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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第2章 カラダが改造されたあと
22/45

第2話 すれ違い 後編

『嫌い嫌い嫌い嫌い!!! 神崎君なんか大ッ嫌い―――――!!!!』



このフレーズ、何回俺の脳内で再生されたと思う?



「はあ~~……」



溜息しかでねえ…。


悲しすぎて思考停止。


あいつの中では、既に恋人同士だったんだろ?


そんな夢にまで見たシチュエーションを、俺はフイにしてしまった。


このままずっと口聞いてくれないなんて事―――ありそうで恐い…。



くそーーーっ!! 


あいつの考えてる事さっぱり分かんねーーーっ!!!



体育館裏に散らばったグッズ――机やら椅子やらその他もろもろを、半べそかきながら片付ける俺。


とりあえず倉庫にな。


そりゃそうだろ、あいつが何処から飛ばしてきたのか知らねえもん。


え? そんな事どうでもいい? 


そりゃ俺だって白河を追いかけたいよ…。


でもな――はっきり言って瞬間移動出来る相手にそれは無理だって――。


行き先不明。


俺は一旦教室へと戻ったが、あきらめてとぼとぼ下校した。




◇◆◆◇




「どうした? 神崎、元気無いぞ?」



この聞きなれない喋り方の少女、その正体は美琴である。



「ちょっとな……いや――ちょっとどころの話じゃないか…」



俺はガクッとうな垂れつつ、ソファーに倒れこむように座った。


そう、ここは如月さんの研究所。


だが如月さんは居ない。


居たのは美琴だけだった。


ひょっとしたらさ、白河が来てるかな~~なんて思ったりしたんだが…。


美琴を見た瞬間、見つけたと思ってそりゃもう心臓バクバクだったぜ。



「元気出せ! 神崎っ」



隣に座って来た美琴が、俺の肩を叩いて励ましてくれる。


ここではお約束のメイド姿で。


こいつさ、かなり喋れるようになっただろ?


ぶっちゃげ、もう途中で噛んだりもしないぜ。


凄いよな、たった数ヶ月でさ。


ただ……



「悩みがあるのか? なら…美琴に打ち明けるが良いさ」



この通り、話し方が微妙…。


なんだか、白河と如月さんを足して二で割ったような感じに仕上がってしまった。


ここでの生活が長いからだろうか…?



「しっかりしろ~~神崎~~」



人がヘコんでるのに、しつこく身体のあちこちにチョップを入れてくる…。


ちょっと待てよ……こいつも基本的に白河だよな?


記憶もかなり流れ込んだとかって、如月さんが言ってたし…。


相談してみる?



「美琴…お前さ、白河の考えてる事…分かるか?」


「え? 真琴の考えてる事? う~~~~ん…………」



あれ? 唸って黙り込んだぞ?


なにやら額に拳を当て、う~~んと唸り続けている。


すると、ハッと顔を上げて、



「ダメーーっ、遠すぎてテレパシーが届かない……ごめんなさーーい」


「は? テレパシー? 何言ってんだお前?」


「何って…心の中で呼びかけているのだ! 分かるぅ?」



テレパシーだろ?


その意味は分かるけどさ……常識を考えろよ、さすがにそこまでは無理だろ。


俺、おちょくられてんのか?



「お前、俺で遊んでない?」


「本当だよー。美琴と真琴は繋がってるんだ~~」


「またまた~~」



不思議な顔をする俺に、美琴はフフンと自慢げな態度。



「これだからパンピーは困るな~~、説明したげよっか―――?」



そう言った美琴はコホン――と咳払いをし、如月さんのような口調で話し始めた。



「真琴と脳波を同調させた私は、まず最初に空間転移が可能となった。その後――何度か記憶の移植をする度に、お互いの気持ち――そうだな…考えている事がわかるようになった私達は―――」



ははは……まんま如月さんなんだけど…。


可愛くねえ…。


ま、そりゃ置いといてだ。


え~と…話しが長いんで割愛させていただくと、要するに…思念というかテレパシーと言うか、心の中だけで会話出来るんだとさ。


あいつら……益々ファンタジーだな…。


もう何でもありって感じ…。


え? そんな能力がある事、もう知ってたって!?


そりゃ悪かったな…。



しばらく説明を続けていた美琴だったが、だからな――と如月さんのような表情で言った。



「今度直接聞いて見よっか? 何を聞きたい?」



突然、普通の女の子口調に変わる美琴。


調子狂うじゃねえかコノヤロー。



「いや――それはまずい……え~と、なんだかちょっとさ…喧嘩なのかな? 俺、嫌われたんだよね」



はははーーと、乾いた笑いが出る俺。



「もぉ~~!! 君が私の胸ばっかり見るからでしょ!?」


「ぬおっ!! ご、ごめん白河――――っておい!! あいつの口調で話すのは止めろ!!」



テヘッ――と下を出す美琴。


一瞬ガチで反応したじゃねえか……。


おさっしの通り――口調を変えれば、まんま白河の美琴さん。


物凄くクオリティーの高い物真似を見た気分だぜ。


そりゃ反則だっちゅーの。



「―――で、どうして喧嘩したの? 言ってみ言ってみ」



ワクワクしながら聞いてくる美琴。


人事だと思って……。


でも、こいつは殆ど白河だもんな。


そう思い、俺が死んだ日の出来事―――コンサートで起きた事や、死ぬ間際の約束―――そして、今日までの事―――。


包み隠さず、全部話した。


すると、しばらく腕を組んで考え込んだ美琴は、顔を上げて言った。



「大丈夫だよ。まだ全然――君のこと好きだって」



真顔で言う。


そうなんだろうか…。


俺が黙っていると、美琴はこうも言った。



「美琴も君のこと好きっちゃ好きだけど、真琴ほどじゃないから―――だから本当の真琴の気持ちは分からない」



悲しいお知らせだったが、でも―――と美琴の話しは続く。



「拗ねてるだけだと思うよ」


「そうなのか?」


「うん――真琴はまだまだ子供だからね―――」



やけに人生経験豊富な態度の美琴さん。


自分のクローンに子供扱いされる白河……切ないぜ。


しかし――美琴の解説によれば、まだまだ見込みはあるって事だ。


ちょっと安心した…かな?



「安心するのはまだ早い! ほっとくとやばいよ、本当に嫌われるよ?」


「う~む、そうなのか…?」


「神崎が落ち込んでいる以上に、真琴は傷ついているの!!」



どうして分からないの―――?


まさにそんな顔をされてしまう。


そして――白河を傷つけてしまったという現実を言われ、自己嫌悪に落ちる俺。



「俺があいつを傷つけた……あいつを……俺にとって、天使みたいなあいつを――」


「だからぁ~~、落ち込んでる場合じゃないって―――行くよ!」



そう言われ、腕を捕まれた俺は人生初の瞬間移動に巻き込まれた―――。




◇◆◆◇




一瞬で瞬間移動――如月さん言わく空間転移したその場所は―――



「彩乃ーーーっ! 遊びに来ったよ~~~」


「は~~~い」



俺んちの玄関だった。


美琴に呼ばれてパタパタと玄関まで走ってくる彩乃。



「珍しいじゃないですかぁ、美琴さんが遊びに来るなんて~~」



はて? お前ら知り合いなの?


ま、どうでもいいか……はっきり言って、突っ込む気力すら無いし。



「うんうん遊びに来た。お姉ちゃんも別世界に行ってるし、暇なのさー」



はあー、みんなの為に説明するが、お姉ちゃん(・・・・・)とは如月さんの事だ。


そう呼ばせるって宣言してたからな。


まあ別世界っていうのは俺も初耳なんだが、あの人ならなんでもアリだろ。


いつもなら突っ込むところだが、今日は勘弁してくれ。



「じゃあじゃあ、夕ご飯食べてってくださいよう」


「やったね! いいの? 彩乃ちゃんの料理って美味しいんでしょ?」


「まかせて下さいっ! 料理には、かなり自信がありますっ!!」


「わはっ楽しみー♪ じゃあ美琴も手伝うねー」



なんだかすっかり仲の良い二人は、俺を置き去りにして奥に消えて行きました…。


う~む……美琴のやつ、すっかり俺の事忘れてるだろ…。


ま、いいけどさ……いじけちゃうぞ。



ノソノソ歩き台所を覗くと、キャッキャ言いながら二人で楽しそうに料理をしている。


メイド姿の美琴が料理……中々萌える光景じゃねえか…。


何度も言うようだが、見た目白河だかんな。


そして料理が出来るまで、俺は二人をボ~っと眺めていた。




◇◆◆◇




三人で仲良く食事タイム。


それは、俺にとっては何とも不思議な光景だった。


坂爪研究所から連れ出した頃は、赤ん坊のようだった美琴。


その美琴が、今や白河を子供だといい、そして彩乃と仲良くなって料理まで……。


ほんと不思議だ…。


しかも、美琴が担当したというお味噌汁は、中々の物だった。


まあそんな幸せな食事が出来て、俺は嬉しかったわけだ。


少し立ち直ったぜ。



んで、お腹いっぱいの三人は、仲良くソファーでくつろぎタイム。



「さて、そろそろアクション起こそっか」



みんなでのんびりお茶をしていると、美琴が立ち上がった。



「聞いてよ彩乃~~、あんたの兄さんさぁ…真琴にHしようとして泣かしたんだって」


「ぶーーっ!!」



思わず飲んでいたお茶を噴射。



「バカ言ってんじゃねえ!! 彩乃、今のはデタラメだからな!!」


「あぁ~~ついにやってしまいましたか…兄さん」


「だから違うって言ってるだろ!?」


「無理やりはダメだよねー、彩乃~~」


「そうですよ~~兄さん」



くそーー。


ニコニコ二人で面白がってんじゃねえ…。



「でね? 嫌われちゃったんだってー」


「はぁ~~成る程…それは―――」


「だからっ、違うって!?」



ブルブルブル~~~~~



――ふいに振るえ出す、俺の携帯。



テーブルに置いてあったから、三人の注目が一斉に集まる…。



そしてモニターに表示される『一条白露』―――。



俺は無言で携帯を確保し、ポケットに仕舞った。



「いちじょう…びゃくろ? 中国人の方ですか?」



妹が頓珍漢とんちんかんな事を言っている。


今時とんちんかん言うなよ、とか無しな。



「そうじゃねえ、いいから――なんでもねえよ」



そう言って、何事も無かったことにする俺。


なんとなく、一条の事は妹には知られたくなかった。


なかったんだが…。



「あぁ~秘密にするつもりだー、浮気相手の一条さん♪」



嬉しそうにゲロする美琴。


そう言えば、こいつには実名で既に話したんだっけ…。


コノヤロー、口止めしときゃ良かった。



「浮気相手…? どういう事なんですかぁ兄さん?」



当然の如く、突っ込んでくる我が妹。



「まあまあいいから。とりあえずメール見たい―――」



美琴が手を伸ばして、早く携帯を出せとアピールしている。



「なんでだよ! これは俺宛てのメールだぞ? プライベートの侵害だ!」


「えーーっ、隠し事があると協力出来ないーー」



腕を組んでそっぽを向く美琴さん。


ほっぺを膨らませ、不機嫌さを強調している…。


とっても表情豊かになったんですね……ってほっこりしてどうする。



「兄さん――隠し事は良くないのですぅ…彩乃にも言えないんですかぁ?」



むむ~…二人で責めてくんじゃねえよ、反則だぞ。


はあ、まあいいか……どうせ彩乃にはバレるだろうし…。


観念して携帯を取り出す。


そしてメールを開くと、ハートマークがいっぱいだった……。



『今日はありがとうございました。恥ずかしかったですけど、やっと思いを伝えられて嬉しかったです。神崎君のこと、大大大好きっ!!』



「わわわっ!! 兄さんこれってこれって―――!!」


「うわ―――積極的……」



身を乗り出して俺の服にしがみついてくる妹と、少し顔を赤く染めて、口に手を当てている美琴。


そして俺は目が点―――。


こんなラブメール……初めてだぜ―――。


ひゃっほーーーい!!


俺は飛び上がりたい気分をなんとか抑えたが、どうも顔がニヤけていたらしい。



「兄さん、顔が気持ち悪いですぅ……プンプン!」


「神崎の変態――」



二人共、凄く不機嫌なんですけど…。


妹にいたっては、プンプン言ってるし…。


可笑しいな…美琴はともかく、妹のやつは俺が恋愛する事に関しては大賛成なんじゃなかったっけ?



「え~と…彩乃さんは、俺が一条と仲良くするのは気に食わないと?」


「あ~~う~~ん……兄さんが恋愛経験を積むのには、大賛成なんですけど――」


「けど?」


「白河さん以外は……なんだかムカつくんです」



明らかに不快な態度の妹。


こんな態度を俺に見せるなんて―――いや、初めて見たかも知れない。


そんな彩乃に呼応するように、美琴も不満げな顔をしている。


そんな美琴を見て、俺はつい言ってしまう。



「妹はともかく、なんでお前まで怒ってんだよ?」



しかし、それは俺の失言だった。


美琴は急に憂いのある表情を見せた。



「それ本気で言った? 美琴だって、神崎が好きなんだよ…?」



ウルウルした目で見られて、思わずドキッとしてしまう。



「真琴と君が付き合うんだったら…何も文句ないよ。だけど、違う子は絶対許さないっ!!」



ちょっと白河っぽいその口調―――まさにあいつに言われたみたいで、俺は更に鼓動が早くなる。



「兄さん? 美琴さんが可哀相です。その子はちゃんと断って下さい」



妹にも釘を刺される。


仕方ない―――気の無い返事をしとくか―――って、俺は元々断ってるちゅーの。


なのに、どうしてそこまで責められにゃならん。


かなりの理不尽さを感じつつも、俺はメールを打った。


え~~と……こんなもんでいいかな?



『今日は俺もビックリしました。だけど、俺には好き人がいます。ごめんなさい』



いいよな?


かなりもったいないけどさ……ちぇっ。



「どれどれ、見せて?」



打ち終わったところで、美琴に携帯を奪われる。


そして彩乃と一緒に確認している。



「んん~~、まぁこんなもんかなー」


「ですねぇ…兄さんにしては、ストレートでいいと思います」



等と、勝手に評価する二人。


気が済んだなら早く送らせてくれよ、落ち着かないだろ…。



◇◆◆◇ ~~美琴視点~~



一条さんには悪いけど、神崎と付き合わせるわけにはいかない――。


真琴の気持ちを知っている私には、絶対許せない。


しかも、メールを見て喜んでいる顔なんかして―――。


さっきの神埼の顔見たら、真琴泣いちゃうかもよ?


あの子―――私達は純粋なんだから…。



「いいよ、このメールで。送れば?」


「お、おう……んじゃ送るぜ」



携帯を神崎に返して、私はふと思いつく。


やってみよっかな…。


たぶん出来る―――彼女はこの辺りに住んでると思うし。


彼が送信ボタンを押した瞬間―――精神を集中させ、周囲数キロの気配を探る…。


送信して着信までって、どのくらいかかるんだろう?


一瞬? それとも数秒後?


分からない……。



だから、近くで着信があった場所全てをチェックする。


彼女の顔は、真琴の記憶で知っている。


きっかけさえあれば…。


携帯を開く動作…着信音…バイブレーターの振動…。


瞬時に何百人という人の気配を探る。


さすがに疲れる―――彼女はこの辺りには住んでいないのかな?


もう無理かな……そう思い、真琴が住んでいる方向に的を絞って集中する。


すると―――


彼女を真琴のマンションの近くで発見した。


なんだ……そんなところに居たんだ――。



「それじゃ、美琴はちょっと行ってきます」


「あ? どこ行くんだ? また戻って来いよ? 折角だから、今日は泊まってけよ」


「そうですよー美琴さん。今日は彩乃と一緒に寝ましょう」


「う~~ん……それも良いんだけど……取り敢えずまた後でっ」



そう告げた私は一瞬で消える。



そして次に現れた場所は―――



―――狭い女の子の部屋。


そして目の前では少女が一人―――携帯の画面を見つめながら、ハァ~と溜息をついている。


彼女は一条白露。


私は実際に会うのは初めてだったけど、成る程―――可愛い子だね。


真琴がそう思っただけの事はある。


黒髪が長くて綺麗……。


神崎からのメールがショックだったのかな?


ずっと携帯を両手で握って固まってる。


黙って見ているのも何か卑怯に思い、私はそろそろ話しかけようと思った。


でも――私の気配を感じたのか、彼女の方が顔を上げた。


当然目が合う二人―――。



「きゃっ!! え? 白河さん? え? え? どうして突然―――目の前に――!?」


「お邪魔しまーっす―――話したい事があって来ちゃった…」



私を見て、かなり驚いているみたい。


そりゃそうだよね。



「あ、あの…え――っと……ど、どうやってここに?」


「幽霊じゃないよ? 私は…そうだねー、エスパーってやつ?」


「エスパー? なんですかそれ? 何かの資格ですか?」


「そうそう…ヘルパーとか社会福祉士とか栄養士とか……資格はなるべく取っておいた方が良いよね」



―――ってそうじゃなくって!!


危なかった……もう少しでノリ突っ込みを完成させるところだったじゃない…。



「―――コホン、超能力よ…面倒だから見てて」



そう告げて、私は消えたり現れたりしてみせる。



「わぁ……凄い―――」



お口をあんぐり開けて、目を丸くする一条さん。


こんなものを見せる為に、来たわけじゃないんだけど…。



「―――分かった?」


「あ―――はい!」



急に正座して、緊張感たっぷりの一条さん。


ちょっと驚かせすぎたかな…。


まぁいっか、取り敢えず言う事言わなきゃね…。



「聞いて一条さん―――」


「なんでしょうか?」


「神崎君の事はあきらめてね? 悪いんだけど、私と付き合うから―――」



ちょっと冷たい感じで言い放つ――。


可哀相だけど、私にとっては真琴の方が大事なの。


ごめんね?



「し…白河さんも…その…神崎君のことが好きなんですか!?」



急に声を張り上げて、必死に問いただしてくる一条さん。


勝手だけど、ここは真琴の代わりにはっきり伝えるべきね。



「好きよ…彼も私のことが好きなの。だから――私達の邪魔はしないで―――」



そう言い残して、私はここから消えた―――。



「そんな……神崎君の好きな人が白河さんだったなんて……勝てるわけない―――」



呆然とする一条。


無理もない、学園でも最強の人気を誇る白河―――そんな彼女が恋敵なのだ。


まさに絶望的―――。


―――と、本人は思ったのだが……実は彼女の人気も学園で五本の指には入る程のものだった。


気付かないのは自分だけ。


しばしうな垂れていた彼女だったが、何を思ったのか唐突に立ち上がり凛々しい表情を浮かべた。


そして携帯を打ち出し呟いた。



「最後まであきらめません! だって…ずっとずっと好きだったんですっ!!」



実は彼女、小学校から神崎とは同じだったのだ。


しかし運悪く、今まで一度も神崎とは同じクラスにはなれなかった。


その―――積年の思いを込めて打ったメールを見返し、彼女は送信ボタンを押した―――。




◇◆◆◇




折角なので真琴の様子を見ようと、私は真琴の部屋に飛んでいた。


真琴は既に帰宅していて、ベッドの上でヘタリ込んでいる…。


あ~あ、相当ショゲてるな…これは…。


どうしたもんかと考える。


が、考えても仕方ないから、こっそりと背後から忍び寄る…。


そして後ろから、思い切り胸を揉みしだく。



「だ~~れだ?」


「キャッ! んもう~~美琴ーーっ、やん! ちょ――ちょっと……ダメ! 止めてってばぁ…」



ウフッ♪ 中々可愛い反応の真琴。


もちろん、弱い部分はお見通しなのよ。ふふふ…。



「聞いたよ? 神崎君と喧嘩したんでしょ?」


「う…うん……なんで知ってるの?」


「彼から直接聞いた―――泣きそうな顔してたよ?」


「そ…そう……」



元気ないなーもう…。



「取り敢えず、何があったか美琴に教えてよ」



そう言って私は真琴を抱きしめた。


お互いの心を一つにするイメージ……。


心を空っぽにして、真琴の記憶や思いを受け止めていく……。


こうする事によって、私達は記憶を共有する事が出来る。


どうしてかは分からないけど、いつの間にかそうだった。



「うん―――だいたい分かった」


「ムカつくでしょ?」


「まぁね」



神崎から聞いていた通りだった。


違うのは、その時の記憶と真琴の気持ちが伝わってきて、私もムッとしちゃったこと。


結構だらしないよね、あいつ。



「ねぇ美琴…今日は一緒に寝よ? ね?」


「いいよ…だけどその前に、神崎に会ってきなよ」


「え~~無理だよ~~」


「会わないと、どんどん会い辛くなるよ―――」




◇◆◆◇ ~~神崎視点~~




何もやる気が起きず、ベッドに寝ころがってボーっとする俺。



「あ~~白河とラブラブになりて~~」



なりたいけど、今はそれどころじゃないし…。


でもあいつ、こっそり俺の事覗いたりして……今日はあれだよな? 嫉妬してくれたんだよな?


そう考えると、かなり気が楽になる。


しかも、一条が俺の事好きだったなんてな…。


ふっふっふ…俺って実はモテるのか?


一人ニヤけてしまう。


例え白河に嫌われたとしても、俺には一条がいるってわけか…。


彼女も可愛かったよな~~。


正直、白河を好きになる以前に告白されたら、即OKしたと思う。


なんだかな…。


世の中にはさ、二股とか三股とかかけてるチャラ男が大勢いるって聞くけど……


今ならなんとなく、その気持ちが分かるぜ。



でもな―――。



俺は白河に夢中なんだよ。


あいつの気持ち良さそうな胸―――じゃなかった…美味しそうな太もも―――でもねえ…。


あれ? 俺ってあいつのどこが好きなんだ?


身体か? 顔か?


見た目ばっかりじゃねえかよ!?


そうじゃなくってさ…性格だって、可愛いと思うぜ。


そうだろ?


だからこそ、あいつの身体を色々したい―――。



「絶対白河の胸を揉みまくる!! それで太ももを、これでもかって言うぐらい舐め廻す!! 後、パンツ脱がす!! それが男ってもんだーーーっ!!!」



ブルブルブル――――。



「おお!?」



声高々に誓いを宣言していた俺の横で、携帯がメール着信のお知らせをしてきた。


慌てて起き上がる。


画面には『一条白露』。


落ち着いて携帯を操作し、メールの内容を確認する。


でも、ちょっと気が重い…。


だってさ、断りのメール入れたし…。


はっきり言ってまだ心の準備が出来ていなかったが、それでもメールを開いた。


思わず目を閉じて祈ってしまう…。



「どうか彼女が傷ついてませんように―――」



パッと目を開ける。



『明後日の日曜日、お買い物に付き合っていただけないですか? もちろん、お友達として』



むむむ…そうきたか…。


非常に悩む……いや、悩む必要なんてないか。


一緒に買い物なんて、まさにデートじゃねえかよ。


すげえ行きたいけど行かないっ!


行ってはいけない。



「ふ~~ん、付き合ってあげればぁ?」



え? まさかこの声―――。


振り向くとそこには、白河が居た。


普通にベッドの横に居て、屈んで携帯を覗き込んでる…。



「行けばいいじゃない、嬉しそうな顔しちゃってさ」


「い、いやお前…行けって…」



毎度の事とはいえ、相変わらず心臓に悪い。


取り敢えず、メールなんかどうだっていい。


白河が来てくれた―――このチャンスを逃してはならん!


俺はベッドから飛び降りその場に正座。


そして頭を下げ―――ようは土下座した。



「すまん白河! お前を悲しませるなんてどうかしてた、頼むから機嫌直してくれ!!」


「やだ」


「……やだ言われたら…どうしろってんだよ…」


「じゃあ嫌い」


「そ、そんなに…き、嫌い?」


「大っ嫌い」



くそーーーっ! なんなんだよこいつ!


そんなに嫌いなら、会いにきてんじゃねえよ!?


バフッと音がする。


白河がベッドに腰掛けたみたいなんで、俺も顔を上げてその場に胡坐をかく。


白河をチラチラ見る――。


夜だというのに制服のまま。


そして足を組んで、非常に機嫌が悪そうだ。



「やっぱりその…あれか? 付き合ってないって言ったのが悪かったんだよな?」


「…………」



そっぽを向いて無言、無反応…。


くそっ、負けるな俺!



「…………なんで…………」


「へ?」


「なんで―――すぐ会いに来てくれなかったの?」


「―――今日の事か?」


「違うよ…」



―――ってことはあれか…俺が復活した後の話しか…。



「あのなー、俺はあの日すぐにお前んちまで行って―――つっても、オートロックだったからマンションの入り口でずっと待ってたんだぞ!?」


「そ、その日は泊まりで撮影だったのよ……」


「そっか……じゃあ次の日は? 次の日も俺は、朝からずっとマンションの前に居たんだぜ?」


「え、えっと……その日もまだ帰って来てないっていうか……」


「じゃあどうやって会うんだよ!? その後…お前ウチに何度か来ただろ? なのにすぐ居なくなるし…俺にどうしろと!?」


「キャッ」



あ……やべ――つい声が荒くなっちまった。


白河を怯えさせたみたいだ。


ちょっと涙目で下向いてるな…。


これはまずい―――付き合ってないのに別れるような雰囲気じゃねえか……バカか俺。


気を取り直して、優しい声音で話す。



「とにかくさ、俺は一条と付き合う気なんてないんだ。あんな可愛い子に告白されたのなんて初めてだったんだ、だから俺―――」


「――――――もん」


「え?」


「私の方が先だもんっ」


「さ…先って…?」


「私の方が―――先に告白したもんっ!!!」



超ムクれ顔で、顔真っ赤にしながら言い放った白河。


そう言われると、確かにそうだった…。


あれも…告白だよな…。


俺が死ぬ間際に言ってくれた言葉―――。



―――好きなの―――神崎君―――大好きなの―――



確かにこいつはそう言ってくれてた……チッ―――何やってんだ俺は……。


勝手に初めてだ―――とか浮かれてさ―――。



「可愛い子じゃなくて悪かったわね……」


「バ―――お前! ふざけんじゃねえ!! お前が可愛くなかったら、誰が可愛いってんだよ!!!」



ダメだ……完全に拗ねてる。


後ろ向いて、枕抱きながらピクリともしない。


いや――そんなに枕に顔埋めないでくれよ…た、たぶん汗臭いぞ…。



「と、とにかく! 俺はお前が…その…お前のこと…本気で好きなんだ」


「…………」


「お前が好きなんだよっ!!」


「……身体が目的のくせに……」


「な、何言って―――」


「さっき言ってたじゃない……パンツ脱がせるとか――なんとか…」



げっ!! 聞いてたのかよ!?


こ、こいつ……いつも絶妙なタイミングで来やがって…。



「絶対触らせないからっ! Hなこともさせないっ!!」



白河が叫んだ瞬間―――



ガチャ――――――。



部屋のドアが開いた。



「入りますよう」



にゅっと顔を出したのは、当然妹だった。



「あのですねぇ……会話が丸聞こえなんですよ」



そ、そうですよね――隣の部屋だもんね…。



「あ、あ~~っとだな……彩乃、すまんうるさかったか?」


「そうじゃないですよぅ~、兄さんは女性を口説くのがヘタ過ぎます」


「は、はい?」



目を点にして呆ける俺。


白河も彩乃を見ながらキョトンとしている。



「白河さん――バカな兄で申し訳ありません――」


「は、はぁ…」


「これでも兄さんは、白河さん一筋なんです。それはもう、毎日かかさず白河さんの写真集を見ては一人で―――」


「―――っておいっ!!! や、やめてくれ!! 俺の秘密をバラさないで!!!」


「わわっ!」



慌てて妹にタックルして止める。


な、何これ……何故に俺はこんな辱めを、妹から受けなければならない?


誰か教えて?



「あ、彩乃ちゃん…今言ってたこと―――」


「だーーーーっ!! お前聞いてんじゃねえっ!!!」



何興味もってんだコノヤロー。


そんな事実が発覚したら、もう恥ずかしくて目が合わせられん!!



「―――ですから白河さん、男なんて獣なんですよ。心より身体を優先してしまうのは、本能なんです。それが証拠に白河さんと仲良くなる前は、兄さんが一人でその行為をすることなんて滅多に―――」


「ぎゃーーーっ!!! 頼むからっ頼むから止めて彩乃さん!! 俺が何したって言うんだよ!!!」



俺の後ろからは、そうなんだ―――と白河の納得したような声―――。


一体、何をご納得されたんでしょうか……?


こ、これは罰ゲームなのか!?


俺はゲームで負けたのか!?


どんなゲームだコノヤロー!!!



俺が悶絶して、床を転げ回っている時だった。



この後、とんでもない事が起きた。



「あ―――あれ? に、兄さん……彩乃の身体が…身体が…」


「あん? 身体がどうしたって? もう俺のネタは勘弁してくれよ」


「ち、違うよ神崎君!! 彩乃ちゃんの身体が変なのっ!!!」



白河の焦った口調で、俺は飛び跳ねる。



「どうした彩乃!!…………彩乃?」



彩乃の身体が緑色に発光している。


そんなバカな!?



「に、兄さん恐い、兄さん恐いですっ」


「ちょっと神崎君、これどういうことなの!?」


「俺が知るか!?」



次第にその光りは強くなっていく。


そして――光り輝いた彩乃の肉体が、下から粒子と化して徐々に消えていってしまう。



「い、いやーーーっ!! 兄さん! 兄さん!!」


「彩乃!! しっかりしろ!!」


「彩乃ちゃん!!」



俺と白河が彩乃の手を取る―――が、その瞬間、俺達二人も緑色に輝き出す―――。



「兄さん! に―――」


「彩乃ーーーっ!!!」



消えてしまった彩乃。


そして、俺達の身体も徐々に粒子と化していく。



「なに? なんなの!? これなにっ!! なによ神崎君っ!!!」


「分かんねーっよ!! とにかく! 俺に捕まれ!!!」


「うん!!」



きつく抱き合う二人。


だが、無情にもその後二人は消えた―――。





3話へ続く

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