第7話 修羅場? そして誰?
「私さぁ、今すっごく気分悪いんだけど」
「あ、あの…私のせいなら帰ります」
「うーうん、一条さんは悪くないよ」
「あ、はい…」
お待たせしました、修羅場突入です♪
いやーーーっ!! 楽しくないからっ!!
結局白河に見つかって、何故かリビングでティータイムへ。
白河が恐いんで、今俺はとてもゆっくりお茶を淹れてます。
「コーヒーまだ?」
「え? 紅茶じゃないの?」
「今はコーヒーの気分」
「は、はい! わっかりました!」
慌ててコーヒーを淹れなおす。
恐い。どうしよう。
そして一条が怯えてる。どうしよう。
場が無言のまま時が過ぎる。
一応、事の顛末は既に全部話しました。
別に変な事してないし…ちょっとパイタッチしたぐらいで…。
そんな事報告しないけど。
コーヒーを二人に出す。
さて、俺はどっちに座るべきか…。
一条の横か、白河の横か。
俺が迷っていると、無言で自分の横をポンポン叩く白河。
う――超恐いんですけど…。
指示通りに白河の横に座る。
場の空気がやばいんで、「よいしょ」とか無駄に言いいながら。
そして和ますように、
「コーヒーどうぞ。冷めないうちに飲もうぜ」
これまた無理に明るく言ってみるが、一条は「それじゃ…」と飲んでくれたけど、白河は全く微動だにしない。
なんだよ…自分がコーヒー飲みたいって言ったんじゃねーか…。
などとは決して口には出せない。
目の前には一条。
着替えで渡した俺のTシャツを着ている―――ん?なんだ?
なんだか、一条がコーヒーをすする度に胸がたゆんたゆんして…。
しかも胸の先端に突起が…。
ま、まさかのノーブラ!
もう場の空気なんて関係ない。
俺の視線はギンギンに先端突起にロックオン。
なんだかさ、薄っすら透けてるような気がするんだよね。
黒っぽい影が見えるっていうか…。
ま、まさか…! こんな清純そうな顔して、先端黒いのか!? 黒いのか!?
しかも結構ポチってるぞ!
「立ってるのか!? 先端立ってるのか!?」
その瞬間、手でサッと胸を隠す一条。
それを見て、ムッとした顔で俺をガン見する白河。
うう…まさか、ここでいつもの癖が出て声に出してしまうとは…。
完全に白河のお仕置きタイムかと思われたが、何故かスルー。
「一条さん、私の上着着てて」
「す、すみません」
一条に優しい白河。
ま、まずいな…今の発言…とってもまずい。
さんざん言ってきた。
俺が変態になるのは白河に対してだけだって。
その言葉が嘘になる。
これはまずい。ハンパない。どうしよう。逃げる?
あ~~。
俺は頭を抱えてその場にうずくまる。
「一条さん、神崎君がこんな変態だって知ってた?」
「し、知らなかったです…学校でも、いつも硬派だし…女の子に優しいし」
「だよね~。私なんか、会う度にセクハラされてるから」
「えっそうなんですか! ショックです…神崎君がそんな人だったなんて…」
え? 何この会話の流れ。
俺のダメ出し会?
凄く居ずらいんですけど…。
しかもこの後、一条がボソッと呟いたことが、
「私、さっき2階で胸を触られました」
ギャーーーー!!! 何でそれを言うんだよ!?
「え!? 嘘っ!?」
「ホントですっ、何度も何度も…」
ちょっと待て!
そりゃ聞き捨てならん!
た、確かにちょっと楽しんだけど…
「違うって! あれはさ、こぼしたお茶拭いてたんだって!!」
「し、しかもその時…雑巾代わりにしたのが、ピンクの下着だったんですっ」
ギャーーーー!!
だから全部言うなっての!!
「ま、まさか…それって…」
「はい、ブラと上下お揃いで、しかも結構大きめサイズだったんで…白河さんのかなって…」
「はぁ…なかなか持ってこないと思ったら…」
汚い物を見るような目でみつめてくる白河。
うぅ…そんな目でみないで…しくしく。
「私、神崎君がこんな人だったなんて知りませんでした…」
「う…うん…」
「小学生の頃から好きだったのに…私…う…ぐすっ」
突然泣き出す一条。
おいおいおい…泣き出す程に俺が嫌なのか!?
「あ、あのね一条さん。男の子って結構みんなこんな感じだって聞いたよ?」
「そうなんですか?」
「そうそう」
あれ? なんか流れが変ってきた。
「この子ね?」
この子!?
「私の事何度も身体張って助けてくれたし、最後は私を助けて死んだんだから」
「えっ!? 死んだって、神崎君が?」
「うんそう」
「え? 本当に死んだわけじゃないんですよね?」
そんな大袈裟な――的な雰囲気で、俺の答えを待つ一条。
「あ~っと…なんていうか…トラックにひかれてさ、全身ぐちゃぐちゃになったんだよね、俺」
まあそれで死んで、今は軽いサイボーグだけど。
ああ、如月さんは生体サイボーグって言ってたけどな。
「え、じゃ、じゃあ…何ヶ月も学校休んでたのって…」
「まあな。治療してったって感じ?」
「そう…なんだ…病気って聞いてたから…」
「そっか」
なんだか場が暗くなっちまった。
でも白河からこんな事が聞けるなんて…。
「あの時、神崎君が助けてくれなかったら…私、死んでた…と思う」
誰に言うでもなく、俯いて呟く白河。
そして顔を上げ俺に向き直り、優しい笑顔で言ってくれた。
「あれから、ずっと言おうと思ってた。だから言うね。あの時、助けてくれてありがとう。真琴はね? たぶん、君より君のことが大好きだよ」
言った後、えへっと舌を出した白河。
その仕草が堪らなくて、改めて言われた事が嬉しくて―――
「か――――――」
「か?」
「か―――――――――――!!」
「え? な、、何よ―――」
無意識に白河の肩をがっちり掴む俺。
「かわいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃっ!!!!」
無我夢中で…そして全力で白河を抱きしめる俺。
「マジ可愛いっ!! マジ天使っ!! 超女神っ!!」
「い、痛いよ、痛いっ! やめてよ神崎君っ!」
「嫌だっ! 絶対離さないっ!! もう2度と離さないっ!!!」
「も、もう…しょうがないなぁ…」
そっと俺の背中に手を回して、軽くギュッとしてくれる白河。
その行為で安心した俺も、力を緩めてフワッとした力で抱きしめる。
「……ぁ……」
「……白河……」
しばらく抱擁した俺達。
そして離れるタイミングが分からず、しかも一条が見ていると思うと段々赤面してくる俺。
そういえば、最近妹と似たような場面があったような…。
「ね、ねぇ神崎君…そろそろ…私、離れたい…」
「お、おう…分かった…」
なんとも恥ずかしい離れ方をしてしまう。
でも、身体が離れても、しばらく見つめ合う俺達。
白河の顔が今までに見た事もないくらい、真っ赤になって妙に可愛くて…俺は徐々に顔を近づけて―――。
―――キスをしようとしたんだが、「やだ…」と直前で顔を反らされてしまった。
「素敵ですっ!! 凄いですっ!!」
キス出来なかったけど、幸せいっぱいの中、何故か一条は興奮していた。
「私、二人がそんなに愛し合っていたなんて知りませんでしたっ!!」
「あ、ああ…」
「もう素敵っ! 断然二人を応援しちゃいますっ!!」
目をキラキラ輝かせ、興奮冷めやらぬ一条。
折角良いムードだったのに、きょとんとする俺と白河。
「私、神崎君の事は忘れて、二人のような新しい恋を探します!」
そして「頑張って下さいねっ」と言い残し、「お邪魔虫は帰ります」と言って風のように出て行った一条。
二人残された俺達。
さっきの抱擁が忘れられない…。
白河の感触が身体全体に残ってる。
もう一度抱きしめたい気持ちで、白河をチラチラ見るが―――。
「……ぁ……」
「……あ……」
何故か同じタイミングで目が合い、瞬間恥ずかしくて目を反らしてしまう。
何度かそれの繰り返し…。
一体何やってんだ、俺達。
しまいにゃ白河が、「もう帰るね」なんて突然言い始めるし。
もちろん俺は全力で引き止めたさ。
まあ、なんとなくさ…一緒に居たくて…。
◇◆◆◇
「彩乃ちゃん帰って来ないね」
「そうだな」
「美琴、上手くやってるかなー」
「あいつなら大丈夫だろ? お前本人なんだし」
「そうだよねー」
結局あの後、何も進展しない俺達。
つい、二人以外の話題をしてしまう。
くっ! 俺って情けない…。
強引にでも、唇を奪うべき――!
心ではそう分かっているんだが…しかも嫌がられない自身あったし…。
「でもタイミングなんだよな~~くうううぅぅ~~!!」
「なんのタイミング?」
「キスするタイミング」
「えっ!?」
いつもの癖でつい言ってしまったが、言い切る俺。
ある意味男らしい。
「キス…していい?」
真っ直ぐに白河に向き直って、肩を優しく抱く。
俺を見上げ、目をパチクリさせる白河。
やばい、超可愛い。
そしてイケる! 絶対イケる!!
そう確信した俺は、一気に顔を近づける。
近づける……でも目を閉じない白河。
頼むから目を閉じてくれっ! これ以上近づけないだろっ!!
吐息が触れ合う、僅か数センチが進めない―――!
もう強引にこのまま――――!!!
そう思ったその時、
ピンポーン♪
ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン―――。
突如響き渡るピンポン連打。
ガクッ――――。
一気に空気が冷え込むのを感じ、さすがに諦めた俺は玄関へと向かう。
なんだよ、誰だ?
まさか新手の嫌がらせじゃねーだろーな。
そんな事を考えていたら、何やら外が騒がしい。
「彩乃ちゃん誰もいないっぽいよ~」
ピンポン、ピンポン、ピンポーン♪
うるせーな…なんだよ。
「ノノちゃん、彩乃、鍵持ってますから」
「え、そうなん? んじゃ早く開けてよ~」
ガチャガチャ……
「あれ、空いてる」
入ってきたのは彩乃と友達か?
にしてはちょっと大人っぽいな。
彩乃の後ろから入ってきた女の子。
身長は白河と同じ位…いや、あいつ最近背が伸びたみたいだから、ちょっと低い位か…。
「ったく、騒々しいな。彩乃おかえり」
「あ、兄さん只今です」
「たっだいま~~」
兄妹の挨拶の後に、図々しく入ってくる女の子。誰?
「兄さん兄さん、見て下さいよこの服っ」
俺の前でくるくる回転する彩乃。
なんだか良く分からんが、ワンピースって言うのか、チュニックていうのか…。
とにかく俺が見た事がない服を着ている。
要するに新しい服を手に入れて、俺に褒めて貰いたいらしい。
こんな時、優しい兄はこうだ!
「おお可愛いな、どうしたその服?」
「如月さんに買ってもらったんですよ!」
「へーそうなのか、良かったなー」
「ふふふ~いいでしょう~」
ご機嫌な我が妹。良きかな良きかな。
「ねぇじーちゃんノノのも見てー! ノノのも買ってもらったの~!」
「は? あ、ああ…可愛いねー」
「うん!」
彩乃と似たような服を着て、同じようにくるくる回る女の子。
誰?
「ノノちゃんも上がって~~」
「うん、今行く~~」
「あ、彩乃の部屋は2階なのですよ~」
「うん知ってるよ~」
誰? と聞く暇もなく、さっさと家の奥へと消えていく二人。
そういえば、俺、じいちゃんって呼ばれなかった?
まあ聞き間違いだろ。どうでもいいし。
しかし、彩乃が友達連れてくるなんて珍しいな。
まあいいかと、リビングに戻ると白河がソファーの上でさっきの態勢で固まったままだった。
◇◆◆◇
「彩乃ちゃんの友達?」
「そうじゃねーかな?」
「ふーん、楽しそうだよね」
「そうだな」
なんだかあの二人は盛り上がってるが、こっちはすっかり冷え切っちまったぜ。
まあいわゆるまったり空間。
「なんだか私が居たら悪いから、そろそろ帰るね」
「え、ちょ、ちょっと待てよ」
まだキスしてねーっちゅーの!
まあそんな空気はもう作り出せないと思うけど。
「ん~でもぉ…する事ないしぃ~」
「彩乃があれからどうなったか聞かないとさ」
「う~んそっかー」
帰りたがる白河を制して、彩乃を呼びに行く。
要するに、まだ白河と一緒に居たいだけなんだけど。
でもそれ以上に、昨日からのファンタジアを解明しとかないとな。
「彩乃ー、降りてこーい。ちょっと下でお茶するぞー」
「はーい」と何故か二人分の返事が聞こえて、すぐさまドンドンと降りてくる彩乃と謎の友達。
「兄さん、彩乃は日本茶がいいです」
「じーちゃん、ノノもそれでいい~」
やっぱりじーちゃん言ってるし…しかも馴れ馴れしいな、この子。
でも悪い気はしなかった。
なんでか知らんが、妙に可愛い何かがあった。
まあ見た目、確かに可愛い感じなんだけどさ。
ちゃっちゃと4人分のお茶を淹れる。
その間、彩乃とノノちゃん――だっけ? は、相変わらず仲良さそうにしゃべってる。
おいおい、白河を一人ぼっちにするんじゃない。
そんな感じなんで、急いで茶を運ぶ。
「取り敢えず、飲んでくれ。まだ熱いぞ」
4人で大人しく茶をすする。
「うわっ、アチチチ…じいちゃん熱すぎるよー」
訂正、一人うるさい。
あと、またじいちゃん言われた。
ま、いいか。本題に入ろう。
「ところで彩乃、例のファンタジックな現象の原因は分かったのか?」
「あーはい、身体が入れ替わったことですね。もうバッチリですっ!」
事情を知らない人間がいるので敢えてボカして言ったのに、ストレートな返事の彩乃さん。
さすが我が妹。
「さすがだな如月さん。やっぱり頼りになるなー」
「あーえっと…今回は違うんですよー、えっと――」
「はいはーい! ここはノノちゃんの出番だよ~」
急に間に割って入るノノちゃん。
なにこの子――? 的な空気が俺と白河の間に生まれた瞬間。
しかし、そんな空気の読める子じゃないらしい。
「え~とね、パーティーグッズなんだよ。じーちゃんとばーちゃんに楽しんでもらおうと思って――あと…面倒だから彩乃ちゃん――でいいよね?」
「いいですよ~」
意味が分からん。
じーちゃんって百歩譲って俺だとしても、ばーちゃんって誰だよ?
「ん~でもー、ホントは3分くらいしか効かない筈なんだけどさー、結構長かったよねー1日ぐらい? そんでさー、ノノも混ざる筈だったのに、彩乃ちゃんに吸収されちゃって参ったっちゅーの! あはははー…」
「あのさ、さっぱり意味不明なんだけど?」
「え? イミフだった? しゃーないなーだからさー、じいちゃん達に楽しんでもらおうと思ってパーティーグッズでぇー…」
「ちょっと待て、そもそもじいちゃんって誰だよっ」
「あ~そっか、ごめん。正確にはひいじーちゃんとひいばーちゃん」
そう言って、俺と白河の顔を指す。
ハァ~この子大丈夫かな。
まさか、秘密結社から送り込まれた新たな刺客か?
どう対処すればいい?
「あと、昨日じいちゃんが会った男の子紹介するね」
おもむろに、左耳に付いているスカウターのような物をピコピコ弄り出す…。
いや、最初から気付いていたんだ。
なんか耳に付いてるな~って。
ガチでスカウターっぽいんですけど。
まさかとは思いますが、サイヤ人ですか?
「ジャジャ~ン♪ ……あれ? ちょっと待って」
失敗したのか、首を傾げるノノちゃん。
何か飛び出すのか? 3Dってやつ?
「今度こそっジャジャ~ン♪」
ジャジャーンと共に、凄い煙。
「ゲホッゴホッ…」
「ケホッケホッ…」
「う~何これ、目に染みるぅ~」
「フッフッフッ…弱っちーね、ちみ達。見て見て、シローちゃんだよ」
いや、煙で何も見えないし。
しかも、目が超痛いし…。
「あーごめん、煙が強かったかなー。ちょっと雰囲気だそうと思って多めにしちゃった。ごめーん」
わざとかよ! あー着いていけねー。
段々と目が慣れて、視界がはっきりする。
目の前には男のシルエットが。
マジで現れたな――若干の驚きはあるけど、マジックみたいなもんだろ?
と思い、意外と平常心。
しかし、はっきりとその男の顔が見えた瞬間、背中に悪寒が走った。
「駿さんと真琴さん、ご機嫌麗しゅうございます」
現れた男は超イケメン。
スーツでバリッと決めて、なんだか執事っぽい振る舞い。
そう――このイケメン…というか美少年というか――は、昨日公園で会ったなんとも感じの悪いやつ。
思わず白河の前に出て、イケメンにガンを飛ばした。
「おっと…そんなに睨まないで下さい。昨日は少しからかっただけですよ。フフフ」
クッ、超感じ悪い。何こいつ。死ねばいいのに。
嗚呼…昨日も感じたけど、ホントこいつ格好良いんだよ。
マジムカツク。
「ちょ、ちょっとなによこの人! 超カッコイイ!! ノノちゃんだっけ? 私にも紹介してっ!!」
俺を押しのけて前に出てくる白河。
「あの、え~っと…白河真琴ですっ! あ、あの、その、貴方のお名前は!?」
ガクッ―――。
白河の目がハートなんですけど…。
俺ですら見た事のない位に嬉しそうだし…。
「はいはーい、シローちゃんにもうゾッコンですかい? 気持ちは分かるよ~」
「うんうん、シローさんカッコイイですぅ~」
「ホント! こんな人芸能界にも居ないよっ!!」
ハァ~、俺だけ蚊帳の外かい。
はいはい、分かりましたよ。
なんだか昨日から変な事ばっかり起こるなー。
一人いじけて、さっきの白河との抱擁シーンを思い出す俺だった。
8話に続く