第17話 加奈子編其の6
今日は、世間一般的に休日の日
いわゆる週末。
そんな誰もが二度寝、三度寝を楽しみ惰眠を貪りたい日に、俺は5時起きしていた。
それは何故か!?
デートだからだっ!!
気合入ってますっ!
入りすぎて、加奈子に何時に迎えに行くか伝えるの忘れちゃった♪
てへっ。
うぅ、何時に行けばいいんだろ‥‥。
確か、昨日はこう言ったよな。
『考えとくからっ、俺に任せろっ! ちゅーことだからっ、明日の朝マンションに迎えに行くからっ!!』
朝って言ったら、何時?
10時じゃ遅いよな、
それじゃ昼前とか午前中、とかってニュアンスじゃないか?
やっぱ8時とか9時が朝って感じだよな。
う~む。
そんな事を昨晩から考えた結果、結局5時に起きてみることにしたってわけ。
それにな、万が一、万が一だ。
加奈子がマンションの前で待っていたらどうする?
え? それはないだろうって?
そうかな?
迎えに来るって言われたら、俺は外で待ってるぞ。
それが礼儀ってもんだ。
ふふん、大人だろ?
だからさ、俺はなるべく早く加奈子を迎えに行くことにしたんだ。
◇◆◆◇
5時15分の電車に乗り、加奈子が住む町の駅に着いたのは7時5分だった。
遠かった‥‥そしてマジ眠かった‥‥。
ふぁ~あ――と、大アクビをしながら目的のマンションへと向かう。
つっても、駅から歩いて5分だけどな。
立地条件バツグンだよな。
さすが高級マンション。
「俺も住んでみたいもんだ」
一人呟きながら歩く。
休日の朝ということもあり、周りに人は殆どいない。
「誰にも見られてないよな」
通りがかったお店のショーウインドウに自分を写し、身だしなみのチェックをする。
お気に入りのジーンズに、襟付きのシャツ。
自分ではかなりオシャレをしたつもりなんだが、全然普通っぽいな。
ま、いいか。
あんまり気合入りすぎてても引くだろうし。
納得して、足を進める。
ほどなくして、加奈子のマンションが見えてくる。
時計を見ると、7時10分。
いくらなんでも早すぎだよな。
マンションの前で待ってる――なんてことは、まずないだろうから、ピンポンを押すってのもありだが‥‥。
早すぎるよ。
せめて後一時間ぐらい経たないと。
色々考えて歩いていると、あっという間に目的地に到着。
もちろん、『神崎君遅~い、待ちくたびれちゃった~』等と言って、走り寄って来る可愛い加奈子がいるわけもない。
まあ、あいつのキャラじゃないよな。
そう言えば、ここのマンションにはロビーがあったっけ。
あそこで待てないかな?
オートロックだけど、でかいマンションだ。
入口にいれば、誰か出入りするだろ。
そのタイミングでそのまま流れこめばいいよな。
そう考えた俺は、取り敢えず玄関入口を目指す。
このマンションは無駄に敷地が広い。
建物の周りには公園があり、芝生が敷き詰められベンチやら遊具なんかもある。
それらを眺めながら最悪ベンチで待つかな――とのんびり歩いていたら、20m程まで迫っていた玄関の自動ドアが音も無く静かに開き、中から加奈子がスタスタと現れた。
なんという絶妙のタイミング。
これはもしかして、二人の相性はバッチリなんじゃないかって思い嬉しくなった俺は、走って近づいて、
「おう加奈子っ! おはよう、スゲーな俺達息ピッタリじゃん!!」
興奮して話しかけると、何故か無言で頭をスリッパでスパーンと叩かれた。
「うおっ、イキナリなんだ?」
加奈子を見ると、不機嫌そうな顔をして、スリッパを持ったまま腕を組み右足をトントンしながら、
「なんだじゃないわけ。人を誘っておいて時間を指定しないなんてどういうつもりなわけ? おかげで私、ロビーでかなり待たされたんだけど。謝罪の弁を述べよ」
さぁ言え――と、再びスパンスパパンとスリッパ攻撃を仕掛けてくる。
「ちょっと待て、悪かった、落ち着け。本当にすまん、俺も昨日寝る前に気付いてさ。その分、今日は盛り上げっから、な?」
スリッパを持つ手をガシッと掴みながら、笑顔で対応する俺。
「‥‥‥まぁ‥‥ギリ許すけど、これ以上遅れたら、私一人で出かけるつもりだったから」
ふんっ――と手を振り払われると、スリッパを肩から下げていた鞄にしまう加奈子。
仕舞うんだ、そのスリッパ。
その様子を見て、加奈子が物凄く大人っぽい格好をしているのに気付く。
頭にはモコモコとした感じの帽子を被り全体的にもフワッとした柔らかい服装をしており、足の付け根ギリギリまでの小さいホットパンツから伸びる生足が、物凄く眩しかった。
おまけにうっすらと化粧をしていて、はっきり言って―――
「お前、今日めちゃくちゃ可愛いな。超オシャレしちゃって」
思わず声に出てしまった。
それを聞いた加奈子は一瞬目を大きく見開き、
「ち、違うし! べ、別に普通だし。てかキミってさ、よくそういうコトよく普通に言うよねっ」
なにやら言い訳しながら、両手両足をモジモジとさせる。
ヤ、ヤバイ―――なにその恥じらう姿、超可愛いんだけど‥‥‥。
うおおおおおおおーーーテンション上がってキターーーーーっ!!!
「うっし、デートに行こうぜ!」
親指を突きたて、ニッと笑顔を加奈子に向ける。
それを見て、「や、やっぱデートなんだ‥‥」とボソリと呟く加奈子。
その発言に何て返していい分からず、ゆっくり俺は歩き出す。
「ほら行こうぜ」
「う、うん」
格好つけて、ポケットに手を突っ込む俺。
すると、加奈子がスッと俺の右手に手を通してきて、ピタッと腕を組んでくる。
ごく自然に。
「な、なななな、なんだ!?」
思わず叫んでしまう。
腕を組まれた、腕を組まれた腕を組まれた腕を組まれた腕を組まれたんですけどっ!?
「な、なによ、自分がデートだって言ったんじゃん‥‥」
目を合わせず、口を尖らせながら言う加奈子。
な、なにコレ、なにコレなにコレ。
何こいつの積極性。
う、嬉しいんですけどっ!?
右手に加奈子の温もりを感じる。
ピタッと胸が俺の腕にくっついているが、膨らみはなかった。
でもヤバイ。
そこに腕が密着してるってだけで、俺は密かに興奮していた。
しばし無言で歩く。
かなりギコチナイ感じで。
しかしこいつ‥‥‥俺の事どう思ってんのかな?
腕組まれたんだぞ、これってOKだよな。
思わず聞いてしまう。
「お、お前ってさー、俺の事どう思ってんの?」
「―――!!」
言ったと同時に加奈子が立ち止まり、一呼吸おいて、
「イキナリなんてコト聞くんだっ!!」
手を離され、ぐいぐいと車道に押し出される。
そのタイミングですぐ横を乗用車が、プーーーーっとクラクションを鳴らしながら通り過ぎる。
「――ってお前危ないだろっ!? 俺を殺す気かっ!!!」
結構ギリだったもんで、変な汗が吹き出てくるのを感じつつ抗議すると、「ちっ、惜しい――」と舌打ちをし、残念そうな加奈子。
おいおい‥‥冗談でもホンキだった素振りださないでくんない?
結局それがきっかけで、俺から離れてしまった加奈子。
とてもじゃないが、腕組まないの? なんて聞く勇気はない。
自業自得、空気をちゃんと読んでなかった自分を呪いつつトボトボ歩き出すと、加奈子は普通に真横に着いてくる。
さて、気を取り直してこれからどうすっか―――。
遊びに行くとしてもまだ7時すぎ。
一般的にどの店もやってない。
しかも実は、どこに行くかも決めてなかった。
やべーな‥‥。
答えが浮かぶ気がして、何気なく目線を上にし空を見上げる。
雲一つ無く晴れ渡った空。
優雅に飛び回る、鮮やかな紫色をした一羽の鳥。
綺麗だな――と思い見ていると、バッサバサと羽を広げながらどんどん近づいて来る。
で、デカい‥‥。
何だか見覚えある鳥だな、とそのまま見ていると、「クキュルルルルルル―――」と高く喉を鳴らしながら俺の目の前を横切ると、ストン―――と加奈子の肩に止まった。
「昨日のインコじゃねーかっ!!」
「そそ、さっき散歩に行かせたの忘れてた」
お帰り~と、巨大インコのお腹を加奈子がナデナデすると、気持ちよさそうに、クルルルル‥‥と喉を鳴らしている。
なにその完璧に飼い慣らしている感じ。
「昨日の今日で早くね!?」
「なにが?」
「懐くのが」
「ん~、そかなぁ。加奈子が可愛いから、この子に一目惚れさたのかも‥‥」
そう加奈子が言った瞬間、『あ――しまった』って顔になる。
脳裏に浮かぶ、一昨日俺が告げた言葉。
『えっと‥‥お、俺、お前のこと‥‥じゃなくて、お前に一目惚れしたんだっ!!!』
思い出すと、顔から火が出る程恥ずかしい。
絶対加奈子も、今そのシーンを脳内再生しているに違いない。
やめて、お願いだから、今はやめて?
死ぬ程恥ずかしいんで、話題を変える。
「そ、そう言えば、そのインコ、名前付けたのか?」
「あっ、えと、えっ? 今なんて?」
完全にボーーっとしていた加奈子が聞き返してくる。
「だからさ、そのインコの名前――」
「あ~あ~名前ね、シュバインシュタイガー。カッコいいでしょ?」
にひひ――と、八重歯を見せながら得意な笑顔を見せてくる。
シュバインシュタイガーって‥‥そんなサッカー選手、居たような気がすっけど‥‥。
「略してタイガー。ねぇタイガ~~」
鼻先を、嬉しそうにインコに擦りつける加奈子。
その長いネーミング不要だよね。
しかもドラゴンって言ってたのに、タイガーって‥‥。
「ところでさ、今日どこ行くの?」
嬉しそうに聞いてくる加奈子。
結構なワクワク感が伝わってくる。
かなりプレッシャーを感じつつも、微妙に話をそらす。
「それよりお前、朝飯食った?」
「え? 食べてないよ」
「んじゃ、まずはそこ行こうぜ」
駅前のマックを指差す。
俺も腹減ってるしな。
「やだよ、朝から蕎麦なんてぇ~」
「誰が立ち食い蕎麦屋つった! 隣だ、隣っ!」
改めてマックを指定する。
「あーそかそか、いーよいーよ、うん行こう」
そう言うと、ズンズン先を行く加奈子。
なんだこいつ、勘違いしてちょっと恥ずかしかったとか?
◇◆◆◇
仲良く向かい合わせで座る俺達。
早朝からやってるから、マックっていいよね。
しかし流石に休日なもんで、店内は閑散としていた。
「よく朝からそんな重いの食べるよね」
メガマフィンを頬張る俺を、マジマジと見つめながらホットケーキを美味しそうに食べる加奈子。
「超腹減ってたんだよ」とコーヒーをすすりながら答えると、同じくコーヒーを手に取り、ふぅーふぅーと息を吹きかけながら加奈子が聞いてきた。
「でさでさ、この後どうすんの?」
再びワクワク感満載な笑顔をするもんだから、昨日の自分のセリフがフラッシュバックする。
『考えとくからっ、俺に任せろっ!』
自信満々で言った手前、とてもじゃないが、ノープランとは言えない雰囲気。
「お前は、どっか行きたい所あるのか?」
結局人任せに聞いてみると、「別にないよ」と素で答えた加奈子。
「これ食べるかなぁ」と、タイガーにホットケーキを摘んで差し出している。
それをちょいちょいと、器用に食べるタイガー。
「お、食べた。可愛い~」
実に和やかな時間が流れる。
う~む、どうしよう。
あ、ちなみにだな、タイガー肩に乗っけたまま店内へと入ってきたんだが、何も言われてない。
逆にバイトの店員、驚きすぎて何も言えないんじゃないかと思う。
店内の壁を見ると、『店内禁煙』と書かれたプレートが貼り付けてあり、その横には『犬や猫の同伴はご遠慮下さい』と手書きでかかれたものがあった。
加奈子もそれを一別すると、「鳥はオッケーってことだよね」と頬杖付きながらケロリとしている。
そんな時だ―――予想もしていなかった、驚愕的な出来事が起こった。
タイガーから、結構大きめの物が、奇跡的に加奈子の服を避けポチャンと床に落ちる。
俺と加奈子の目線がその床に落ちた物を凝視する。
それは間違いなく、タイガーの排泄物だと思われた。
図体が大きい分、流石にそれもデカい。
顔を上げ、無言で見つめ合う二人。
「お店出ようか」
「そ、そだね」
お互い速攻で残りを口にかっこむみ、逃げるように外に出ると、開口一番加奈子が言った。
「ちょっとぉ、掃除ぐらいしてってよ! ここのマック、加奈子よく来るんだからぁ」
「お前が飼ってる鳥だろがっ、よくそういうコト言うよな!?」
「あ、ひっど~い、彼女が困ってるのに、何もしないわけぇ?」
むぅ~と片方の頬を膨らませる加奈子。
てゆーか、今こいつ―――。
「お前今、彼女つった?」
「あ―――」
素で聞いてみると、『しまった――』みたいな顔をして、
「言ってない言ってない、キミのコト、好きとか言ってないしっ、うん、むしろキミなんて嫌いだし!」
と、全力で否定してくる。
何で好き嫌いの話しになってんだよ。
しかも、
「嫌いなのか、俺の事‥‥」
「あ、ちょっ――なに間に受けてんのさっ、バカなのキミ!?」
今度は逆に否定してくる加奈子。
「嫌いじゃない?」
「‥‥嫌いじゃないよ? だから簡単にヘコむなっ」
「じゃあ、好きなのか?」
「唐突にそう言う事きくなっ!!」
ドンッと両手で急に押される。
たぶん全力で。
その勢いで後ろによろめいた俺は、開いたマックの自動ドアを通り過ぎ、店内で尻餅をついてしまった。
店員さんが、「いらっしゃいませ~」と声をかけてくる。
とても恥ずかしい。
その様子を真顔で眺める加奈子。
おいおい、手を貸すとかしないのかお前は―――。
◇◆◆◇
「―――で、言い訳はそれだけなの?」
大きな目を半開きにして、問いただしてくる加奈子。
俺達は電車に乗り、取り敢えずこの辺で一番開けている町を目指している。
「いやさ、俺、デートとか慣れてないじゃん? 好きな子とどこに遊びに行けばいいのかなんて、考えても分かんなかったんだ」
「―――ま、まぁそう言うコトなら‥‥」
大人しくなる加奈子。
「好きな子とか言わないでよ電車の中でぇ‥‥」とブツブツ言っている。
そう―――俺は思い切ってノープランだということを打ち明けてみたんだ。
そしたらこいつ怒り出してだな、
『この前カッコよく、俺に任せろとか言ったくせにぃ』
とか、
『もしかしたら遠出するかも――とか思って早起きしたのにさっ』
等と文句を言いだしたもんだから、必死に言い訳してるってわけ。
もちろん電車の中だ、お互い小声で。
隣を見ると、加奈子が不機嫌そうに組んだ足をプラプラさせている。
肩にはタイガー。
時折、『オマエコロスオマエコロスオマエコロス』と連呼している。
だからやめろってんだ、怖いから、普通に。
周りを見ると、人は少ない。
なのに、加奈子が気にもしないでシルバーシートにドカッと座り込むもんだから、やむなく俺も同席済み。
まあ端っこの方で加奈子とイチャつけると思えば、気にならないわけだが。
そんな事を考えていると、再び加奈子がブツブツ言い出す。
「てかさぁー、なんで歩いてきたわけ? 男の子なんだから、カッコよくバイクとか来ればいいのに‥‥あ~あ、そう思ったからわざわざパンツ履いてきたのにぃ‥‥」
夢見てんじゃねーー!
中学生がバイク乗って現れるかっての!?
意外と夢見る少女だな、お前!
てゆーかお前―――。
「いつもパンツ履いてないのか!?」
神社温泉で短パンずり下ろした時の光景を思い出す。
「そのパンツじゃねぇよっ!! ホットパンツのコトだよっ!!!」
スパパンっとスリッパでツッコミが入る。
めんどくせーな、そのパンツのニュアンス。
俺がパンツの未来について真剣に悩んでいると、
空気を全く読まないタイガー(読めるわけないか)が、突然バササササと羽ばたき、対面に座っている中年男性に向かっていき、肩にストンと降りた。
「「あ―――」」
それを見た加奈子&俺は、あ――としか言えなかったんだが、「オマエコロスオマエコロス‥‥」を中年男性の肩で連発するタイガーに、その男性は「ひいいいぃぃ」と本気でビビっていた。
「ま、まずいな加奈子、どうする?」
「やだよ私に聞かれても! なんとかしてよ神崎っ」
小声で慌てる俺達。
その様子を冷たい目で傍観する、周りの乗客達。
まるで「ペット持ち込んでんじゃねーよ」と声が聞こえてきそうだ。
その間、タイガーは中年男性のフサフサとした髪の毛にツンツンとちょっかいを出し、さながらエサをついばむような仕草をしていた。
勘弁してくれよ~。
仕方ねえ―――と立ち上がる俺。
早く行けとばかり、背中を押してくる加奈子。
その時、ワシャっとタイガーがその男性の髪の毛をクチバシで咥えて、大きく首を振った。
その瞬間、スポン―――と男性から取れる髪の毛。
そのまま俺達に向かって飛んでくる髪の毛―――俺を通り過ぎ、加奈子の手の上にストンと落下。
そして、フサフサだった中年男性の頭には、ハゲ散らかしたバーコードヘアーが現れていた。
驚愕の出来事が起き、俺は光の速さでタイガーをガシッと掴み、速攻で加奈子の肩に乗せると、加奈子の手を引っ張り、他の車両へと猛ダッシュで逃げる。
途中、次の駅に電車が到着したもんだから、何も考えず飛び降り駅を出た。
「ハァハァ‥‥待って‥‥ハァ、神崎君――」
一緒に走ってきた加奈子が、後ろから服を引っ張ってくる。
「も、もう平気だって――」
駅の方を見ると、さっきの電車は発車し、俺たちの他に駅からでてくる者は誰もいなかった。
取り敢えず、ホッとする。
そして、電車を降りたと同時に飛び立ったタイガーが、バサササっと再び加奈子の肩に戻ってくる。
「こ、このアホ鳥がっ!!」
睨みつけてやると、「オマエコロスオマエコロス―――」と連呼してくる。
ダメだ、こいつには勝てない‥‥。
鳥に何を言っても無駄かと、一人愚痴っていると、
「あのさー、これ、どうしよ‥‥」
加奈子が申し訳なさそうな声で、手に握りっぱなしの物を突き出してくる。
その手には、フッサフサのさっきのカツラ―――。
それを数秒見ていた俺達なんだけど、どちらからともなく我慢出来なくなり吹き出した。
「プッ―――、ダメだ俺、超笑い堪えてたんだけどっ! ク、クククク――」
「やめてよ~、ホント超ウケるんだけどぉ~~、キャハハハハ―――。ヤッバ、マジだめ、超腹痛い」
周りの目を気にする余裕もなく、二人で大爆笑する。
しばらく笑いが収まらなかった俺達なんだが、二人で相談した結果、敢え無くそのヅラは近くのコンビニの前でダストイン。
「お許し下さい、ハゲの神様―――」
両手を握り、物凄く芝居がかった口調で、天にお祈りを捧げる子羊加奈子。
「ぷっ―――おま、ちょっ、マジやめてくれ、また込み上げてきただろっ、ク、ククク―――」
「ク、クク―――わ、笑わないで‥‥ホ、ホントもうダメ、お、お腹痛い――」
その後なんとか現状復帰した俺達は、目的地を変更し、仲良く歩き出した。
18話に続く。