第3話 魅惑の身体に理性と本能
え~~っと……
俺達三人は、今のこの状況をまだ理解出来ないで居る。
「一体何が起きたんだ?」
「知らないわよ……私に聞かないでよ」
「彩乃…? お前、話し方変だぞ?」
「だから私は彩乃じゃないってば…」
「兄さん、彩乃はこっちですよぅ」
「その姿で甘えた声だすなっ!!」
彩乃が消えて、そして俺と白河も消えて……というやばい状況からは一転。
引き続き、不可思議なこの現状。
第三者がこの状況を見ても、間違い無く何も違和感はないだろう。
だがしかし――俺達はこの異常さに付いて行けず、ただ焦っている。
自分の身体に起きた変化。
変化といっても、別に異常があるわけじゃ……いや、おおいにあるんだが……。
何が起きたか説明が必要ですか?
だよなー。
取り敢えずだな、現状見たまましか説明できねぇからな。
俺達は俺の部屋に居る。
もちろん彩乃と白河とだ。
え? 消えたんじゃなかったのかって?
まあな、確かに消えたんだが……その後また身体が光ってだな…出現したんだよ、すぐに。
しかし大いに問題があってだな、俺達は元の状態とは大いに異なっていたんだ。
まあ本当に説明が面倒なんで、見たままを言うぞ。
俺の前には俺が居る。
俺の横には彩乃。
そして俺が白河。
え? 意味分かんない?
勘の良い読者の方は、冒頭の会話で気付いたかも知れんが…。
そう…俺達の身体は一度粒子化し、その後―――再び現れた。
姿を変えて―――。
白河は彩乃の姿に。
彩乃は俺の姿に。
そして俺は―――なんと白河に…。
姿が変ったのか、はたまた中身が入れ替わったのか…?
それは一切不明。
ありえないこの日常を説明するには、非科学的な推理が必要だ。
まずはあれだ。
如月さん絡みの、何かの実験…。
知らない間に、何らかの薬を飲まされた――とか。
う~む…しかし、いくら如月さんでも人の姿を変化させるなんて事、可能なのか?
とすれば、考えられるのは…。
彩乃をじっと見つめる…。
俺の姿をした彩乃は、どこから持ってきたのか手鏡で自分の姿をまじまじとチェックしている。
まあ、こいつは部外者確定だろ。
次いで白河…。
彩乃の姿をした白河は恨めしそうに俺を見つめ、さも俺が犯人であるが如く問いただしてきた。
「何よこれ。何がしたいわけ? 変なイタズラしたら怒るから」
「俺じゃねーしっ!!」
あ~あ、自分の声がやけに可愛い。
そりゃそうだ、白河の声だかんな。
でも何だよ…白河のやつ、俺が何か企んでると思ってやがるな?
彩乃の顔で不機嫌な表情のまま、「どうすんのよこれー、元に戻るの?」と俺に訴えてくる。
って事はだ…。白河の新能力じゃないって事なのか…?
「これってお前の能力じゃねーのか? 無意識に発動させたとか――」
「そんなわけないでしょ!」
即答で否定される。
変だな…それじゃ何が原因だ?
…………。
しばし考えて、一つの可能性に思い当たる。
そういえば俺の身体って、如月さんにかなり弄られてるよな?
まさかとは思うが、俺の能力だったりして…。
そんなバカなだよな~~。
いくら如月さんでも…な?
しかし…
彩乃の姿をした白河…。
不機嫌そうに腕を組んで、相変わらず俺を疑っているのかこっちを睨んでくる。
う~む…。
妹のこんな冷たい視線は、生まれて初めてだぜ。
「兄さ~ん…彩乃…どうしたら…」
彩乃が俺の姿でモジモジしつつ、俺の腕(白河の腕な)にしがみついてくる。
ギャーー!!キモイ!!
「ちょ、ちょっと私に触るのやめてよ!」
すぐさま白河が止めに入る。
バシッ!!
「―――い、痛いですぅ…」
彩乃の姿をした白河が、俺の姿をした彩乃を引っ叩いたの図。
「あ…ご、ごめん…彩乃ちゃんだっけ…あ、あははは…」
ポリポリと頭を掻く彩乃の姿をした白河…。
だああああああああああ!!
ややこしい!!
「一体何なんですかねぇ…」
「どうやったら元に戻るの~?」
それぞれ、いつの間にか鏡を手に持ち、自分の顔を必死に見ている。
この状況にかなりヘコんでいるみたいだ。
まあそりゃそうだよな。
自分がいきなり他人になってみな?
そりゃ大変だよ、大騒ぎさ。
え? 俺はヘコんでないのかって?
別に? ヘコむ必要なんてあるのか?
こんなの、絶対如月さんが絡んでるに決まってるだろ。
あれこれ考えたが、結局そうとしか思えん。
まあ大丈夫だろ。
そんな事よりさー聞いてくれよ、俺の身体…うししし…白河だぜ?
ちょーいい匂いするんだよね。
風呂上りなのかな?
ちくしょーー!! 色々気になるぜ!!
サッと顔を上げ二人を確認すると、まだ鏡とにらめっこ中だ。
よしよし…。
俺は二人に合わせ神妙な顔をしたまま、こっそり自分の髪の毛をクンクンしてみる。
すると、強烈な甘い柑橘系の匂いが、鼻をくすぐる…。
ああ~なんか、すげーいい匂いがする…。
か、感動だ…。
次は、さりげなく手で鼻を掻いてみる…。
そして普通に腕をクンクン…。
ああ~なんだろこれ、俺の匂いじゃない。
女の子の匂いだ…たまんねー。
……。
え? そうじゃないだろうって?
もっと気になるところがあるだろって?
まあな。
この身体になってから、妙に肩がこるっていうーか…ある部分が重いっていうーか…。
チラッと下を見てみる。
そこにはデカイ胸。
いつぞや俺が買った、あのパジャマを着たこの白河の身体…。
胸元が大きめに開いている為、薄いピンクのブラまでもが少し見える。
ぐおおおおお!!俺の憧れの胸がすぐそこにぃぃぃいいい!!!
さ、触りたい…。
あくまでもさりげなく、彩乃と白河をチェックする。
二人も自分の身体を気にして、こっちを見てはいない。
チャンス到来ってやつ?
しかしだな、わざとらしくはダメだ。
あくまでもさりげなく…何となく胸が痒いな~的な。
自然に手が伸びちゃって、全然無意識だったんだよー…的な?
ゆっくりと手を胸に伸ばす……。
伸ばす…。
ガシッ!
え? ふいに腕を捕まれる。
「ちょっと、今、何をしようとしてたのかなぁ?」
目の前には、物凄い恐い顔の彩乃の顔をした白河。
「え~っと…なんか、胸が痒いな~なんて…ははは」
「やめてよね!私の身体に触らないで!! 触ったら……本気で絶交だから」
こ、こんな怒った彩乃の顔を見たのは初めてだぜ…。
横目で彩乃(俺の姿の)を確認する…膝を抱えて小首を傾げ、指を口元に当てている。
キ、キモイ…俺キモイ…。
すると、何を思ったか彩乃は白河の身体(彩乃の身体)にしがみついた。
「キャッ! え?え? 何するの?神崎君? …じゃなかった…彩乃ちゃんっ」
「兄さんっ彩乃の身体だったら、また触ってもいいですっ!」
そう言って、彩乃は彩乃の身体を目の前に差し出してくる。
それはもう『どうぞ、好きにして下さい』的な感じで。
「ちょ、ちょっとやめてよ彩乃ちゃん…ていうか、またってなによ、またって!」
「べ、別になんでもねーよっ!! 彩乃っ!!ややこしくなるからお前は黙ってろっ!!」
「そ、そんなぁ…はい…分かりましたぁ」
俺が怒鳴ったんで、シュンとなる妹。
「兄さんのバカ…」
部屋の隅っこで、体育座りでイジイジする妹。
だからやめれ…俺の姿でイジケルの…。
全然慰めたくならないんですけど…。
そんな微妙な空気が漂う中、白河が唐突に立ち上がった。
当然、俺と彩乃の注目を集める。
しかし、白河は微動だにしない。
冷ややかに、俺を見つめている。
一瞬、俺の邪まな気持ちが悟られたかとも思ったが、ここは動揺してはいけないと考え落ち着いて俺も対応する。
「ん? どうした、白河」
「……」
あくまでも普通に声を掛けたが、反応の無い白河。
「おーい、どうしたー?」
下から可愛く手を振ってみるが、そんな俺を冷たい目で見下げてくる。
「……気安く声掛けないでくれる? 君とはもう他人だから」
彩乃の声で、冷たい声を投げかけてくる白河。
他人?
他人って何?
胸触ろうとした事、まだ怒ってるのか…?
「な、なあ…さっきはごめんな? もうこの身体触ったりしないから…な?」
「その事じゃないわよっ、一条さんと付き合うんでしょ!?」
腕を組んで、ふんっ――とそっぽを向く白河。
げっ…またその事ぶり返したのかよ…。
まずいな…だいぶ根に持ってんな…。
「あ、あのさ白河…」
「…なによ? 他人だって言ってるでしょ。話しかけないで」
う……いつにも増して冷たい口調。
でも妹の姿だから、そんなに恐くはないぞ。
とか言いつつ完全に腰が引けてる俺だが、一条との件はもう終わったんだ。
だから、話せばきっと分かってもらえる。
なんたって、俺が好きなのは白河だけなんだし。
「その事は、身体が戻ってから…な? その後、ちゃんと話そう」
「……いや……」
「嫌とか言うなって…このままじゃ、俺が白河なんだぞ? …んで、お前は俺の妹…」
真面目な顔で白河を見つめる俺。
そんな俺を、チラッと一瞬振り返って一瞥する白河。
そして白河はこっちに向き直ると、「…分かった…」と小声で呟きその場にペタンと座る。
やれやれ…。
女の子って難しいよな。
しかし…彩乃の姿をした白河が妙に可愛く見えてきた。
不思議だ…見た目妹なのに…。
いや、いやいや…混乱するな!
元に戻った後、妹が可愛く見えたらどうする!?
いや、そうじゃなくて実際に妹は可愛いんだが…。
「じゃねええ!! 俺が好きなのはこの身体だろっ!!」
俺は無意識に立ち上がり、そしてまた無意識に自分の胸を両手で鷲掴みにした。
!!!!!!!!!!
し~~ん
部屋の中に微妙な空気が漂う…。
で―――でかい―――。
自分の胸の重みから、何となく質量は感じていたが…これ程とは―――。
この時、俺の中で何かが切れ、我慢が出来なくなった。
もっと触りたい―――。
でもこの硬いワイヤー入りのブラが邪魔だ―――。
そう思った俺は、迷わず手を後ろに廻しホックを――――
―――外せるわけはなかった。
ガシッとつかまれる、俺の両腕。
当然つかんだのは、白河だった。
「彩乃ちゃんっ、ロープある!?絶対緩みそうもない、頑丈なやつ!!」
「は、はいありますっ! すぐに持ってきますっ!!」
慌てて部屋を出る彩乃。
そして目の前には、これまた彩乃の顔をした鬼の形相のなにか。
その恐い顔のお方は、肩をプルプル震わせ硬そうな握り拳を作っている。
「ぎ…ぎみねぇ…」
「お、おい…女の子が、そ、そんな歯を食いしばりながら喋っちゃ…ダメ…じゃないかな…ははは…」
右手の拳を硬く握った白河は、ワナワナとその手を震わせている。
「…その身体、私のだから暴力は振るわないけど―――絶対…後で後悔させるから…」
低い声――さらに小声で話す白河は、マジで恐かった―――。
◇◆◆◇
「そのまま大人しくしてなさいよね」
「はい…」
「そうですよー兄さん、さすがに人が嫌がる事はしちゃだめですよぉ」
「はい……」
引き続き、俺の部屋。
三人が輪になって座っている。
そして…お察しの通り、俺の両腕は後ろ手でがっしりとロープで縛られている。
さながら、誘拐された少女のようだ。
悲しい…しくしく。
そして今は、どうしてこうなったかの会議中。
「私が思うに、如月さんに相談した方がいいと思うの」
「ですよね~、彩乃達だけで考えててもぉ…」
チッ、やはりそういう結論に達したか…。
くそっ…俺はまだこの身体に、やり残している事が沢山あるというのに。
そう思いつつ、胡坐をかいていた足がしびれてきたんで組みなおす。
「ちょっと…なにもぞもぞしてんのよー」
「何もしてねーよっ! いちいち反応すんなっ、お前の足はすぐしびれんだよっ!」
「そんな下品な座り方してるからでしょー! やめてよ恥ずかしいからっ」
言われて自分の足を見る。
胡坐がきついんで、片足立てた状態で座ってる俺。
確かに、白河の身体でこの格好は似合わない。
ちなみに言っておくが、現在まだパジャマなんで下はズボンだからな。
味気ねぇ。
太ももぐらい見たいよなー。
仕方なく、不本意だが女の子座りをしてみる。
ペタン。
お、座り易い。
膝の角度がありえない感じだが、内股の女子ならでわってやつ?
男の足じゃ絶対無理だよな。
そんな事を感じながら周りを見渡すと、何やら妹(俺の身体だぞ)に注目が集まっている。
何故かモゾモゾと、自分(俺の)股間をまさぐる妹。
その行為を止めもせず、見守る白河。
「あ、あのー…彩乃さん? 何をなさってますか?」
「あ、はい…大きくならないかなぁ…って…」
な、なんですとーーーー!?
嬉しそうに俺の息子いじってんじゃねーー!!
「やめれっ!!!」
俺は身体ごと妹へダイブ!
ドンッ―――ゴツッ。
「痛っ!!」
させるかボケッ!!
「い、痛いですぅ…た、棚に頭を…い、いきなり何するんですかぁ白河さん」
「私じゃないって! お兄さんでしょ!?」
◇◆◆◇
その後もギャーギャー騒いで数十分経過―――。
「んで、行くんだろ?研究所。早くしないと如月さん帰っちゃうぞ」
「あ、うん、そうだよね。じゃあテレポするから」
「捕まって」と、手を差し伸べる白河。
「掴めねーよっ!!」
自分の縛られた手を突き出す。
「ああそっか…ごめんごめん」
白河はそう言うと、俺の肩にそっと手を乗せた。
「ちょっと待ってね」
目を閉じ、集中しているのか、妹の顔で真剣な表情の白河。
横では、呆けた表情で天然丸出しの俺の顔をした妹。
部屋が静まり返り、緊張感が増した。
そのまま数十秒…いや数分が経ったかも…。
そして白河が、パチリと目を開ける。
「あはは…なんにも感じないし、出来ないみたい」
ガクッ―――。
今の緊張感は何だったんだよ…。
「彩乃ちゃんの身体じゃ無理みたい」
てへっと舌を出してハニカム白河。
その仕草は、妹の姿にとても似合っている―――
「―――じゃなくて! どうすんだ? 歩いて行くか?」
「ん~~、それでもいいけどぉ…その格好で?」
白河が俺に目配せしてアピール。
成る程…確かにアイドル白河を、パジャマで夜道は歩かせられない。
いや、アイドル以前の問題か。
「んじゃどうする? 取り敢えず、妹の服でも借りるか?」
「んん~~…どうしよっかなぁ…」
真剣に悩む白河。
ったく…別にいいじゃねーか、ちょっと出かけるだけなんだから。
と思ったが押し黙る。
すると、白河はスクッと立ち上がり、
「取りに帰る」と一言。
俺は慌てて「ちょっと待て」と制した。
だってな、白河んちって確か―――
――――結構遠いんだよな。
そう思った瞬間、俺の意識は夜空にあった。
そして空高く昇っていく…。
な―――なんだこれ…。
周囲の全てが感じられる。
全ての人の動きが分かる。
そんな中、俺の意識は猛スピードである一点を目指していた。
グングン近づく白河のマンション。
風も何も感じない…周囲の風景だけが、物凄いスピードで流れていく―――。
―――ふっ―――っと意識が飛びかけた瞬間、俺は白河のマンション自宅に居た。
す、すげぇ…俺、テレポしちゃった…。
き、気持ち良かったー。
あいつ、こんな感じでいつも飛んでたのかー。
だいぶ羨ましいな…。
……。
しばし放心。
……。
おっと、折角だから服でも持って帰ってやるか。
本来の目的である、この身体専用の服を探さないと。
キョロキョロと部屋を見渡す。
相変わらずのピンクのベッド、ピンクのカーペット。
目がチカチカするぜ。
ベッドの横には、新しいテレビとゲーム機。
俺が買出しに付き合ったやつだ。
汚れないようにか、どちらも布製のクロスが被せてある。
ぷっ―――。
いつの時代の人だよ。
昔、おばあちゃんちのテレビに布が被せてあったのを思い出す。
まあ大事にしてくれてるようで…微笑ましいじゃねーか。
そんな感じでニヤついていると、壁に掛けられた学校の制服が目についた。
おおいつものやつだ。
あれなら文句ないだろ、持っていくか…。
と思ったんだが…手が縛られてるんで却下。
…戻るか。
諦めて、テレポモードに入る。
感覚を広範囲にして集中―――。
さっきので、既に何となく感じは分かった。
この能力…慣れると簡単だぜ。
俺は自宅に意識を集中させると、一瞬で姿を消した。
◇◆◆◇
お待たせ♪
再び俺は、一人で白河の自室にいます。
そうだよ、制服を取りにきたんだよ。
え? よく一人でまた来れたなって思ってる?
だってな、他人をテレポに巻き込めなかったんだよ。
何度かチャレンジしたんだけど…無理だった。
『一人で私の部屋へは行かせない』
って、白河には抵抗されたけどさ。
出来ないんだよ本当に…どうやってんだあいつ?
まあそういう訳なんで、出来ないフリをわざとしたわけじゃないからな。
別に家捜しする気も無いし、タンスとか開けたりもしない。
俺はそこまで落ちぶれちゃいないって。
え? 少しは読者の期待に応えろって?
悪かったな、俺は変態じゃないし、本気で白河が好きなんだっ。
あいつの嫌がる事は、断じてしない!
てなわけで、俺はさっさと壁にかかった制服を手に取る。
おおーちょっと感動。
これがいつも触りたくてしょうがなかった、白河の制服か~。
さっきの発言が嘘のように、邪まな気持ちでいっぱいになる俺。
そしてテンション上がるぜ!
ついベタベタと触ってしまう。
……。
……ゴホン。
しかし…気付かなかったけど、随分この制服小さいんだなー。
やっぱ女の子なんだよな~。
感心しつつ、つい匂いを嗅いでしまう。
クンクン…。
ああ…これだ…白河の匂い。
こ、この位いいだろ?
続いて、自分の腕の匂いを嗅いでみる。
同じ匂いがする。
またちょっと感動。
……。
……。
……ゴホン。
おっと、楽しんでちゃいけないな。
早く戻らないと何言われるか分からん。
さて戻る…か――――
――――!!!!!!!!――――
瞬間、俺の目は無造作にほっぽり出されている、あるものに心が奪われる。
カーペットの上にある、二つの物体。
ブラとパンティー。
な、何故、このような物がここにある!
い、いや…落ち着け…冷静になれ。
ここはあいつの部屋。
あっても可笑しくないだろ。
しかもだな…あのパンツには見覚えがある。
いや、確信がる。
今日学校で見た、白河が履いていたパンツだ。
あのピンク色の物体…間違いない。
と、ということは…ま、まさか…脱ぎたて…!?
ど、どうする!?
今なら、手にとって…あんな事やこんな事…。
でも待て、もしだ。
もし下着にそんな事をしたってバレてみろ、ガチで命の危険が…。
…しかし、こんな無造作にここにあるんだ、俺が気付かない訳がない。
あいつがここに戻ってきたら、何もしてなくても俺は殺されるんじゃ…。
理性と本能が戦闘する中、俺は無意識にブラを拾い上げる。
あれ? なんかこのブラ…ちょっと大きくないか?
まさかあいつ、更に成長したんじゃ…。
気になって、棚にあった大きめの鏡に全身を写してみる。
そして、上半身が入るよう鏡を固定する。
当然写る、可愛い白河。
ニコッとしてみる。
ぐおっ!!
か、可愛い…!!
こんな無邪気な笑顔、み、見たことねえ…。
ああ、しまった、携帯持ってきてれば写メれたのに。
……。
……。
ハッ!!
な、何やってんだ…俺。
し、しかし…やっぱりちょっと大きいよな?
鏡の前で、色々態勢を変えてみる。
う~む…やっぱり、この斜め45度の角度が一番可愛く見えて、胸も大きく―――
―――ってそうじゃねえ!!
早く戻らないとっ!!
◇◆◆◇
「ただいまー」
自宅に戻ってまいりました。
そして戻った瞬間―――白河が俺をギロリ。
ドキッ!
う…物凄い罪悪感。
え? さっきのパンツはどうしたかって?
そ、そりゃ…君達…あんな誘惑に勝てると思うか!?
「―――――くん」
若干…手に取ったりだな…。
え? 本当に手に取っただけかって!?
「――――くんっ!」
説明出来るか!!
文章に出来るか!! ちくしょうーー!!
俺はもうダメだ…やっちゃいけない事をしちまった…。
ああ…坂崎よりも、俺は変態だ…いや…犯罪者なのかも…。
「ちょっと!! 聞いてるの!?」
「―――へ?」
白河口調の妹声に我に返る。
「どうして制服とってくるだけで、こんなに遅いわけ!? って、何度も聞いてるだけど…」
「ひゃい!? あーその…それはだな…」
緊張のあまり、声が裏返る俺。
瞬間、白河の顔(妹だけど)がサーっと青ざめる。
「ま――まさか…胸揉んだりしたの?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「ち、違うの? も…もしかして…裸…見た…とか?」
「……」
言葉もない程、呆然。
もしかして俺、最高のチャンスを棒に振りましたか?
折角一人になって、目の前に白河の身体があるというのに…
たった一枚の布着れに、俺は翻弄されたっていうのか!?
まさか! あの下着は囮!?
俺は選択しを間違ったっていうのか!!!!!?????
「ぐおおおおおお!!! やってくれたな白河!!!!!!」
「え?え? な、なによ!? なんだって言うの!?」
「純粋な男心を弄びやがってえええええええ!!!」
俺は天に咆哮した――――。
とその時―――妹にスリッパで叩かれた。
バシッ―――。
「痛っ」
「兄さん…大丈夫ですか」
「…はい、大丈夫です…」
◇◆◆◇
「本当に見てないの?」
「見てないよ」
「でも触ったりとかは…したんでしょ?」
「触ってもねーよ」
今は、如月さんとこに行く途中。
あれからずっとこんな感じ。
まあ俺の挙動も、明らかに可笑しいからな。
しかも聞いてくれ、俺は今、制服を着ている。
でもな、お着替え中は厳重に目隠しされるわ、おまけに…やっとスカート履けていい事あるかと思ったら、パンツの上に短パンなんか履かせやがって…。
どんだけ俺の楽しみを奪ったら気が済むんだよ。
そんな感じで、三人で歩いてるんだが…。
チラッと妹を見る。
何故か制服から、私服に着替えてやがる。
どうして俺の身体が外出するのに、着替えるわけ?
普通に必要ないだろ。
まあいいか…俺の身体がどうなろうと…。
良かった…白河が俺の身体じゃなくって…。
あ―――――。
その時気付いた…。
白河が執拗に俺を責める訳。
想像してみてくれ、自分の身体が好きな人と入れ替わったとしたら…。
死ぬ程恥ずかしいよな?
見られたくない事、知られたくない事だって、そりゃ誰にでもあるさ。
かなり悪い事したかも。
よし…俺も男だ。
今後は紳士な対応を…。
「…う…」
順調に研究所を目指していたが、緊急事態発生により俺は立ち止まる。
「ちょ、ちょっと何よ…なんで立ち止まるの?」
「どうしたんですか、兄さん?」
やばい、かなりやばい。
何がって、説明もしたくない。
でもどうする?
このまま耐えたって、いずれ崩壊する。
その時は――――もちろんBADエンド確定だ。
ならば…ならば男なら、辿る道は一つ!!
―――っふ、俺は紳士になるって決めたんだ。
こんな事じゃへこたれないぜ!
だから俺は、男らしく言ってやったのさ!
「ちょっとコンビニのトイレ寄ってくる―――」
俺はそう言い放つと、サッと踵を返して通りすぎたコンビニへと向かう。
が――――。
ガシッ――――。
当然のように腕をつかまれた。
「行かせるわけないでしょ!! バカなの君って!?」
「仕方ないだろっ、本当にしたいんだよ! 漏れそうなのっ!!」
本当です。
やましい気持ちは一切ありません。
ガチで漏れそうなんだよ!!
俺だってやだよ!
好きな子の排泄行為なんか見たくもないっちゅーの!!
「ほ、ほんとなの?」
「本当だって! だから行ってくる」
悲壮な顔をする白河の手を振りほどき、再度コンビニへ。
が――――。
ガシッ――――。
再び腕をつかまれる。
「なんだよっ! 早くしないとやばいんだって!」
「やめてよコンビニとか! 私って目立つのよ! だから嫌なの! コンビニは止めて!!」
必死に懇願してくる白河。
むむぅ…確かに。
アイドルが普通にコンビニに居たら目立つし、そんな中トイレとか借りたくないよな…。
「兄さん、急いで家に戻りましょ? ね? 頑張って我慢して下さい」
妹に、俺の声で諭される。
そんな訳で、方向転換し自宅を目指す一行。
内股でモジモジしながら歩く俺。
き、きつい……なんだよ、これ。
そもそも、ここまで溜める理由が分からん。
もっと小刻みにトイレに行けよ……などと思いつつも、決して口には出せるわけなく…。
そしてアソコを手で押さえたい衝動を、必死で我慢。
も、もつのだろうか…。
道中、白河には何度となく同じ質問をされた。
「大じゃないよね? 小だよね? ね?」
答えは小です。
もし大だったら俺、立ち直れねーよ―――。
そんな感じでようやく自宅に着いた俺達。
そしてトイレに入った訳なんだが…。
なぜか白河同伴です。
「早くっ! 早くっ!! で、出る! 出ちゃうってっ!!」
「あ~んもう! お願いだからもうちょっと我慢してよ!」
く、くそ~~マジかよっ! こっちはトイレに入った瞬間に発射態勢なんだぞっ!!
そして白河同伴の訳。
再び目隠しされる俺。
しかも、濡れティッシュを鼻に差し込まれ、鼻栓までされてます。
ここまでする必要あるか!?
今鏡見たら泣くぞ俺!
男ってもんは、好きな子に幻想を抱いてるもんなんだ!
そんな白河の顔想像したくないんですけど!?
「じゃあパンツ脱がせるから」
「お、おう、頼む」
ま、まあいいか…俺としても助かるし。
白河にパンツを脱がされ、いざ便器へ着座!
はぁ~~間に合った~~。
俺は自発的に耳を塞ぐ。
出来れば、これはなかった事にしたい。お互いに。
何も聞こえない、何も見ない、何も感じ――――
「……あん……」
「ちょっと! 私の声で変な声出さないでよっ!!」
「出したくて出したんじゃねーよっ!! お前が変なとこ触るからだろっ!?」
「―――しょ、しょうがないでしょ!? 拭かないとダメなんだから!」
そう言って、再びふきふきする白河。
「……あっ……」
「だから変な声出さないでって!!」
「知らねーよ、もっと優しくしろってんだよ! 思ったより敏感なんだよそこ!!」
「何を思ってたのよ!! Hな想像するのやめてよっ!」
「してねーし! じゃあせめて、ウォシュレットぐらいしてくれよ」
「嫌よっ!」
そうかい、そうやって軽い嫌がらせをするってんだな。
分かったよ。
見えないが、ボタンの位置くらいは分かる。
こうなったら、自分で押して発射するさ。
その方が綺麗になるしなっ!
ボタンへと俺は手を伸ばす…
が、バシッ―――っと手を払われる。
「させろよ!」
「嫌よ!! 絶対させない!!」
「なんでだよ!! 綺麗になるだろ!?」
「そうだけどっ!! 絶対やだっ!!」
「何がやなんだよっ!!」
大騒ぎだった…。
たかだか小をするだけで、実に30分。
漏れなかったのが奇跡。
しかもこの後妹が、「彩乃もしたいです」と言い出し再び待つこと10分。
そしてさっぱりした俺の顔で出てきた妹の第一声―――。
「―――兄さん! いっぱい出ましたよっ大きい方!」
好きな子の目の前で、なんて事してくれんだよ…。
白河も、思いっきり聞かなかったフリしてドン引きじゃねーかよ!!
そして兄の尊厳は!?
何なの!? この辱め!?
嗚呼……最初は楽しいと思ったのに…。
色々問題あるよね…。
だって俺達、生きてるんだもん。
如月さん、早く元に戻してくれ…。
4話に続く