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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第1章 カラダが改造されるまで
19/45

第16話 美琴と真琴

「美琴! 何やってんだ! 犬と遊んでんじゃねえ!!」


メイド服お出かけモードで斉賀亭へと侵入した、美琴こと、白河2号機。


なかなか目的地へと辿り着けない美琴に、俺はいらいら、いらいらしていた。


え? 話しが飛びすぎて分からないだって!?


まあそうだろうな。


しゃーない、面倒だが説明……いや、ちょっと時間を遡ってくれ。




◇◆◆◇




「助けてえ~~ドラえも~~ん」


「馬鹿な事言ってないで、早くこっちへ来い」



ちっ、いつもながら、冗談が通じないぜ。


例の如く、如月さんに助けを求めてやってきた俺。


まあ電話もあったしな。


そしてすぐに端末の横に座らせられて、説明モードの如月さん。


なんだか、今日はいつも以上にペースが速いぞ。



「昨日のニュースは観たか?」



ああ、あれね。もちろん、『RM事務所嫌がらせ事件』の事だろう。



「観ましたよ」と即答する俺。



「ならば話しは早い。今回の件、全て斉賀秀一という小僧の仕業だ」



え? ちょっと待って。


いや、ある程度予想はしてたんだけどさ、あまりに急展開すぎるし、この人どこまで知ってるんだ?



「ちょ、ちょっと待って下さい」


「なんだ?」


「ええと、その……どうして斉賀の事知ってるんですか?」


「ちっ……面倒だな……説明が必要か?」


「ええ。出来れば」



「ふむ、仕方のない奴だ…」といつもの如くタバコを吸い出す如月さん。


あいかわらず、俺への説明は面倒らしい。


白河には、言われなくても何度でもするくせに……。


ふん、拗ねちゃうぞ。


しかし、2号――じゃなかった美琴はどうした? 今日は見かけないな。


そんなキョロキョロした俺の挙動をキャッチしたのか、ズバリ心を読まれた。



「美琴なら、奥で学習中だ。後で会わせてやる」


「そっすか」



まあ別に会わなくてもいいけどな。


あいつを見たら、白河を思い出して切なくなるだろ。



「で、斉賀の件だったな―――」



どうして斉賀の事を如月さんが知っていたかっていうと、例のネットでUPされた写真を元に、どの端末からデータが送られたのか、調べたらしい。さすが如月さん。



「――で、辿り着いたのが斉賀のパソコンだったと」


「そうだ。それで斉賀という名に聞き覚えがあってな、確認してみたんだが……」



それがなんと、斉賀組の本家だったらしい。


『組』っていうくらいだから、なんとなく分かるだろ?


あいつの家は、本気のヤクザだってことだ。


どうして、金を持ってるはずだぜ。



「まあそれでだ、君からも嫌がらせの件は聞いていたからな、調べたら斉賀組が関係していた訳だ」



やっぱりあいつだったのか……。


金や権力に物を言わせるなんて、なんて汚い野郎だ。



「しかし、どうしたらいいんすかね?」


「ふむ……。簡単だ。脅してやればいい」



ニヤリとする如月さん。


そして、「これを観ろ」とモニターになにやら映し出す。


な……なんだ?


それは映像だった。どこかの部屋の中を撮影した物のようだ。


しかし、画質はあまり良くないみたいで、たまにノイズが入る。


でもなんだろ? なんとなく雰囲気では女の子の部屋のようだ。


部屋全体が明るいブルー調で統一されていて、そこかしこにヌイグルミが置いてある。


恐らく若い女の子だ。


一体何を見せようってんだ?


すると、なにやら画面に可愛らしい女の子が現れる。


なんだか、鼻歌まじりで上機嫌だ。


いや……まて。


この声どこかで――しかも着ている制服、うちの学校のじゃねえか!?



「知っているだろう?」



う、う~~ん。もうちょっとで……。



長くて、綺麗な髪。んで、頭には大きなリボン。


ちょっと待てよ……その子が振り返り、正面から顔が映った――


――間違いない。


来栖美月。来栖先輩だ。


なんで、来栖先輩の部屋の映像が……!?


すると、おもむろに制服を脱ぎ出す先輩。


うわ――――マジか!?


そして次第に…下着まで脱ぎ出し……カチッ



「あれ? なんでいいとこで止めるんですか!?」


「ふむ。君はなかなか度胸があるじゃないか? 私の前で、彼女の恥ずかしい映像を見たいと言うのだな?」


「あ~~いや……ええ~~~~と」



ちぇ、あそこまで盛り上げといてそりゃないぜ……。



「今の映像はな、斉賀秀一のパソコンからハッキングしたものだ」


「なんだって!?」


「しかも、これだけじゃない。こんなものじゃ済まされない。彼女の部屋、バス、トイレ、玄関、全ての場所に隠しカメラが設置してある。しかも、多様なアングルから見れるよう恐ろしい数のカメラが」



マジかよ……。


あの野郎……自分でアイドルデビューさせといて、裏でそんな事してたなんて……。


俺の、遥か数段先を行く変態じゃねえかよ。



「分かりました。その映像をあいつに見せて、脅してやるって事ですよね」


「ふむ、まあそうだな。しかしだ……このままでは証拠不充分だな」


「なんでです?」


「これはハッキングして入手した映像だ。相手が知らぬ存ぜぬを貫けば、どうとでも誤魔化せる」



くそ――そうなのか……じゃあどうすればいいんだ!?



「だがな、この件に関しては私もかなりムカついている。白河君と同様、来栖美月も私は結構好きなのだよ」


「は、はあ……」


「まあ入手した映像は、私が責任を持って保管するが……」



そこは破棄しとけよ!!



「この男は女性の敵だ。社会的に抹殺してやらねばならん」



お、いいね、そのノリ。俺も大賛成。



「で、どうやって証拠をゲットするんですか?」


「美琴にお願いする」



は? 今なんと? 美琴だって!?


あいつに何が出来る訳? ただ白河にそっくりなだけのあいつだぜ?



「マジで言ってます?」


「ああそうだ」



「ちょっと待ってろ」と恐らく美琴を呼びに行った如月さん。


一体どうするんだ?


程なくして、美琴を連れて来る如月さん。



「あは♪ かんざっき! かんざっき! 元気した?」



「かんざっきスキ~~」と俺に抱きついてくる美琴。



お……おい。どうなってるんだ、これ?


どうしてこいつが、俺に『スキ~~』とか言って抱きついてくる……。


なんだか、めっちゃ可愛いんですけど!!



「ちっ、嬉しそうだな。君は」


「そ――そりゃ嬉しいっすよ。だけど、どうしたんです? こいつ」


「かんざっきぃ~~」



すりすりと、俺の身体に頬ずりしてくる。



「ああ、最近、やっと物心ついてきてな。きっと、君が研究所で助けてくれたのを覚えていたんだろう。昨日から、君の事ばかり話すようになってな……」



マジすか!? 俺、こいつのフラグ立てちまったってこと!?


おいおい、どうづるどうづる……ズルズル……。


やっべ、ヨダレ垂れてきた……。


くぅ~~~! オリジナルがこんだけ可愛かったらな~~~。


…………。


一生ありえないな……。


よしよしと美琴の頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて猫みたいだ。可愛いぞ。



「で……こいつがどうするんですか?」


「ん? まあ見てろ。美琴、ちょっと例のやつやって見せてくれ」


「はぁ~~い」



可愛く返事すると、「シュッ」と消える美琴。


ええ!? これってまさか……。



「空間転移だ」


「やっぱそうすか!?」


「ああ。白河君の脳とシンクロさせたら、同じような現象が起きた。しかも、白河君の記憶が大量に彼女に流れ込んだみたいでな? 一般常識も今は充分身についている」



すげえ!! そんな事がありえるなんて!!



「今の美琴は、白河君のただのクローンではない。今はまだ脳が幼いが、その内、本当の白河君のように振舞うようになるかも知れないな」


「それじゃ、どっちがどっちだか、区別つかなくなるじゃないですか!?」


「……っふ、それも面白いな。それと言っておくが、美琴があれだけ君を好きだという事は、白河君も君が好きだと言う可能性が高い。良かったな」




『白河君も君が好き、白河君も君が好き、白河君も君が好き、白河君も君が好き、白河…………。』




ぬおおおおおおおおおおおおお!!!!


そんな事があああああああああああああああ!!!!!




信じられねえ!!!


あいつが……あいつが……さっきみたいに俺にすりすりと……。


考えただけでも興奮してしまう!!



なかなか興奮が冷めない俺に対して、如月さんはこうも言っていた。



「今の美琴は脳が幼稚だが、学習させた知識だけをみれば、君より遥かに頭は良い。まだ口が舌足らずだから、思ったことをなかなか話せないが、こちらが言った事はほぼ理解出来る」



だそうだ。


なかなかやるじゃねえか美琴。


いやさすが如月さん。



「んで、あいつのスキルを使って一体何をする気なんです?」


「まだ分からんのか。これだから君は……彼女には、斉賀亭へ飛んでもらって証拠を持ってきてもらう」


「成程……。でも美琴で大丈夫ですかね?」


「なに、心配は無い。準備は整えてある。それにだ、白河君本人でも良かったんだが、彼女にこんな汚い世界を見てもらいたくなかったんでな」



そっか……そうだよな。その通りだな。


やっぱ如月さん、頼りになるぜ。


この恩は、ほんといつか返さなきゃだな。



「しかし美琴のやつ、帰ってきませんね」


「うむ、そうだな。可笑しいな……」



シュッ――――――――――



うお! 帰ってきた。この突然現れる感じ、なんとかならねえのか!?



「たらいまぁ~~んん~~レロレロ……おいちぃ~~」



なにやら、アイスクリームをペロペロしてるんですけど……。



「如月さん……こいつに、金も持たせたんですか?」


「いや、それはない」



って、おいぃぃぃ~~~~!!!!



「お前、どこでそれ盗んできたんだよ!?」



「?」と頭の上にハテナマークを点灯させ、首を傾げる美琴さん。



「美琴、そのアイス、どうしたんだ?」


「え~~っと……かってくれた……おじさん」



嬉しそうに微笑む美琴。


ダメでしょ、知らないおじさんに着いていったら……。



「あの、如月さん?」


「ああ分かってるよ、ちゃんと教育する」



ならいいんですけど……。




◇◆◆◇




てな感じで、美琴潜入捜査が開始されたわけだ。


でもって、実際に飛んでいったのは美琴だけ。


俺達は、美琴が掛けているカメラ付き伊達メガネからの映像を見ながら、高みの見物だ。


ちなみに、どこを目指してるかって言うと、斉賀秀一個人の自室。


あらかじめ、如月さんが探りを入れてくれてあるから、間取りもバッチリだ。


しかもだ、斉賀亭ははっきり言ってかなり広い……そりゃもうお屋敷だ。


その代わりな? 使用人――ようするに、メイドさんチックな人がいっぱい居るのさ。


だから、もちろん美琴には使用人に似たような服を着せてるって訳。


ばっちりだろ?


と、ここまではいいんだが……。


屋敷の庭まで潜入したんだが……いかにも番犬って感じの犬に寄っていって、その犬と戯れてるんだよ。


まあ奇跡的にその番犬、全く吠えるどころか、くぅ~んくぅ~んって美琴に甘えてきやがる。


そして美琴は大喜び。


本来の目的を既に忘れてしまっている感じだ。



「おい! 美琴! 早く斉賀の部屋へジャンプしろ!」



必死に叫ぶ。こっちの声は、イヤホンで聞こえてるはずなんだが……。



「ふむ、まずいな……。このままでは恐らく見つかってしまうだろう……」



やっぱりそう思いますよねえ。


さっきから、画面には犬の映像しか映ってないんだよね……。



そしてその悪い予感は的中する。


その後すぐに恐いお兄さん達が来て、美琴は確保された。


それでも当の本人は、遊んでくれると思ったのか、なんと大喜びだ。


マジすか!?


全然当初の目的とはかけ離れてるんですけど……。


しかも――



「如月さん! このままじゃ美琴、やばくないですか!?」


「危険だな……だが、もう少し様子を見てみよう」



だ…大丈夫かよ……しかも、如月さんのこの落ち着きよう……信用していいんだろうか。


そのままモニターを監視していると、どんどん屋敷の奥へと連れて行かれている。


そして場所は広い部屋へと辿り着き……



「若、このような女子おなごが庭で見つかりました。いかがいたしましょう?」



恐らく、美琴のすぐ後ろにいるであろう兄ちゃんの声。


そして美琴の目線――モニターに写る先には――斉賀の姿!!


あの野郎……若とか呼ばれてるし……さすが本物は違うぜ。


なぜかドキドキしちゃう。



「ほう……その服……似ているが、当家の使用人のものとは違うな。もう少し、近くへ連れて来い」



何をするつもりだ? マジで緊張してきた。


されるがまま、素直に言う事を聞いてどんどん斉賀に近づく美琴……。



「おや? この女……白河真琴にそっくりじゃないか……。おい、そのメガネを外せ」



やばい! メガネを取るのもやばいし、素顔を見られたら白河本人だと思われる!!


どうしたらいいんだ!?



「如月さん! こいつに――何か装備させてないんですか!? 電撃が出るやつとか…爆発するやつとか」


「ないな。美琴にはまだ早い」



万事休す……って感じ?


打つ手無しか……ま、いつもの如く俺はなんも役に立ってないし。



そして外されるメガネ……。


モニターの映像が、突然床や天井を写したりと焦点が定まらなくなる。


既に誰かの手にあるって事だ。



「こ――こいつは!? 白河真琴本人じゃないでしょうか!?」

「か、可愛い……」

「俺、ファンなんです! 間違いない。本人ですよ、若!!」



たぶん斉賀の取り巻きというか、若い衆の声が聞こえる。


美琴の素顔を見て驚いているみたいだ。


まあ当然だな。


モニターには足元の映像が映し出されている……メガネは投げ捨てられたようだ。



「そうか……ククク……君が……ふっ…白河真琴本人が現れるとはね。やるじゃないか…どうやってここまで忍び込んだのかは知らないが、その度胸は素晴らしいよ」



斉賀の、冷徹でムカツク声が聞こえる。



「そいつを拘束して、僕の部屋へ運んでおけ。それと、お前か…? 白河真琴のファンだと言うのは……」


「は、はい若。自分であります!」


「お前…指詰めろ…」


グシャッ―――――――――



砕かれたような音と共に、映像と音声が途切れた。


踏み潰されたのかも知れない。


ダメだ! もうあっちの様子は分からない……どうする!?



「如月さん……」


「うむ…まずい展開だ」



さすがの如月さんも、腕を組み、足を組んで考え込んでいる。



「俺、直接行って来ますよ。だから…何か武器ないすか?」


「……危険だが、そうするしか手はないか……いや、待て……」



如月さんは悩んでいるようだけど、早くなんとかしないと……斉賀の奴、美琴に変な事するに決まってるだろ。


俺が行くしかない――ここからなら、走って15分位だからなんとかなるっしょ。


あ……でも相手は本物。チャカ(・・・)とか持ってそうだな……こ、殺されるかも……。



「ねぇねぇ~、なに二人で神妙な顔してるのぉ~?」



急に女の子の声が聞こえて振り向くと、そこには白河が立っていた。



「なんでお前がいるんだよ!?」




◇◆◆◇  ~~白河視点~~




「ハァ~~難しいぃ~~。」


「大丈夫よ真琴ちゃん、今のは良い感じだったわ。――さ、夕食にして休憩とったら、また最初っから踊ってもろうから」


「はぁ~い」



今はライブで歌う曲の、振り付けの確認中。


先生とマンツーマンで、朝からずっと踊ってたから……かなり消耗……。


自分の曲はいいんだけどね?


何曲かカバーするのよ。


えっと~、美月ちゃんの曲とかぁ、某有名アイドルグループの曲とかね。


そうしないと曲が足りないのよ。まだデビューして間もないから。


だからね、ライブオンリーで歌う曲の振り付けをしてもらってるんだけどぉ……。


あ~んもぉ…時間が無いから焦るぅ~~。


……まぁいいや。お弁当食べてちょっと休もっかなぁ。



「真琴、大分良くなってきてるよ。明日は番組の収録があるから、この後は早めに終わらせよう」



そう言って、マネージャーの黒田さんがそっとお弁当を手渡してくれる。


いつも優しい黒田さん。


この人はね、敏腕マネージャーとして有名で、私がここまでになれたのも…たぶんこの人のおかげ。


しかも長髪イケメンで、背も高くって……女の子に凄い人気があるんだよねぇ。


正直、私もカッコいいな~って思ってたりして……。


で、でもあれよね。私なんてまだ子供だし……きっと相手にされてないっていうか……。



「ほら、身体が冷えるよ……」



そっと自分の上着を脱いで、私の肩にかけてくれる……。


クーラーで冷えた肩に、黒田さんの温もりが伝わってきて心地よい。



「あ、ありがとぉ…」


「じゃ、僕はちょっと打ち合わせがあるから、悪いけど一人で休んでもらえるかい?」



また後で――と後ろ向きに手を振って行く黒田さん。


いつもながら優しくって素敵……。


あ~あぁ。神崎君にも彼のようなところが…ほんのちょっとでもあればなぁ~~。


顔は結構好きなタイプなんだけどなぁ……なんとなく、神崎君の顔を思い出す。


…………。


思い出すんだけどぉ……別にカッコいい訳じゃないし……。


別に顔も…好きなタイプじゃないか……。


なんでそんな事考えたんだろう。



「考えるの終わり!」



早くお弁当食べよっと。


そう思い、廊下を歩き出して休憩室の前まで辿り着く。


部屋に入ろうとして一瞬考え、お茶でも買おうかと自販機を見つめる。


でも黒田さんを思い出し、彼のことだから飲み物が用意されているはずだと確信しつつ、部屋に入る。


中にはやっぱり飲み物が置いてあり、デザートにスイーツも何個かある。


その横には『全部食べてもいいよ』と、メモが残されていた。


いつもなら飛び跳ねて喜んじゃうんだけど、疲れててなんだか冷静に考えちゃう。


だってね、黒田さん、いつも忙しそうなのに、こんなに気を使ってくれるんだよ?


やっぱり、大人だからなのかなぁ……。


ちょっと黄昏つつも、その優しさに浸りながらお弁当を食べる。


疲れて食欲は無かったんだけど、残すのは嫌い……というか孤児院時代に『食べ物を粗末にしてはいけない』と散々言われてきた事もあって、出された物は絶対食べる習慣がある。



「さすがにこれ全部は食べないけどぉ」



テーブルの上に並んだスイーツ達に視線を向ける。


プリンにシュークリーム、ショートケーキにワッフル……いっぱいあるけど、全部コンビニで買った物じゃない。


いつも、どこかの美味しい洋菓子屋さんで買ってきてくれる。


その心遣いがとっても嬉しい……。


プリンを手に取り蓋を開ける。


甘いカラメルの匂いがする……。


一口食べる。


疲れた身体に優しい甘さ……。


その一口で手に持ったスプーンの動きが加速し、どんどん食べる。


止まらなくなって、ワッフルも食べる。


そしてシュークリームに手を伸ばしたところで止める。



「――ダ、ダメダメ……太っちゃう……」



なんとか思い留まり考える。


考えて……また神崎君の事を思い出す。


あいつ――なにしてるのかなぁ……。


遠くの気配を感じ始める……大勢の気配を感じる。


ふと、近くの喫茶店で黒田さんを感じた。


言ってた通り、5・6人の人と会ってるから、打ち合わせ中なのかな。


えっと…もっと遠く…神崎君の家は…発見!


――あれ? 家には居ない……彩乃ちゃんだけだ。


何処に居るんだろう。


最近は、ついね、神崎君を探してしまう。


…………。


ち、違うって! べ、別に彼に会いたい…とかじゃないんだからねっ!!


……そ、そう……私って、友達少ないからぁ……。


つ、つまりそういう事なのっ!


ハァ~って、私ったら、なんで自分に言い訳してるんだろ。


でも気になるなぁ、どこに居るの?


家に居ないってことはたぶん……。


…………。


あ……居た、見つけた! やっぱり如月さんの所だ。


なにしてるんだろ?


でも可笑しいな…美琴の気配を感じない……。


時計を見る。


まだ休憩時間は結構ある。


ちょっと行ってみようかなぁ。


…………。


クンクン……着ているジャージの匂いを嗅いで確認する。


うん、汗臭くない。


ちょっとだけ…遊びに行っちゃおっと。



「必殺! 瞬間移動!! ……なんちゃってぇ~」



一瞬で身体が消えて、次の瞬間には如月さんの研究所に――。



目の前には如月さんと神崎君。


二人して腕を組んで、椅子に腰掛けている。


なんだか重い空気……。


ちょっと入り込めない雰囲気だけど、でも聞いちゃうの。



「ねぇねぇ~、なに二人で神妙な顔してるのぉ~?」


「なんでお前がいるんだよ!?」



あ、あれ? 二人共、『なんだか秘密がバレちゃったぁ~』みたいな顔で驚いてるんだけどぉ……。


私…お邪魔虫?



「来ちゃまずかったの?」


「…え…あーうん。いやそんなことはないぞ」



明らかにタイミング悪い感じ。


しかも、神崎君がよそよそしい。


な……なんでぇ~~? なんなのよぉ、この扱い……泣いちゃうよ……。


冗談で思ったんだけど……ホントに泣きそう……。


レッスンで疲れてたし、事務所はまた嫌がらせされちゃうし……あ~あぁ……。



「っておい!? なんだよ! そんな泣きそうな――目うるうるしてんじゃねーよ!?」


「だ――だってぇ……グス……」



ただ会いたかっただけなのにぃ……。



「いや、ナイスタイミングだ白河君―――」



それまで沈黙していた如月さんが、顔を上げた。



「―――不本意だが――白河君、力を貸してくれないか―――」



そう言って如月さんは、事情を話し出した……。


ここ数日での出来事―――神崎君と斉賀さんとのやりとり。


全然知らなかった。


あの写メがネットにUPされてたなんて……。


しかも、斉賀さんが……。


いつも美月にとっても優しくて、私にも笑顔のあの人が……そんな事するなんて。


美月ちゃんの……その部屋を盗撮って……信じられない。


話しを聞いて、私は段々腹が立ってきた。



「分かりましたっ! すぐに美琴を助けに行きます!!」


「……お、おい……大丈夫なのか?」


「大丈夫だってぇ。私に任せて!」



うん。たぶん平気。


だって、一瞬でテレポート出来るし……。



「じゃあ行ってくるね」



そう私は告げて、すぐにジャンプ!



「バ――バカちょっと待――」



なにか言ってたけど、知らない。


美琴の気配を辿って、既に斉賀さんの家の前。


すごく大きい……神崎君が言ってた通り、お屋敷だね。


さて、美琴に話し掛けてみよっと。



(美琴! 大丈夫? 変なことされてない?)



…………。



心の中で呼びかける。


実はね、美琴が能力を使えるようになってからは、テレパシーっていうのかな? 近い距離だと、気持ちが通じ合うの。


凄いでしょ? 私達って天才?


しばらくして、美琴の声が届いた。



(……ま……こと?)


(!! そうよ、真琴。大丈夫? 今、どんな状況か教えて?)


(ん~~とね、さいがと遊んでるぅ~~。たのしいよ~)



はいぃ!? どうして!? 聞いてた話しと違うんだけど……。


ま…まぁいっか、



(今そっち行くからね)


(はぁ~~い)



美琴の気配がする部屋を探す……そしてジャンプするイメージを強く!



シュッ――――――――――



移動成功。


そしてこの部屋は……なんだか本がいっぱいの棚が目の前にある。


書斎かな?


棚の奥を覗くと――居た。


斉賀さんと美琴が、ベッドの上で向かい合ってる。


って、キャァ~~~、ベッドの上で何してるのよぉ~~~。


と、とりあえず、様子を見てみよう……。



「なんだ君は……ずっと笑ってるじゃないか。僕に襲われるのがそんなに嬉しいのかい?」


「うん、たのちぃ」


「――っふ、幼児プレイのつもりか? 君はみかけによらず変態なんだね」



え? な、なに?


この展開ってまさか……。


ってあの子、シャツはだけてるじゃない!


しかも……斉賀さん、ビデオ撮影中!?


や…やだ…ブラのホックに手をかけられて……ま、まずいじゃない!?


ど、どうしよどうしよ……。


私は手近にあった大きな花瓶を手に取り、ゆっくりと二人の背後に忍び寄った。



「――っふ、まずはその大きな胸を撮影してやろうじゃないか……クククク……。」


「させないわっ!!」


「な、なに―――!?」



ガッシャーーーーーーーン!!!!!



思いっきり、花瓶を頭に叩きつけてやったわ。


花瓶は割れて破片が飛び散り、中の水が斉賀さんとベッドを濡らした。


斉賀さんはふらふらとしていたけど、バタッとベッドの下へ落ちてそのままピクリともしない。


――あ、あれ? もしかして死んだ?


え? や……やだ……嘘でしょ!? 


そ、そだ! みゃ、脈は……。


慌てて腕を取る……大丈夫……ちゃんと脈打ってるし……息もしてる。


び、びっくりしたぁ~~もぉ~~。



「まこちょ?」



美琴はキョトンとしている。


可笑しいなぁー。


如月さんの話しだと…私の記憶を受け継いだから、こういう事がどういう事なのかぐらい分かっても……


…………あ、あははははぁ…………。


そう言えば、私経験無いんだっけ……


自分で思ってて、軽くヘコんじゃったじゃない。


まぁいいわ。


さっさと帰りましょ。


と、その前に……いつも持ってる携帯用スタンガンでビデオカメラを破壊――電気当てれば壊れるよね?


よしっ! これでOK。


と思ったら、その奥にある棚に目がいった。


そこには、『来栖美月ROOM』というタイトルが張られたDVDが大量に……。


あからさまに怪しい……。



そうだった、その如何わしい物を全て処分しなきゃ―――。




◇◆◆◇ ~~俺様視点~~




―――遅い。


白河が帰って来ない。


飛んで行って美琴を連れて来るだけだろ?


なにやってんだよ…。


あいかわらず、如月さんは何の心配も無しって顔してるし。


早く帰って来いよ~~~マジで不安で堪らないないだろっ。



「白河真琴生還!!」

「たたいまぁ~~~」



と思ったら帰ってきたーーーーーー!!!!


胸を張って颯爽と登場した、白河嬢。


ジャージの胸の部分がパツンパツンに張っている。


もちろん、美琴も一緒だ。


はぁーー心配させやがって……。



「おう、無事か!?」


「ん? ぜ~んぜん問題無しね。証拠のブツも回収してきたわ。ふふふん♪」



そう言って、ビニールに入った大量のDVD-ROMを突き出す。



「良くやった、白河君。押収した品は、私が責任を持って破棄しよう」



そのブツを受け取る如月さん。


って、この人に渡して大丈夫なのか!?


かなりそれに関しては信用出来ないが、面倒なので敢えて突っ込まない俺。


そして斉賀のパソコンを破壊すると言って、端末を操作する如月さん。


ウィルスでも流すんだろうか。


と、そこで美琴の胸がはだけているのに気付く。


ブ、ブラが丸見えじゃねえか……。


って、あれ? やけにポヨンポヨンしてるな……。



「あぁ~~たのちかったぁ~~~。」



なんだか高まってるらしく、動き回る美琴。


美琴が飛び跳ねる度に大きく揺れて、ブラの下から隠された物が見えそうになる……。


まさかあれは――ホックが外れてるってやつじゃ……。



キュピーーーン!!



「俺's eyeロックオン――」



バシィィィィィッ!!!!!



瞬間――わざわざ自分の靴を脱ぎ、その凶器で俺を本気殴りの白河。



「痛えええええ!! 何しやがんだお前!?」


「ふんっ、Hなこと考えてるからでしょっ。なにがロックオンよっ!」



し、しまったああああああああ!!


つい嬉しくて声に出してしまったようだ。



不覚っ―――――――――




◇◆◆◇




次の日―――俺は斉賀を呼び出し、対峙していた。



「これが何だか分かるか?」


「ええ、大体は」



手に持っているのは一枚のDVD。


まあ生ディスクだけどな。


別に、黙ってりゃ分からないだろ。



「通報されたくなければ、白河への手出しは一切止めろ」


「解りましたよ。そこまでされては引くしかありませんね……イタタタ……」



斉賀の頭には包帯が巻いてある。


白河が何かやったんだろうか。


まあいい、ザマーミロ。


いつもの――不敵で気持ち悪い、薄ら笑みも無い。


ふっ、清々しいぜ。



「今すぐ電話して止めさせろ。じゃないと信用出来ない」



俺がそう言うと、「せっかちですねぇ」と手を広げてイラつくポーズをしながら電話を掛け始める。



「僕だ――例の件は中止だ―――そうだ、白河真琴の――ああ、もう終わりにする―――」



電話を切り、「これでいいかい?」と聞いてくる斉賀。


OKOKそれでいい。


ただ続きがあるんだよね~~~♪


俺は如月さんから受け取った、5センチ程の球体を手に取る。


その真ん中にあるボタンを強く押すと……ニョキっと針が飛び出した。



「斉賀――てめえに話しがある……。」


「なんです?改まって」



ゆっくり近づいて、その針を適当に奴の身体へと刺す―――。



「痛っ――な、何をした……お…お前……は……」



ドサッとその場に倒れる斉賀。


しばらく様子を見る。


そして意識を取り戻す斉賀。



「―――う、うーーん……ぼ、僕は一体……」


「目が覚めたか?」


「はい」



虚ろな顔で起き上がる。



「こ――ここは? ……あれ? 僕は……誰……だ?」


「お前は斉賀秀一だよ。じゃあな」



確認したから、その場を後にする。


何をしたかって?


もう気付いてるだろ?


記憶を消したってやつ。


通報しないでおいたんだ、粋な計らいだろ。


ま、俺が自慢したって仕方がないけどな。


最後はやっぱり如月さんに、締めてもらわねえとな。



――で、その後どうなったかっていうとだ。


斉賀の事務所は解体が決まり、来栖先輩は『RM事務所』への移籍が決定。


なんでも、白河が事務所に頼み込んだらしい。


まあトップアイドルの移籍だ、来栖先輩がいいなら、事務所も断るはずはないよな。


そんで、当然事務所への嫌がらせも無しって訳。


まさに一件落着ってやつ?



そしてその日の夕方―――



「やっほ~~~♪」



白河が遊びにきた。


いや、気付いたらまた、不法侵入されてた。



「なんだよ、何か用か?」



内心物凄く嬉しいけど、敢えて毒付く俺。



「なによぉ~~ツレないなぁ、君はぁ」



仕事の合間なのか、なぜかあの(・・)パステルピンクのステージ衣装で登場の、アイドル白河。


ぶっちゃけ超可愛いし、何度もDVDを観ていたせいか内心ドッキドキの俺。



「あん? 宿題やってんだよ、邪魔すんじゃねえ」


「またまたぁ~~そんなこと言って、どうせこの後、私の写真集でも見るんでしょ?」



う……行動パターンが読まれている……。


まさかこいつ!? …………ニュータイプなのか!?



って冗談はさておき、たぶん見ますけど……それがなにか?



「……でなんだ? 遊びに来たのか?」


「もぉ~、なに!? 折角忙しいなか来たのにさぁ、もっと喜んでよねっ」


「へいへい」



ちょっと拗ねた顔がまた可愛い。


俺ってドMかと思ってたんだが、実はSなのか……?


そんな下らない事を考えていると、白河が2枚の紙を取り出し俺に渡してくる。



「はい、これプレゼント」



ニコニコして渡してくるもんだから、つい期待してしまう。


ドキドキ……なんだろう……。



「白河真琴ファーストライブ……」


「うふ♪ 嬉しいでしょ~。結構いい席なんだからっ」



た、確かに嬉しいかも……。


素直に礼を述べると、「でしょでしょ~」と上機嫌でベッドにドカっと座り込み、足を組む。


組んだ足というか、そのムチっとした太ももの付け根――ヒラヒラのスカートに心が奪われる俺。


ライブのチケットよりも今は考えたいことが……。



…………。



成程、あのスカート……遂に謎が解けたぜっ!!


見た目は普通に布なんだが、実は布だけじゃない。


繊維の間に、どうやら樹脂が入ってるっぽい。


だから重さがあるし、全体が硬いから捲れないんだ。


そして今、座った状態はだな……傘が風でさ、普通に開いた時よりもっと開く時ってあるじゃん?


そうそう、強風で骨が反対に曲がっちゃうような感じ。


スカートの一部が、あの形になっちゃってるんだよね。


そんな状態だから、足を組んだ横から白いパンツが丸見えなんだよ。


いや~~あれだけDVD観てもダメだったものが、こうもあっさり見えてしまうなんて……俺感激!!


そしてさりげなく、白河の前に座り込む俺……う~むイカス。



「ねぇ、聞いてるぅ? 土曜日の夕方だからね?」


「お、おう」



もちろん行くに決まってるだろ!


しかしだ……俺の反応が鈍いのが気に入らないのか、何度も足を組み直してるんだよね。


その度に、いい感じでデルタ地帯が……おおit's a great!!


ふっ、最近では…俺のチラ見テクも相当レベルが上がったな。


全く気付かれてないし。むふ♪



「もぉーーなんか変だと思ったら……パ、パンツでも見えたの?」



ドッキーーーーーーーーーン!!!



「み、みみ見えてないですっ!! 見てないです!! な、なにゆえそのような!?」


「だって……さっきからスカートばっかり見てるじゃない……」



バ、バレてたあああああ!!!!!


くっ―――天然のくせに生意気な……。


とか言いつつ、



「あ、あの……怒ったりしたのでしょうか……?」



思いっきりへりくだる俺。



「え? う~~ん……でも……男の子って、みんな見たいんでしょ? その…女の子のそういうの……。だから……神崎君は普通だって、如月さんが言ってたしぃ」



な、ナイスフォロー如月さん……でもな、ここはハッキリさせておくぞ。



「言っておくけどな、なんでもかんでも見たい訳じゃねえ。お前のだから見たいんだっ」


「……え……」


「だから! 好きな女の子のは……その…だな……特に見たいんだよ!!」



…………。


はっ! しまった!! 


俺って奴は……超変態発言じゃねえか!?


白河を見る――俯いていて表情が分からない……。



「と、とにかく! 彩乃ちゃんと一緒に、ちゃんとライブには来てよねっ!!」



じゃぁね――って、そのまま消えちまった……。


俺、嫌われたかな。


いやいや、ライブに来てって言ってたじゃねえか。


たぶん、大丈夫……かな?


ははは…。



…………後で彩乃を誘わないとな…………




第17話に続く。












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