第4話 妹覚醒と俺の悲劇
なんだこの状況は。
場所は自宅の居間。
「白河さん、煮物も食べて下さい。特にこの新じゃが、美味しいですよぉ~」
「あ、ほんとだ、美味しい~~。彩乃ちゃんって、料理じょうずなんだねぇ」
色々あって、3人で夕ご飯を食べている。
あの後、大変だったんだよ。
嫌がる白河をとりあえず家に上げ、妹に事情を説明。
納得はしてくれたものの、
「女の子を泣かすなんて、兄さんは、女の子の敵です!」
だの、
「反省してくださいっ」
「だいたい兄さんは、女の子に対する態度がなってませんっ」
「しばらく優しくしてあげませんからっ」
だとか、妹様ご立腹状態。
確かに、泣かせたのは事実だし、未だにその訳も不明だ。
「冷たくしたからに決まってるじゃないですかっ」
と妹に言われたんだが・・・・若干心当たりはあるかな。
しかし、女心は分かんねーよ。
付き合った事無いし・・。
で、結局、「兄さんが泣かせた責任とお詫びです」ってことで、白河をもてなしてるわけ。
二人がこんな短時間で仲良くなったのも、泣いてた白河が既に元気なのも、謎だけどね。
さて、無事食事が終わり、のんびりとくつろいでいる。
食後のお茶ってやつだ。
うちのリビングはそこそこ広い。
大きめのソファーがテーブルを囲み、その先には40インチのテレビがある。
そこで俺と白河は、少し離れて座っている。
彼女はうちに上がってからすぐに泣き止み、妹が色々話しかけたのもあって、いつもの元気は取り戻している。
でも、なんていうのかな。
俺とはあまり口を聞いてくれない。
微妙な空気・・・。
今はブログを更新するとかで、携帯をカチカチ操作している。
足を組みながら無言で携帯をいじるその姿は、なんとなく、俺を遠ざけている気がして話しかけにくい。
だが、ここは話しかけ、謝っておくべきだろう。
とは、思うんだけど・・・・・。
「なあ、白河」
「・・・・なぁに」
う・・・・、テンション低いな。
「さっきは、ごめんな」
「うん・・・」
一応返事はしてくれる白河だが、俺を一瞥しただけで、すぐさま携帯をカチカチいじり始める。
き、気まずい・・・・。
まいったな~。
・・・・・そういえば、妹の機嫌が悪くなった時も、こんな感じなんだよな。
薄い反応、寄せ付けない空気、無表情。
ただあいつの場合、翌朝には普通に戻って「兄さんは、彩乃がいないと何も出来ないんですからっ」と言う展開になるから、何も心配はいらない。
じゃあ、妹以外の女の子って、どうなの?って考えても、ぶっちゃけ女友達すらいない俺は、何かを閃く事も無い。
つくづく、自分の経験値の無さが恨めしい。
こいつの事は嫌いじゃない。
ここまま距離が遠くなるのは避けたい。
どうしたら・・・・色々考えたあげく俺は、
「だあああああああ!」
面倒くせえええええ!!
急に叫んだもんだから、白河は「キャッ」と小さい悲鳴をを上げるが、気にしない。
そして俺は一息で、こう言い切った。
「頼むから機嫌なおしてくれよっ!、俺が悪いのは分かってるから!だからなんで泣いちゃったのか教えてくれよ!!いやむしろ、今度は俺が泣くぞっ!!」
身体を振り乱し懇願し叫ぶ、必死な俺。
手を広げ、口を大きく開けたまま固まっていると、「ぷっ・・なにその顔」とクスクス笑い出す白河。
え?なんで?とさらに固まり動けないでいると、
「フフ・・その顔、鏡で見せてあげよっか。芸人さんがすべって大ケガしたみたいな顔してるよ」
ふ~と手で顔をあおぎ、パタンと携帯を閉じると、「暑いね」と言いながら制服のベストを脱ぐ。
携帯を仕舞おうとしているのか、一旦鞄に手をかけ、結局胸ポケットに入れる。
大きい胸と相俟って、そのポケットはパツンパツンに張っている。
そんなちょっとした動作に、つい目が奪われる。
薄っすらと、シャツから透けるブラジャー・・・・。
こんな時に何考えてんだ、俺。
ふと、こちらを向き、不敵な笑みを浮かべる白河。
ドクン。と心臓が跳ねる。
「君はそんなに私と仲直りしたいのかな?」
「んんー?どうなのさー」と、顔を近づけてくる。
俺は急に恥ずかしくなって、
「バ、バカそ、そんなんじゃねー・・し・・」とつい、否定してしまう。
そんな引き気味の俺を無視し、「ふ~ん、なるほどねぇ~」と近寄って来る。
「まぁそうだよねぇ、CD発売日に買うぐらいだもんねぇ~」さらに接近。
そ、それは誤解だあああ!と心の中で叫ぶ俺は、自分が赤面してないか心配になる。
いや、恐らく顔赤いだろ・・。
しょうがないだろっ、こいつの顔、すげー可愛いんだよ・・・しかも何か良い匂いするし・・・。
「君ってさぁ、実は好きな女の子にいじわるするタイプでしょ~」と俺の胸をつんつんしやがる。
思わずギョッとし、たじろいでしまう。
見透かされたみたいでこの場から立ち去りたい気分だ。
しかも心臓がドキドキいってやがる・・。
予想外の展開に、どう言っていいか困惑していると、
急に俺から離れ、尊大な態度で言い放った。
「じゃじゃーん。実は私、少女漫画とかすごい読んでるんだからっ。恋愛には詳しいのよ! フッフッフ、ずばり君はツンデレってやつねっ!」
ビシッと指差される。
ふふ~んと、得意顔の少女漫画オタク。
がーーーーーーーーん。
脳内で鐘が響いた。
こ、こいつは・・・・。
超ダメな情報源で、こんなに自信満々って。
こいつのカテゴリーが天然系に固定された瞬間だった・・・。
その後も、「アイドルだから恋愛は出来ないのっ」とか「一人のファンとして応援してね」など、噛み合わない会話が続いたが、落ち着いた頃、やっと白河はここ数日の事を話し始めた・・・。
それは、俺が想像も出来ない世界での深刻な話しだった――――――――
「私が最初に襲われそうになったのは先週で・・・、その時は事務所の人が何人か来てくれて、大丈夫だったんだけど・・・・・」
どうやら、白河の周りではなにやら不穏な影があり、大事を取って今日からしばらくの間、仕事をキャンセルしたらしい。
要約すると、こういう事だ。
先月、ファンレターの中に「死にたくなかったら引退しろ」という内容の手紙が混ざっていて、それから度々嫌がらせのような事が、所属事務所宛てにされてきたとの事だ。
事務所には、「アイドルを辞めさせろ」「誰か怪我しなきゃ分かんねえか」「事務所燃やすぞ」など何度も電話があり、ガラスが割られたり、入り口で大量の新聞紙が燃やされていたりと散々らしい。
ここ数日は、自宅のマンションや所属事務所付近に、ヤクザ風の男達がうろうろしていたって事だから、たまたま一人だった昨日、襲われたのだろう。
しかも今日は、送り迎えしてくれるマネージャーもいない。
そんな事があったら、確かに一人じゃ帰れない。
気付けなかった俺の責任だ。
くそっ、なんなんだ、そいつらっ。
自分の鈍感さに嫌気がさして頭を抱えていると、申し訳なさそうに白河は、
「じゃあ、私、タクシー呼んで帰るね。ごめんね、迷惑な話し・・しちゃって」
と言って携帯で電話をかけた。
俺は慌てて携帯を奪って、
「ごめん、今日はうちに泊まってくれっ」と頼みこんだ。
だってさ、タクシーで帰るといっても心配だよ。
しかも、聞いたら一人暮らしだって言うわ、ここからさらに3つ先の駅近のマンションだって話しだし・・。
決めた絶対帰さない―――――――
俺は白河を見つめ、わざと冗談っぽく言った。
「折角、アイドル白河真琴がうちにいるんだ。このまま帰すと思ってたのかっ」
「で、でも」
「でもじゃない!いいから、いいから、泊まってけって」
時計は10時半になろうとしていた、そろそろ深夜と言っていい。もしこれで帰して、なにかあったら俺の責任だ。
「妹もいるから安心だぞ」と言っても、白河はなかなか首を立てに振らない。
どうしたもんかと悩んでいると、キッチンで洗い物を終えたばかりの妹が、割り込んできた。
「そうですっ、こんな時間に、白河さんのような可愛い女の子が出歩いてはダメですっ。ここはおとなしく、泊まっちゃって下さい!」
は?こいつ、絶対反対すると思ってたんだが・・・。
「で、でも~」と、返答に困っている白河に、お構いなしと、妹は矢継ぎ早に話しかける。
「女子とは無縁だった兄さんが、こんな可愛い人を連れて来るなんていいチャンス・・・じゃなかった、今日は泊まっていって、なんでしたら今後もどんどん泊まって、兄さんの素晴らしさにぜひ、気付いてくださいっ!」
「は、はいそのぅ・・。」
意味が分からないといった顔の白河。
俺も分けわかんねえ。
普通の仲の良い兄妹で、兄に彼氏が出来たりすると、寂しさや軽い嫉妬で反発したりしねーか?
しかも、たぶんこいつブラコンじゃねーかって、正直思ってたんだが・・。
「シスコンの兄さんにとって、これはいい機会なんです。」
「お、お前が言うかっ!」
「これは、彩乃と兄さんが将来、幸せな家庭を築くのに必要なイベントなのです! 経験不足な兄さん。でも、恋愛を経て、経験値を積み、イケメン優男へと成長する素敵な兄さん。そして、真実の愛に気付き、彩乃を抱きしめる兄さん・・・ああ~。」
うっとりと、まるでキリストに祈りを捧げるシスターのように神々(こうごう)しく遠くを見つめる妹。
「お、おいお前・・・、そんなキャラだったか?」
おーい、帰ってこーいと、目の前で手をヒラヒラしてやるが、微動だにしない。
白河は呆気に取られ、二人が話す度に、ハトのような動きで首をうごかし、こっち向いたり、あっち向いたりしている。
「そして、兄さんの愛に応え、二人は結婚するのですっ!」
「しねええよっ!!」
「俺達兄妹だろーが!馬鹿なこと言ってんじゃねええっ!」
決定的な一言を投げかけたつもりだったが、妹は動揺するそぶりも見せず、
「何を言ってるんですかぁ兄さん。わたしたち、血は繋がってないんですよ」
「お前っ、知ってたのかっ!」
「知ってるもなにも、戸籍上もほんとの家族じゃないんですよ?」
こ、こいつ・・・何言って・・・
「しかも、彩乃と兄さんは、お母さんが決めた、許婚なのですっ!!」
エッヘンと無い胸を張る、我が血の繋がっていない妹。
「馬鹿言うな!そんな事があるか!!」
「あるんですっ! 物心ついた頃から彩乃は、将来は兄さんと結婚するのよって、ずっとお母さんに言われ続けてきたんです」
な、なんですと!?
「その為には、多少の浮気も成長過程。多めに見てあげなさいって」
あのババアーーーー、自分の妹に変な教育してんじゃねえっ!!!
今度帰って来たら、徹夜で朝まで生トークだからなっ!!
もちろんお前も一緒になっ!!!
「あのぅ、お二人は仲が大変宜しいのですね」
空気だった白河が、久しぶりに姿を現す。
しかも、思いっきりドン引きの敬語で。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
とりあえず、この問題は据え置きとしておこう。
真犯人である、母さんがいない事にはどうにもならん。
まあ妹の超怪電波のおかげで、そのまま流された白河は、結局泊まる事になった。
良しとしよう。
ちなみに今は、遠慮する白河を強引に風呂に入れ、妹とテレビを見ている。
歌番組。
偶然にも、白河真琴が登場し、これから歌うところ。
あの衣装だ。
PVで見た、あのひらひらパステルピンク。
スカートから伸びた、緩やかなX脚。
そのラインが、ロリな感じを強調せずにはいられない。
しかし、きりっとした目元と全く媚びない雰囲気は、一般うけの良さを感じる。
しかも彼女は普通のアイドルでは当たり前の、スマイルをここぞという時にしか出さない。
意図してかは不明だが、メディアでの彼女は、アイドルながらアイドルスマイルを滅多にしないアイドルなのだ。
そして女性ファンも多い。
不思議だ・・・。
そんな事を考えていると、妹が突然ボケた事を言い出した。
「兄さん、白河さんって、白河真琴になんとなく似てると思いませんか?」
ぷっ、何言ってんだこいつ。
思わず、飲んでた茶を少し吹いてしまっただろ。
「何言ってんの、お前?」
んん~と、テレビに近寄り、確認する妹。
もしかしてこいつ、本当に分かってないのか?
妹は、極度の近視なのだ。
しかも、俺の前では、絶対にメガネをかけない。
そのせいで、度々危ない目に合い、何度もひやひやさせられた。
一番焦ったのは、昨年、階段を踏み外し、左手を骨折した時。
せめて、コンタクトにしろと一緒に買いに行ったのだが、気持ち悪いと言ってガンとして着けようとしない。
今日の一件でもあるように、こいつは筋金入りの頑固者なのだ。
「やっぱり似てますねぇ。兄さんも白河真琴似の彼女が出来たら、鼻高々じゃないですかぁ」
「あ、今度カラオケで歌ってもらいましょう」とルンルンの我が義妹。
本物とカラオケって、どんな贅沢っだっつーの。
でも、それは是非頼みたいなと思っていると、我が義妹が衝撃的なミッションを発動された。
「兄さん、白河さんの、パジャマと下着、今すぐ買ってきてくれますか?」
なにっ?
「もう一度、お願いできますか、彩乃さん。」
「ですからぁ、白河さんの着替えです。彩乃のじゃ、サイズ合わないじゃないですか。」
「な、なんでだよ、適当になんかあるだろ?」
「兄さんは、綾乃のパンツを自分の彼女に履かせる、ヘンタイさんなんですかぁ?」
何かのプレイ的な言い方はやめろ。
「それとも、汚れた下着をそのまま履かせる方が、萌えるんですかぁ?」
「あ、あのなあ、お前、中一のくせに変な性癖に目覚めたりするなよ?」
「え、はい、それは大丈夫です。お母さんにちゃんと性教育してもらってますからっ。」
「だって、彩乃はもう、性行為も出来る大人なんですよ~~。」
大人ですっといつものように胸を張る。
あの、くそババアああああ!!
原因はまたあいつかっ!
今すぐ電話してやろうか。まったくっ。
それはそうと、下着もか・・・確かに妹の言う事も一理ある。
恥を忍んで買いに行くか。
幸い、こいつに頼まれて、女性下着を買った経験もあるしな、大丈夫だろ。
「分かった、すぐに行ってくるから、白河にゆっくり浸かるよう言っておいてくれ」
「了解です。兄さんのために、すみずみまで洗ってくださいと、伝えておきますね♪」
「宜しく頼む」
我が妹の変態発言はスルーして玄関へ。
外にとめてある自転車で目的地へと急ぐ。
確か、近くのショッピングスーパーが一部24時間だったはず。
衣料コーナーは1階だったから、開いているだろう。
しかし、ふと気になったのは、
「サイズ分かんねえ」
パジャマはフリーサイズもあるし、問題無いとして、下着?
下は大丈夫だろ? 上?
いやいや、風呂から上がったら、後は寝るだけだぞ。
う~む。
寝る時って、どうなの?
・・・・・・・・。
知らんわっ!!
あ、でも着けない方が・・・・・。
パジャマが、たわわに揺れるさまを想像してニヤニヤする。
はっ! いかんいかん。
俺が男である為に、絶対買わないといけない!
でも困ったぞ。
あれは、アンダーがいくつだのって、結構難しいんだぜ?
見た目で何とかなるか?と、悩みながら自転車を走らせていると、研究所での出来事を思い出した。
確か、身体データを取るって言ってたよな・・・・。
如月さん、まだいるかな。
携帯を取り出し、ブラインドタッチで操作。
最後に画面を確認して、通話をプッシュする。
いないかな・・・。
1・・2・・3・・4コール
あきらめて切ろうとした瞬間、繋がった。
「こんな時間に誰だ」
良かったまだいた。
「誰だと聞いている」
「すみません、俺です」
「ああ、君か。どうした、急用か?」
「ええと、今日はお世話になりました」
「そんな事はいい。私に用事なのだろう? 言ってみろ」
「あの、白河のサイズが知りたいんですが・・えと、ブラ・・
「ああ、取得したデータは、全て覚えている。身長154.5センチ、体重46キロ、バスト90、ウエスト57、ヒップ88、足のサイズは23センチ、股下78センチ、右手人差し指57ミリ、中指65ミリ・・・・・
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
「なんだ、身体のサイズじゃないのか?」
「ま、まあそうなんですけど・・」
「ん? ああそうか記憶出来ないか。すまん、メールで送ってやろうか?私は携帯を持っていないが、パソコンで・・・
「いえっ、大丈夫です。一つだけ分かれば・・」
「ふむ、そうか。何が知りたい」
「ああ、ええと、・・ブ、ブラのサイズを」
「Eの70だ」
「分かりました。Eの70ですね」
「もういいのか?」
「はい、もう大丈夫です。助かりました・・・・あ、もしかして、俺のサイズも・・
「君のは知らん」
「あ、そうですか」
「ふむ。何か面白い話しでもあるなら、次の機会に教えろ」
「あ、はい分かりました」
それでは、と電話を切る。
は~、助かったー。
すげーな、あの人。
しかも、特に理由も聞かないところが清々(すがすが)しいというか・・・・・。
何にしても助かった。
・・・・・・・・・・・・・・。
お、あったあった。
俺は衣料品コーナーの下着売り場を見つけ、人気の無さに安堵して溜息をつくと早速、物色を始めた。
えーと、Eの70、Eの70っと・・・・。
これかっ!
手に取る。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
で、でかいっ!!!
マ、マジで・・?
これにご飯入れて牛肉乗せたら、特盛りが食えるんじゃねーの!?
すげーなあいつ。
・・・しかし、どれも妖艶な感じで、あいつのイメージに合わないな。
う~む。
悩んでうろうろしていると、ティーン向けっぽいコーナーを発見。
お、ここなら可愛いのがありそうだ。
基本、白に柄の入った、清純な感じのものが多い。
脳内であいつの裸をイメージし(しょうがないだろっ)本来の目的を忘れ、真剣に選ぶ。
これなんか、パステル系の色が程よく入ってて、いいかなあ。
生来の妥協出来ない性格が災いし、悩む・・。
そこで俺は、ある模様を見つけ、立ち止まり、その一点に視線が注ぐ。
花柄だ・・・。
研究所での出来事を思い出す・・・。
さらに、先程の透けたシャツを思い出す・・・。
たぶん、上もピンクの花柄だった。
よしOK。
これを買えば間違いない。
俺のエロ目線も、役に立つもんだ。
とりあえず、それを取り上げ、タグを見る。
なになに、リフトアップパネルで上向きバストに!美胸キープのお買い得ブラ!(ワイヤー入り)
・・・・・・・。
何だか分からん。いいだろ。
なんとかサイズを見つけると、上下セットじゃないのに気付く。
とりあえず下も、似たような物を捜し任務完了。
じゃなかった、パジャマか。
あぶねえ、あぶねえ。
パジャマは、ほぼノータイムでゲッツ。
白河真琴と言えば、パステルピンクでしょ。
しかも、結構胸元開いてるやつな。
ふっ、ミッションコンプリート!
よし、とっとと会計を済ませると、ダッシュで帰宅する。
考える事も、もうない。
立ち漕ぎだコノヤロー。
俺は妙にハイテンションで、全力疾走した為、おかげで汗だくに。
帰宅してすぐ、「汗臭ーい」と妹に言われたが気にしない。
とりあえず「俺が買ったって、言うなよ」とだけ告げ、自室にこもる。
「疲れたー」
バフッと、ベッドに身体を投げ出す。
今日は、昨日より盛り沢山だったなー。
あ。
やられた。
何がって?
うちには、スピード乾燥機があるじゃないか。
風呂入ってる間に洗濯終わるだろ。
ハメやがったな、我が妹よ。
・・・・・・。
ま、いっか。
明日の事を考える。
・・・・とりあえず、一緒に学校行くだろ?
で、あいつ仕事キャンセルしたって言ってたな。
どうすんだ?
放課後、研究所に連れてくか?
で、その後は?
一人暮らしのマンションって、やばくないか。
う~む。
・・・・・・・・・・・・。
バンッ!!――――――
突然、ドアが爆音とともに開いた。
音と同時に目覚める。
おっと、寝てしまったか。
何やら気配を感じ確認すると、すぐ横に白河が立っていた。
パステルピンクのパジャマ。
その胸元を片手で押さえつつ、開いた手にはモップが握られている。
思ったとおり、ピンクが似合う。
でもなんだ?掃除でもしてたのか?
目と目が合う。
哀れむような視線で見下ろす彼女。
そして歯を食いしばり、その後ニコッと満面の笑顔になり、
「パジャマありがとう♪」と、アイドルスマイル。
お、パジャマ気に入ってくれたのか、良かった良かった。
俺も笑顔に・・・
・・・なる前に、白河の笑みが消え、鬼の形相に変わる。
な、なんだよ、どうしたんだ、そんな怖い顔して。
こ、怖い顔もなかなか愛嬌あるぞ?と、心の中で強がっていると、
「君に聞きたい事あるんだけど」
今まで、聞いた事もないテンションの低い声。
「下着も君が買ってくれたんだってね」
げっ、彩乃め、裏切ったなっ
「よくサイズ知ってたね。妹さんが、洗濯してくれた時に見てくれたのかと思ったんだけど、違うんだってね」
「え、え~と、それはだな・・・」
な、何このバッドエンディング的な感じ・・。
「しかも、今日は合ってないサイズ着けてきたのに、このブラ、ジャストサイズなのよねっ♪」
「なんでかしら」と、モップの柄を俺の身体にトントンする鬼河さん。
「へえ、ぐ、偶然もあるもんだなー。今ここに、神が降臨した。な、なんて・・ははは」
「しかも、どうして上下とも花柄を選んでくれたのかしらね」
「まるで私の趣味を知ってるみたいね」と、モップの柄を俺の身体にグイグイする大鬼河さん。
チャララチャッチャッチャーン
モップのレベルが上がった。
攻撃力が25上がった。
大鬼河のちからが8上がった。
神崎の体力が30減った。
もはや現実逃避の俺・・・。
「は、はははは」乾いた笑いしか出ない。
いくら樹脂製のモップといえど、たぶん殴ったら痛いよ?
「正直に答えたら許して上げる。・・・見た?」屈んだ態勢で、覗き込んでくる。
拍子に、押さえていた胸元が開放され、大きく開く。
中のブラが丸見えになる。
じーーーーーーーーーー。
「見てない見てない」
今見てるけど、見てない。
「ほんと?嘘ついたら、本気で死刑よ」
しかし、すげーな。あんなに大きかった物が、すっぽり包まれてるよ。
なんたるボリューム感。
「ちょっ、ちょっと聞いてるのっ!どこ見て・・・えっ」
じーーーーーーーーーー。
「微妙に揺れてる感じがいいな」
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
はっ、しまった!口に出てしまったっ!!!
バッと、胸元を隠す、スーパー鬼河さん。
「どこ見てんのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
「痛手ええええええええええええ!!!!!!!!」
「ほ、骨に! ちょうど骨にっ!!!! マジ死ぬっ!!!!」
悶絶してのた打ち回る。
「どうせ、注射が効いてるから、折れても平気よ。」
ふんっと、折れたモップLv2を投げ捨て、立ち去る勇者。
バタン――――――
ドアが閉じられ、バッドエンド。
どうやら、分岐はなかったらしい。
「GAME OVER」の文字が、頭に浮かぶ。
ふっ、もう痛くないぜ。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
ふっ、心が痛いぜ。
嫌われちゃったかな・・・俺。
普通にへこむ。
しかし、「貴重な脳内映像をゲットしたぜっ!」
犠牲は大きかった・・・・。
そうだ!
こんな時に、文明の力。
メールで謝っておこう!
よしっと拳を握り、携帯をスライドさせる。
・・・・・・・・・・・。
メアド知らねえし・・・・・。
いや、俺は男だよ?
直接謝ればいいじゃないかっ。
たしか、妹と一緒に寝るって言ってたよな。
「いざっ! 妹の部屋へ!」
バンッ―――――――
突然ドアが開き、再び現れる、勇者白河。
「うるさいわね!! 静かにして!! もう寝るとこなんだからっ!!」
「は、はい・・」
「あと、貴重な脳内映像ってなんのこと? 思い出したらもっかい死刑だからねっ!!」
「す、すみませんでした」
「隣の部屋で寝るけど、絶対こないでよね・・・・・じゃあね」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ」
「なに?」
「携帯のメアド教えて?」
「やだ・・・・死ぬまで教えない」
バタン――――――――
死ぬまで教えないって・・・。
長いね・・・・・。
・・・・・・第5話へ続く
第4話 いかがでしたか?
今回は、2話3話にも増して、エロコメになってしまいました。
修羅場を期待された方、すみません。
そしてしばらく、白河真琴編が続きそうです。
あと、妹の電波ぶりはどうだったですか?
普通に妹とのラブコメを期待していた方、重ねてすみません。
白河との三角関係にはしたくなかったので・・。
ただ、この先まだ分かりません。
そして今後、新たなヒロインが登場しますので、それまでお待ちを・・。
では次回をお楽しみに~って、なかなか話し進まないけどね^^;