第3話 白河真琴と筋肉で科学する人
昨日約束したとおり、この後、研究所に向かうはずだった。
しかし、
俺は今、一人で駅前のショッピングビルの中にいる。
行けるわけないだろ。
白河と一緒だぜ?
研究所(というよりは、ただの地下室)は、駅を通って反対側。
だから、この駅前のショッピング街を抜けて、さらに駅の人通りを抜けなきゃならん。
自殺行為でしょ。
彼女は、ここ数ヶ月で一躍トップアイドルになった、白河真琴だぜ。
それこそ、敵陣営に単騎で乗り込むようなもんだ。
もちろん、一般の方々に注目を集めてしまうのもまずいが、ここは学園の最寄り駅、最も警戒すべきことは、顔見知り。
学園で噂にでもなってみろ、大変なことになるぞ。
・・・・・・・・・・。
まあだから、彼女の変装グッズをだな、探しに来たってわけ。
当然、彼女は一緒にきていない。
近くのしなびた、人気の無い喫茶店に置いてきている。
あそこなら客もこないし、落ち着けるだろ。
しかし…なぜ俺が買い出しせにゃならん?
そもそもあいつは、何で俺に着いて来る…。
解せない気持ちで心がいっぱいなんだが……まあいいか。
あいつ可愛いし。
・・さて、どうするか。
とりあえず、定番の帽子とメガネってところだろう。
ええと、売り場は5階か。
エスカレーターに乗る。
周りを見渡すと、うちの制服を着た女子がいっぱい・・。
き、危険だ・・・・。
5階で降り、辺りをキョロキョロとしていると、ふとCD屋の店先から、最近、よく聞くメロディーが流れてきた。
今まではそんなに気にもしなかったが、やけに気になる・・・。
俺は立ち止まり、店頭を覗くと、デモ用の大型モニターが見える。
「画面には、本日発売!!」のテロップが流れ、女の子が映し出される。
白河真琴だ。
さっきまで一緒にいた、あいつだ。
どうやら、新曲のPVらしい。
パステルピンクの衣装をまとい、軽快でポップなリズムに合わせ、踊り、歌う。
アイドルとは思えない、激しく、大胆な踊り。
ただ、そのアクションの一つ一つがとても可愛い動作で、時折見せるカメラ目線の笑顔に、恐ろしい破壊力を感じる。
・・・・・・・。
か、可愛い・・・・・・。
完成度も、相当高い。
なるほど、人気が出るわけだ。
・・・・俺はしばらく釘付けになった。
俺は、彼女が歌うのを見るのは初めてだったのだ。
というのも、曲自体は耳にするものの、アイドルなんかに興味は無かったからだ。
そのまま動けないでいると、Aメロ~Bメロが終わり、間奏部分へ。
リズムが増し、踊りも激しくなる。
連続スピンターン、片手の側転……え? 側転?
その側転に違和感を感じていたが、さらに彼女が動く動く。
そしてさらに後方へ華麗に舞う。
嘘だろ・・?
彼女が高く舞い上がったそのとき、一瞬、時が止まったようだった。
ふわりとポーズを決めながら着地する。
再び、歌い始める・・・。
なんだったんだ、今の?
CGなのか?
そう思わせるほど、滞空時間の長い舞いだった。
いや、そんな事もちっぽけに感じる位の大きな謎がある。
男として、大事な話しだ。
心して聞いてくれ。
なぜ、あんなに激しく動いているのに、スカートの中が見えない!?
今なら分かる、側転の時にも感じた違和感。
・・・・・・・・・・。
だって、ひらひらのミニスカートだぜ?
可笑しいだろ?
教えて下さい、どんな仕掛け何ですか?
・・・・・・・・・・・・・・・・。
結局CD買ってしまった・・・。
PV付きの初回盤。
・・・・・言っておくが、決してファンになったからじゃないからな。
さっさと用事を済ませるべく、店内をさまよっていると、程なくして望みの店が見つかった。
さて、どんな帽子がいいんだ?
品揃えは、これからの季節を意識してか、夏物のキャップタイプが多く展示してある。
俺が被るならこれだが・・・。
ブラックに、スケルトンデザインのキャップを手に取り、鏡の前で被る。
うむ、カッコイイ。
・・・・・・いやいやそうじゃない。
ったく、女の子はどんな帽子を被るんだ?
周りを見渡す・・・・。
女子が多い。
帽子被ってる子を探してみる・・・。
いた。
お、黒いキャップじゃん。
どれどれ・・・、さりげなく前を通り過ぎ確認すると、ジャイアンツのマーク・・。
なぜに・・?
結構可愛い子なのに・・・。
まさか、流行ってるのか?
・・・・・は!
つくづく何やってんだ俺。
どうせ変装用だ、プレゼントじゃねえんだ、とりあえず被れればよしだ。
突然面倒になった俺は、女性の店員に話しかけ、直球勝負にでた。
「すみません、可愛い系の女の子が、変装をするのに最適な帽子、ありますか?」
「あ、はい。いらっしゃいませ。・・変装です・・か? え~と、お年頃はおいくつ位でしょうか?」
直球すぎたかと思ったが、思いのほか店員さんは落ち着いて答えてくれた。
「高校生です」と伝えると、
店員さんは、「変装用、変装用」と、何やら真面目に探してくれてる様子。
無理言って申し訳ない。
結局、なかなか決まらないので、とりあえず店員さんの個人的なおすすめを聞いてみると、
「夏場の基本はこれですよ」と、赤いリボンの着いた麦わら帽子を取り出した。
なるほど、定番だな・・。
しかも、普通のUFO型じゃなく、カウボーイハットのような形をしている。
なんとなく彼女に似合う気がして、俺はそれを買うことにした。
「6800円です。」
は?
た、高い!
・・・ま、まあいいか、どうせバイト代入るしな。
とりあえず購入し、さっさと店を出る。
・・・しまった、メガネも買わなきゃ。
余計な買い物をしたのもあるが、財布の中身は500円。
・・・・・・・・すまん、白河。
俺は迷わず100円ショップに飛び込むと、メガネを物色・・。
そこでいい物を見つけた。
牛乳瓶の底のようなグルグルメガネ。しかも伊達。
見た目最悪だが、でかいしいい感じかも。
「どうせ100円だし」速攻買って喫茶店へ向かう。
だいぶ一人にしちまったから、ご機嫌斜めじゃなきゃいいが・・。
・・・・・・・・・・・・・。
大通りから2本入った人気の少ない通りに出ると、「喫茶 青春の味」の看板が見えた。
甘酸っぱいコーヒーをイメージしつつ、店内にはいると、なにやら上機嫌の白河が待っていた。
「おっかえり~~~♪」
楽しそうにフォークを持ちながら手を振る彼女の前には、様々なケーキやらパフェやら紅茶やら、店のスィーツを全て頼んだらこうなる、といった感じで埋め尽くされている。
「・・・お前、何やってんの?」
「へ、へ~~、凄いでしょぉー。あ、店長さん、この苺のミルフィーユとっても美味しいです!!」
「ああ?そうだろそうだろー。なんたって、全部わしの手作りだからな。味わって食えよ。」
白河の隣に立ち、仁王立ちで「がはははあ」と笑う、豪快な店長さん。
なんだ、この活きのいいおっさん。
「今度はこれ、食ってみろ。」
「キャァ~~~、これもたまんない! もう最高ぉ~~~。」
「だろう?分かってんじゃねーか嬢ちゃん。」
可愛いねえ、よしよしと、頭を撫でる店長さん。
なにやら意気投合しているご様子。
非常に楽しそうだが、俺の脳裏に一抹の不安がよぎった。
「お前、こんなに頼んで、金持ってんのか?」
「え?持ってないけど。」
ガクッ
どうすんだよ、これ。
俺ががっつりうなだれていると、「野暮なこと言うんじゃねえ、兄ちゃん。」と、活きのいい店長さんが俺の背中をバシッと叩いた。
「うわっ」
「今をときめくスーパーアイドルの真琴ちゃんから、金なんか取るわけねえだろってんだ!」
「がははははあ」とまた豪快に笑う店長さん。
ああ、なるほどそういう事ねと、既に飾ってある「青春の味さんへ」と書かれた白河のサインを横目で確認した。
「真琴ちゃんが来てくれるなんてなー、こりゃ自慢しないとなあ。」
「がはははあ」と奥に引っ込む店長さん。
芸能人の威力を感じた瞬間だった・・。
・・・・・・・・・・・・。
「ほれ、買ってきたから、これで頼む。」
と、ぶっきらぼうに紙袋を渡す。
「何買ってきたの~」と、白河は紙袋を受け取ると、早速ガサガサと物色を始めた。
「へ~、麦わら帽子かぁ。夏っぽいねっ」
「被ってみろよ。」
「うん。形が変わってて、なんかいいかも。」
似合うかなーと、ちょっと嬉しそうに被る姿が可愛らしい。
「ちょっと大きいかな?」
確かに大きめだが、目深に被れてちょうど良いだろう。
「私、麦わら帽子って、初めて被ったよ。あ~~麦の香りがするぅ。」
「似合う、似合う?」「変じゃない?」「どうなのよっ!」としつこく聞いてくる。
すげー似合ってます。
正直、可愛いと思った。しかし、そう素直に言うのも照れくさい。
だから「いいんじゃないか。」と無難に答えておく。
しかし、さすがに制服にはミスマッチかと思ってたんだが、美形には何でもありって感じだ。
しかも、ボーイッシュな雰囲気が出て、彼女のイメージに合っている。
なんて言うの、カワカッコイイって言えばいいかな。
「じゃ、それ貰ってくれ?」
「え? いいの? だってこれ、結構高そうだし・・。」と、値札を見ながら、たかっ!とつぶやく。
「貰っちゃっていいの?」
「ああ、構わない。似合ってるしな。」
「ほんと? 嬉しいかも~。」
鏡ありますか~~と、店内をうろうろする白河。
最初の趣旨とは違うが、彼女が喜んでくれて、俺もまんざらではなかった。
なるほど、世の男性が、必死になって女にみつぐ気持ちがちょっとだけ分かった気がした。
・・・・・・・・・・・・。
「後は、何が入ってるの?」と、ガサゴソするのを横目に、「百円メガネですけど、何か?」と心の中で突っ込む俺。
そして、ブルーのビニールで包装された物を、興味深く取り出す白河。
え?
「あ、バ、バカ、それは!」
慌てて手を伸ばすが、時既に遅し。
「あ、私のCD。」
「そっか、今日発売日だもんね。買ってくれたんだ、ありがと~。」
ぎゃあああああああああ!!
NOおおおおおおおおおお!!
しまった!
こんな展開、簡単に予想出来たのに!
しかも、ビニールで包装されてたはずなのに、なに開けてまで確認してんだよ!
俺の動揺など知らず、
ふ~んと、人差し指を口元にあて、疑問系でこちらを見る白河さん。。
え~と、なんでしょうかその目は?
まずった~~~。
動揺せず、妹がファンでとか、誤魔化しようがあっただろう・・・。
なんなんだ?このこっぱずかしい感じ・・。
いや、まだ間に合う! こいつは、微妙に天然系のはず。
「ああー、なんつうの? 妹がファンでさ、頼まれたんだよね~~。」
ふっ、このさりげなさ、神だなっ。
「へー、神崎君って、私のファンだったんだ。」
だから人の話しを聞けよっ!!
「私には、てっきり興味ないのかと思ってた。」
な、なんですかその、実は私に気があるのね、的な言い回しは・・・。
「ば、馬鹿じゃねーの? お前なんかに興味ねーし。まあ、クラスメートだし、歌ってるとこ見たことねーからだな、義理で買ってやったんだよ、義理っ。」
「な、なによ、そんな、言い方しなくってもいいじゃない。」
ひどぉーいと、むくれてそっぽを向く白河。
ああ、機嫌悪くしちまった。
まあとりあえずは良しとする。俺の中の男気を守る為には仕方がない。
「あと、メガネ入ってっから、頼むな。」
「メガネ?」と、取り出したるは、ぐるぐるメガネ。
案の定、
「な、なによこれ!気持ち悪いメガネ!」
汚いものを触るように、つまみ上げつつ「見えるの?」とレンズを覗きこむ。
「文句を言うな、変装だって言ったろうが。いいからかけてみ、伊達だから。」
「ええ~、なんでこんなのしないとダメなのー?」
と文句たらたら。でも、一応メガネをかけて、「絶対変だよ」としかめっ面の彼女。
「ぷっ」
さすがに似合わねえ。
「ああっ、笑ったな! しかも、普通に笑えばいいのに、ぷってなによ、ぷって!」
「ごめんごめん。 さすがのお前でも似合わねーな。 でもバッチシだよ、全然別人に見えるよ。それしてれば白河だって、誰も気づかないだろ。」
「そうなの?」
さすがに気が乗らないご様子。
しょうがない。
「ま、お前一人に恥ずかしいメガネかけさせるつもりはねーよ。ほら、もう一個入ってるだろ? 俺もかけっから。貸して。」
「あ、ほんとだ」と、メガネを取り出し、それを受け取る。
「どうだっ」
迷いなく装着し、胸を張る。
「ぷっ」
「な、そうなるだろう?」
笑いを堪える感じが、俺と全く一緒だった。
「ぷっ、く・・・う、ダ、ダメ・・くっ」
そんな、口を押さえてまで我慢しなくても・・・。
「普通に笑えばいいさ。別に笑ったって怒りゃしないし。」
そう言って、何気にメガネを指で吊り上げると、その動作がつぼにはまったのか、
「ぶっ、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ダ、ダメ、お、おかしいい、だ、だって、ププ、い、今の、な、なんかガリ勉、ア、アハハハハハハハハハハハハハハ、ハ、ハ・・」
お腹痛い~~と、ゴンゴン、テーブルを叩く白河。
そ、そこまで笑うか・・・・。
「ハ~、ハ~、ハ~。ご、ごめんなさい、とっても似合ってる・・・よ・・・プッ」
一度つぼにはまると、なかなか収まらない彼女だった・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
さて、駅を無事抜けて、反対口までたどり着いた。
気づかれるんじゃないかと、ドキドキしたが、問題無かった。
逆に人が多くて、カモフラージュされたのかも知れないな。
そんな事を思いつつ、目的地に到着。
「え?ここなの?バイトって、パチンコ屋さん?」
「今の、パを抜いて、もっかい言ってくれる?」
「 ? ・・パ、・・・パ・・?・・」
キョトンとした顔で、なに?と聞いてくる。
「いや、何でもない。ここの地下に研究所があるんだ。」
「ふ~ん。」
聞きたかっただろ?
アイドルの「パ」抜きのパチンコ。
階段を下りて、その先を進むと、壁にぶつかる。
俺は手を振って、何かにアピールする。
しばらくすると、壁がスライドし、中の部屋に入れるようになる。
どういう仕組みかは知らんが、この壁(ドア?)には、ノブもなければ鍵も無い。
如月さんいわく、防犯の為だとか。
中に入ると、ジメッとした空気が肌にまとわりつく。
「如月さん、来ましたよー。」
「待ってたぞ。」
ごつい顕微鏡を覗きながら、こちらを見ずに話しかける如月さん。
「すみません、遅くなって。で、俺、なにやればいいんですか?」
ねぇねぇと、なにやら横から裾を引っ張られているが、無視する。
「ふむ、君に出来ることなど何もない。」
じゃあどうしたらと、困惑していると、
「すまんが、少し待ってくれるか、今は、間が悪くてな。」
「分かりました待ってます」入り口付近のソファーに腰掛ける。
「ねぇ、ねぇってば。」
袖を引っ張られる。
「ちょっと、なんで無視するのよ。」
だって、説明が難しいんだよ。
「まあ白河も座れよ。」
ポンポンと、隣を叩く。
「座るけど、なんで私が空気みたいになってんのっ? とりあえず、紹介ぐらいしてくれったっていいじゃない。」
「なによっ」と、隣に腰掛ける。
はあー、しょうがない。
「分かった、説明しよう。え~と、彼女は如月さん。マッドサイエンティストだ。」
「まっどさいえん?」
首をかしげて頭の上に ? マークが見える。
こういう時の仕草は、妙に子供っぽい。
妹がよくやる仕草に似ている感じだ。
どうせ待ち時間だ。
暇だし、こいつでも、いじってやるか。
「サイエンティストは、分かるだろ?」
「え、あ~~。ど、ど忘れかな…でも聞いた事ある単語だよね」
あははーと頭をかく。
「ああ、あれでしょ? セラフィストやピアニストみたいな感じでぇ・・・」
おお、近づいたじゃないか。
「サイエンスは、科学って意味だ。」
「そうそう、そうだよねっ。だから、科学する人ってことでしょ?」
「すばらしい、正解です。」
「でマッドだからぁ、ん~と、マッド、マッド・・・マッドマン」
「分かったっ、筋肉で科学する人。」
ブ、ブーー不正解です。
勝手に造語しないで下さい。
それ、マッドじゃなくてマッチョだろ。
てか、マッチョって英語か?
坂崎が言ってたっけ…アイドルはおバカが多いんだと。
でもそこが可愛いんだとか何とか。
ま、どうでもいいけど…。
少し回想に浸っていると、当の本人白河も大して興味なさげに呟いた。
「筋肉で科学するなんて、ざんしんだね~聞いたことないよ。」
確かに斬新だ、お前がな。
「・・・・お前もしかして、頭弱い?」
「よ、弱いってなによ!弱いって!そこはせめて悪い?でしょっ!」
「悪いの?」
「わ、悪くないわよ!失礼ね。成績だって、今回は赤点ないんだからねっ!」
なるほど、今回はか・・。
だいだい分かった。
「若干悪いってことか・・・。」
「聞こえてるんですけどっ。」
しまった、口に出てしまったようだ。
「あのねー、今は忙しくってあんまり学校来れないの! だからしょうがないじゃない!! 言っておくけど、小学校の時は成績良かったんだからね!」
自信ありげに過去の栄光を熱く語る白河さん。
こんな言い訳する人多いよね、勉強についていけなくなった時に。
「だいたい、なんで君はさぁ、私に対して上から目線なのかなー。」
腕と足を組みながら、睨んでくる。
大きな目が、結構怖い。
「ああ、そっか、そうだったかもなー。何て言うの? 俺、妹いるからさ、同年代以下の女の子って、妹みたいな感じなんだ。別にお前が子供っぽいとか、そういうんじゃねえから、気にするな」
「私が気にするんですけどっ」
へーへーそうですか…。
「そりゃ悪かった」
「あ…なによそれ。全然悪く思ってないよね、その態度」
つい面倒臭そうに答えた俺に対して、すぐさまツッコミを入れてくる白河。
そして続けざまに、
「坂崎君ってさー、女の子にモテないでしょ?」
ん? 坂崎?
確かにあいつはモテるわけないが…。
「あ~~っと…俺…」
話しの流れ的に、『俺、神崎なんだけど』って訂正しようかと思ったがやめる。
あ~あ…所詮、名前間違えて呼んじゃう位の印象なのかい…。
ちぇっ、なんだか面白く無くなってきた。
「あれ…怒った? ね、ねぇ神崎君…」
普通にムッツリとして、機嫌悪そうな俺に対して若干心配顔の白河。
意外と心弱いらしい。
そして名前が元に戻った。
何となく面白いんで、しばし黙っていると、
「ちょ…ちょっとゴメンって……ねぇ聞いてるの?」
ねぇねぇと、執拗に俺の腕を掴んで引っ張る白河。
あ~なんか妹を思い出すぜ。
そんな感じで白河をからかっていると、奥から如月さんが近づいてきて一言。
「全く、さわがしいな、君達は。」
はあー、と溜息をつきながら、如月さんがタバコに火を点け、対面のソファーに腰掛けた。
研究の邪魔しちゃったかな、申し訳ない。
「で、どうして君が白河真琴を連れている。」
「え、彼女のこと、知ってるんですか?」
「ああ、娘が君のファンでね。」
如月だ宜しくと、白河と握手をする。
娘がいたのか、意外だな。
この人から、家庭の匂いがするなんて。
「なるほど、その制服、三坂だな。同級生って訳か。」
「は、はい、そうなんです。神崎君とは、同じクラスメートで・・。」
「ほう、好きなのか?」
「はい? え、あの、えっと・・・か、神崎君っ。」
な、何を赤くなって俺に助け求めてんだ。
「白河とは、そんな関係じゃないです。こいつはアイドルだし、俺のことなんか、好きじゃないですよ。」
「アイドルは、関係ないでしょっ。」キッと睨む。
なぜそこで、突っ込む。
「ふっ、仲が良いな。」
ふ~っと煙を吐く。
仲が良く見えるのか? 昨日までは、まともに話もしてなかったのに?。
「如月さんは、何のお仕事されてらっしゃるんですか?」
お、それは俺の聞きたかったこと、ナンバー1の質問じゃないか。
「仕事か、私は科学者だが、医療に関しても精通している。それらにおける、実験や研究をするのが、私の仕事・・・・、いや趣味みたいなものだな。」
「へ~凄いですねぇ」と、白河は関心して、
「てことは、神崎君は助手なの?」
「すごーい」羨望のまなざしを俺に向ける。
そんなわけないだろ・・・。
「そうじゃない。彼には、被験体のバイトを頼んである。」
「ひけんたい?」
「ああ。私の研究の成果を、彼に実践してもらう。」
その後も、「どうやってするんですか?」「痛くないんですか?」「基本的に身体に負担を与えるような事はしない」など、話しがすすんでいる。
ふと、携帯を見る。
着信2件、メール8件。
彩乃か・・・・。
「ちょっと俺、電話してきます。」
話が盛り上がってるみたいで、「いってらっしゃい」と素っ気ない態度で返される。
結構、意気投合してるなこの二人。
と思いつつ、一旦地下から地上に出て、携帯を操作する。
プルルル・・
「兄さん?」
「おう、ごめんな、出れなくて。」
「兄さん、今日も遅いんですかぁ?」
「ああ、バイトでな。」
「はぁ、なんのですかぁ?」
「え~とだなー。」
なんて説明すりゃいいんだ?
「俺も今日初めてだから、良く分かってないんだよ。」
「でもぉ、実験がなんとかって・・。」
「あー、ちょっと知り合いに、たぶん偉大な科学者がいてな、その人の実験を手伝うんだよ。」
よし。嘘はついてないな。
「ふ~ん。危ない事、しちゃダメですよぉ。でもなんで、急にバイトなんか始めたんですかぁ?」
「ん?まあ事情があってな。詳しい事は帰ってから話すから、また後でな。」
「あ、ちょっと待って、終わったら電話・・・・
ピっと。
ま、こんなもんだろ。
地下に戻ると、なにやら如月さんが、端末を操作している。
白河がいないな・・・。
帰ったのか?
「白河、帰ったんですか?」
「そこの装置の中にいるぞ。」
端末の横にある、日焼けマシーンのような装置を指差す。
は?
いったいどうして?
「是非とも実験の手伝いをしたいと言うからな、とりあえず、身体データを取っているところだ。」
「えっ、本当ですか?」
無理強いしたんじゃないかと、疑念の目を向けると、
「本当だ。私の天才ぶりに感服したみたいでな。まあ、本心は、神崎君、君がいるからじゃないか?」
え? 俺がいるから?
「なんでそうなるんですか?」
「さあ、なんでかな。」
確かに、バイトしたいと言っていたような気がするが、よりによってここは、まずいだろ。
「でもこいつ、アイドルの仕事、あるじゃないですか。」
「ああ、だから週に1回しか来れないと言っていたが、問題ない。」
まあ、本人が良いならいいか。
「君だって、嬉しいのだろう? 彼女と一緒に居たくはないのか?」
はあ、そうですねと、曖昧に応えはしたが、確かにちょっと嬉しいのが本音。
あいつは可愛いし、いじると面白いしなっ。
その後、俺の身体データ取りも済ませると、筋肉のチェックをしたいと言い出し、白河をベッドに寝かせると、なにやら俺に耳打ちし、
「君のおかげで、貴重な被験者が手に入った。お礼と個人的な趣味も兼ねて、少しサービスタイムだ。」
ニヤっと不適に笑う、マッドサイエンティスト。
な、何をする気だ・・・?
「ちょっとじっとしていてくれ。」
「は、はい。」
「まずは足だ」と両手でマッサージのような事を始める。
「ふむ、ヒラメ筋が引き締まっているな、下腿三頭筋はどうだ。」
さわさわ、すりすり・・・・・・。
な、何をしてるんだ・・・・・。
「素晴らしい。何か運動をしているか?」
「あ、はい、毎日ダンスの稽古を。あと、中学では、機械体操をしていました。」
「なるほど、そうか、それで大腿筋膜張筋がこんなに張っているのか・・・。」
太ももをすりすり、さわさわ・・・。
「やんっ、あ、ちょっと、くすぐったいです。」
うお!
そ、そんなところを・・・。
既に手は、スカートの中に入ったり、出たりしている。
「大腿二頭筋も充分だな。人の筋肉は、普段あまり使われないものもある、バランス良く鍛えないと、偏った筋肉が形成されてしまう。では内側はどうかな、伸筋をみてやろう・・・・」
内ももをモミモミ・・・さわさわ・・・すりすり・・
「ひゃんっ、あ、きゃ、ははは、くすぐったい! あ、あははははは」
我慢できなくなり、身体をくねらせる白河。
その度に、スカートの中がちらちらと・・・・・・。
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!
(口に出せない叫び)
し、白い、白い、ぬ、布地がああああああああああああああああ!!
「ふむ、ちょっと硬いな。ほぐしておくぞ。」
片足を少し上げ、内ももをモミモミ・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・。
基本、制服のスカートって、短いじゃないですか。
この角度からは既に、丸見えです・・・・。
しかも、薄いピンクの花柄が入っていたのか・・・・。
って、ちがうっ!!!!!
さすがにこれはまずいと思い、目を逸らす。
でも気になって、ちらちら横目で見てしまう。
ああ、男って・・・・。
と、とりあえず、後ろを向いておこう・・。
「白河君、大胸筋は鍛えてるか?」
え、大胸筋?
「あ、はい。腕立て伏せしてます。」
「成程、効果があるか確認してやろう。単に腕立てといっても、その角度、沈み込み量によって、鍛えられる筋肉が変わってしまう。適切な方法で鍛えなければ、効果は無いのだよ。」
「え、ちょっと、そこはダメ、ダメですっ!」
モミモミ・・さわさわ・・・・
「あ、いや、ダメ・・・や、あんっ・・ハァ」
「ふむ。大きくて張りがある。弾力も中々だ。」
い、一体、なにがどうなってる?
「き、如月さ、さん・・もうやめ・・あっ・・」
き、気になる・・・。
ちょっとだけなら・・・。
我慢できず、振り向く。
!!!!!!!!!!!
やばい! 白河と目が合った!!
「やっ、か、神崎君が、見てるっ、ダメ~~~~~~~~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
その後、なぜか「最低!」と突き飛ばされ、ベッドの柱に、本日3度目の後頭部を強打しました。
そして、白河は「やっぱり、筋肉で科学する人だったんじゃない」と呟いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「では、今日はこの液体を注入させてもらう。」
取り出したのは、フラスコに入った緑色の液体。
不適な笑みの如月さん。
「はいっ質問です!」
「なんだね、白河君。」
「それは、どんな効果がありますか?」
「良い質問だ、白河君。これには、細胞を活性化させる効果があってだな、細胞分裂の速度を爆発的に上げるちからがある。簡単に説明すると、治癒力が極端に増す。と考えてくれれば良い。」
物凄く胡散臭い。
「ほんとですか!凄いです!」
素直に受け止めるやつがいるし・・・。
「では、始めたいと思うが、神崎君、うつ伏せになってくれ。」
こうですかと、ベッドに寝る。
「すまんが、ベルトを緩めてくれ。これは直接血管からは流せないのだ。」
バッとズボンとパンツを同時にずらされる。
お、おい・・・ちょっと・・。
半ケツ状態、というより、全ケツ状態なんですけど。
しかも、白河見てるし!
なに真剣な顔で見てんだよっ。
「筋肉注射だ、痛いぞ。」
ケツに針が刺さる。
「痛ええええええええ!!」
「終了だ。」
「では、神崎君、君は外に出てもらえるか?」
「え、何でですか?」
「白河君のお尻が見たいのか?」
・・・・・・・・・・・・・。
見たいです。
とは言えず、俺は外に出た。
ちぇっ。
流れ的に、真面目な顔で見てればOKかと思ったのに。
いててて・・・
ケツが痛い。
白河、大丈夫かな。
如月さんいわく、女の子の方が筋肉が柔らかいので、そんなに痛くないそうだ。
・・・・・・・・・・。
いかんいかん。
どうしても、白河が注射されるところを想像してしまう・・・。
なんか俺、発情期なのかな?
俺、変態だよね。
昨日までの自分は、もっとまともだったはず・・。
しかし、なんだかんだ言っても、今日は役得だったような気がする。
一日、あいつに振り回されてたなあ。
色々思い出し、ついニヤけてしまう。
「なにニヤニヤしてんの? 気持ち悪い。」
「おわっ!!何でいるんだよっ白河!!」
「えー?終わったから呼びに来たんじゃない。」
「早くもどろっ」と腕をひかれる。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「では、神崎君。宜しく頼む。」
「分かりました。」
ナイフを腕に軽くさす。
皮膚が裂け、血が・・・流れない。
嘘だろ?
「良し、効果は出ているな。」
「毛細血管程度なら、切ったと同時に治癒が進み、血も流れる事はあるまい。」
傷口が既に塞ぎかけている。
マジかよ・・・。
白河も俺と同様、血は流れず、あっという間に傷口が塞がった。
「効果の持続は、1週間だ。白河君は、来週来てくれ。神崎君、君はまた明日、来てくれるか?」
「ああ、補足だが、細胞が活性化される影響で、テロメアが急速に減少する。まあ、そのうち補充してやるから安心しろ。以上だ。」
思いっきり後遺症、残るじゃねーか・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
やっと生体実験が終わり、帰路の途中・・・。
しかし、あのマッドサイエンティスト、本物なんだな。
腕を見る。
傷は無く、痕も何も残っていない。
もしかして、ピッコロなみの再生能力があったりして。
腕が無くなっても、ニュルンとかいって、すぐに生えてきたり・・・・。
・・・・・。
うげ、何だか、気持ち悪い光景が脳裏に浮かんでしまった・・・。
しかし、あいつも変な事に巻き込んじまった。
「白河のやつ、大丈夫かなあ。」
「え? 私ならなんともないけどぉ?」
・・・・・・・・・・。
そうだ、バイト代、貰ったんだっけ。
どうすっか。
胸ポケットから封筒を取り出し、中を見る。
「絶対、100万以上はあるよ。これ。」
「うん。ありそう。私も、来週くれるって言ってたけど、ほんとに貰っていいのかなぁ。」
・・・・・・・・・・・。
そういえば、あいつ、小学校も中学も女子校だって話しだよな。
小学校で女子校って、そんなのある?
普通じゃないよね。
「白河って、お嬢様なのか?」
「え?私?ちがうちがう、そんなんじゃないって、お嬢様とかやめてよぉ」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ね、ねぇ、なんで無視するのよぉ。」
はい?
振り返り、目が合う・・・・。
「またお前かっ!!!」
「な、なによっ!? い、いちゃいけないっていうのっ!!」
「さっき、またね~って、手ぇ振って別れたじゃねーかお前とはっ!!」
「おまえって言うのやめてって言ったでしょっ!!なんで分かんないのっ!?」
・・・・・・・・・・。
「で、どうして着いてくるんだよ。」
「わ、私も、こっちなだけよっ。」
「本当か?」
「ほんとですっ。」
足早に歩くと、「ちょ、ちょっと待ってよぉ」と追いかけてくる。
「な、なんで逃げるのよぉ?」
「だってお前、メガネかけてねーじゃん。」
「もう夜だから、平気よっ」
・・・・・・・・・・・。
「あ、俺んちここだから。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「じゃ、気をつけて帰れよ。じゃあな。」
・・・・・・・・・・・・。
あれ? あいつ一歩も動いてないな。
家の前で固まられてもなあ。
「・・ぐすっ・・う・・」
え?
「・・・う、うえ・ぐすっ・・」
お、おい・・・・。
「ぐすっ・・・う・しくしく・・」
本当に泣いてんのか!?
「おい、どうしたんだよ。」
どうしていいか分からず、手を差し延べると、バシッと払いのけられた。
「さわんないでっ・・・ぐすっ」
いや、触るなっていうけどさ・・・。
とりあえず、家の前で泣かれちゃたまんねーぞ。
俺は意を決して、彼女を家に引っ張り込もうとした。
「頼むからこっち来てくれ」
「さわるなって、言ってんでしょっ!!」
全然言う事を聞いてくれない彼女に、それでもしつこくせまる。
彼女の手を引っ張る俺。
踏ん張る彼女。
引いては返され、引いては返されの繰り返し。
どうすりゃいいんだっ!!
もう我慢出来ないっ!!!
最終手段!!とばかりに強引に彼女を抱え、玄関へ向かう。
途中、「降ろしてっ」「やだやだっ」「だいっきらい」とジタバタされる。
構わず、玄関の前まで来ると、勝手にドアが開いた。
「兄さーん、帰ってきたんですかぁ~~~~?」
げっ彩乃!
「に、兄さん、なにやって・・・・・」
彩乃の前で、白河をお姫様だっこする俺・・・。
最初は驚いたのか、キョトンとする彩乃だったが、だんだん雲行きが怪しくなって、
「に~い~さ~んっ!! 誰なんですかっ、その女の子はっ!!」
4話へ続く・・・・・・。