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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第2章 カラダが改造されたあと
40/45

第20話 高級マンションと吹っ飛ぶ理性

ある日の放課後―――。



俺は駅前に出来た、超高級マンションを目指していた。


駅前というよりも、駅のスロープから直接繋がっているマンションなんで、駅に出来た――という表現がふさわしいかもしれない。


別に物珍しいから見に行っているわけではない。


知り合いが引っ越したんで、まあその手伝いにってわけだ。


しかし、駅から歩いて30秒。


素晴らしい立地条件だ。


そういう訳で、駅を降りたらあっという間に到着。


目の前には、元はデパートだった場所――いわゆる広大な敷地に建った、30階建てのマンションがある。


壁は大理石。


超イヤミだろ?


1階だけじゃないぞ? 30階まで全て大理石だぞ?


ありえねー。



「兄さん兄さん! 大理石ですよっ大理石! 高級感ですね!」



あーそう言えば、妹もいたんだっけ。


隣ではしゃぐ我が義妹。



「兄さん見て下さい! 兄さん兄さん!」



彩乃に制服のシャツを引っ張られる。


はいはい‥‥どうせまた大理石かなんかだろ?



「どうやって入るんですかぁ、兄さん?」



見ると、玄関の自動ドアの前で、必死にぴょんぴょん跳ねて足ふきマットに全体重を乗せている。


何がしたいんだ‥‥我が妹よ。


デパートの入口かっつーの。



「ちょっと待ってろ、暗証番号聞いてあるから」



ポケットから手帳を取り出し、4ケタの番号を確認する。


まあ、他人に暗証番号教えるってのもどうかと思うんだが‥‥。


ええ~と、それで入力端末はどこに‥‥。


辺りを見回すが、無い。


そしてドアのガラスもプライバシーガラスになっていて、中の様子も伺えない。


なにこれ?


まさかと思い、妹に習いドアの前にあるマットを踏んでみるが、何も起こらない。


念の為、タッチセンサーも視野に入れて軽く手で触れてみるが、変化無し。


え? 入れないじゃん。


と思いきや、



「兄さん、カメラがありますよー」



彩乃が頭上を指差したんで、つられて見上げると確かにカメラがある。


単なる監視カメラかな。


しかし、ピピっと電子音が鳴り、ウィーンとドアが開いた。


へ? 顔認証?


まさかな。



「あ、あきました~、ってあれ? 兄さん‥‥」



彩乃が『なんで入れないの?』って顔をしている。


ドアの向こうには、またドアがあった。


なんだよここ、面倒だな‥‥。


そう思ったが、隅っこに端末を発見。


おお、今度こそ入れる―――と足早に近づいたわけなんだが。


まさかの指紋認証端末!


最近、銀行のATMにも備え付けられているから、間違いない。


いやこれ、絶対入れないパターンのやつやろ!



「彩乃知ってますよ、これ。ここに指をいれるんですぅ」



と、自慢げに端末へと手を差し伸べる、素直が取り得の我が妹。


しかし、当然の如く、彩乃が指を入れた瞬間に「ブッブー」とクイズで不正解したような電子音が鳴った。


反応早すぎ! そしてシステム音センスなさすぎ――と、ツッコミを入れたいところだ。


どうしろってんだよ。


こうなったら、部屋の主に抗議の電話をかけてやるかと思ったんだが、妹が「兄さんも試して下さいっ」と腕をひっぱるんで、試しに挿入。



ピンポンピンポンピンポーン♪



軽やかなシステム音とともに開くドア。


‥‥‥‥。


まさかの、俺の指紋登録済み?


う~む‥‥やるな。



「兄さんだけズルイですっ」



そして横でぶうたれる、まだまだお子様な我が妹。


更には、目の前には新たなドアが見参。



「まだ入れないのかよっ!!」



どんだけセキュリティー重視なんだよ。


ま、部外者が顔と指紋認証しましたけど。


とはいえ、3枚目のドアは普通だった。


いわゆるオートロック。


やっと出番を果たした暗証番号入力にてオープン。


たかがマンションに入る為に、結構頭を使ったわけなんだが‥‥。


驚くのはまだ早い。


1階のロビーには、不思議な光景が。



右に見えますのは~、コンビニでございます。


左に見えますのは~、ドートルコーヒーでございます。


そして中央には~、マックでございます。



‥‥‥‥。



ふざけてんのか!


今、確かに3回もロック通りましたよね?


住人専用ショップだと!?


死んでしまえ、金持ちども!!


いや、まあ‥‥知人が、ここの30階に越してきたわけなんですけどね。


以前、加奈子が住んでたマンションより凄い気がする。


あー、なんか、驚愕の連続でノド渇いてきたよ‥‥。



「彩乃、コーヒーでも買ってくか?」



ドートルコーヒーを指差す。



「んん~、そうですね。カプチーノ的な気分ですね」



妹の合意を得られたんで、入店。


しかし、レジが無い。


あれ?


いつもと勝手が違うバージョンで、オロオロする俺。


取り敢えず、テーブルにつく。


すると、当然の如く店員さんが近寄ってきた。


バイトさんかな?


大学生位の女の人が、慣れた感じで聞いてきた。



「ご注文はお決まりですか?」


「え~っと、テイクアウトしたいんですけど――」


「はい?」


「え?」



あれ?


ドートルって、テイクアウト出来たよな?


何故に疑問形?



「お客様?」


「はい」


「お部屋でお飲みになるのでしたら―――」



おお、話しが伝わったぜ。



「後ほど、ルームサービスをご利用下さい」



がくっ。



当然、速攻で退店する俺&妹。


でもな、最後にサプライズがありやがった。


専用エレベーターなんだよ、ここ!


北側、西側、東側と分かれて、3ヶ所に何十機と設置してある。


専用だぞ、専用。


もうシャア専用とか、どうでもよくなってくるよな?


しかも面倒な事に、そこにも顔、指紋、暗証番号のトリプルブロック。


だからさ、どんだけ!?


まあ、端末が1ヶ所に集中しているだけ良しとしよう。



「え~と、確か3001だっけな‥‥」



目的のエレベーターを見つけ乗り込む。


無駄に広い、中のスペース。


てゆーか、下駄箱があった。


何故?



「兄さん、スリッパがありますよ?」



目の前にはマットがあり、そこには男性用と女性用のスリッパが用意されていた。



「履けってことだよな」



そう思い、靴を脱ごうとしたら、チーンといういつもの音と共に、反対側の扉が開いた。



「あ、いらっしゃーい。遅かったじゃない」



開いた扉の先には、リビングでくつろぐ美琴の姿があった。


その姿を見つけた妹が、てててと近づいていく。



「お待たせですー、うわぁ、中も広いんですね!」



そう、ここの宿主は美琴。


一人暮らしを始めるってんで、色々人手がいるかと思って手伝いにきたんだが‥‥。



「ほら神崎、そんなとこに突っ立てないでこっちおいでよ」



美琴がソファーに寝転んで、ゆっくり手招きしている。


未だエレベーターの中――というか玄関?にいる俺は、促されてリビングへと侵入。


エレベーターから一歩出るとリビングなのか‥‥そういうもんなのか?


リビングを一望する。


広い、超広い。


目の前には、30人位座れるんじゃないかって程のソファーがコの字型に設置してあり、その先には100インチは軽く超えていると思われるTVが壁に埋め込んである。


その右にはビリヤード、ダーツ、トレーニング機器、バーカウンター等があり、ちょっとした娯楽施設のようだ。


それを見つけた妹が、嬉しそうに走って行った。


ここってマンションだよな‥‥。


俺はキョロキョロしながらも、美琴が座っているソファーの対面へと腰掛けた。



「もっと近くに座ってよ、そこじゃ遠いって」



美琴が自分の横をポンポン叩いている。


確かに遠かった。


俺んちのリビングの端から端程度の距離はありそうだった。


なもんで、遠慮なく隣に腰掛けたが、変な感じだった。


ソファーの十分の一も活用出来ていない。


ま、それはいいとしてだ。



「それにしても、スゲーなここ」


「いいでしょ。私も気に入ってるの」


「てゆーか、今日越してきたんだよな? 荷物は? 手伝いにきたのにどういうこった?」


「へ? 荷物? そんなのないって」



荷物が無いって可笑しいだろ。


引越しだぜ?



「だって、そもそも私、今までホテル暮らしだったし」


「えっそうなのか!? てっきり如月さんの家に住んでたとばっかり―――」


「そうだよ、如月さんと、ホテルに泊まってたんだって」



しれっと言う美琴。



「そもそも、如月さんの自宅ってないし。基本、あの人は研究所に缶詰だし、ホテルに戻ってもシャワー浴びたらすぐに研究所に行っちゃうから」



そんな暮らししてたのか。


知らなかったな。



「でもね、『思春期の若い女性が、ホテル暮らしじゃ退屈だろう』とか何とかで、ここを買ってくれたの」



普通の出来事のように語る美琴。


いや、そこはさ、驚愕的な出来事のように語らないとダメだろ。


ここまでの高級マンション、人生の成功者しか住めないと思うんだが‥‥。



「てことはだ、奥のプールバーみたいなのは、如月さんの趣味なのか?」


「ううん、最初からこうなってたし、ここにある物は全て‥‥なんて言ったらいいの? 最初っから生活出来るように、家具も全部揃えてある状態なの」



ハー、そうですか‥‥。


そういう物件ね。


羨ましいことで‥‥。



「まあ、折角だから部屋とかも見ていってよ。そーそー、ここのお風呂凄いんだよ、入ってく?」


「お、おう‥‥まあ、見させてもらうわ」



凄い風呂ってのには興味があるな。


折角だからちょっと見てみっか。


彩乃は何やってんだと、様子を伺うと、夢中になってダーツを飛ばしていた。


美琴は「お茶を用意するね」といいながら、テーブルに備え付けられてある端末に向かって「コーヒーを4人分お願いします」と注文を入れていた。


例のルームサービスだろうか。


便利だなあと思いつつ、リビングの奥へと向かう。


途中、ドアがいくつもあったが、寝室だと悪いんで開けなかった。


そして、明らかに浴室と思われる場所を発見。


無駄に広い脱衣場があった。


奥にスモーク張りのガラスがあるから、そこが浴室なんだろう。


どんな風呂なんだ?


風呂が凄いとか聞くとついワクワクしちゃうよな?


日本人だからかな。


そんな事を考えつつ、ガラス戸を引くと―――。



「あ、美琴ー? 丁度良かった、リンス忘れちゃたの。取ってくれるー?」



シャ~~というシャワーの音。


立ち上がる湯気。


その奥には、泳げそうな大きさのジャグジー。


そして洗い場には、髪をシャンプー中の白河。


泡だらけの背中が見える。


そして肉付きの良いお尻も。



「聞こえたー? リンス早くー」



ヤバイ、この状況はヤバイ。


どうするどうする?


これってラッキーシュチュエーションなのか?


いやいや早まるな。


ここでバレたら待つのは惨劇。


この前のフライパンを思い出せ。


次に食らっても、生きている自信はない。


俺は無言で戸を閉めると、180度回転。


ダッシュでこの場を―――。


去ることは難しかった。


脱衣場には、恐ろしいトラップが用意されていた。


白河の衣服である。


脱いだ順番そのままに、一番上に乗っかってる薄いピンクのパンティーには、人身を惑わすテンプテーションの魔法がかけられている―――に違いない。


だから俺は、真っ直ぐ歩けない。


身体がそっちに吸い寄せられる。


くっそー~~~、脱ぎたてのパンティーだと!?


なんて魅力的なんだ!


いや、ダメだ。


いくらパンティーでも、命を引き換えには出来ないだろ。


で、でも‥‥一瞬だけ、手に取るぐらいだったら‥‥。



「美琴ー? まだー? そこにあるでしょー?」



ぬおっ!!


ダメだっ! 時間がない!!


誘惑を振り切った俺は、ダッシュでリビングへ。


ソファーで、彩乃と談笑している美琴を見つけると、開口一番―――。



「美琴! すぐに白河にリンスを届けてくれ!」


「ん? リンス? 脱衣場になかったっけ――って、あ―――」


「いいから早くっ! 俺から頼まれたって絶対言うなっ!!」



腕を引っ張り無理やり立たせると、美琴は「分かったから、腕痛いってー」と文句を言いつつも、パタパタと走って風呂場へと向かって行った。


ふ~、これでなんとかなるだろ。


気が抜けて、ドカッとソファーへと倒れ込んだ。




◇◆◆◇




「真琴がいるって言うの忘れてた」


「忘れてたじゃねーよ! 一つ間違えれば、俺の命の危機だったんだぞ!」


「まぁまぁ、真琴のお尻見たんでしょ? 良かったじゃない。お尻だけなら私もとやかく言わないから」



コーヒー片手に、いたずらっ子見たいな笑顔を向けてくる美琴。


とにかく災難は去った。


だから今は、のんびりコーヒーブレイク中。


妹はソファーに寝転び、大画面でのゲームに夢中になっている。


普段、あまりゲームとかしないくせに、大画面の迫力にすっかり圧倒されているみたいだ。



「――で、真琴とはちゃんと仲直り出来てるの?」



心配そうな顔を向ける美琴。



「べ、別に‥‥喧嘩したわけじゃねーし‥‥」



つい、歯切れが悪くなっちまう。


加奈子が来たあの日から、ぶっちゃげ会ってもないし、話してもない。


いつもだったら、ちょくちょく勝手に部屋に現れるのに、白河は全然来ない。


喧嘩したっていう認識は無いんだけど、確かに気不味い感じはする。



「真琴、長風呂だからまだ上がってこないと思うけど、どうするの?」


「どうするって?」


「まずは二人っきりで会った方がいいんじゃない?」



う~む‥‥美琴の言う事も一理あるな‥‥。


もし、今この場に白河が現れたとして、いつも通りの会話が出来るんだろうか‥‥。


もしも、あいつが素っ気ない態度をとってきたら‥‥。



‥‥‥‥。



考えたら、急に会うのが怖くなってきた。


どうしよう。



「ほらぁー、悩んでるんじゃない。しっかりしてよー。言っちゃうけど、あれから真琴、すっごく元気ないんだからね。私だって困るんだから。別に怒ってるわけじゃないから、優しくしてあげれば元に戻るんじゃないかな‥‥たぶん‥‥‥」


「多分って、お前‥‥」


「し、仕方ないじゃない! あれから真琴、記憶共有させてくれないし。逆に教えてよ、真琴になにしたのよ」



何って‥‥。


思い浮かぶのは一つしかない。


あの惨劇が会った日。



「あのな」


「うん」


「フライパン食らった日だ」


「うん、その時でしょ?」


「俺、白河に素っ気ない態度とって帰っちゃったんだ」


「えっ!? キミが!? 真琴に!? 素っ気ない態度ぉ!?」



目を大きく見開いて驚く美琴。



「おいおい、そんなに驚く事か!?」


「当たり前じゃない‥‥だってキミ、真琴がいるだけで、犬が尻尾振ってるみたいにいつも嬉しそうだったじゃない」


「誰が犬だっ!」



俺って、周りからはそんな風に見えてたのかな?


まあ、白河がいるだけで嬉しいってのは否定しねーけどさ。



「そうですよー兄さん。白河さんがいるだけで、兄さんのテンションは2段階くらいアップするのです」



てっきりゲームに夢中かと思ってた妹が、にじり寄って来る。



「ねぇ犬っぽいよね、神崎って」


「はい、良い例えだと思います」



真面目な顔で話し合う二人。



「じゃあなんだ、犬に戻ればいいのか?」


「うん」

「そうですねー」



簡単に言うけどさ‥‥。


加奈子の事も引っかかってるしな‥‥。


まあ‥‥てことは、俺次第ってわけなのか‥‥?



「ひらめきましたっ」



ポンッと手を叩いた彩乃が、更に近寄ってきて自信ありげな表情で言う。



「兄さん、そろそろ名前で呼んであげたらどうでしょう」


「あ、それ私も思ってた」



名前?


名前ってなんだよ。



「あいつ、実は芸名だったとか?」


「違いますよぉ兄さん。名前っていったら下の名前ですー」


「待って、彩乃ちゃん。私が説明するから、このニブちんに」



誰がニブちんだ、誰が。


「いい?」と、美琴までもが近寄ってきて、広いソファーで二人にピッタリ挟まれた状態になる。


そんなにしなくても、俺は逃げないって。



「私を呼んでみて」


「美琴」


「彩乃ちゃんは?」


「彩乃」


「じゃあ、加奈子ちゃんは?」


「加奈子」


「―――で、真琴は?」


「白河―――」



だからどうした。



「なんで真琴だけ白河なのよっ!!」

「おかしーですっ!」



左右から責められる。



「そんな事言ったって、白河は白河だろ!?」


「それがダメなんじゃない!」

「女の子のこと分かってません!ぷんぷん!」



右も左も怒ってるんですけど、何が悪いってんだよ。


呼び方とかって、急に変えられないだろ?


小学校ん時の友達だったヤッちんも、今会ったってヤッちんだしよ。


加奈子は元々下の名前しか知らなかったし。



「真琴には黙ってて欲しいんだけど、お互いの記憶を共有した時って、相手の感情も流れ込んでくるの。なんとなくだけど」


「そうなのか?」


「そうなの。だから私の言う事は本当の事。キミに名前で呼んでほしい―――って、何度も伝わってきた」


「白河が‥‥」


「ほらまた白河って言った」


「んなこと言われたって‥‥」


「キミが加奈子加奈子って連発してた時に、真琴がどう感じたか―――考えたら分かるよね? もしそれが分からないんなら、もう知らない」




◇◆◆◇




俺は自宅に戻っていた。


『真琴を行かせるから、自宅で待機してて』


そう美琴に言われ、強引にテレポされてきた。


だから、もうすぐ白河が来る‥‥わけなんだが‥‥。


『絶対に真琴って呼ぶこと!』


念を押されたし、呼んでみようかと思う。


でも、なんか違和感バリバリなんだよな。


あー何だか緊張してきた。


ちょっとトイレ行ってこよ。


いそいそと用を足しにいく俺。


しかし、いざ便器を前にしても中々出ない。


そして息子はシワッシワ。



「こんなに縮んだのは久しぶりだぜ‥‥」



何でこんなに緊張してんだ、俺!


しっかりしろよ!!


よし‥‥景気付けに叫んどくか。



「真琴ォォォォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ!!!」



うっし、これで言えるだろ。


俄然ミニマム状態の息子を仕舞い、部屋へと戻る―――。


―――と、白河がベッドに座っていたもんだから、思わず心臓が止まるかと思うほどドキッとした。


そして片手を上げた白河が一言―――。



「‥‥‥‥ぉ、おいっす‥‥‥‥」



蚊の鳴くような声だった。


しかも、何だかキャラが違う‥‥?



「あ、あれ‥‥? あ、え~とね‥‥美琴が神崎君も呼んできてって、ア、アハハ‥‥自分で呼びに来ればいいのにね」



ぎこちない喋り方と硬い表情。


こんな白河は初めてだった。


どう対応していいか分からず、言わなきゃいいネタを振ってしまう。



「久しぶりだな――」


「――う、うん」



言ってから後悔。


微妙な空気の中、勇気を出して俺もベッドに腰掛ける。



「‥‥‥‥」


「‥‥‥‥」



しばらく会話が無い‥‥。


う‥‥‥こんな状態初めてだぜ‥‥。


取り敢えず、何か言わないと。



「あーでもあれか、あれから1週間も経ってないもんな!」


「―――そ、そう‥‥かな‥‥?」



くそっ!


なに言ってんだ俺っ!!


あれからって、俺が素っ気ない態度とってからって事じゃねーかっ!!


あの日の事が、脳裏にフラッシュバックされる。


多分、お互いに―――。



「あ、そう言えばさ‥‥その‥‥」


「お、おう、なんだ‥‥?」


「さっきさ、向こうで私の名前‥‥‥呼んだ?」



恐る恐る白河が聞いてくる。


ん? さっき?


さっき‥‥‥?


ぬおっ!!


トイレで叫んだ時かっ!!!



「な、何も! 何も叫んでない。てか言ってない!」


「そ、そっかぁ‥‥‥」



な、なんだよ‥‥。


き、聞こえてたのか‥‥?


俺が『真琴ーっ』って叫んだら何だってんだ。


ダメだ、このままじゃ言えない―――。


美琴と約束したしな。


でもなー、いきなり呼び方変えたら驚くだろうな‥‥絶対。


くっそ、男だろっ俺っ!


もう知らねええ、取り敢えずさっきの勢いで!!



「真琴ーっ!!!」

「は、はいっ――――――え!?」



思い切って叫んでみたら、白河がキョトンとして俺の顔を凝視。


口を開けて目をパチクリとさせている。



「あ、あのさ‥‥ま、真琴って呼んでもいい‥‥?」



勇気を出して聞いてみたんだが―――。


ひと呼吸おいて、俺の顔を凝視していた白河がパッと顔を背けた。



「――――――ぃ、ぃぃょ‥‥‥」


「えっ?!」


「だ、だから‥‥‥ぃぃょ‥‥って」



手を股に挟んで、もじもじと答える白河。


顔が赤い。


そしてハニカムような嬉しそうな、そんな照れたような表情で、俺の方をチラチラと見てくる。



「ぬおおおおおおおおおおおおおおおオオオオォォォォォォォォォ魚ーーーっ!!!!!!」


「え?え?どうしたの!?」



か――――――可愛い可愛い可愛い可愛い―――!!!



「可愛いいっっっっ!!!!」



我慢出来んっ!!!



横から、思いっきり白河を抱きしめる。



「キャン! あ、や‥‥い、痛いよ‥‥」


「あ、ご、ごめん―――」



咄嗟に飛び退く。



「あ、あのさ‥‥ま、真琴―――」


「な、なぁに?」



ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!


思いっきり照れた表情するんですけどっ!?


ヤバイっ!! 


超カワイイ!! 超ラブリー!!! 超天使!!!



「ね、ねぇ、なによぉー?」



俺が悶えていると、恥ずかしそうにシャツを引っ張ってくる。



「いやその‥‥」


「ん?」


「俺さ‥‥」


「うん」


「お前の事が大好きだーーーーっ!!」


「わっ!」



突然シャウトして驚いた白河が、ベッドからずり落ちる。


でも構わず、俺は窓を開けると外に向かって叫んだ。



「俺は!! 真琴が好きだあああああああああああああーーーーっっっっ!!!!!」



全力で叫んだせいで、最後のほうは声が枯れてしまった。


だから―――。



「もう一度言うっ!! 俺は―――」


「やめてーーーっ!!! 恥ずかしいよ!! 恥ずかしいって!!!」



白河に思いっきりしがみつかれた。



「分かった、分かったから―――お願いだから、もうやめてっ」



やめる、やめます、すぐやめます。


首にかかる白河の吐息。


背中からお尻までに感じる、柔らかい温もり‥‥。



「だからもう我慢出来ないんだって!!」



密着したまま身体を反転。


そのまま白河をお姫様だっこする。



「え?え? か、神崎君? え?な、なに?」



何も言わず、そのままフワリとベッドに寝かせる。


そして覆いかぶさる。


目と目が合ったまま、時間が止まる―――。



白河から強烈にシャンプーのいい匂いがして、頭がクラクラしてくる。


風呂上がり―――。


準備、OKだよな?


ゆっくりと顔を近づける。


無意識に、右手が白河の胸を触る。



「‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥」



目を閉じる白河―――。



唇と唇が重なる―――。



そう思った瞬間―――。



シュッ―――。



ガクッ。



やられた。


あいつ、やっちまったよ。


チクショーーー!!!


なんで消えるんだよ‥‥。


右手に残る、白河の―――いや、真琴の胸の感触―――。


嗚呼‥‥‥モミモミすれば良かった‥‥‥。





◇◆◆◇





数分後―――。



シュッという音と共に、目の前に再び現れた真琴。



「あ、あのさー、まこ―――キャーー!!」



速攻で押し倒す俺。



「―――真琴、さっきの続き、いいだろ?」



そう言って、なりふり構わず、再び右手を胸に這わせる。



「え、ちょっ‥‥ぁ」



このチャンス、絶対逃さないぜ!


と、思ったんだが―――。



「私‥‥美琴だよ」



固まる俺。



「美琴‥‥?」


「うん‥‥‥」


「‥‥‥‥」


「がっかりした?」


「あーいや‥‥その‥‥」



正直、がっかりした。


でも、同じ容姿の女の子に覆いかぶさっている状態―――。


しかもさっきと同じ態勢、右手に感じる弾力―――。


美琴だからといって、離れるにはあまりに名残惜しい。



「別にこのまま続けてもいいんだけど、絶対真琴に怒られるよ‥‥‥」



少し寂しそうな表情を見せる美琴。



「ご、ごめん‥‥」


「う、うん‥‥あ、あのね?」


「お、おう」


「真琴から伝言」


「真琴から?」


「別にイヤじゃなかったって。無意識に飛んじゃったんだってさ」



マジか‥‥。


イヤじゃなかったってのは嬉しいけど‥‥。



「ありがとね」


「へ?」


「真琴、すっごく嬉しそうだった。キミのおかげ。今日は恥ずかしいからまた明日来るって!じゃね!」



チュッ―――。



シュッ―――。



ベッドに一人取り残される俺。


て‥‥ゆーか、さ‥‥。


消える瞬間、あいつ俺にキスしたんだけど。


もろ唇に。


ファーストキス‥‥‥なんだけど。


いやまあ、そういうの特に気にしないんだけどさ‥‥。


真琴には‥‥内緒だな。



ハ、ハハハハ‥‥‥‥可愛いな、美琴。


柔らかかったなー、唇。



今度あいつにあったら、理性保てるかな?


絶対襲ってしまう自信がある。


いや、いくらなんでもそりゃまずいだろ。


いやいやいや、基本的に真琴と美琴は同一人物と考えていいわけだから‥‥。


美琴を襲うって事は、真琴を襲っているのと同じだっていう理屈は―――成り立たないよなぁ。


う~ん、でもなあ‥‥。



結局、夕飯の支度を終えた妹が呼びに来るまで、悶々とする俺だった。





21話に続く

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