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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第1章 カラダが改造されるまで
2/45

第2話 アイドル白河真琴!

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・。


「デイビット!本当に行ってしまうの?」

「ああ行くさ。僕は戦士なのだからね。」

「そんな怪我で、もう戦えるわけないじゃない!」

「でも僕は戦わなきゃならない・・。」

「でも、敵は3万の大群。あなた一人でどうなるものではないわ。私と逃げましょうお願い!」

「ああ、キャサリン。出来れば僕もそうしたいさ。」

「だったら・・・・・・


だあああああ!!


朝からうるさい! しかも内容が重い!


何の話しだこれ?


・・・・・・・・・・・・。


ああそうか、新しい目覚まし試したんだっけか。


「死なないでえええええ!デイビット~~~!!」


ピッと、アラーム?を止めて裏面を見る。


「死地に赴く戦士」にセットされている・・・・。


なんのこっちゃ、これは封印だな。


いや、しかし完全に目が覚めたな。


実は、かなり使える目覚ましなのかも。


明日はどれにしようかと数秒悩んだ挙句、どうでも良くなり目覚ましを放り投げ、さっさと着替える。


時間を確認すると、いつもより大分早い。


折角早起きしたんだ、たまには朝食でも作ってやるかと思い、下へ降りて台所に入ると、既に妹が起きていた。


「お早う、彩乃。」


「あ、お早うございます、兄さん。」


制服姿にエプロンを着けた妹は、朝だというのに爽やかな笑顔で振り返った。


あいかわらずこいつ、朝は元気だな。


女の子って、低気圧・・じゃなかった、低血圧が多いんじゃなかたっけ?


そんな事を考えていると、


「兄さん、今お弁当作ってますから、ちゃんと持って行ってくださいね。」


と、元気に微笑む我が妹。


対する俺は朝は弱いので、「へーい、サンキュウ」と、素っ気ない感じで応える。


「じゃあ俺、トースト焼くから。お前も食うか?」


「あ、じゃあお願いします。え~と、オレンジジャムで。」


「はいよ~」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



てな感じで朝の準備を終えて、いざ通学。



妹は先に行きました。


え? 何で一緒に家を出ないかって?


いつもは途中まで一緒なのだが、何だか今日は朝練があるんだと。


でも、あいつ家庭科部だったよな。


何の朝練だ?


疑問に思いつつも、「忘れないで下さいね」と念を押していた妹の顔を思い出し、弁当を鞄に入れて家を出た。



あ、そうだ、今日から自分の身体を犠牲にして大金を・・・じゃなかった、恩返しのバイトだった。


遅くなる事を、あいつに伝えとかないとな。


ポケットから携帯を取り出し、歩きながらメールを打つ。


え~と何て打つかな。「今日はバイトで人体実験だから、帰るの遅くなる。」と、こんなもんだろ。


ピッと送信。


程なく歩いているとメールが返ってきた。


「意味分からないんですけど・・・。」


うむ。なるほど、まあそうであろう。


だが、これは真実。


説明が面倒なので、スルーしてしまおう。




さて、それとは違う説明をしなくてはいけない。


俺の通う学校は、「私立三坂学園」。


最寄駅から三つ目の駅を降りて、さらに歩くこと20分、道中、山あり谷あり(うそ)裏道ありと


進んだ、小高い丘の上にある。


おかげで、夏場のこの上り坂がしんどいったらない。


この為に、原付を買ってしまおうかと悩んだこともあるが、免許をそもそも持ってないし、規則で禁止されているので、却下。


ま、来年あたり、なれた頃に挑戦してみますか。


とそろそろ学園も近くなってくると、見知った顔に良く会う。


「お早う」「オッス」「神崎、お早う」などの挨拶で忙しくなる。


こう人が多くなってくると面倒なので、俺は一際ぶっきらぼうになってしまう。


そのせいもあってか、あまり友達もいない。


・・・・・・・・。


いや、いたか、あそこに一人・・・。


「おい、コノヤロー。起きてっか?」


そう言って、下を向いて歩いている野郎をこづく。


「いてっ、何すんだこら。」とそいつは勢い良く振り向くと、「なんだ神崎か、はよー」とつぶやき、

また半寝状態で歩き出す。


あいかわらず朝に弱いこいつは、坂崎慎太郎さかざきしんたろう


高校に入ってからの、俺の悪友だ。


同じ帰宅部出身。


ま、男の説明はこの位でいいだろう。


え? 容姿ぐらい教えろって?


男の詳細なんか聞いてどうする。


しょうがない、え~と、髪の毛は生えてて、まだハゲてはいないかな。


あとそうだな・・・、太ってはいないが、運動していない為ブヨブヨだ。


恐らく彼は、モテない部類だろう。


イメージ湧きましたか?



そうこうしているうちに、学園の門の近くまでやってきたわけだが・・・、


「やけに今日は人が多いな・・。」と、坂崎に聞こえるようにつぶやく。


「ああ、親衛隊の方たちだな。今日は白河が来るんじゃない?」


「親衛隊?」と疑問系で投げかけると、俺より事情通の坂崎が、色々と説明してくれた。



どうやら彼ら(女の子もいるが)は、白河真琴しらかわまことの親衛隊らしい。


もちろん、白河のことなら俺でも知っている。


同じクラスの女の子で、芸能人。


はっきり言って、超可愛い。


元から、芸能プロダクション所属だったらしいが、高校入学後、アイドルデビュー。


で、先日始まった、月9のドラマのヒロインに抜擢され、一躍時の人となった。


映画の主題歌決定や、各種バラエティに登場するなど、最近ではTVで見ない日は無い。


こうして彼女は、可愛くて高嶺の花だった存在から、雲の上の人へと昇格したのであった。



しかし、親衛隊まで出来ているとは・・・・。


2年生、3年生も含めて、ざっと20人以上はいるな。


女の子も多いし、良く分からん。



立ち止まって傍観していると、


「なあ神崎、面白そうだからこのまま見ていこうぜ。」


と、坂崎が何だか興味津々のご様子。


携帯で時間を確認すると、だいぶ余裕がある。


ま、暇だからいいかと快諾すると、すぐにその車がやってきた。



学園入り口の、人混みの喧騒を掻き分け、Lクラスの黒い外車が門の前に到着する。


全面スモーク張りで、中に誰が乗っているかも分からない状態だが、当然、誰が出て来るか知っているかのごとく、親衛隊がドアの前に立ち、2列に並んで道を作る。


そして後部座席のドアが開き、白河真琴が登場した。



髪は栗色のショートカット。

大きな猫目と太めの眉で、目元はキリッとして見えるが、低めの鼻と小さい口元が、全体的に優しさを出している。

背が155センチ(ぐらい?)と低めで丸顔の為、完全にロリ系かと思いきや、物事をはっきり言う性格とその人に媚びない態度が、女子にも人気があり、男子からも、ギャップ萌えなのだそうだ。(坂崎談)


「胸も結構あるしな。」(坂崎談)




車から降りると、親衛隊が一斉に、「お早うございます、真琴様!」と、随分練習したんだろうなあと思わせるほど、息の合った挨拶をする。


対して白河は、苦笑いだった。


「あ、あはははははー。な、なんだろうな、コレ。」


「いったい何の騒ぎなの?」と、白河が問うと、親衛隊のリーダーらしき生徒が前に出て答えた。


「はっ、我々は、三坂学園所属、白河真琴ファン倶楽部の初期メンバーです。」


「えっ、なによそれ?」


「我々は、学園にいる間、真琴様に悪い虫が付いたり、暴漢どもに襲われたりしないよう、常にお側で警護をする為・・・・・


「あ~、うん、気持ちはありがたいよ、うん。応援してくれて、ありがと。」


「いえいえ、我々は、真剣に真琴様を応援する為、同士を集め、さらには裏から手をまわし、親衛隊と真琴様だけになるよう、クラス替えを・・・・・


うんうん、はぁ~と、うなづきながら白河は話を聞いていたが、徐々に顔を赤らめてついに噴火した。


「やめてよ!バカバカしい。周りに迷惑がかかるでしょう?それに、そんな事したら、私が友達と仲良くしたり出来ないじゃない!」



おおー、言うねえ。はっきり言ったね。


俺は関心して見ていた。


あれだけの人数に対して、しっかりと自分の意志を伝えられるなんて、カリスマ性もありそうだな。


親衛隊は、すっかり意気消沈している。無理もない。


そして隣のバカ(坂崎)がつぶやいた。


「怒った顔も、すげー可愛い・・。」


と、ニヤニヤしている。


気持ち悪いから・・・、友人としてやめてくれるかな。


気持ちは分からなくないが・・。


「はい、という事であなた達の倶楽部は解散! これからは、白河真琴公式ファン倶楽部にきちんと入ってね。詳しくは、ホームページを見ること。」


宜しく、じゃあ行くね~っと、スタスタ歩いて行く白河。


親衛隊は、肩を落として各々散っていく。


ちょっと彼らがかわいそうな気もしつつ、俺は校舎へと向かった・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





授業中。




今は数学の小テスト中。



早々とあきらめ、都合良く窓際の席である俺は、校庭で体育の授業をしている女子達を眺めていた。


ボールを蹴って、1塁に走る。


で、守備の人がボールを掴んで1塁に送球、アウトー。


なるほど、キックベースねえ。


今更、男どもでやったって対して面白くないのに、キャアキャア楽しそうだな。


ハーフパンツが緑ってことは、3年か?


しかしあれだな、中学の頃は1年の時に3年生を見たりすると、えらい大人に見えたけど、高校入ってからは、そんなに学年の差は感じないな。


それだけ俺達が、大人になってきてるってことだよな。


などと考えていたら、ふと、今朝の出来事を思い出した。



・・・・・久しぶりに登校してきた、白河真琴。


物怖じせず、親衛隊にはっきりと言い切った・・。


やっぱり、芸能人やる為には、あの位の度胸が必要なのだろう。


ちょっと可愛い位の子なんて、そこらじゅうにたくさんいるしな。


そこから先は、努力と、生まれ持った天性のカリスマ性ってことなのだろうか。



・・例外に無く、俺も、彼女の魅力には惹かれることがある。


つい授業中も、彼女を目で追ってしまうことがある。


周りを見渡すと、男子の大半が、同じように見てる。


そんなことがよくある。


本人は、見られている意識はあるのだろうか?


視線を感じているのだろうか?


気になって、数席離れた白河を見る。


考え事でもしているのか、頬杖を付いて、シャーペンの頭をトントンと唇にあてている。


もっとも、テスト中だ。


答えを考えているのだろう。


そのままボーっと彼女を見つめていると、ふいに彼女は振り返り、こちらを見た。




う、目があった・・・・・。




そのまま硬直してしまう。


白河も、そのままじぃ~とこちらを見ている。


な、なんだこの状況。



なんだろう、ここで先に目を逸らしたら、へタレの烙印を押されてしまいそうな気がした。



今朝の、あの親衛隊の時のような態度で、


「ヘタレな男は嫌いだから。」って、そんな方向に進みそうな気配がある。



彼女は普通に見ているだけかも知れない・・・・。



でも、キリッとしたその目元から感じるその視線は、何か逆らえないものを感じる。


緊張しながら、そのまま目を合わせていると、彼女が突然ニコッと微笑んだ。


うおっ!


やられた!


い、今、胸の辺りがキュンと・・・。


俺は急激に赤面していくのを感じ、すぐさま顔を逸らした。




まずい、バレたか・・・。




何秒経った?いや何分だ?


時間の流れがあいまいに感じつつ、そろそろと思い、もう一度彼女を見た。




!!!!!!!



彼女はまだ見ていた。


しかも、笑顔のまま、小さく手を振り振りしている。


そして口パクで、「やっほぉ~」と、たぶん言った・・。


ダメだ、もう見れない!


俺はその後、授業が終わり、放課後になるまで、ずっと外を見ていた・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・。




はあああああ。


深い溜息をついた。


やっと放課後だ。


「おい、神崎、この後どうする?」


説明はいらないだろう、坂崎だ。


こいつは目の前の席なんだ。


「今日はちょっと用事があってな。」


先に帰っていいぞーと、手を振って、しっしっとしてやると、その動作でテスト中の出来事が脳裏に

フラッシュバックした。



・・・っつ。



意味無く赤面している俺にはお構いなく、坂崎は、


「そういえば今日さ、数学のテストの時、


(な、何を言いやがんだこ、こいつ・・。)


・・・聞いて驚け、白河がこっち見てさ、手を振ってたんだぜ!」


(ドッキーーン!! 心臓が飛び出るかと思った。)


「まいったな~。あいつ、俺のこと好きなのかなー。やばいなー。なあ神崎、ここは、勝負かけて告るべきか?」


ふ~、幸せな奴で良かったと、俺は安息し、「やめとけ」と一言だけ言っておいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



さて、教室には誰も居なくなったみたいだし、そろそろ行くか。


正直、白河には会いたくなかったから、わざわざ下校時間をずらしたってわけ。


我ながら、ヘタレ感は否めない。


しょうがないだろ!


女の子は苦手なんだよ。


今までまともに話しなんかしたことないし。


妹いるけどな・・・・。


しょせん妹だから。


子供だし。



雑念を払いながら下駄箱で靴を履き替えて、外に出る。


早くバイトに行かないと。


約束だからな。


そう思いつつ歩いていると、


「神崎く~~~ん。」


ん? 俺か? どこからか、微妙に聞こえるか聞こえないか程の声がする。


見廻しても誰もいない・・・。


あれ?


まあいいかと、歩きだすと、


「か・ん・ざ・き・く~~ん」


さらに「ここだよー」と、確かに聞こえた。


どこからだと、訝しがってもう一度辺りを見廻す・・・。



・・・・・・・いた。



何者かが体育館の陰から、手だけを出して「こっちこっち」と呼んでいる。



はあ、しゃあねえ。


面倒事じゃなきゃいいがと思いつつも、あの手と声は間違いなく女の子、誰なのか気になったので、確かめたい気持ちを抑えつつ、ゆっくりとそこに近づいた。


もうちょっとで、先程の手が出ていた場所に差しかかろうとしたその時、突然腕をつかまれ、体育館裏へと引き込まれた。


「うお、ちょっと、な・・・・・・。」



白河だった・・。



よりにもよって、一番会いたくない奴に!


「な、なななな何だよ。」


しまった!激しく噛んでしまった。


動揺していると、彼女は一所懸命に「し~~~~、し~~~~。」と人差し指を口に当てている。


「もぉ、声がでかいぃ!」小声で叫ぶ白河。



か、顔が近すぎるっ!



一体これはどういう事だ?


「な、なにが・・・。」


俺が動揺しながら言いかけると、


「だから、静かにしてって言ってるでしょ!」


彼女はそう言いながら、俺の右腕にしがみつき、体育館の奥へと引っ張る。



ぎゃああああああああ!!!



う、腕が、腕が、か、彼女のむ、胸にジャストミートなんですけど!



「ちょ、ちょっとまっ・・


「いいから早く! ここじゃ見えちゃうの! あの倉庫辺りまで。」


さらに引っ張られる。俺が硬直してるもんだから、体重をかけて、んしょんしょと彼女がする度に、

腕にプニプニした弾力を感じてしまう・・・。



け、結構あるんだな・・・。


いやいや、そういう状況じゃないだろ?


しかし、全神経が、腕のその部分に集中していた。



ま、まずい!


俺の砲台が、戦闘態勢にいいいいい!!




腕が名残惜しいが、是が非には代えられない。


俺はその場にひざまずき、うづくまった。


「えっ? どうしたの、神崎君! お腹痛いの?」


大丈夫?と、背中をさすってくる白河。




だから、何でそんなに近いんだよ・・・。




「ねぇほんとに大丈夫?」と、うずくまり、下を向いている俺の顔の、さらに下から覗いてくる彼女。



心配顔の上目使い・・・。



だああああ!! おさまらねえだろうが!!


「あのさ、ちょっと今、俺の身体の中心で、愛を叫んでる奴がいるみたいなんで、離れてくれない。」


「ええ!? なに意味不明なこと口走ってんの!?」


ほんとにまずいんじゃない?と、立ち上がって、キョロキョロと辺りを見廻すと、


「とりあえず、保健室いこっ」


ほらぁ、と、彼女は俺の腕の下に頭を入れ、ちょうど肩を貸す感じで立ち上がらせようとする。


「ば、ばか、やめっ・・・・


必死に俺は抵抗するが、逆効果だったみたいで、


「もお、何なのよ!ほらぁっ立って、お願い!!」

(立ってるんですけど・・・。)


と、その状態から俺の身体を、その彼女の両腕で鷲掴みにされる・・。


もはや、きつく抱きつかれている状態。



彼女の柔らかい感触が、さらには、急接近している顔と顔・・・。


はぁ、はぁ、と、彼女の吐息が・・・・・・。




もうダメだ・・。




俺の中の何かが切れて、プツンと音がしたようだった。



いや、本当に血管が切れたらしい、おびただしい量の鼻血が、ボタボタと地面に落ちていた。。



「キャァ~~~~、なに!? 血が出てるじゃない!?」


どおしよ、どおしよと、おろおろする彼女を横目に、俺は自爆を覚悟し立ち上がろうとした。


「だ、大丈夫だか・・・ら、こ・・れ・は・・せい・りげん・・しょ・・う」


大量の鼻血で貧血状態の俺は、激しい立ちくらみに襲われ、そのまま後ろに倒れこんだ・・・。



ゴツッという音が聞こえた・・・。激しい後頭部の痛み。



や、やばい・・気絶する・・・。



薄れ行く意識の中で、


「夏ズボンって、生地が薄くて目立つんだよな・・。」と思った・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・。

・・・・・・。



「う、う・・・うう」


「あ、神崎君、起きた!? 大丈夫!?」


かすかに声が聞こえる・・・・。


ああ、俺、倒れたんだっけ・・・。


神崎君、神崎君、と声が聞こえる・・・。


なんだ? 天使の声か?


おれは死んだのか。


なんだろう、顔をさっきから何かが擦ってるな・・・。


だんだん意識が戻ってきた。


ああ、顔を拭いてくれてるのか。


鼻血吹いちゃったからなあ。


優しいんだな、白河。


でも俺カッコ悪いなあ。


あ、目が開きそうだ。


意を決して目を開けると、目の前に彼女の顔があった。


「あ! 神崎君!」


「おう。」


「もう大丈夫!?」


「お、おう。」


「よ、良かったあ~~、はあぁ~。」


安堵の溜息をつく彼女は、涙目だった。


そして溜息が、俺の顔全体にかかり、くすぐったいやら、恥ずかしいやら・・・。


痛みと共に感じる、後頭部の温もり・・。



「で、なんで膝枕?」



思った事が口に出た。



「え? いや、その・・えっと、ち、違うのこれは!違うんだって!!」


彼女は頭を抱え、いやいやをしている。



顔が赤い。



「だ、だから、た、倒れたまんまで、頭が痛そうかなって・・。」


その照れた仕草がとても可愛くて、貧血状態の俺は、とても冷静に彼女を見つめていた。


まじめな顔で見つめられ、彼女はさらに顔を真っ赤に染めると、


「ば、ばかじゃないの! 違うっていってるでしょ!!」


と言い放ち、急に立ち上がった。



ゴツッ!!



「い、痛てえええええええええ!!!」


行き場を無くした頭は、当然落下し、俺は後頭部を強打。


たまらずのた打ち回った。


「え! キャァ~~~~!! ご、ごめんなさい~~~。」





・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「あ、あのさぁ、ごめんね」


体育館裏、倉庫の中、二人はそこにあったパイプ椅子で休んでいた。


「だ、だからごめんって。」


なにやら本当に悪いと思ったらしく、両手でもじもじとしながら、こちらを見ている。


仕草が、妙に子供っぽい。


「ああ、もう大丈夫だ、ちょっとズキズキするけど問題無いだろ。」


頭を手でさすりながら応える。


「あ、いやぁ、そうじゃなくて、そのぅ・・・。」


顔を赤くしながら、俺の下半身に視線を向ける白河・・・・。



え?


「NOぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


やっぱり見られたかあああああああ!!!!




頭を抱え、悶絶していると、


「あ、あのね、男の子の事、私まだよく知らないから・・、だから・・・。」



て、天然なのか、この子・・・?



そんなストレートに、私まだ未経験です。みたいな事。



「ああ、まあその件については、とりあえず置いておこう。」


パントマイム風で、置いておこうのポーズをとる。


「で、なんで俺を呼んだんだ?」


「あ、え~とね、じゃ、じゃあ、これを見て!」


と彼女は言うと、鞄をゴソゴソ・・・、何やら白い封筒を取り出し、俺に差し出した。


ん? 手紙? 受け取ると、


「中を見てもいいよ。」


いいのか?と、俺は便箋を取り出し読み上げる。


なになに・・・


「白川真琴さんへ」


「君に惚れました。今日の放課後、プール場前まで来て下さい。待ってます。」


なんだ、この直球ド真ん中のラブレター!?



「ね? ということなの。」



「はい? ということなのって、言われても。・・・なんだ? これについて、俺に相談ってこと?」


「ち、ちがうわよっ、さっき見たら、その人本当に待ってたみたいだから、居なくなるまで待とうかなって。・・・で、ちょうど君が来たから、見張り頼めるかなって・・・。」


あー、やっと分かった。


そういうこと。


「だったら、直接会って断ればいいじゃないか。」


普通にそう思った。


「う、うん。それは、そうなんだけど・・・。」


「お前、今朝だって、あんなに物事はっきり言ってたじゃねーか、普通に断れよ。」


でもぉ・・と、またもじもじする白河。



あれ? おかしいな、この子こんなキャラだったか?


「こ、怖いのっ。」


へ?


「男の子、怖いのっ。」


「だって、断ってもし怒ったら、怖いし・・・。」



・・・・なるほど、そんな事考えてたのか。



「だ、だって私、小学校も中学校も女子校だったから、男の子ってよく分からないし、その・・・」


「あーあーあー、いいっていいって。そんなに説明しなくても。」


「分かった。まだその人待ってるか、見てくるよ。」


そう言って、俺はプールへと走りだした。


「えっ、あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」


呼び止める声が聞こえるが、とりあえず無視。



・・・・・・・・。


プール前へ到着。



なるほど、ごついのが一人いる。


いかにも体育会系の兄ちゃん。


先輩かな?


・・・・・・よし分かった。


踵を返し、倉庫へと走る。



時間がもったいないので走る走る。


・・・・・・・・。


すぐに倉庫が見えてきた。


中には、アイドル白河真琴さん。


遠目には、何だか、しょんぼりしながら座っている。


全く、とんだ面倒に巻き込まれたもんだ・・。



ここからは、巻きでお送りいたします。



やっぱり会って断れと、なんとか彼女を説得した俺は、立会い人兼、ボディーガードとして同行。


見事、彼が振られるのを確認させていただきました。


これにて解決。


そして、かわいそうな、あの男にアーメン。(男泣きしてたぞ。)



やっと開放され、俺は駅に向かって歩いている。


「な、すっきりしただろ?」


「う、うん、そうだね。」


「だろ?」


「あの、えっと、ありがとね。」


「へ?」


「だ、だからぁ!、ありがとうって・・。」


「おう、良かったな。じゃあまた、困ったら声かけてくれてもいいぞ。じゃあな。」



うんうん、白河に貸しが出来たな、これは。


しかも、なんだか今日は、アイドル白河真琴が身近に感じられて、なかなか楽しかったぞ。



思い出すのは、柔らかい、あの感触・・・・。


あの吐息・・・・。


膝枕・・・・。




だああああああああ!!



いかんいかん!


これじゃ、坂崎と一緒じゃないか!!


二度とあいつを馬鹿に出来なくなってしまう・・・。



坂崎っちゃダメだ。



女子にモテなくなる。



「ねえ、坂崎君。さっきから、なにニヤニヤしたり、怒った顔したりしてるの?」



え?


ハッと横を見ると白河・・・・。


しかも、今、名前、間違えましたよね?



「お、お前、まだいたのかっ!!」


「ひ、ひど~い! さっきからずっといるじゃないっ!なんでいないことになってるのよぉ!」


「信じらんないっ」と、おかんむりのご様子。


「いやだって、話の流れで、別れた感じだっただろう!?」



なぜにそのまま着いて来る?



「ち、違うのっ、今日は、マネージャーが迎えに来れないって言うから・・・。」


「え、お前、毎日送り迎えしてもらってんのか?」


「だ、だって、最近怖い人たちに・・・ってそうだ!」


彼女は手をポンッと合わせると、俺に向き合って、


「昨日は、助けていただきありがとうございました。重ね重ね、お礼申し上げます。」


言いながら、深ぶかと頭を下げた。


「急にどうしたの、お前?」


・・・・・・・・・。


あれ?


返事がない、ただのしかば・・・


バシッ


痛てっ!


プルプルと肩を震わせていたもんだから、気になって触ろうとしたら、払いのけられました。


で、そのまま下を向いて、プルプル継続中ですが、大丈夫かな? 白河さん。


「き、君ねえ、人が真剣にお礼をしたというのに・・・、な、なんなのその態度!しかも今日ずっと、お前お前って、いいかげん、名前で呼んでくれてもいいじゃないっ!!」


「じゃあ、真琴。」


「えっ?」


すぐに下を向く白河。


・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・。


あれ?また静かになったな。


「・・・・・・・・でいい。」


「え、聞こえない、なんだって?」


「白河って呼んで!」


「お、おう分かった、白河。」


何だか、よく分からないので、素直にしたがっておこう。


「で、さっきの意味分かったの?」


え? さっきの意味? プルプルした感じの?


プルプルって言えば、プリン?


まさか、おっ〇い?


いや、違うだろう。


「ごめん、分からん。教えて下さい、このとーり。」


お参りに来たかのように、手を合わせる。


「もぉ、昨日、この先の路地で、助けてくれたじゃない。」


全く、と腕組みをする彼女。


・・・・・・・・。


思い返す。てことは、あの絡まれてた美少女は、


「白河だったのか!」


気づいてなかったの!?と首をかしげる白河。


「そうよっ、だから、お礼したんでしょぉ。でも、無事で安心したよ。」


心配したんだからね、と怒りは大分収まったご様子。



そうか……そうだよな…思い返すと確かに昨日の子は白河だ。


こいつ、殆ど学校来ないから顔覚えてなかったぜ。


まあ――有名人だからテレビで良く見るんだが…俺、アイドルとか興味ねーしな。



「まあ、あの時はさ、俺、かなりテンパッテたし、暗がりだったしな。でも、かなり可愛い子が囲まれたってのは分かったから。」


し、しまった、可愛い子は余計だったか・・・。



「あ、ありがと・・・。」


目をパチクリしてお礼を言う白河。



「そ、それで、これからどこに行くの? 帰るの?」


「バイトだけど。」


「バイト?」

突然、目を輝かせる彼女。



バイトに興味があるのか?


「いいなぁ、私、バイトってしたことなくて、一度してみたいと思ってたんだぁ。」


いやいや、お前はアイドルって仕事があるでしょと、突っ込みたかったが、話がこじれると面倒なので、ここは黙っておこう。


「バイトといっても、たぶん、白河が考えてるのとは、かなり・・・と言うか、全然違うと思うぞ。」


「じゃあ、私も一緒に行ってもいい?」


人の話し聞けよっ!


「どうでもいいよ。好きにしな。」


「やったぁ~~~!」


なにも万歳しながら、喜ばなくても。。


如月さんがなんて言うか、分からんけどな。


あの人、今日もきっと意味不明だろうし・・・。


ま、断られたら、帰ってもらうか・・・。















3話へ続く・・・・・・・・・・・。




























 





































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