやら着いたらしい。
扉を開け、部屋へと入る二人に慌てて続く。
すると、可愛らしい女の子が出迎えてくれた。
「あ~ん、みくるちゃ~ん、会いたかった~~~」
「お久しぶりです。坂爪博士」
え? 坂爪博士って・・・。
こいつどう見たって、女子中学生だろ。
「あ~、みくるちゃん、少し老けたんじゃな~い?いいの?そのままでぇ」
「構いません。私は特に若返ることなど、望んでいない」
げ、若返るだって!?
ま、まあそれはこの際スルーしてだ。
気になるのは、坂爪博士と呼ばれている、その女の子。
確かに、如月さんの話しじゃ、男だって・・・。
「そういえば、悠里ちゃんは元気?」
「はい。問題はありません」
性転換でもしたのか・・?
「それで、今日は、何の用かしら?」
「はい、実は・・・・
「ちょっと、待って下さい!」
気になってしょうがない俺は、空気も読まず、その疑問を投げかけた。
「如月さんっ、ちょっと聞いていいですか?」
やれやれ、なんだ?と面倒くさそうにする如月さん。
「あー、その、如月さんの話しじゃ、坂爪さんって男だって・・・」
「ああそうだが」
何か? と不思議な顔で見つめる。
「え? だから、この人普通に中学生ぐらいの女の子じゃないですか」
ちっと舌打ちする如月さん。
はい? なぜそこで、不機嫌に?
「面倒だ。後で説明してやる」
それでいいな?と俺を見る。
すると、黙っていた、その坂爪博士?が割って入ってきた。
「構わないわよ、説明なさいな、みくる。無知は恐れ、知識は力。分からないというのは、とても残酷な事ね」
「続けなさい」と、両腕を組み、後ろの木製デスクへと寄りかかる。
すると、如月さんは、ガシガシ頭を掻きながら、
「少しは自分で考えろ」と言いながら、「いいか?」と説明を始めた。
「彼は男だ。だが、正真正銘の女性でもある」
そんなのありえないだろ。
「てことは、性転換ですか?」
「そうではない。正真正銘と言っただろう。この坂爪という男は、少女を愛するあまりに、自らを女性に変えた。いや、変えたと言うよりだな・・・」
「もう、私の事は、七星ちゃんって呼んでよね。いいわ、私が説明して上げる、じれったい」
向こうで寄りかかっていた坂爪博士?が近づいてくる。
「私はね、自分の脳の一部を、この身体に移植したのよ」
「そしてこの身体を手に入れた私は、女の子に生まれ変わった」
お分かり?と手を広げて俺に問う。
脳を移植だって・・・?
バカな・・・、ありえないだろ?
信じられないといった顔をする俺に対して、如月さんは、
「信じられないか?だがこれが現実だ。その信じない、常識じゃないといった概念が、人の進歩を遅らせる。彼、いや彼女は間違いなく坂爪博士だ」
そう告げるられ、二人から注目を浴びる俺。
さらには、何で分からないのお前、的な空気。
一瞬、場が沈黙する。
何でもありなんだな・・。
この人達って・・。
そして、沈黙を破ったのは坂爪博士。
「はいはい。おしゃべりタイムはそこまで」
如月さんへ向き直った坂爪博士は、パチンッと指を鳴らした。
すると天井が、ガバッと開き、無数の剣が落ちてきて、床へとザクザク突き刺さる。
な、何を・・・・。
「さて、私のそんな過去を知っている貴方達には、消えてもらいましょうか?」
サッと博士が手を上げると、一斉に、ふわりと宙に浮く無数の剣。
ど、どうなってんだ・・・。
状況が理解できない。
しかも、なぜ剣が浮いているのか分からない。
きょろきょろと、必死に仕掛けをさがす俺。
「私を殺すのか?」
未だに落ち着いている如月さん。
「そうですわね。フフフ・・・」
幼い顔で、妖艶に笑う博士。
そして、
「死んでくれる?」
とささやき、上げた手を振り下ろした。
と、同時に如月さんは、俺の身体を引き寄せると、
「すまん死んでくれ」と言い、俺を前方に突き飛ばした。
そして、宙を漂っていた剣がヒュンヒュンと飛んでくる。
無数の剣が次々に俺の身体に突き刺さる。
痛みを感じる間もなく、気が遠くなり、目の前が暗くなる、その僅かな瞬間、
横をすり抜け、電撃を放つ如月さんが見えた――――――
そして俺は絶命した・・・・・。
と思ったんだが・・・。
目が覚める。
血の匂い・・・。
口の中に広がる鉄の味。
お、俺は・・・・?
「ふっ、実験の成果が出ているな」
手を指し伸ばしてくる如月さん。
「俺、生きてますか?」
「ああ、そのようだ」
身体を確認する。
剣は抜いてくれたのか、刺さっていない。
傷口も塞がり、血は止まっているようだが、身体のあちこちが燃えるように熱い。
如月さんの手につかまり、起き上がる。
が、ふらふらと足がおぼつかない。
「これを飲め」
目の前には、ドス黒い液体の入った小瓶。
「なんですか、これ?」
「特殊な栄養剤だ。今の君はかなりの貧血状態だが、気休め程度にはなる」
俺は素直に受け取ると、
「それじゃいただきます」と、一気に飲み干す。
少し楽になった気がする。
そして栄養剤の効果なのか、頭の中が徐々に鮮明になってくる。
目の前には、乱雑に散らばる剣。
そして、シュ~シュ~と黒い煙を漂わせる、坂爪博士。
「死んだんですか?」
「まだだ。こんなものでは、こいつは死にはしない」
現実感のなさに目眩がする。
頭の中に、先程の光景がよみがえる・・・・・。
・・・・・・ハッとし、叫ぶ。
「如月さん!! 酷いじゃないですかっ!! 俺を盾にするなんてっ!!」
俺を見捨てるつもりだったんですか!!と詰め寄る。
「何を言うのだ?私のおかげで二人共助かったのではないか」
全く悪びれる素振りも無い、如月さん。
はあ~。
ま、いいか、生きてるし・・。
この人といると、俺まで大雑把になっていく気がする・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
そして俺達は、白河を捜すべく、部屋を出た。
如月さんいわく、白河はこの階にいる可能性が高いらしい。
「博士は、大事な物は最上階に隠す癖がある」との事。
通りを見渡すと、部屋の数は結構ある。
「君はそっちを頼む」
手分けをし、部屋を次々に開ける。
以外にも鍵はかかっていない。
しかし、どの部屋も怪しげな装置が沢山並んでいる。
そうかと思えば、可愛い服ばっかりの衣装部屋があったり、
お菓子で埋め尽くされた部屋や、来栖美月グッズ満載の部屋があったりする。
天才の考える事は、良く分からん・・・。
そして、何ヶ所かさらに調べたその次の部屋に、あいつは居た。
バンッ!
勢い良くドアを開けると、目の前にはいつもの制服を着た、白河。
!!!!!!!!!!!!
「白河っ!!!」
思わず叫び、俺は走り寄る。
しかし、「?」とした感じで、
きょとんと、女の子座りをしながらこっちを見上げている。
「おい、大丈夫かっ? 何か、されなかったか?」
「・・・・・・・・。」
反応がない。
な、なんだこいつ・・・・。
いったいどうしちまった?
両手で肩を掴み、「おいっ、白河っ!!」と揺さぶる。
するとニコッと無邪気な笑顔になった。
ほっと、胸を撫で下ろす。
しかし、次の瞬間。
「あーー、うう? あううう。キャハハハハハハーーーー」
突然、可笑しな声を出し笑い出す、白河。
え?
その異様な笑い方に呆気に取られる。
嘘・・・だろ・・・・。
そして、口からよだれを垂らしながら、
「あーあー」と楽しげに床をポンポン叩いては笑い、叩いては笑いを繰り返す。
「お、おい・・・な、なんだ・・それ?」
「よ、幼児ごっこ・・・かな? あははは、面白いなお前・・・・よ、よし・・・そんな事してたら、またスカートの中見ちゃうぞ」
ほれほれと、スカートをひらひらしてやる。
しかし・・・・・・・・・
白河は俺の腕を掴むと、自分の口の前に手繰り寄せ、
「キャハハハハハハハ・・・い~~~・・・あむ・・・・あぐあぐ・・・」
その手に噛み付き、甘噛みしてくる。
そ・・・・そんな・・・キャラ・・・じゃ・・ねえだろ。
たまらず、手を振り解く。
「ああ~あ~」と宙に手を彷徨わせる白河・・・・。
だから、お前・・・・なんだよ・・・
冗談はやめろよ・・・
バカやってんじゃねえよ・・・・
いつも、気が強くて・・・・
俺を殴ったり・・・・
お・・お前・・・・
嘘・・・・・・だろ―――――――――――
第7話へ続く