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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第2章 カラダが改造されたあと
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第21話 アップデートと男の屈辱

白河を真琴と呼ぶようになった次の日―――。



放課後、俺は自宅にこもってひたすら真琴が来るのを待っていた。


何時頃来んのかなぁ。


そう言えばあいつ、今日学校来なかったよな‥‥。


ってことは仕事だろ?


夜かなぁ。


つい部屋の中をウロウロしてしまう。


あー待ちきれない。


昨日から俺の頭の中では、もう真琴を押し倒してあんなコトやこんなコトをするシュミレーションがひたすら繰り返されてきた。


結果、導き出された結論―――。


風呂上がりで来たら、ヤッてもOKの合図。


そういうコトだよな?



「フフフ、ハハハ、アーッハッハハ!!」



ガチャリ―――。



俺が高笑いをしていると、不意に部屋の扉が僅かに開いた。


そしてその隙間から、妹がじーーーっとこちらを見ている。



「兄さん、今は友達が遊びに来ているのです。少し静かにしてもれえませんか――」



そう告げると、静かに扉が閉まる。


そう言えば、玄関に靴が沢山あったっけ。


ふむ、やな感じだな。


女子中学生がワイワイ騒ぐ中、真琴とチチクリあう事が可能だろうか。


‥‥‥‥。


しかし、そんな不安要素よりも深刻な事態が俺を襲った。


急に身体が動かなくなり、その場に倒れこむ。


え? なんだこれ‥‥。


マジで手足が動かないんですけど‥‥。


いや、正確には右手だけが動く。


だから俺は半ば確信していた。


擬似整体組織とやらに異常が出た事に。


実は右手だけが、無傷の部分なんだ。


くそっ!


必死に手足を動かすが、やはり動くのは右手だけ。


ヤバイ。


これって、マジで緊急事態なんじゃ‥‥。


慌てて携帯を探す。


確か、ベッドの上に放り投げてたはず。


右手1本で少しずつ、ズリズリと前に進む。


なんだコレ、俺の身体ってこんなに重かったっけ‥‥。


それでも何とか携帯を掴んだ俺は、すぐに画面を起動させた。


ん?なんだ? 勝手に知らないアプリが立ち上がってるぞ?



『神崎駿擬似生態組織及び生命維持ソフトウェアVer3.01』



これって‥‥。


以前、如月さんが言っていた事を思い出す。



『君の身体は電子制御されている。つまりそのプログラムに異常が起きた場合、生命維持に関する制御が不能となる可能性は否定出来ない。分かるな?要するに、問題が発生――もしくは携帯に連動させてあるアップデートプログラムにしたがって―――』



確か、そんな事を言ってたっけ‥‥。


その時は軽く聞き流してたんだが‥‥。


もしかして、生命の危機?


慌てて携帯のアプリを進める。



『ログインが必要です』



はあ!?


え~っと、新規登録は‥‥。



『パスワードを入力して下さい』



ぐおっ!


パスワードってなんだよっ!


え~と‥‥適当でいいのかな?


んじゃ、『makoto』これでいいか。



『半角英数字8文字以上の入力が必要です』



くそっ、はじかれたっ!



ならこれで‥‥『makoto16』と入力。


お、画面が変わった。


なになに‥‥『同意書の閲覧が必要です』


ぶっ!


き、如月さん‥‥頼むよ‥‥。


仕方がないんで、同意書を開く。


え~っと‥‥。



『本プログラムの権限は全て如月研究所(以下乙)に既存するものであり被験者(以下甲)の身体(臓器含む)は乙の申し出があった場合、その提供及び管理における―――』



意味が分からねえ!


同意だ同意!


タッチで同意を選ぶと、画面がまた切り替わった。



『アバターを選んで下さい』



ゲームかってんだよっ!!



『約3000種類からお好きなパーツを組み合わせてお楽しみいただけます』



楽しんでる場合じゃないんだよっ!


もう適当にどんどんチョイスすると、なんか虫みたいなディティールのアバターが完成した。



『メンテナンスを開始しますか?』



メンテナンス?


よく分からんが、開始を選択だ。



『ソフトウェアのアップデートが必要です』



はっ?


何回選択しても、このメッセージがでるんですけど‥‥。


どうやってアップデートするんだよ‥‥。


諦めて、ゴロンと大の字になる。


あれ?


ちょっと待て。


手足の色が可笑しい。


全体的に青アザ作ったように、真っ青なんですけど。


絶対これはまずい。


とにかく如月さんだ。


研究所にいかなくては!


でも身体動かねーし‥‥。


真琴か美琴、どっちかいれば一瞬で行けるのに‥‥。


連絡先知らねーし‥‥。


そう言えば、彩乃はメールのやり取りしてたよな。


う~んでも、大騒ぎして女子中学生に囲まれると困る‥‥。


多分、大事になるぞ。


まいったな。


いや‥‥そうか!あいつか!あいつがいるか!!



「ノノーー!! ノノいるかっ!! 頼む! いたらすぐ来てくれーー!!!」



さっきリビングで見かけたから、いるだろ。


頼む!



「なぁにーじいちゃーん」



呑気な声が、下の階から聞こえてくる。


おおナイス!



「だから、早くこっちまできてくれっ!」


「えー、今ドラマの再放送見てんだけどぉー」



ふざけんな!


再放送なんか、後でネットで見ろよ!



「いいからこいっ! じいちゃん命令だっ!!!」


「じゃあ2万円ちょうだーい、服買いたいからー」



くっ、後でぶっとばす。



「分かったから早くこいっ!」



そう言った瞬間、シュッと目の前にノノが現れる。



「ノノちゃん、颯爽登場!」



ビシッと指を突き出して、ポーズを決める。


そんなのいいから‥‥。



「あれ?じーちゃんどったの? 病気?」



ぐったりする俺を見て、心配気味に屈んでくる。



「病気ってわけじゃないんだ。でもほら、身体がピンチなんだよ。如月研究所まで飛んでくんねー?」


「げっ、手足真っ青じゃん!キモっ!くさっ!!」



いや‥‥臭くはないだろ。



「うわっなんかカチンカチンだよ」


「そこはチンコだっ!ボールペンで突っつくんじゃねー! てか、固くなってる?」


「んにゃ、ふにゃふにゃ」


「遊んでんじゃねー! 早くしないと俺死ぬかもしれないんだぞ!!」


「へーい。如月さんとこっしょ?ちょい待ち‥‥ん‥‥‥‥あれ? どっちだっけ?」


「あっちだあっち!」



駅方面を指差す。



「あーそーだった」



ノノが俺の身体に触れると、一瞬で目の前が切り替わって薄暗い天井が現れた。



ゴツッ―――。



「痛~~~~~っ」



床に激突する俺。


フワリと着地するノノ。



「到着~。んじゃ、この後キスミーのライブ行く予定になってるから、ノノ帰るねー」



言い終えたと同時に消えるノノ。


あいつ、普通に過去世界を楽しんでるな。


それよりも‥‥。



「如月さーん!」



身体が動かないと、視野範囲が狭い。


加えて身の危険をもろに感じていた俺は、とにかく叫んだ。


しかし、思いのほか如月さんはすぐ近くにいたらしい。



「ここにいる」



すぐ横に如月さんが仁王立ちしていた。


相変わらずのジャージに白衣。


ドライヤー知らずのボサボサ頭。


そして分厚いメガネ。


床に寝転んだままの俺を見下ろしていた。



「ふむ、良くない状態だな」


「あ、どうもお邪魔してます」


「もって後30分程度か」


「30分!?」



恐ろしい一言を告げた如月さんは、準備がある――と言って奥に引っ込んでしまった。



10分経過―――。



おいおいおい‥‥‥。


もって30分なのに、いつまで待たせるんだよ。



「如月さんっ、俺大丈夫なんですかー!?」



バサっと奥のカーテンが開く。



「まあギリギリと言ったところか」



ギリギリと言ったわりには別段急ぐでもなく、いつもの調子で近づいてくる如月さん。


まあ、如月さんに任せるしかないんだけどさ。


俺は如月さんに抱え上げられ、寝台の上へと乗せられる。



「ふむ、その調子ではアプリケーションを実行していなかったようだな。まあ、いずれにせよソフトウェアアップデートが必要ではあったのだが‥‥丁度良い頃合いではあったか」


「あ、あの‥‥俺大丈夫なんですかね? 時間が無いんじゃ――」


「無いな。では手短に現状の説明をしておこう。今、君の身体の中では擬似生態組織と本来の細胞組織が混ざり合っている状態だ。細胞とは常に細胞分裂を起こしているのは知っているな?だが擬似生態組織には細胞分裂などは無く擬似的に細胞分裂させたように、所謂擬態させている状態―――」


「如月さんっ! 説明は後でもいいです! 先に処置をお願いします!」



おいおい、説明を聞いてたらタイムオーバーになるだろっ。


如月んさんも「それもそうだな」と納得した感じで、手早く作業に入る。


まずは俺の腰より少し下辺りにある、皮膚に擬態させたカバーをパカッと開ける。


そこにあるUSB端子を使い、ノートパソコンと繋いだ。


デスクに向かい、なにやらマウスを操作する如月さん。


モニターには、『神崎駿擬似生態組織及び生命維持ソフトウェアVer3.01』と表示されている。


さっき携帯に表示されてたやつだな‥‥。


続いて表示されたのは、



『神崎駿擬似生態組織及び生命維持ソフトウェアVer4.01アップデートプログラム』



如月さんがカチッとマウスを叩くと、『実行中』の表示になる。


マジでソフトウェア管理なのか、俺の身体。



『残り2時間42分―――』



って、え!?


そんなに時間がかかるのか!?


30分しか持たないと言われてから、もう後5分位しかないんですけど!?



その瞬間、「まずいな‥‥」とボソリと言う如月さん。



「ちょっ、き、如月さん―――?」


「仕方がない、応急処置だ」



そう言うと、如月さんは迅速に注射器を用意した。


トントンと注射器を逆さまにして、準備OKの合図。



「えっと‥‥それはなんですか?」


「細胞を活性化させる溶剤だ」



ん、それって前に使った事があるやつじゃ‥‥。



「副作用あるやつですよね!?」


「うむ、仕方あるまい。今、君の手足は完全に血液の流れが止まっている状態だ。細胞を活性化させ擬似生態組織を働かせないと手足を切断しなければならなくなる。それでも生きていられるが、新たな手足を用意するには坂爪博士の協力によるクローン技術を応用せねばならない。正直、それも面倒なのでな。そもそも、培養には数ヶ月が必要で―――」


「わ、分かりました! お願いします、早くそれを打って下さい!!」



相変わらず説明が長い。


手足切断とかスプラッターな展開は、マジ勘弁してくれ。


てなわけで、細胞活性化剤をケツに筋肉注射された俺は、アップデートが終わるまで動けない為、することも無いんで眠る事にした。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥‥。




◇◆◆◇




目が覚めると、真琴と如月さんが楽しそうに談笑する声が聞こえた。



「美琴、すっごく喜んでましたよ」


「ふむ、そうか。まあ年頃の女性がホテル暮らしというのも如何なものかと思ってな」


「そうですね。ウチにもよく泊まってましたけど、狭いから‥‥ちょっと美琴が羨ましいかも」


「ならば、白河君も一緒に住めばいい。自由に使ってくれて結構。ま、私もシャワーを借りたり何かとお邪魔するかと思うが‥‥」


「お邪魔だなんて! オーナーさんは如月さんなんですからっ。それに、自分と同じ人間と一緒に暮らすっていうのもちょっと‥‥」


「成程‥‥。しかしあそこは良い物件だった。ここから近いのが特に良い。まあ、君たち能力者に距離などさほどの問題ではなかろうが」



見ると、仲良くお茶をしているようだ。


そうだ、まずは如月さんにお礼を言わなくちゃな。


そう思い立ち上がろうとするが、まだ動きが悪い。


手足がしびれている。


何ていうか、正座をずっとしたままで足がしびれたあの状態ってやつ?


物凄く気持ち悪い。


取り敢えず正常に動く右手で‥‥ってあれ?


右手で立ち上がろうとしても、全然力が足りない。


何だこれ。


ふいに右手を見ると‥‥。



「なんじゃこりゃーっ!?」



右手がちっちゃい!


子供の手みたいになってる。



「何だよこれっ!」


「あ、起きたのー?」



俺の悲鳴を聞きつけ、真琴が呑気に近づいて来る。



「右手が右手がさっ!」


「うん、顔も――ぷっ、ア、アハハハ―――」



か、顔がどうした。


可愛く笑ってんじゃんじゃねー。


とはいえ、真琴の反応で物凄く嫌な気がした俺は顔をさすってみる。


う~む、特に違和感は無いんだが‥‥。



「俺の顔、どうかなってるか?」


「う、うん‥‥ぷっ、クク‥‥あーいやごめんね、その顔でその口調はちょっと‥‥ぶっ!」



何がツボなのかイマイチ分からん。


まあどうせ、前みたいに中坊みたいな顔になってんのかな。


だから細胞活性化剤はイヤだったんだよ‥‥。


でも取り敢えず、



「如月さん、ありがとうございました」


「礼など必要ない。おかげで私も色々試せているのだからな‥‥フフフ‥‥」



ニヤリとする如月さん。


こ、怖えーな‥‥。


絶対俺が聞いていない仕掛けを身体にされてる気がする‥‥。



「ところで、俺はもう帰っても平気ですか?」


「うむ、アップデートも完了済だ。問題無い。その身体も自然に戻る」



それを聞いて安心した。


もう外は暗いだろうし、腹も減ったし‥‥。


しかし立ち上がろうとして、手が滑り寝台から転げ落ちてしまう。



「あんっ危ないよ!」



慌てて真琴が支えてくれる。



「わ、わりい‥‥」


「悪くないって、ウチに帰りたいの?」



何だか妙に優しい真琴。



「じゃあ飛んであげるね。如月さん、お邪魔しましたー」


「あー、また近いうちに来ます!」



如月さんが軽く手を振ったのを最後にシュッと消えた俺達は、自宅のリビングへと現れた。


そのまま空中に浮いたままの俺。



「ソファーでいい?」



真琴が指差し、俺はフワフワとソファーへと移動を開始。


ゆっくりとソファーへと着地する。


ありがたい。


看護には最適だな、その能力。


そしてドサッと対面のソファーに座った真琴が開口一番、



「私お腹すいちゃったぁ‥‥帰っても平気?」


「え‥‥帰るのか?」


「うん。彩乃ちゃん、いるんでしょ?」



まー、いると思うけど。


あれ?でもやけに家が静かだな。


不意にテーブルの上に置かれたメモを見つける。


真琴も気付いたのか、お互い目が合う。



「書置きだよね。えと‥‥読むね」



手に取った真琴が先に黙読する。



「何だって?」


「うん、彩乃ちゃんとノノちゃん、友達とキスミーのライブ行くから、兄さんも夕飯は外食でもしてきて下さいって」



げ、マジか。


彩乃も一緒だったのか。


キスミーだ?


知らねーぞ、そんなグループ。



「え、知らないの!? 今、超~~人気のアイドルグループだよ? あ~ん、私も行きたかったなぁー、いいなぁ彩乃ちゃん」



何だよその反応、軽くムカつくな‥‥。



「あのね、リーダーのヒロ君がすっごいイケメンで、私、ドラマで共演した事あるんだけど、もう~~ほんっとに優しいし、カッコいいし―――」



くそっ、そんな話し聞いたって嬉しくねーっつの。



「それでね、この前私番号聞かれちゃって―――」


「おいちょっと待て! 携帯の番号教えたのか!?」



俺もまだ知らねーのにっ。



「教えてない教えてない」



ぶんぶん首を振る真琴。


ホントか?


今の感じだと即答で教えそうなんだけど‥‥。



「ホントだよ? だって私のケータイって事務所のだから男の子の連絡先とかはまずいから。たまにチェックされるし」



「ホントホント」とアピールする真琴。


事務所の携帯なのか。


そういう事なら‥‥って、あれ?



「お前、だから俺にも教えてくれなかったのか!?」


「え? 言わなかったっけ?」


「聞いてねーよ! そういい事は先に言ってくれよー、マジで俺悩んだんだからなー」


「ごめんごめん、まぁそういうコトだから、ハハハ‥‥」



まあ理由が分かって良かったよ。


でもそれならさ、



「自分の携帯持てば?」


「え~? だって事務所に禁止されてるしぃ」


「今持ってるやつと同じ携帯なら、バレないんじゃね?」


「う~んだけどぉ」



歯切れの悪い真琴。


何だよ、俺と連絡しあったりしたくないのかよ。


結局、「考えとくね」と微妙なニュアンス。


別にいいけどさ‥‥。



「それよりさ、お腹空かない?」


「ん? まあペコペコだけど」


「作ってあげよっか!」



前のめりの態勢で、嬉しそうに言う真琴。



「お前が? 作れんのか?」


「し、失礼ね! 作れるわよっ!」



胸の下で腕を組んで不満そうな真琴。



「んじゃ俺、超期待するぞ?」


「ちょ、超期待してよ」



どもってんじゃねーかよ。


まあそれは置いといて、その前にだ。



「なあ真琴―――」


「え、あ、はいっ」


「な、なんだよかしこまって‥‥」


「だ、だって‥‥まだ慣れてないっていうか、その‥‥名前で呼ばれるの」



照れてほんのり顔を赤くする真琴。



「お、おま―――いちいち恥ずかしがるんじゃねえ! 俺まで恥ずかしいだろがっ!!」


「だ、だってぇ~、じゃぁさ、私も呼んでいい?」


「なにをだよ‥‥」


「だ、だから私も名前で―――」



足を内股にしてモジモジする真琴。


な、何だよその新鮮な態度。


ちょ、超可愛いじゃねーかよ‥‥。



「私のコト呼んでみて」


「お、おう」


「おう―――じゃなくって」


「あー、分かった。真琴―――」


「な、なぁに駿―――」



!!!!!!!!!!!!!!!



駿―――って言った後、パッと顔を背ける真琴。


そしてチラチラと目を向けてくる。


なにその恥じらい。


お前ってそんなに恥ずかしがり屋だったか?


てゆーか‥‥可愛いんだけど。


ぶっちゃげ、萌え狂って死にそうなんですけど。


もうポカーンと口を開けるしかない俺。



「ちょ、ちょっとぉー、なんで黙ってるわけー? なんか言ってくれないと、超恥ずかしいでしょ!?」



「もぉ!」とポカポカ俺を叩いてくる。


可愛いから黙ってる俺。



「あ、そうやってイジワルするんだったら、もう作ってあげないっ」


「分かった分かった悪かったって。それよりもだな、お願いがあるんだ―――」





◇◆◆◇





「これでいい?」


「おう、後は自分でなんとかする」


「ホントに平気?」


「ああ。右手はちゃんと動くから」



取り敢えず、納得してもらって出て行ってもらった。


でも、何かあったら困るからとかで、鍵はかけさせてもらえなかった。


え? どこにいるかって?


トイレですけど、何か?


仕方ないだろっ、まだ歩けないんだって!


ちょっと情けないけど、頼むしかなかったんだって。


あ、それから報告があります。


途中、洗面台に写る自分の顔を見たんだが‥‥幼稚園児みたいな顔してました。


マジヘコむ‥‥。


真琴が笑うのも無理ないっつーか、よくこの顔相手に恥じらったな、あいつ。


神だな‥‥。


ま、それだけ俺に惚れてるって事だろっ!



「アーハッハッハ~」


「ちょっとぉ~、頭大丈夫ー? 一人で出来るのー?」



ドアの向こうから、曇った声が聞こえる。



「出来るわ! 子供扱いすんなっ!」


「じゃー早くしてよねー」



へいへい‥‥。


言われた通り、せかせかとズボンを脱ぐ。


しかし、片手(子供の手)では思ったようにいかない。


しかも手が短すぎた。


左手を動かしてみるが、ダメだ。


動くけど力が入らない。


ヤバイ。


もう出せると思って、溜め込んでいた小便がもうそこまで来ている。


ど、どうしよう‥‥。


瞬時にシュミレーションしてみる。



① このまま漏らす  →  超カッコ悪いし、後の処理も真琴


② 脱がせてもらう  →  息子を見られる →  見せつけてやればいいさ!



よしっ!


②を採用する!



「おーい、真琴ー! 入っていいぞ~」


「終わったの~、ちゃんと流した~?」



パタンとドアが開かれ、真琴が入って来る。


何の変化もないトイレ内にアレ?って顔をしているが、それどころじゃない。



「緊急事態発生! ミッションスタートだっ」


「え、なによミッションって」


「いいから早く下を脱がせてくれっ! 手が届かなかったんだ!!」


「嘘ぉー?」



早くしろと、急かして手伝ってもらう。


しかし、ズボンのベルトに手こずる真琴。



「意外と不器用だな、早くしてくれよ!」


「うるさいなー、待ってよ~」



カチャカチャとベルトが外され、ジッパーも下ろされた。



「パンツも一緒に下ろしてくれ、早く!」


「そ、そんなコト言ったって、私女の子なんだよ!?」



―――っふ、俺だって恥ずかしいぜ。


しかしだな、もうこうするしかないんだ。


逆にお前に見せつけてやる事によって、俺のドS魂を炸裂させてやる!



「いいから早く! う、で、出そうだ‥‥」


「わっ! ちょっと待って――!」



踏ん切りがついたのか、一気にズボン&パンツがずり下ろされた。


そして真琴の目の前に現れる、俺の最終兵器彼氏。


表情は伺えないが、「ぁ‥‥‥」と溜息のような声がした後、無言でそれをガン見する真琴。


お、おい‥‥何か言えよ。


何で黙ってる。流石に恥ずかしいぞ。



「あ、えと‥‥ア、アハハハ‥‥可笑しいね? 全然出ないね、しーしーっ‥‥我慢しないで、出していいよ?」



え? なにその反応。


しーしーって、子供じゃないんだから。


変だなと思い覗き込むと‥‥。



「ぎゃああああああああああああ!!!!」


「うわっ!? え、な、どうしたの!? どっか痛いの!?」



む、息子が俺の自慢の息子が‥‥‥ガタガタブルブル‥‥‥。



「超ちっちぇーーーーーーーっ!!!!!」



む、息子までもが幼児化しちまってる!


毛はしっかり生えてるのに、皮を被った幼虫がそこにっ!!



「か、可愛いと‥‥思うな、私‥‥うん」



な、何だよ‥‥その庇うようなコメント。



「ち、違うんだ、いつもはもっと大きくてだな―――」


「ああ!大丈夫!私そういうの気にしないからっ! だから、早く出していいよ、しーしー」



完全に、子供のそれを扱う感じの真琴。


なにこの屈辱。


あ‥‥力抜いたら出た。


ジョロジョロと大量の小便が出てくる。


だいぶ溜め込んでいたもんだから、臭い。


それを楽しそうに目の前で眺める真琴。


うう‥‥死ぬ程恥ずかしい‥‥ドSどころか、超Mプレイされてるんですけど‥‥シクシク。


やがて小便も落ち着き、フィニッシュの一滴。



「は、早くしまってくれっ」


「え? えと‥‥まだ雫が付いてるよ。拭いたりしないの?」


「女子かっ!男はそのままピッピッて散らして終わりなのっ!」


「そうなんだ‥‥」



しばし考え込んだ真琴が、「えいっ」と掛け声をかけると同時に予想外の行動に出た。



ビクッ!!!



「こうするの?」



息子を掴まれ、ブルブルと震わされる。



「おおおお!?」



ブルブルされる度に、ビクッとなってしまう。



「ちょっと動かないでよー」



って言われても!


でも子供用なんで、感じるとか気持ちいいとかそういうもんじゃない。


ただ、ビクッとなるんだよ、ビクッて。



「あーー!!」



突然声をあげる真琴。



「ど、どうした?」


「‥‥顔に散った」



「拭いてー」とペーパーを丸めて手渡される。


確かに目元に雫が付いて、泣いたような感じになっている。


俺は無言で拭き拭きする。


‥‥‥‥。


何なの? このシュチュエーション。




◇◆◆◇




無事に事を終え、ソファーでぐったりする俺。


真琴はキッチンで、有り合わせの食材で何か作るみたいだ。


まあ、楽しみだけどさ‥‥。


元気でねえよ‥‥。


そんな俺を気に留めたのか、真琴がパタパタと近寄って来る。



「ね、ねぇ駿? パスタがあったんだけど、どうかな? やっぱりご飯がいい?」


「何でもいいよ‥‥」


「何でもって‥‥さっきのコト気にしてるの?」



超気にしてるよ。


だってお前―――。



「えっと‥‥さっきも言ったでしょ? 男は大きさじゃないって。クラスの子も言ってたよ? 大きければいいものじゃないんだって。わ、私もき、気にしてないから、ぜ、全然―――」



思いっきりどもってんじゃねーか‥‥。


しかも最後のほう、目を合わせなかったよね!お前さ!



「か、カワイくって私好きだよ?」



「ね?」と腹の下辺りをツンツンされる。


そしてパタパタとキッチンへと戻る真琴。


違うんだと何度弁解しても、言い訳にしかとってもらえなかったんだよ‥‥シクシク。


そりゃそうだよな、毛はしっかり生えたままなんだもんよ‥‥。


うう‥‥悔しくてマジ涙出てきた‥‥グスッ。



「あ、ごめーん、玉葱切ってるから~」



楽しそうな声が聞こえる。


そうじゃねんだよ‥‥そうじゃ‥‥。


この後、かなりまともなパスタとサラダが出てきた。


ぶっちゃげ美味かった。


真琴も機嫌が良かったし、ま、いいか‥‥と思う。



だがしかしっ!!



絶対元に戻ったらリベンジしてやるからな―――と心に誓った俺だった。





22話に続く。 

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