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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第2章 カラダが改造されたあと
42/45

第22話 真琴と美琴と加奈子と俺と

月曜日の午前中―――。



俺は学校を休んで自宅でまったりしていた。


だってさ、この身体で学校行くの無理なんだって。


やっと手足動くようになったんだけどさ、鏡見てびっくり。


マジキモいよ。


右手と顔だけ幼稚園児だぞ。


ありえねー。


魔物としか思えない。


通りすがりの子供が無くぞ?


普通に考えて外出なんか絶対無理だろ。


皆も想像してみてくれ。


自分の顔だけが子供(幼稚園児レベル)の頃に戻ったとしたら‥‥。


多分、誰もお前だと気付かないぞ。


『お前って童顔だよな』とか言って済まされる、ほんわかレベルでは決してない。


例えばだな、兄さん大好きっ子彩乃さんの第一声がこれだ。



「この子誰ですか? 随分身体のおっきな子供ですねー」



しばらく俺だと言っても信じてもらえず、白河――ゴホン、真琴が何度も説明してくれたおかげでやっと信用したぐらいだ。


あの彩乃がだぞ?


そしてその場にいたノノなんだが、初めは興味なさそうにしてたのに突然大爆笑。


何事かと思ったら、



「じいちゃん凄いよ! ノノがアップした動画のカウント!!」



てっきり俺とは無関係なのかと思ったら、タイトルが――


『カラダは大人、頭は子供! たった一つの真実見抜く――アニメじゃないよ――』


またしょうもない事したのかって思って見たら、普通に俺を盗撮した動画だったし。


それを見た彩乃も真琴も大爆笑。


何が面白いってんだ、普通に歩いたり食事したりする俺だぞ。


まあ、妙に短くて不器用な右手とか、声変わりしていない女の子みたいな声とか自分でも笑っちゃうけどさ。


身内をネタにするとか頭可笑しいだろっ。


しかもノノのやつ、調子に乗って2chにもスレ立てようとしていたもんで、重いゲンコツを食らわせてやった。


不便だろうと思って渡した携帯でフザケたことしやがって‥‥もう何も買ってやらんからな。


ってことで、身内がこのざまだ。


他人が見たらどうなるのか‥‥未知の領域だ。


でもまあ、考えてみれば他人といっても真琴は違ったよな。


最初こそ笑ってたけど、普通に接してくれてたもんな。


やっぱ彼女は違うってやつ?


ふふん。


ま、変なところ勘違いされたけどよー。



『私、そういうの気にしないから‥‥』



あ‥‥また屈辱的な出来事が蘇ってきた。


エロサイトを閲覧しようが真琴の写真集を見ようが、一切反応しないんだよっ!


そんなお前じゃなかっただろうが!


早く元に戻ってくれ!


このままじゃ、煩悩を吐き出す手段がないんだっ!!


嗚呼‥‥コナンはどう処理してるんだろう‥‥‥‥。


‥‥‥‥。


そんな事よりだ、真琴の誤解はどうやって解くんだよ。


え? 今は諦めろって?


フザケんな!


良く聞けよ?


もしも自分の彼女に『うわっ‥‥ちっちゃい‥‥』みたいな顔されて、思いっきり気を遣わされたらどうする?


平常心でいられるのか!? 立ち直れるのか!?


え? デカイからそんな心配ないって?


‥‥‥‥。


俺だって、自慢の逸品だったんだよ‥‥。


と、取り敢えず何かで気を紛らわそう!


そうそう、聞いてくれ。


フフフ‥‥密かに携帯を新しくしたぜ!


超アプリダウンロードしまくり。


最近ハマってるニコ生でも見ちゃう?


今更~? とか言うな。


結構面白いよな、これ。


さてさて‥‥お気に入りのコミュやってっかな~。


とその時、背後から声をかけられる。



「なに見てんの?」


「ん?ニコ生だよ」


「動画?」


「そう、たまに超可愛い子がだな‥‥」



‥‥‥‥。


誰も居ない筈なんだよね、この部屋。


‥‥‥‥。


それすなわち幽霊か真琴なり!



「白河真琴、召喚!」



バッと天高く手を掲げ、叫ぶ俺。


そして後ろを振り返る。


あはは‥‥と、苦笑いで可愛くピースサインの真琴。


ちっ、ノリが悪いやつ。


そこは召喚された幻獣よろしくポーズ決めて『風の妖精ウィンディー登場!』ぐらいのセリフが欲しかったぜ。


そんなんじゃ、厨二病の友達が出来ないぞ。



「‥‥コホン。ところでだな、気配無く現れるのやめてくれってあれ程言ったよな? 昼はいいけど夜とか超怖いんだぞ?」


「ん? そんなの言われたコトないよ」



キョトンとして真顔で言ってんじゃねーよ!


どの口が物言ってんだよ。



「そもそもだな、お前今日学校はどうしたんだよ?」


「学校なら真琴が行ってるよ。いや、美琴だったかな? さて私はどっちでしょう――」



――っふ、そんなニヤニヤしながら言ったらバレバレだぜ。


あいつがそんなお茶目な事すると思ってるのか?


間違いなく美琴だな。


‥‥いや待て。


だとしたら、この顔を見て何も反応が無いのは可笑しい。


やっぱり真琴?


ワザと真似して俺をからかってるのか?


ふっ、甘いぜ!



「美琴‥‥お前までもが気を消せるようになったとはな‥‥オラわくわくしてきたぞ」


「あーやっぱりバレた? さすがにキミは手強いね」



だからさ、小首を傾げてニコッとするのは可愛いと思うよ。


だけど、たまにはボケに着いてきて欲しいわけ。


真琴も含めてお前にも言いたい。


世間では、ノリツッコミという言葉がある事を。


そして関係ないが、真琴という呼び方もイマイチしっくり来ないな!


まあ、皆も慣れてくれ。


おっと、今目の前にいるのは美琴だった。


いや‥‥最近お前らマジで区別つかんぞ。


最初は如月さんと真琴を二で割ったみたいな性格してたのに、最近では仕草や言動までまんま真琴じゃねーか。


お前ら学校やアイドルの仕事で入れ替わりすぎなんだよ。


まーそのおかげで会える時間が増えているのも事実なんだけどな。


でもだな、そっくりだからと言って美琴の提案を受け入れていいもんかどうか。



「私も神崎のコト駿って呼んでもいい?―――」



ニコッとしながら聞いてくる。


良いと思う?


だってさ、美琴まで同じ呼び方してきたらもうワケわからんぞ。


たたでさえ最近雰囲気まで似てきてんのに。


でもあれだよな、お前はダメだとも言えないよな。


そもそも、名前呼ぶのに許可がいるのか?


ニックネームならいざしらず。


ってことで、



「ま、別に構わねーよ」


「ホント?」



そんなに喜ぶような事なのか、ウフッと嬉しそうな顔をした美琴なんだが‥‥一歩下がって舐めるように俺の全身を見渡してくる。


ふ~ん‥‥と後ろで手を組み、前屈みで近づいて来る。


そして衝撃的な一言。



「うん。真琴の言うとおり、結構気持ち悪いね」



プッと吹き出す美琴。


悪いか!


好きでこんな姿してるわけじゃねーんだよ!



「12頭身ぐらいあるんじゃない――?」



等と言って、手を物差しにして「いち、に、さん――」と数え出す。


どうだっていいよそんな事。


結局何頭身あったのか、数え終わる前に美琴の動きが止まる。



「どうした?」


「うん‥‥私にも同じこと‥‥して?」



同じ事?


どういう事だ?

 


「じゃあさ、駿――」


「なんだよ、改まって」


「私も見たい」



目を輝かせてにじり寄ってくる美琴。


ん? 何をだ?


ニコ生か?大して面白いのやってなさそーだぞ。



「好きにすればいいだろ」


「え、いいの? やった! 話し聞いて私も気になっちゃってさー」



んしょんしょと、俺のズボンのベルトに手をかける、嬉しそうな美琴。



「ちょっと待て!」


「うん?」


「うん? じゃねーよっ! お前、今何しようとした!」


「もちろん脱がせようとしたんだけど」



ホワッツ?


どういうこった。



「見せるって言ったじゃない」


「言ってねーだろ! 一応確認しておくが見たいところってなんだ」



無言で俺の股間を指差す美琴。


おいおいおい‥‥美少女に見せろって迫られるってどういうこった。


もしかして‥‥



「真琴から何か聞いた‥‥のか?」


「うん、昨日楽しそうに話してたよ。駿のおちんちん可愛かったって」



のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


なんであいつ他人にそんな事言うんだよっ!


あーいや、美琴は他人じゃないのか‥‥んーこの場合は‥‥。



「――ってそうじゃねー!!」


「あんっ、耳元で叫ばないでよっ」



いや待て‥‥これは誤解を解くチャンスなんじゃないのか?



「コホン、ちなみにだな、真琴は何て言ってたんだ」


「ん? う~んと、駿のおちんちん見ちゃったって嬉しそうだったよ」



嬉しそうだった?


あいつがか!?


美少女アイドル白河真琴だぞ?


『おちんちん見ちゃった』とか言って喜ぶか!?


そ、想像出来ない‥‥。


あーでも、加奈子も似たような事言ってたな確か。


『ついでにおちんちん見たかったし』とか何とか‥‥。


う~む‥‥てっきりそういうの見たら、女子って『気持ちわるーい』とか『汚ーい』とかそんな反応するかと思ってたんだが‥‥。


加奈子の場合は特殊だと思ってた。


あいつちょっと変だし。



「あ、喜んでたとか内緒だからね!」


「分かってるって、そんな事言えるか!」



俺のを見て喜んでたんだって、お前?


とか聞けるかってんだよ。



「と、ところでさ、見た感想というか、他に何か言ってなかったか?」


「あ、あ~‥‥えーと、き、気にしないほうがいいよっ、男の価値はそれで決まるもんじゃないしっ」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」



き、傷口が広がったあああああああああああああ!!!!


真琴がどう表現して話したのか、超気になるんですけどっ。


うう‥‥女って怖い。


でもあれか、男同士でも、『あいつ胸ないからやだよなー』とか『乳首真っ黒らしいぜ』とかそんな話しするもんな。


それと同じか?


基本さ、女子のほうがお喋りじゃん。


‥‥‥‥。


怖い、怖すぎる。


ガールズトーク超怖い。



「あ~でもさ、えと、どうしよ‥‥」


「なんだよ」


「ううん、何でもないっ――ないない」



何だよ気になるな、言いかけて止めるって。


しかも、ちょっと赤い顔してだな。



「怒らないから言ってみろ。言いづらい事なのか?」


「う、うんちょっと‥‥」


「気になってしょうがないから言ってみ」


「じゃ、じゃあ言うけど‥‥皮が被ったままは良くないんじゃないかな?」


「は!?」


「びょ、病気になるっていうし‥‥真琴も心配してたよ?」



ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!



「つまらん事心配してんなっ!!!!」



真琴のやつ、そんな事言ってやがったのか!


しかも俺のは完全体だってんだよっ!!


悔しいーーーっ!!



「いいか美琴、良く聞け!」


「な、なによ改まって‥‥」


「今の状態は細胞活性剤のせいなんだって!」


「なによ、そのなんとかって」


「へ? 知らない?」


「知らない」



あれ? 美琴知らないんだっけ?


そう言えばこいつ、あの頃は物心付いてなかったんだっけ。


アーとかウーって言ってたもんな。


それが今ではこんなに可愛くなりやがって。


ぐっすんおよよ‥‥‥‥。



「ちょっと、なんでわざとらしく泣いてんのよ」


「いやさ、お前随分変わったなって思ってな」


「なによ急に」


「ほらその喋り方、まんま真琴だもんな」


「こ、これはその‥‥なるべく変えようとしてるんだけど‥‥仕事や学校で入れ替わってるしさ、無理っていうか―――」



アハハハ――と首筋をポリポリする仕草の美琴。


それもそっくりだ。


誤魔化す時に真琴がよくやる仕草。


こりゃ本気で見分けつかねーな。



「さぁさぁ、諦めて駿ちゃんの可愛い部分見せて?」



何の脈略もなく話が戻る。



「何故そこまでして見たい」


「えっ‥‥う、うん‥‥それは―――」



只の好奇心とは思えないんだよな。



「―――真琴とおんなじがいい」



ボソッと美琴が言った。


そして震える声で話し始めた。


今まで聞いた事もないトーンで。



「だって私も真琴なんだもん。美琴っていう存在はごく限られた場所でしかいちゃいけないの。だから、私が知らない真琴がいるのはイヤなのっ!!!」



最後のほうは大声で言い放った美琴。


いつも真琴の事を考えてくれていた美琴。


都合良く入れ替わったりしてもらって、ホント便利な奴って思ってたけど‥‥。


そうだよな、美琴には美琴の人生があってもいいはずなんだ。


考えなかったわけじゃない。


でもさ‥‥。



「なーんちゃって! ちょっとシリアスだった?」



おちゃらけてヘラヘラする美琴。



「美琴‥‥」


「あ~さっきのは無しっ、聞かなかった事にして」


「でも―――」


「でもじゃないっ。それでも、今はそんなに悪くないって思ってるから」



「ね?」ととびきりの笑顔を向けてくる。


何だかその笑顔が、泣き顔に見えたのは俺のせいだろうか。




◇◆◆◇




「ところでお前さ、何しに来たんだよ」


「ん? 駿の股間見に」


「しつこいな! その話しは終わりだっ」


「えーなんでよぉー」


「じゃあお前も股間見せろよ」


「えっ! まさか真琴――!?」


「おう、見せてくれたぜ」



ふ、ちょっとからかってやるか。



「んじゃ脱ぐからお前も脱げよ」



カチャカチャとベルトを外す。



「え?え?む、無理だよっ」


「なんで?」


「だって‥‥シャワー浴びてないし‥‥」


「匂いきついとか?」


「き――きつくない! そんなにきつくない!!」


「そんなに?」


「――――――!!!」



いじめすぎたかな?


絶句しちゃったんだけど。



「こ、降参‥‥もうオシマイ、ギブアップ」



両手で大きくバッテンを作る美琴。



「―――っふ、俺をからかうなど十年早いわっ!」


「ごめん、一つだけ聞かせて。真琴とはホントにどこまでいったの?」



急に真剣な眼差しで聞いてくる。


どこまでっていわれてもな‥‥。


Aにも到達してないんだが‥‥。



「え~っとだな、全て未遂です」


「未遂?」


「ああ。キスもまだだ」



そう言うと、目を丸くして驚いた顔をする美琴。



「嘘でしょ!?」


「嘘じゃないんだなこれが」


「いくらなんでも手が遅すぎるよ、真琴が可哀想―――」



心の底から真琴の事を思っているような表情を見せる。


いや、実際そうなんだろ。



「私てっきり―――」


「てっきり?」


「もう最後までしちゃったのかと思った」



微妙に嬉しそうな美琴。



「本当だぞ? この前お前にされたキスがそもそも初めてだったんだ」


「う、嘘‥‥?」


「嘘言ったってしょうがないしな」


「そ、それじゃぁ‥‥」



え?え?


美琴が艶っぽい表情で近づいてくる―――。


な、なにを―――。


肩に手をかけられ、そのまま押し倒される。



「お、おい‥‥‥‥」



そのまま美琴が覆いかぶさってくる。


そして唇を舐めながら言った。



「今度はちゃんとしたのする―――?」



ゴクリ―――。



思わず喉が鳴ってしまった。


美琴の柔らかそうな唇から目が離せない。


どんな味がするんだろ。


唇を重ね合ったら、この前みたいなフレンチキスでは終わらない予感がした。


美琴の顔がどんどん近づく‥‥。


息が触れ合う‥‥。


そして―――。



「―――プ、ププ、アハハハ―――」


「へ?」



美琴が急に笑い出して離れる。



「ごめん、やっぱ無理だよ~」



放心状態の俺。



「だって、顔が幼いんだもん」



アハハーと笑いながら言われる。


まー、言いたい事は分かるぜ。


自分の今の顔を知っているだけに。


普通考えたら無理だと思う。


だって、幼稚園児だもん。


これでキスしたら、変な性癖が生まれるかも知れないよ?


責任持てないよ?



「ま、それでいいと思うぜ」



自分にも納得させるように言う。



「うん。じゃあ今日は私帰るね」



そう言うと美琴はすぐに消えて行ってしまった。


逃げるような、速攻のテレポだった。



シュッ―――。



と思ったら目の前に現れる美琴。


戻ってきた!?



「考えてみたら今日1日暇なの。真琴は学校いったでしょ?お仕事も今日は私の出番ないし‥‥」


「‥‥なら遊んでけよ」


「いいの?」


「いいぜ」


「なにするの?」


「ゲームでいいか?」


「うん、いい」



結局、夕方までだらだら過ごす二人だった。




◇◆◆◇




美琴と過ごした時間は楽しかった。


こんなに長く一緒にいたのは初めてだったけど、一緒にいればいる程、真琴とは違うのが分かった。


何て言ったらいいんだろ。


美琴はさ『私は真琴―――』なんて言ってたけど、美琴は美琴なんだと思う。


上手くは説明出来ないんだけど。


そんな事を考えながらボ~っと時間が過ぎる。


既に夜10時をまわっていた。


俺はなんとなく携帯を取り出すと、暇つぶし程度に動画を検索する。



「なに見てんの?」


「ん?ニコ生だよ」


「動画?」


「そう、たまに超可愛い子がだな‥‥」



って‥‥このフレーズ今日二度目だな‥‥。


なら間違いない。



「真琴かっ」


「ピンポンピンポン正解~」



振り向くと、嬉しそうに手をパチパチしている真琴がいた。



「だからさ、気配無く現れるのやめてくれってあれ程言っただろ!? 昼はいいけど夜とか超怖いんだぞ!?」


「え~? そんなの言われたコトないしぃ」



嘘だ。


美琴ならまだしも、こいつには腐る程言ってる。



「あのさー、来るなら来るって言えよ」


「どうやって?」


「‥‥‥‥」


「分かった。せめて部屋のドアから入ってこい」


「む、なによー、私が来たら迷惑みたいな言い方ー」



いや、嬉しいよ?


ちゃんとスカート履いて、可愛い感じで来るしさ。


でもほら、色々困るだろ?突然現れたら。


そこんとこ、いい加減理解しようよ。



「まーいいさ、お前が来たら嬉しいのは間違いないし」


「でしょっ」



嬉しそうな真琴。



「ところで、ニコ生ってなぁに?」



ちょんちょんと、携帯を指される。


今時ニコ生を知らない奴がいたなんて、さすが真琴。


仕方がないんで軽く説明してやる。



「要するに、ここにあるのは全部生放送で一般人が自由に―――」


「自由に?」


「じ、自由に―――」



適当にスクロールしていた指が、ある枠を見つけて止まる。


まさかとは思うが、いや‥‥顔出ししてるし間違いない。


その枠のタイトルなんだが‥‥。



『加奈子@今日もエロイプ厨釣っちゃうぞい!』



そしてアップ画像がもろ加奈子。


何やってんだあいつ‥‥。



「あれ? これって加奈子ちゃん?」



覗き込んでいる真琴も流石に気付いたらしい。



「ってコトは、これって加奈子ちゃんの番組?」


「番組って程のもんじゃないよ」


「そうなの?」


「ああ」


「見てみようよ」



いや‥‥タイトルがタイトルだけに見れるわけがない。


というか、真琴には見せたくない。


たぶん汚れる。


とはいえ、内容次第では加奈子も注意せねばならん。


う~む、どうしたもんか‥‥。



「悩んでないで見てみようよ」


「あっ!」



勝手にタップされた。


あ~あ、知らねーぞ‥‥。



『あーなんだコレ? なんか変な奴ばっか‥‥イケメン一人もいなーい』



いきなり加奈子の顔どアップ。


そして超画像が悪い。


携帯のカメラ使ってんのか?



『てゆーかさ、向こうからコンタクトあったのに連絡来ないってどういうこと!?』



う~む、一人でブーブーいってるな。


その間、コメントが鬼のように流れていく。


カウントは、25632。


は!?2万5千?


凄い人気なんですけど!


あいつなんなの!?



「それでこのエロイプ?ってなぁに?」



真琴が興味津々で聞いてくる。


聞かれても、明確に説明出来る自信はない。



「俺も詳しくは知らないんだ」


「ふぅ~ん」



とにかく様子を見る事にする。


相変わらずコメントが物凄い勢いで流れている。


超可愛いだのパンツ見せてだの、まあそんな感じだ。


しかしいくら加奈子の見た目が可愛いからって、このコメ数は可笑しいだろ。



『あ、来たよ。本日3人目の被害者。じゃー出るね~』



呼び出し音のような物が鳴り、どうやら相手と繋がったようだ。


予想通り、今の呼び出し音―――スカ○プか。



『あ、どうも‥‥』



思いっきり中年男性の声が聞こえてきた。



『ばんわー』



続いて加奈子が挨拶すると、男性のテンションが一気に上がった。



『え? 君って本当に高校1年生?』


『うん、そだよー』


『Hな話しとか出来る?』


『別にいいけどォー』



加奈子がカメラに向かってペロっと舌を出す。


横では真琴が「誰と話してるの?知り合い?」等と呑気な感じで見ている。



『じゃ、じゃあさ‥‥君はオ○ニーとかするの?』


『えっ、私思春期なんですけど。女の子だからしないとかって幻想抱いてんの?おじさん?』


『う、あ‥‥いや‥‥ハハハ‥‥そ、そうだよねー。じゃあ、最近ではいつしたのかな?』


『はあ!? その為にエロイプしてんでしょ!? 私、今ノーパンだっつーの! おじさんの話しじゃぜんっぜん萌えないんですけどォー』



ど、どこまで本気なんだ‥‥こいつ。


そして画面が埋め尽くされる程のコメントが流れてくる。



『毒舌キター』『美少女が毒舌とか超萌える』『加奈子今ノーパンなん?』『おっさんの声キモイな』『やらしい声キボンヌ』『わこつー』『寄り目カワイイ』『俺もノーパン』『おっさんキラー』『ほんとに高1?』『加奈子は毎日072』『画質相変わらず悪いな』『光あてすぎ』『加奈子って処女?』



はっきり言って画面が見えないんで、コメは非表示にする。



「ねぇねぇ」



シャツを引っ張られる。



「なんだ」


「これってエッチな放送なの?」



知るか!


恥ずかしがってるかと思えば、意外と興味深々で覗き込んでいる真琴。


エロトークに真琴がどんな反応を示すかちょっと興味あるけど、今はそれどころじゃない。


電話して止めさせっかなぁ。



『い、今、どこ触ってるの?』


『アソコ』


『アソコってどこ?』


『それは言えない』



当然だろ、淫語はまずい。


それより、マジで触ってんのか?


さっきから加奈子のやつ、寝ながらゴロゴロ動くもんだから、画面がチラついて良く見えん。



『じゃあ、アソコのどの辺触ると気持ちいいの?』



リスナー的には、中々ナイスな質問を投げかける中年男性。


つい俺も、加奈子の反応が気になってしまう。



『え~っと‥‥』



流石に恥ずかしいのか、目を泳がせる加奈子。


隣で覗いている真琴の反応が物凄く気になるんだが、もし目が合ったら俺も恥ずかしいんでそっちは見れない。



『難しい名前のとこっ!』



勢い良く答える加奈子。


うむ、それでいい。


そのぐらいにしとけ。



『ちゃんと名前言える?』



言えるわけねえだろっ!


どストライクで淫語だっつーの!



『えー? 言わなきゃダメなのォー?』


『言ってほしいな、おじさん』


『なんだっけなー、金閣‥‥?じゃない、銀閣‥‥?でもない――』



おいおいおい‥‥。


マジで思い出せない系列?


淫語だから伏せてたんじゃないのか!?



『クリスマスに似てたような―――』



うおっ!危ない!危険すぎる!


この小説も危ない!!



『キリギリスじゃなくってリトマス紙でもなくて―――』



―――くっ、ヤバイ、段々近づいてる。


もうあれだ、電話して止めさせるぞ。



『思い出したっ!――――――』



カチッ―――。



加奈子が嬉しそうにあれを言いそうだったんで、慌てて画面を消した。


え? 何でかって?


あのなー、横には真琴がいるんだぞ?


どんだけ気不味いと思ってんだよ!


案の定、真琴と目が合う―――。


「あはは‥‥‥‥」と赤い顔で照れ笑いの真琴。


流石の俺も恥ずかしくて無言で目を反らすと、加奈子に電話をかけるべく履歴を―――。



「ん? 電話かけるの?」



―――って危ねー!!


着信履歴には、加奈子がいっぱい入ってんだよ。


バレたらタダじゃ済まないよな‥‥。


操作を間違ったフリして、再び加奈子の画面へと戻る。


すると、何やらお決まりの展開が繰り広げられていた。



『そんなに加奈子のアソコ見たいの?』


『いいじゃんお願い! 画像送ってよ~』



いくらなんでも、そこまでしないだろうと思うんだが‥‥。



『いいけど、先におじさんの送ってよ。だってさー、どうせ送ったらすぐ切断しちゃうんでしょ?』


『そんな事しないよ~』


『絶対するし。先におじさんのカッコいい画像ちょーだい。出来れば顔入りのやつと、むきっとした筋肉とかそそり立つやつとか。そしたらァー、それ見て興奮した加奈子の写真送ってあげるから―――」


『ほ、本当? 分かったよ、すぐ送るからちょっと待っててよ』



げっ、マジかよ!?


冗談だろ!?


不意に真琴と顔を見合わせる。



「止めなくていいの?」


「そうだよな」


「いいよ、電話しても』



携帯を掴む手に、そっと手を重ねてくる。


その手に少しドキッとしつつ、履歴が出ないよう携帯を操作し速攻で加奈子へ電話!



プルルルルルルルルル――――――。



出ない。



プルルルルルルルルル――――――。



「なんで出ねーんだよっ!!」



諦めて、加奈子の画面へとまた戻る。


すると、案の定まだ放送中。



『お、画像送ってきた。にしし‥‥はい、釣り成功ってことでェ、こいつは用済み!せつだーん!』



なんだ?エロイプ止めたのか?



『うわっマジ驚愕、凄いの送ってきたよっ! しかもビックリ結構イケメン! 嘘でしょォー!?』



興奮して、バンバン布団を叩きまくっている加奈子。


そしてバサッと布団から起き上がり正座してかしこまって話す。


よく分からんが、アニメのヒロインみたいな格好をしている。


調子に乗ってコスプレでもしてんのか?



『はい、それじゃおじさんの画像欲しい人――あ、女性限定ね。アドレス晒すんでどうぞ』



ふんふんふ~んと鼻歌まじりで、何やらカタカタやり出す加奈子。


釣りってそういう事なの?


しかしこいつ、今度あったら監禁したのち朝まで説教確定だな。


なんなら従兄弟の七見に報告してやるか。


どうやって加奈子に灸をすえてやるか検討していると、真琴が飛びついてきた。



「た、たいへんたいへん!!! 駿見てっ!! いや見ちゃダメ!! じゃなくて!!!」



思いっきり身体を揺さぶられる。


なんだ!?緊急事態か!?


慌てて画面を見ると、相変わらず鼻歌まじりの加奈子が足を広げてふんふん言っている。



が――――――。



コメント一覧より


『JKのまんまんキター』『神キター』『見えた』『てか見えてるし』『BAN確定』『黒いな』『剛毛』『サービスタイムついにキター』『BAN覚悟の確信犯』『必死だな』『BANおつ』



俺絶句―――。



「ちょっと! 加奈子ちゃん気付いてないよ!? 見えてるよ!? 早く止めなきゃ!! これ全国ネットなんでしょ!?」



ガッチリ肩を掴まれガンガン揺さぶられる。


てゆーか、これネットだからある意味世界中継なんだけど。


スーパーエマージェンシー発令。


もうアレをやるしかない。



「真琴っ!」


「はいっ! え? なに!?」


「加奈子のところに飛んで、連れてきてくれっ!!」



もうこれしかない。



「うん分かった! どの辺か教えて!!」


「多分、お前んちの近く!」



取り敢えず言ってみる―――と、速攻で消える真琴。


ハラハラしながら加奈子の放送を見る。



『今日は来場多いね。さァー次枠も取ってどんどんいっちゃおーかっ』



片足を立ててヘラヘラしている。


バカかお前、気付けっつんだよ!


てか、コメントを読め!!


その時、シュッと画面の端に真琴が現れる。


そして加奈子にタッチ―――その瞬間、ベッドの上に加奈子&真琴がドサッと振ってくる。


いや、真琴が綺麗に着地したのが一瞬見えたんだが、ムニッという感触と共に視界を奪われ、俺は頭からベッドに倒れ込んだ。



「うえ? なにここ? あれ真琴ちゃん? なんでェ?」


「ムーっムーっ!!」←俺



必死に叫ぶ。


く、苦しい助けてくれ。


加奈子の生ケツが、完全に俺の鼻と口を封じていた。


要するに、ヒップスタンプされた俺。


お、ラッキーハプニング! とか言ってる場合じゃない。


し、死ぬ―――!!


そして鼻が折れる!!



「うわっ! お尻が気持ち悪い!!」



加奈子が嫌がってケツをグリグリ動かす。


そして目が合う――。



「ムーッ!!ム~~~~!!!」


「誰? お前――?」



俺だと気付かないのか、ゴミ溜めを見るような視線を俺に送ってくる。


そして「死ね!!」と吐き捨てたと同時に目潰し――。



ブスッ――。



ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!



「め、目が!目が!目がぁぁあああああああああ!!!!」



目が痛い目が痛い目が痛い――!!


ダメだ、目が開かない‥‥‥そして涙が止まらない――。



「もしかして、加奈子瞬間移動した?」


「うん、ごめんね? 驚かしちゃって」


「いやぁー凄いね真琴ちゃん、どうやったらそんなコト出来るのさ?」


「あ~~気付いたら出来てたってゆーか‥‥アハハ――」



呑気に普通の会話を始める二人。


俺の心配はどうしたっ!



「ところであの生き物はナニ? 人間に似てるけど」


「う、うん‥‥ちょっと事情があってアレでも、しゅ――神崎君なんだけど――」


「駿ちゃん? 嘘だァ~、 顔見たけど子供だったよ?」


「えぇと、それはちょっと特殊なお薬のせいっていうか――」



くそっ、まだ目が開かねえ。


一瞬だけなら開ける事が出来たんだけど、涙が出て‥‥と、取り敢えず見えるから大丈夫だと思うんだが‥‥。



「か、加奈子! テメー俺から視力奪っておいて呑気に喋ってんなっ!!」


「およ? その話し方――駿ちゃんっぽいね」


「俺だっ! お前のケツで窒息しそうになった挙句、目、目が――!!」


「目が~、じゃないだろ! 人のお尻の匂い嗅いでくれちゃってェ~~!!」


「誰が嗅ぐかっ!!」



しばし俺と加奈子の争いが続いた――。




◇◆◆◇




「あのさ、もう2時なんだけど二人共帰らなくていいのか?」


「加奈子は駿ちゃんと朝までゲームするし。あんたは帰えれ」


真琴を両手でグイグイ追いやる加奈子。



「キミ達二人っきりにさせるわけないでしょ!? しかも加奈子ちゃん下着履いてないんだから!!」


「パンツ履いてないのは関係ないよ! 履いてなくてもゲーム出来るし! そもそも駿ちゃんには、あんたと何してたのかじっくり聞きたいしね!」


「な、何もしてないって加奈子‥‥」


「ちょっなんで言い訳するのよっ! 可笑しいでしょ? 彼女は私なんだからっ」



一触即発とはまさにこの事、加奈子が帰らないと言い出してからずっとこの調子。


加奈子は俺と真琴の関係が気に入らない。


その事について必死に加奈子に言い訳してしまう俺に対して、真琴も気に入らない。


まさに三つ巴状態。



「それより加奈子。お前反省してんのか?」


「何がァ? 見えてなかったんだからいいじゃん」


「ま、まあそうだけどよ――」



確かに、見えてたんだけど見えてなかった。


要するに画質が悪すぎて、スカートの中はモザイクが掛かったような状態だったわけで。


ギリギリセーフっちゃ、セーフなんだろうが‥‥。


見えてたぞ!って教えた時のうろたえ方、半端じゃなかったぞ。


「もう結婚出来ないよォ~、AV女優目指すしかないよォ~~」


とか言って涙目だったじゃねえかよ。



「駿、黙ってないで加奈子ちゃんに何か言ってよ!」


「その駿って呼び方が気に食わない。駿ちゃんも『真琴』とか言ってさ?ナニ?二人っきりの時はそう呼び合ってるとか?――」


「ふ、普通でしょ! つ、付き合ってるんだから――」


「駿ちゃん、この子と付き合ってたのはしょうがないけど、本命の加奈子ちゃんが戻って来たんだから、ちゃんと別れ話しないとダメじゃないのさ」


「ちょっ――本命って‥‥加奈子ちゃん、私本気で怒るよ――」



‥‥‥‥。


怖い。


二人が怖い。


とても俺が話してはいけない。


結局、朝までこんな感じが続き、俺は終始話しをはぐらかしていた。


しかし、真琴相手にこの子とかあんた――なんて言える加奈子はある意味凄いかも知れん。


そして俺は思った。


絶対に二人を一緒にしてはいけないと―――。




第23話に続く

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