第5話 俺に自由は無いのか
「あ、ちょっ! 変なとこ触んじゃねーっよっ!」
「しょーがないでしょ!? ちゃんと洗わなきゃダメなんだからっ!!」
「いや…でも…だってお前…」
「が、我慢してよ…」
「我慢するけどさ…何で手で擦るんだよっ! か、感じちゃうんですけど…」
「やっ―――!!! やめてよそういうこと言うのっ!! 変態っ!! しょうがないでしょ!? いつもそこは手で洗ってるんだからっ!!」
「変態ってお前っ! お前のま――いや…ア――…あ~っと…とにかくっ! そこは敏感だからもっと優しくしてくれっ!!」
「う~~~もうやだ……泣きたい…」
「俺もだよ…」
え? 楽しそうだって?
ぶっとばすよ!?
確かに絶賛白河とシャワータイム中なんだけどさ…。
これでもかってくらい目隠しされてるし、後ろ手できつく縛られてるし。
俺の自由はまさに皆無。
まあしかしだな、正直言うと楽しくない…こともない。
あいつ大事な所は手で洗う派らしくてだな…妹の手だが、白河が白河の部分を洗って…って! ややこしいわっ!!
そんでもってだな! その時にっ、思わず声が出ちゃいそうなんだよっ!!
分かる!? その時の恥ずかしさ!?
元に戻ったら、たっぷり思い出してやるからな!!
じゃなくて!!
自分が感じてる姿を思い出して萌えられるかっ!!
ややこしすぎるわ!!
ああ~~…もうわけわかんね~。
…………こほん。
実はだな、研究所を出てからずっと白河と二人っきり。
彩乃は研究所に残ったから、二人で俺んちに直行。
そして家に着いたとたん、
「シャワー浴びてよ…」
って言うもんだから、「喜んで!」と返事したところ今に至るってわけ。
一瞬一人で入れるのかと思った俺は、あんな事して――こんな事して――なんて思わず夢を膨らませちまったがな…。
そりゃそーだ、一人で入れるわけがねー。
それでも俺は、もちろん諦めなかったさ。
目隠しする為に頭を手拭いでグルグル巻きにしてあるからな? そのままじゃ髪洗えないだろ?
予想通り、その時手拭いを外された俺は全力で開眼。
彩乃の顔が目の前に見え、そしてすぐにシャンプー液が侵入…。
目が死ぬかと思ったぜ。
しかも目と目が合ってバレちゃって、「もう絶対信用しないっ」とか言われるし。
その後のガードの硬いこと硬いこと…。
しかしだな、冒頭にあったようにその後はエキサイティングだったぜ。
こいつさ、身体洗うのに基本スポンジ使ったんだが、何故か最初に全身に泡を伸ばすんだよ。手で。
しかも重要な場所を手で洗いやがって…。
傍からみたら絶対怪しい関係だよ。女の子同士で。
このまま戻らなければ同性愛に発展するのか…? など考えていると、なにやら白河が一人ブツブツ言い始める。
「あ…やだ…どうしよ…最近いつしたっけ…?」
したって何だよ。
ちょー気になるじゃねーか。
「ねぇ神崎君、いつ元に戻れるのかな?」
「さあな…如月さんが何とかしてくれるとは思うけどさ」
「そうだよねぇ、う~ん…」
何でか知らんが、シャワーでそんなに悩む事があるのか?
俺なんか、5分でシャワー終わらせんのに。
「なんかまずいのか?」
「べ、別に…何でもないからっ! へ、変態は黙っててっ!」
気になって話しかけたら怒るし、意味わかんねえ。
「ちょっと手上げてくれる?」
「上がるわけねえだろっ」
後ろ手で縛られてんのに腕を上げろと?
またこの天然娘は、意味不明な事を仰る。
結局、腕の拘束を外され自由の身になった俺は言われた通り万歳をする。
「言っとくけど、手を動かしたら絶交だから」
絶交は恐いので言われるがままの俺。
そしてそのまましばらく放置―――。
何してんだよ…。
「あのー、上げた手がしんどいんですが…」
「いいから黙ってて」
冷たくあしらわれ仕方なくジッとしていると、脇の下を指でスリスリと擦られる。
右脇をスリスリ…左脇をスリスリ…。
…………。
あー、何がしたいか分かった。
妹は目が悪いからな。
触らないと分からないんだろう。
そしてその行動の意味を理解した俺は、つい白河をからかいたくなる。
「わき毛でも生えたか?」
「バ―――そ、そんな物、は、生えるわけないでしょ!?」
「あ、そうなんだ」
「ち、違うからねっ」
そんなに噛みながら否定しちゃって、可愛い奴め。
まあ確かにあれだ…俺自身、好きな女の子――白河には幻想を抱いていたからな…まさかそんな所に毛が生えるなんて、正直考えもしなかったぜ。
でも…そうだよな、同じ人間。
みんなだって、きっとそうなんだろ?
…と、意味もなく全国の女子達に心の中で聞いてみる。
幻想が打ち砕かれた気分でちょっと切ないが、それ以上に白河の秘密の部分に触れて結構満足な俺。
ああ、男って不憫だぜ…。
しかしだな…何だか俺自身も恥ずかしくなって黙っていると、その後も全身を執拗にサワサワと触ってきやがる。
「は、ははははは! 何すんだよっ、や、やめろ! こそばい!」
「い、いいから黙っててよっ」
何がしたいんだよ…。
まあ間違いなく、そういう事だと思うけど。
執拗に全身、太ももから足の先の方まで撫でられました。
「お前…そんなに毛深いのか?」
「ち、ちが――!! え、えぇと…マ、マッサージ! そうよっ美容の為にこうやって擦ると、血行が良くなって…」
いや…絶対無駄毛のチェックだろ。
必死に言い訳しやがって、更に可愛い奴。
しかし…あれだな。
アイドルでも毛は生えるんだよ。
ピュアな俺も勉強になったし、なんだか少し興奮してきた。
目隠しもされてるせいかさ、想像力が膨らんじゃうっていうか…。
クッ―――!! 新たなフェチ要素を俺に植えつけるんじゃねーっ!!
相変わらず、こいつは天然でHな事をしてくる。
き、危険だ…。
「う~ん…まぁいいかなぁ…じゃあ出よっか」
と、明らかに『まだ処理しなくてもいいか』と心の声が聞こえてきそうなコメントを残して、風呂場を後にする俺達。
前から思ってたけど、お前は絶対嘘をつけないタイプだな。
そういうトコ、激しく好きだぜ。
と、一方的に愛を深めたところでシャワータイムは終了。
そして目隠しのままお着替え。
なんだが…。
「俺は何を着るんだ?」
「あ…」
「…い、いっておくが、俺のせいじゃないからな」
「分かってるわよ…」
当然の如く、着替えの無い白河の身体。
俺としては、別にノー下着でシャツを着る―――とかでもいいんだが…。
「しゃーない、脱いだ服着るか」
「い、いやよそんなのー。ダメに決まってるでしょ?!」
「んじゃどうすんだよ、買ってくるのか?」
「誰が行くのよ」
「お前」
「き、君を一人に出来るわけないでしょ!?」
そんな事言ったってな~。
ああ~何この状況。
風呂場の前で、依然二人は素っ裸。
そして俺は目隠しに再び縛り手。
意味不明状態。
「は~、座っていい? 目隠しのまま立ってんの疲れるんだよ」
ペタン。
その場に女の子座り。
あ――――。
なんだかモフモフというか、モゾモゾというか…。
え? なにがって?
いやその…毛が…。
足と足の間って言えば分かる?
何だかさっきから、毛の事ばっかり考えてるんだけど…俺。
でもしゃーないんだって、男だったら、いつもプランプランさせてるものは無いし…。
要するにアレがあるせいで、ピッタリと足を閉じる事なんてない訳で。
つまりはそう言う事でして…。
「美琴呼んでくる」
気になる…。
どうやったら感じる事が出来るんだ?
う~む…。
色々と態勢を変えたり、腰を動かしたりしてみる…。
「……な、何してるの……」
「いやその、毛が気になって…」
「…………」
「…………」
げっ!!
やべっ、つい思った事が口にっ!
「き、君ねぇ……」
「いやっ! ち、違うんだ!! これには訳がっ!!」
「どんな訳よっ!?」
はい、怒られました。
たかが足を閉じてモジモジしていただけなのに…シクシク…。
しかも、今度はその足も縛られてしまう。
「これ以上変な事したら、元に戻った時ホントに酷いんだからねっ」
言葉だけ見れば所詮女の子。
酷いって言っても大した事ないって思うだろうけどさ、こいつはキレると本気で暴力を振るうんです。
しかも最近は、新たな能力でどこからともなく凶器を呼び寄せるしだな…。
学校で白河がやったように、机や空き缶を遠隔?で瞬間移動させて――なんて事、今の俺にも出来るのかな? と、ふと考えてしまう。
ま、必要に迫られたらやり方を白河に聞いてみよう。
そんなこんなで、過去に受けた暴力の数々を思い出しつつ、足をガッチリ固定され大人しくなった俺。
どんな縛られ方なのかはご想像におまかせしますが…絶対これ何かのプレイにしか見えないからっ!
いいのか!?
これ、お前の身体だぞ!?
元に戻ったら、同じように縛ってやろうかと変態想像まっしぐらでいると、すぐ側で一陣の風を感じる。
シュッ―――。
当然周りが見えないので、何があったか知らん。
「あのさ、どんなプレイ中なわけ?」
そ、その声は!
美琴がきたらしい。
ナイスタイミング!
……なのか!?
「え~っとさ…まだ中身神崎君だよねぇ?」
いまいち状況が分かってないのか、不思議そうな美琴。
「あ、あのさ…一体二人で何してたの? どうやったらそんな事になるわけ? どんなプレイ?」
明らかに、『私ついていけないんですけど』的な反応の美琴。
ま、まあ正常な反応と言えよう…。
仕方ないんで簡単に事の顛末を美琴に説明。
二人でシャワー浴びて全身洗ってもらって…そして恥ずかしい部分は上手く説明出来ない俺。
すると「楽しそうで良かったね」などと、完全に第三者的な雰囲気を醸し出しているんで、つい同じボディーをお持ちの美琴さんにうっかり聞いてしまった。
「あのさ、白河って実は毛深いのか?」
この一言が運の尽き。
ほぼ同じ性格の持ち主である。
どこかのスイッチを入れてしまったのか、
「き、君って人は……お、女の子に何て事聞くのよっ!!」
恐らくこの身体が白河の物だという事も忘れていたのだろう。
一瞬で頭上に無数の気配を感じ、次の瞬間にはドサドサと何かが降り注いで俺に打撃を与えてくる。
たぶん匂いからして本やら雑誌やらだろう。
硬い物じゃなくて良かったと思いつつも、
「痛っ!」
中にはハードケースの角といった凶器も含まれる。
そして怒った美琴は「ふんっもう知らないっ」と、どこかへ行ってしまう。
再び一人にされてしまった俺。
傍から見たら、手足を縛られた少女が何十冊という本に埋もれて、伸びているという図である。
「彩乃~早く帰ってきてくれ~~」
普通に妹に助けを願う俺だった。
◇◆◆◇
「じゃ私そろそろ帰るね、明日早いし」
「あーうん、そだね。朝普通に事務所に出勤だから」
「うん、りょうかーい」
あの後、なんとか落ち着いた俺達。
明日の白河の予定―――テレビ出演と打ち合わせを美琴に頼み終わった俺達は、リビングのソファーでくつろいでいる。
「ふあぁ~…もう眠いね」
「ああ、さすがにな」
既に結構遅い時間だった。
「んじゃ、白河は彩乃の部屋使ってくれよ」
「うん分かった」
という感じで、お互いの部屋に別れたはずだったんだが…。
「紐解いたらどうなるか分かってるよね?」
「も、もちろんです」
「ちゃんと寝てよ? 寝不足はお肌に悪いから」
「ああ…で、でも寝れるかな~」
何故か妹のベッドで一緒に寝ています。
お互い、姿形が変っているとはいえ、基本は俺と白河です。
二人で寝るなんて…悪くねえ。
悪くないんだが…。
「あのー白河さん? せめて足だけでも自由にしてもらえないでしょうか?」
「それは無理」
「じゃ、じゃあ…後ろで縛っている手をせめて前で縛ってほしいなあ、なんて…」
「あーもっと無理」
シクシク…。
こんな状態で寝れるかっちゅーのっ!!
酷くない!? 俺の扱い酷くない!?
こうして、初めての二人の初夜は何事もなく更けていったのだった。
隣ではス~ス~気持ち良さそうに寝息を立てる、我が義妹の可愛い寝顔。
そして身体が不自由で、ゴロゴロと寝返りを繰り返すが眠れない俺。
明日は土曜日だ。
この状態で、一日白河と一緒なんだよな…。
どう過ごそうか…はたまたこの天然娘が何を言い出すのか…色々妄想しつつ、やがて眠りに落ちた。
6話に続く