第10話 やっぱそうなっちゃいます?
のほほんとした空気がウリの、だらしない我がクラスなんだが―――。
今はとっても空気が張り詰めております。
さながら、期末試験の開始5分前見たいな感じ。
やな感じだろ?
理由を教えようか?
ま、すぐに分かると思うけどさ。
「これより、緊急ホームルームを始めますっ」
教壇に立ち、声高らかに宣言したのはクラス委員の麻生七見。
興奮しているのか、宣言した後教壇の上をバシバシと何度も叩いている。
う~む…こいつ、こんなキャラだっけ?
ちなみに、麻生七見だ。
だから皆からは、みる~とか、みるぽんとか呼ばれてる。
え?そんな事はどうでもいい?
そうだな…。
いつもは事務的に委員長している麻生なのに、今日は感情が全面に出ているというか積極的というか…。
まあ理由は知れている。
取り敢えず、今日の議題が決まっているので報告しよう。
まずは黒板を見てくれ。
『転校生 神崎ノノさんについて』
でかでかと、赤チョークで丁寧に書かれている。
ま、そういうこった。
あいつは目立ちすぎた。
昨日の今日であれだが、ノノは既に男子からは人気者。
女子からは、『あの子なんなのっ!?』的な空気。
要するに、男子的には『可愛いは正義』だから細かい事は気にしない。
ま、それも大雑把すぎんだろオメーラって感じだが…。
それに対して女子はいたって冷静だ。
「それでは、意見のある方――」
委員長の麻生が言い終わる前に、矢継ぎ早にあっちこっちから意見が飛ぶ。
5.1chかって言う位四方八方から声がするんで、ほぼ全員の女子が一斉に話していると思われる。
その意見を上手い事まとめて、黒板に書き綴る麻生。
え?何が書いてあるかって?
大体想像つくだろ?
でもまあ一応読んどく?
・瞬間移動?を明らかにしている件について
・自称未来人説
・本当に坂崎君と付き合うのか
・白河さんに激似の件(整形疑惑)
・只の中二病説
・自称ブサ専はフェイク
書かれているのは以上だ。
もっともな言い分というか、疑問だろ?
あ、ちなみにノノは居るから、教室に。
欠席裁判ではないぞ。
ちゃんと椅子に座って、俺から奪った週刊ジャソプを「やっぱ紙はいいよね、特に漫画は紙で読むに限る、うん…」等とブツブツ言っている。
やっぱあれか、未来では本はあんまり無いのか?
電子書籍ってやつ?
う~む…今度聞いてみよう。
それとな、白河も今日は学校来てるから。
久しぶりに来てクラスがこの空気じゃたまんねーだろうな。
ノノが居る事自体にも驚いていたが、黒板を見て、さっきから『どうなってんのよ』的な表情を俺に何度も送ってくる。
あんまりチラチラ振り返るんじゃねーって…。
昨日聞いた話によるとな、ノノも学校行きたいんだと。
『じーちゃんやばーちゃんと一緒がいいー』
って事で一学年飛級したみたいだけど。
明らかに偽装工作したと思うんだが…ま、未来人なんだからいいんじゃねーの。
未だ教室内がざわついている中、入口で立ち尽くしたままの野口先生が意を決したように麻生に話しかける。
「あの…麻生君、そろそろ授業を始めたいんですが…」
30代でどうて…コホン、DTという噂の物理の教師は明らかに腰が引けている。
「野口先生は黙っていて下さいっ、今はホームルーム中です!」
キャラチェンジ中の麻生が黒板をバンッと叩きながら言うと、「じゃ、じゃあなるべく早く終わらせて下さいね…」と額の汗を拭きながら素直に待つDT野口。
哀れなり…。
「それでは神崎さん――」
「ややこしいからノノでいいよ」
「じゃ――ノノさん、何故あなたは消えたり現れたり出来るのですか?」
当然、ノノへの質問攻めが始まるわけだな。
面倒なので、俺は傍観するぞ。
全員の視線がノノへと集中する。
普通なら緊張してしまう場面だが、
「才能じゃん」
ケロッとした顔で一言。
「そ、そんな才能聞いた事ありませんっ」
「ちゃんと説明して下さい!」とまた教壇をバンッと叩く麻生。
その態度にノノがムッとした表情になるが、男子どもが一斉にフォローする。
「本人が才能っていってんだからいいじゃねーか」
「可愛い子は特別なスキルを持ってるもんなんだよっ」
「そんな事より、坂崎とは恋愛禁止条例を発足してくれ!」
「ちょ、ちょっと待てーー!!俺の青春を邪魔しないでくれっ!!」
最後のは坂崎の叫びなわけだが。
そんな中、ノノがシュッと消えて白河の机にフワッと座る。
「(ノ゜ο゜)ノ オオォォォ-」という感じのクラスメイト達。
目をパチクリさせ、なんて言っていいのか分からない白河。
「ねえばーちゃん、この時代じゃテレポ出来ないのが普通なの?」
唐突に聞くノノ。
そこで白河に聞くんじゃねー!
あいつが機転の良い事を言うと思うか!?
別に白河の能力は秘密ってわけじゃないんだが…バレたら絶対面倒な気がすんだよ。
ハラハラしながら様子を伺う…。
「んん~」と顎に手を当て、しばし考える白河。
そして一言。
「ばーちゃんって呼ばないで」
「え~、他の呼び方した事ないしぃ~~」
そ、そうだよな、そうなるよね!?
そこを突っ込んだら、またややこしい気がするんだよ!
「ねえ、ノノちゃんはなんで白河さんの事、ばーちゃんって呼ぶの?」
「ちょ、ちょっとまって!神崎さんって神崎くんの事じーちゃんって呼ぶよねぇ?」
「そう言えばそうそう!」
おしゃべりな女子どもがザワめき出す。
やばい、嫌な方向に話が進んできた。
どうしよう…。
「だからぁ、ノノはじーちゃんと――」
俺を指差し、更に白河を指差すノノ。
「ばーちゃんの―――」
お、おいおい…言うんじゃねえノノ…。
「ひ孫なんだって」
言うんじゃねええええええ!!!
その一言で、クラス全員が俺と白河へと視線を行ったり来たり…。
「うそ~!」「マジかよーー!!」「神崎てめー!!」
等と、野次が飛び始める。
「って事は神崎、お前、白河と付き合ってんの?そんで、結婚して子作りして…って!マジかよ!?」
と、坂崎までもが言ってくる。
面倒くせえ…どうすっか。
チラリと白河の様子を伺うと、なんだか頬を赤く染めて「あははは…」と微妙な照れ笑いをしている。
ぶっ、アホかあいつ!
可愛く照れてんじゃねーぞコノヤロー。
嬉しいじゃねーか!!
―――じゃなくてだな!!
明らかに肯定としか思えない白河のリアクションに更にクラスはヒートアップ。
「う、嘘だろ!?神崎と白河が!?」「真琴、嘘でしょ!?」「神崎マジ殺す」
全員が一斉に喋り出す。
もうぐちゃぐちゃ。
ノノが俺を見て、テヘッと舌を出す。
何がテヘッだあのヤロー…。
…………。
よし分かった。
俺はスクッと立ち上がると、颯爽と白河の席へと向かう――。
――瞬間、『何をするつもり?』的な雰囲気に包まれる。
俺は迷わず白河の手を掴む。
「え…?ちょ、神崎君?な、なに…?」
白河が疑問形で下から見上げるが、無視する。
「あ、ちょっと、引っ張んないでよ」
強引に立ち上がらせると、「黙ってついて来い」と一言告げるとそのまま二人で教室を出る。
出る瞬間、「オオオオォォォ-…」と感嘆の声が聞こえたがそんなもん知るか。
「ちょ、ちょっと神崎君、どうするのよ!」
小声で白河が抗議してくる。
――が、無視して階段の影に隠れる。
「取り敢えず、人目のつかない所に行こう」
「なんで?」
「なんでじゃねーよ!いいからっ」
いまいちシンクロしない白河とまずは逃げる道を選んだ俺。
さあ、どうすっか―――。
◇◆◆◇
校舎の屋上へと瞬間移動してきた俺達。
ここなら見つからないだろ、鍵かかってるし。
「屋上ってさ、もっと綺麗で空に近くて、見渡しが良くて気持ちいい所だと思ってたのにぃ…」
2メートル位ある、外壁に据え付けられた柵を恨めしそうに見ながら白河がブツブツ呟く。
そうだな、俺ももう少しいい場所だと思ったぜ。
でも来てみたらゲンナリ。
床は汚れて座れねーし…。
まあいいか。
その場にドカッと座り込み、マイハンカチを広げて横に引き「ここに座れ」と白河を手招きする。
「あ、ありがと…」と若干照れた感じでその上に座る白河。
っふ、俺って紳士だろ?
「――で、なんでこんな所に来たの?」
「なんでじゃねーよっ!お前、俺と付き合ってるって言われて否定もしなかったじゃねーか!?」
まあ、嬉しいけどさ…。
「だってホントの事だもん…私、嘘付けないしぃ…」
モジモジと床を指で擦りつけ、「げ、汚いっ」と手をパシパシする白河。
なんだか素の白河が無駄に可愛い。
って、今はそんな事考えてる場合じゃないだろっ。
「お前が困るだろっ、アイドルなんだからっ」
「う、うん…そうなんだけど…」
「だけどなんだよ?」
「が、学校でも…神崎君と仲良くしたいしぃ…」
え?
予想外の答えが返ってきて、思わず白河をガン見。
ちょっと恥ずかしそうに膝を抱えて、顔を埋めている白河。
な、なんだ?
何でこいつ、今日はこんなに可愛いわけ?
つ、ついにデレが来たのか!?
基本ツンで天然のこいつに!?
何て言っていいか分からない俺。
そして更に予想の上を行く白河の一言。
「この前の続き…ここでしない?」
物欲しそうな目で、口を突き出す白河―――。
そ、それってつまり――。
き、キスだよな…。
鼓動が早くなる。
目の前には、目を閉じた白河の超ラブリーフェイス。
て…天使すぎる――!!
ど、どうしよう…む、胸が張り裂けそうな程ドキドキする…。
大チャンス到来なのに、すぐには行く度胸の無い俺。
すると白河がパチッと目を開け、『どうしたの?』という感じで首を傾げる。
ダメだ!
今がチャンス!頑張れ俺っ!!
自身を心の中で応援しつつ、目を閉じ白河の甘そうな唇へとムチュ~~~。
コツン。
あ、あれ?何か固いな…。
変だなと思って目を開けると、そこにはムクれた白河の顔があった。
そして一言、
「下手くそ――」
ガーーーーん
下手くそ下手くそ下手くそ下手くそ下手くそ……―――。
脳内に木霊する白河の言葉。
マジ凹む…。
ああ――トラウマになりそう…。
どうしていいか分からず項垂れていると、
「もう、なんで顎にキスするかなぁー。今のワザとぉー?」
ご機嫌斜めな顔の白河。
そう。
俺はこいつの顎にキスしました。
目測を誤って。
「ぐおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオおおおおぉぉぉぉぉ―――!!!」
立ち上がって叫ぶ。
「ちょっと神崎っ、うるさいっ!!授業中でしょ!?」
「は、はい――すいません…」
「あーあ、もういいよ。キスしたかったのになぁー」
あ、あれ?なんか話し方が…。
「でも学校ってなんか楽しいよね~。もっと早く来れば良かったぁー」
え?あれ?
「あーそう言えばさ、ノノちゃんってホント私達に似てるよね?」
…………。
「―――って!お前、美琴か!?」
「あ、やっと気づいた?あはは…真琴じゃなくってガッカリした?」
ちょっとな…。
いや、安心した。
マジ『下手くそ』とか白河に言われたら立ち直れないって。
不能になるだろ。
「なんかさ、出席日数がそろそろやばいんだって。だから私が代理で来たっていう―――」
聞いてもいないのに、一人言い訳じみた話を始める美琴。
まあ、はっきり言ってこいつも可愛いんだよね。うん。
もう、ファーストキスの相手はどっちでもいい感じ。
いやいや、そんな事言ったらあいつに殺される。
「じゃあさ、気を取り直して、も一回キスしてみる?」
小悪魔的な雰囲気で、魅力的なご提案をなさる美琴さん。
そりゃしたいよ、お前も可愛いもん。
いや…まてよ。
美琴は白河本人と言ってもいい。
こいつとキスしたからって、あいつが怒るのか?
う~む、前向きに考えすぎか?
そんな事を考えていると、
「ちょっと本気で悩まないでくれる?美琴でもいいか――みたいな雰囲気だされると、気分悪いんだけど」
「ち、違うぞ!そ、そんな事は絶対思ってないって!や、やだな~美琴さん」
「なにどもってんのよ…」
いかんいかん本気になるな。
こいつに、からかわれただけじゃねーか。
今考えるべきはそんな事じゃないだろ?
まずは、クラスのヤツらをどうすっかだ。
とその時、シュッと風が吹いたと思ったら、目の前にフワッとノノが現れる。
「ノノちゃん颯爽登場!」
「イエイ」とVサイン。
「待った?」
「待ったじゃねーよ!誰も呼んでないし」
「あ、美琴さんどもー」
軽く無視されてるし…。
「あれ?私だって気付いてた?」
「うん。ばーちゃんとは雰囲気違うし、ノノは朝から気付いてたし」
得意げなノノ。
凄いな。白河と美琴の区別がつくとは、かなりの上級者に違いない…。
「じゃなくてだな!お前のせいで大変な事になっちまっただろが!」
「何が?」
「何がじゃねーよ!い、一応…白河との事は内緒っていうか、その…なんだ」
「うん、真琴はアイドルだからね。恋人がいたらまずいもんね」
ナイスフォローだ美琴。
「ノノに嘘つけって言うの?」
「ま、まあそうなるかな…」
「ひ孫に嘘つかせるなんて、いつからじーちゃんはそんなワルになった」
ビシッと指を指してくるノノ。
なんだその、教育上良くないみたいな。
そもそも、お前の曾祖父さんって感覚は俺には無いっちゅーの。
「ところで、二人っきりでエロい事してたの?」
「してねーっよ!!」
「あははは…」
お前のせいで避難してきたんじゃねーか、このボケッ!
そして美琴はどっちともとれる照れ笑いやめれ!!
そういう所、ホントにオリジナルとそっくりだよなっ!
「あ~まぁ、冗談はさておき…じーちゃんごめんなさい」
深々と頭を下げるノノ。
な、なんだこいつ急に…気持ち悪いぞ。
「どうした、何かあったのかノノ?」
「あ~いや…なんてゆーの?まぁ、先謝っておく系?」
「ノノは素直で良い子だしぃ」と下手くそな口笛を拭きながら、如何にもわざとらしい。
嫌な予感しかしないんですけど。
「まあまあ神崎もさ、ノノちゃん謝ってんだから許してあげなよ」
なんだか俺をなだめるように言う美琴。
いや、俺別に怒ってねーし。
何この流れ。
「んじゃ、そういう事だからノノは先行ってるね~」
シュッと消えるノノ。
消える瞬間ニヤッとしやがったんだけど、やっぱり嫌な予感バリバリなんすけど。
◇◆◆◇
念の為、美琴とは別々に教室に戻った俺達。
戻ったんだが……。
クラスメートの視線がおかしい。
時折、俺の顔を見てはヒソヒソと何かを話しては『キモッ、目があった』とか『やだぁ、ストーカーされたらどうしよう』とか、『うわ、DTが移るぞ』等、俺の存在が妙な事になっていた。
「おい坂崎、この状況を説明してくれ」
悪友に助けを求める。
「おう。お前って結構キモいんだな、見直したぜ。さすがは俺の親友だな!」
ま、頑張れよ――肩をバシッと叩かれる。
意味分かんねーし。
しかも坂崎にキモいって言われるってどういう事だ?
「まあ、あれ見てみ」
チョイチョイと黒板を差す坂崎。
何なんだよ、と思いつつも言われた通り黒板を見る。
・神崎は105才までDT確定
・かなり可愛い妹がいるらしいが、実は性奴隷。
・嫌がる私の胸を触ってきました!(一条)
・女性物のパジャマを着て寝る件(下着も装着)
・幼女と手を繋いで遊園地にいるのを見ました!
・ドラッグストアで生理用品とオムツ(自分用)を大量に購入している件
ギャーーーー!!
何ですかこれ!?
何故俺が欠席裁判されてる訳!?
しかも妹の件以外は真実だし…。
いや、DTは無い。
うん無い、そう思いたい――。
――って!そうじゃねええええええ!!
一体どうなってる!?
慌ててノノを睨みつける。
目が合う。
口パクで『ごめんね』の後、ぺろっと舌出し。
さっきのごめんなさいはこの事かよっ!!
こうして俺は一躍クラスの嫌われ者となりました。
まあ主に女子からな。
ちなみに、こんな俺が白河と付き合えるわけがないというのが男子の総意で、ノノの件はそういう設定――でいいんじゃない?等とあっという間にクラスに馴染んでしまった。
俺の株大暴落以外は結果オーライなんだが…なんでこんな目に…。
その日は、女子からの汚物を見るような目に耐えられない俺だった。
◇◆◆◇
放課後まで耐え抜いた俺は、ようやく家に戻って来た。
はっきり言って何もする気が起きない。
ふんっ、いいんだもん。
俺には白河がいるもん。
あいつさえいれば他の女なんてゴミだ!三角コーナーだ!
だから俺は、玄関の前で立ち尽くしている我が義妹に盛大なハグでただいまをしてやった。
「彩乃~~!!!」
そうだ!俺にはこいつも居るじゃないか!!
「わわわ!に、兄さん突然何ですか?」
「彩乃!今日も愛してるぞーー!!」
「に、兄さん…」
抱き返してくる可愛い我が義妹。
だから俺も更に抱き返してやる。
「兄さん?」
「何だ彩乃」
「積極的なのは嬉しいんですけど…」
「けどなんだ」
「ひ、人前ではまだ恥ずかしい…かもですぅ」
言われてハッとなり、振り向く。
そして下校中の女子生徒数名と目があう。
ぎゃあああああああああああああ!!!
く、クラスの女子!!
な、何か、何か言い訳を。
一刻も早く――!!
お互いに流れるしばらくの沈黙。
先に何か言わねばと焦っていると、その輪の中の中心―――麻生が一歩前に出て話しかけてきた。
「あ…えっと、神崎君」
「は、はいぃ?」
う…情けない声が出ちまった。
「今日はちょっとやり過ぎたかと思って、謝りに来たんですけど――ええと…その方は妹さんですか?」
彩乃に視線が集まる。
もう抱き合ってはいないが、彩乃の手はしっかりと俺の腰に回っている。
どう考えても兄妹には見えない。
シュミレーションしてみよう。
1.こいつは妹だ! → 爆死
2.は?恋人だし → すぐにバレて即死
3.生き別れの妹がやっと戻って来たんです~ → 全員涙
これだ!3番しかないっ!!
「い、生き別れの…」
「はい、妹の彩乃です。兄さんにご用ですかぁ?」
「ぎゃああああああああ!!!なにサラッと答えてんだ彩乃っ!!」
「え?え?兄さんどうしたんですか!?」
ダメだ!バレてしまった。
妹性奴隷の烙印、決定的じゃん…。
そのまま悶絶していると、ふいに俺から彩乃が奪われる。
「彩乃ちゃんって呼んでいいかしら」
「は、はい構いませんけど…」
「辛かったでしょ…」
「はい?え?な、何の事でしょうかぁ」
「いいの、悪魔のようなお兄さんの前じゃ話せないわよね」
優しく妹の頭を撫で撫でする麻生。
お、おい…完全に勘違いしてますよね!?
「神崎君、妹さんは私が保護させていただきます。場合によっては警察に通報しますので、覚悟しておいて下さい」
物騒な事を言い残した麻生は、「兄さ~ん」と助けを求める妹を引きずりながらこの場から去っていった。
取り残された俺。
妹までも奪われるなんて…。
嗚呼、俺は一人ぼっちだ…。
肩を落として家に入る。
あれ?
玄関には男物の革靴。
誰か来てんのか?
不審に思ったが、ハルタ使用の学生御用達なんで、クラスの奴らか?と思いそのままリビングへ。
「よう、邪魔してるぜ」
そこには慣れた感じでソファーに座る男―――坂崎が居た。
くう~、俺にはまだ友がいた!
男の友情は何よりも固いんだぜ!
「何だ遊びに来たのか」
「は?お前に用なんかねーよ」
冷たい態度の我が友人S。
え?どういう事?
「あ、俺は砂糖多めでね!」
「あーうん、分かった~」
奥から聞こえるノノの声。
「え~と、おい坂崎?」
「お待たせ~、ノノちゃんの愛情たっぷり入ったコーヒーだよー」
「うひょー、いい香り!んじゃ、ノノちゃんの愛をたっぷりすすっちゃおうかな?ははは」
「…………」
何このラブラブな感じ。
二人で見つめ合ってコーヒーすすりやがって…。
てゆーか、仲良くなるの早すぎじゃね?
くそ、坂崎のくせに生意気な。
「じーちゃん、邪魔だからあっち行って」
「そうそう、お前は自分の部屋でエロ本でも読んでこいよ」
二人に完全に邪魔者扱いされてるし。
ふざけんな、ここは俺んちだぞ。
ぜってーここから離れてやらんぞ。
二人が仲良く横並びで座るソファーの対面にドカッと座ってやる。
座るが、特に相手にはされない。
「ねえ坂崎、この後どうすんの?ゲームでもする?」
「え?やだなあノノちゃん、昨日約束したじゃん」
「ん?なんの話し?」
「だ、だから…その…む、胸、触らせてくれるっていう…」
ぶーーーーーーーっ!!
ゲホッゲホッ、飲んでたお茶吹いたじゃねーかよっ!!
何約束してんだお前らっ。
ここは落ち着いて改めてお茶をすすって…。
「え~別にいいけど、3万円て言ったじゃん」
「もちろん持ってきたよ!」
ぶーーーーーーーーーっ!!!
「ゲフン、ゲフン…」
「ちょっと汚いじーちゃん!何してんのっ!?っと邪魔!!」
思いっきりノノの身体にお茶を放水。
ゴホッゴホッ、き、気管に入った、苦しいゲホッ―――。
「あー、ノノちゃん服が濡れちゃったね、ちょっと待って。え~とハンカチはと…」
気を効かせて濡れた服を拭き拭きする坂崎。
「いいってー、自分でやるからぁ」
「いいからいいから、じっとしてて」
軽く嫌がるノノを制して、ニヤニヤしながら更に拭き拭き…。
こ、こいつ…あからさまに胸の所ばっかり触ってやがる。
既にそれは拭いてるんじゃなくて、プニプニしてるだけじゃねーか。
さすがのノノもムッとしてる。
知らねーぞ。
「はい、もう終わり」
坂崎の手をパシッと払いのけるノノ。
「えー?どうしたの?まだ濡れてるよ?」
濡れてるよ?じゃねーよ、アホかこいつ。
そんなバレバレな痴漢行為、俺だったら絶対しな―――いとも限らないよね~。
何だか、記憶の片隅に思い出があるのは何故だろう、ははは。
「しつこいなー、ノノがいいって言ってんじゃん!」
「あ、はいっ!ごめんなさい!」
「んじゃ、3万円」
ほれ早くと、手の平を突き出しているノノ。
面白いからもう少し見てようか。
「え?な、なんで3万円?」
「はあ!?今触ったじゃん、胸」
「え…いや、今のは触ったわけじゃないってゆーか、その…」
「言い訳する男嫌いだし、あーなんか別れたくなってきたしぃー」
「あああ!!ちょっと待って!!い、今出すから、すぐ出すから!!」
結局、その場で3万円没収される坂崎。
完全にノノに遊ばれてるな。
もうどうでも良くなって、俺はその場を立ち去る。
まあ、常識的な範囲で仲良くやってくれよ。
…………。
自室に戻った俺は、はっきり言って眠かった。
今日は色々とあったからな。
あーそれよりも、彩乃が心配だ。
帰って来るのか?
ま、通報されるって事は絶対ないと思うし、麻生も『保護する』って言ってたから問題ないだろ。
取り敢えず、眠らせてくれ。
◇◆◆◇
どの位寝たんだ?
起きたら既に真っ暗で、気分爽快だった。
んん、今何時だ?
え~と、時計、時計っと…。
ムニッ
おや?
伸ばした手に、何やら柔らかくて弾力のある物が…。
ムニムニ……。
「う~ん……」
女の子の吐息が聞こえる。
ま、まさか…。
ムクリと起き上がり、電気を点ける。
居た。
妹じゃないのは分かっていた。
あのボリュームはあいつには出せない。
そう、もちろん白河。
しかもパジャマ姿で俺の横で寝てたんだけど。
理解不能だが、とっても美味しいシュチュエーションだ。
いつもの俺なら、ギンギンになる所なんだが…。
今日は色々あってテンション下がってるもんでな、取り敢えず、こいつの可愛い寝顔を眺めさせてくれ。
掛け布団を白河にしっかりかけてやると、俺自身もベッドに入る。
しばらくそのまま寝顔を見つめる。
でも、つい触りたくなってサラサラの髪の毛をなでなでしてしまう。
さて、どうすっか。
このまま朝まで一緒に寝たら、大変な事になるかな。
ま、そのうち起きるだろ。
待つとするかな―――。
第11話に続く