第15話 斉賀の企み
「はぁ~~~」
あれぇ? 変な時間に目が覚めちゃった……。
なにかなぁ~……あ……私……夢を……見ていたような……。
……やだぁ……なんだか……下着が……。
変な夢でも見てたのかなぁ……
……はぁ……朝から…私って……。
つい内ももをすりすりしてしまう……。
そう言えば、神崎君が夢に出てきたような……
手に残る彼のたくましい背中の感触……筋肉質な身体と汗の匂い……やっぱり男の子なんだなぁ。
って、ええ!? うそぉ!? ど、ど、どうしてこんなに……リアルに思い出すわけぇ!?
…………。
ま…まさかね……。
先日の光景が目に浮かぶ……。
実はね、この前…起きたら彩乃ちゃんのベッドだったのよね。
あははは……たまにね、勝手にテレポートしちゃうっていうか……。
そ――それで…また抱き合って寝てたりして……。
でもね、すぐに戻ってきたし……たぶん気付かれてないと思うの。
だ、だからね…今度は…あいつのベッドに飛んじゃったりして……。
……う……だ、抱き合うシーン……想像しちゃったじゃない……。
べ、別に――そんな――い、嫌じゃないけどぉ……って! なに考えてんのよ!
…………。
そ――そうあれよ! たぶんあれ。
あいつが――私にHな事でもしたのよ……夢の中で……。
…………。
!!!!!!
自分で考えておいて急に恥ずかしくなる。
な、なんで私がそんな夢――見なくちゃいけないのよっ!!
や、やだ…やめてよぉ~~~寝起きで……その……こんな状態なんて、あいつと一緒じゃない……。
わ……私はそんな……Hじゃないんだから……。
…………。
……ね、寝よっと……
今日も……忙しい……し…
…………。
……Zzzz……スゥ~スゥ~……。
◇◆◆◇
時間は遡り――― 一時間程前。
これは一体何事なんだ―――!?
俺の真横で……白河が寝てるんですけど!?
部屋の中は暗い……恐らくまだ深夜だろう。窓から差す月明かりが、白河の顔をぼんやりと照らしている。
思い出す―――寝る時……普通にいつも通りベッドに入って……寝たはずだ。当然ここは俺の部屋。
そして、たった今――目が覚めて――この状況―――
どういう状態か説明するとだな……二人が横向きに向かい合ってます。超至近距離で。
目の前で寝息を立てる…超可愛い白河の顔。マジ天使。超女神。超激ラブ。
そうだな……一つの枕に二人の頭が納まっている……と言えば、その距離感が分かっていただけるかと……。
もう少し近づけば、キスできちゃうな……。
スゥ~スゥ~と寝息を立てる白河……前にも感じたことあるんだけど、こいつの吐く息ってさ……なんて説明すればいいかな? なんだか、甘酸っぱいような……不思議な匂いがするんだよ……。ぶっちゃけ大好きだな…この匂い。
あ~~なんだかこうしてると…満たされるな~~。
って! そんな事考えてる状況か!?
段々、頭が冴えてきた。ひょっとしたらまだ夢かもって思ってたんだが、どうやらリアルっぽい。
そして気付く……色々な事に…。
たぶん――いや間違いなく――こいつは俺に抱きついてる……超マジで。
背中に手が回されてるし、足も俺に乗っけてきてる……しかも生足じゃねえか。
おまけに…密着した身体からムニッとした……あの特盛りの感触が……。超柔らかい。超弾力。超プリン。間違いなくノーブラです。
正直、こいつの身体は全体が柔らかい……これが女の子……。超感動、超感激、秀樹還暦。
!?
ちょっとまて……嘘だろ……いや…間違いない。
え~とだな、少し時間をくれ。
聞いて驚け、今説明する。
俺の片足がさ、こいつの太ももに蟹バサミ状態で挟まれてるんだけど……その俺の足のさ……膝がな?……白河の…こ…股間に……あ、当たってるんだよね……。もろ危険な部位に。
いやいや違うぞっ!! 俺は目覚めてから、指一本動かしちゃいねえからなっ!!
しかもだな……俺って、寝る時はパンツ一丁――いわゆる『パンイチ』なんだよね。
だから分かる……こいつのそこが……じんわり熱をもってるのが。しかもなんだか……。マジで!?
あまりの驚愕的事実に困惑していると、白河がもぞもぞと動き出す……そしてグイグイとそこを押し付けてくる……。
「……ぁ……」
突然漏れる、白河の微かな吐息……。
!!!!!!!
思わず超ドッキドキ……いろんな意味で……。
こ、こんな状態我慢できっかよ!?
ヤっちゃう!? ヤっていいよな!? このままだと、俺何もしてないのに発射しちゃうだろ!?
よしっ!! こいつに嫌われたって知るもんか!! もう無理!! 俺はヤるったらヤる!!
ゆっくりと態勢を入れ替え、白河の上へとずれる俺。
そして顔を近づけ―――キスを―――
おっといかんいかん。キスをする時は目を閉じなきゃな。
ゴホン
改めまして―――キスを―――
シュッ――――――――――
ムチュ~~~…………あれ? 俺、枕にキスしてるんですけど。
って居ねええええええええええ!!!!!
消えたのか……あいつ。
やっぱり―――こんなオチ?
ひ…酷過ぎる……寝てる時まで逆ハラされるなんて……。
あいつ……どんな恨みが俺にあんだよ!
あ~あ……寝よ……
って眠れるかっ!? ボケッ!!
身体全部がギンギンだっつーの!!
◇◆◆◇
「兄さ~~ん、おはようございまぁ~~す。朝ですよぉ~~~」
「…………」
「兄さん? 起きて下さぁ~~い。…………あ、兄さん、パンツからなにか顔出してますよ?」
「ぬおっ!? 見るんじゃねええっ!!!」
「あ、起きた」
起きたじゃねえし!? ってしかも何も出てねえじゃねーか!!
「あ、あれ? 兄さん…どうしたんですか? 目の下にクマが出来てますけどぉ……しかも、なんだかゲッソリしてるような……」
「――な、なんでもねえよっ。着替えっから下行ってろ、下っ!」
「……はぁ~い。ちゃんと顔洗って下さいね」
はあ~~。超寝起き最悪……。寝不足だし、腰から下が超重い……。
賢明な皆さんなら、その理由はお察しいただけたと思うので、敢えて説明はすまい。
しかし……朝からこの倦怠感……。
超だるい。超眠い。超やる気出ねえ。超プリン……。
ん?
ぬおおおおおおおおお!!!! 思い出したじゃねえかっ!!!!
いかん!! これ以上出したら……出したら……血が出るかも!?
この後――錯乱状態の俺は妹になだめられ、リポビーを飲んでなんとか学校へと登校した。
◇◆◆◇
数日後の夜―――
まったり妹とテレビを観ていたら、気になるニュースが流れた。
『RM芸能プロダクション事務所に相次ぐ嫌がらせ再発。白河真琴復帰に暗雲―――』
RMプロとは、『レインボー・ミュージック』白河が所属する事務所だ。
しかし……嫌がらせ再発だって!?
坂爪博士の一件で、解決したんじゃなかったのか!?
やりきれない思いで画面を見つめる……。
「わわ……酷いことする人がいるんですねぇ……」
妹もドン引きのその内容は、以前白河に聞いていた手口とほぼ同じだった。
事務所の様子が映し出されているけど、ガラスが割られたり、入り口でボヤがあったり……継続的に嫌がらせの電話があったりと、アナウンサーが説明している。
詳しくは伝えてないが、電話の内容は、白河への脅迫じみたものかも知れない……。
どうしたらいい? 俺になにか出来る事は……。
だけど、考えても思い浮かばない……。ただの高校生の俺には出来る事なんてなかった。
ただ、以前と違うところは、今のあいつにはあのスキルがある。襲われてどうにかなる――なんて事はないだろう。
だけど……嫌だな……。あいつきっと落ち込んでるよな。
折角掴んだ白河の明るい未来に、ケチつける奴は誰なんだ!? 許せねえ。
結局、その日の夜――あいつがゲームに現れることはなかった。
ていうのも…ここ数日は、短い時間だけど毎日遊びに来てくれてたんだ。
何か聞けるかと思ったんだけど……。
あいつ―――大丈夫なのかな? コンサートも近いってのに……。
◇◆◆◇
次の日の学校―――
「ごめんなさい兄さん、今日は食堂で食べて下さい――」
妹の言葉を思い出す。
今日は朝練があるとかで、弁当はないらしい。
ま、毎日妹の弁当食ってたら、マジでシスコンだと思われるからな。適度に学食行くってのは悪くない。
――と思ったんだが、激しく後悔する。
その理由とは―――
「神崎君、食べないのかい? うどんが冷めてしまうよ。しかし君はうどんが好きなんだね……」
目の前で定食にありついている男――斉賀秀一。
なんでこいつが居るんだ……。しかも――そうだ。こいつのせいで写真がネットに流れたんじゃねえか。くそ、悩みの種が多いぜ。全く。
見てるとムカムカしてきたもんだから、直球で聞いてみたんだ。
「てめえか、写真ネットにUPしたのは?」
俺がそう問うと、ニヤっと気持ち悪く笑みを作り「さて…なんのことやら」と白々しく手を広げてやがる。予想通り、感じ悪い対応だ。
「大変ですねー、RM事務所も。ニュース、観ましたよ。なんでもヤクザに嫌がらせされているとか……ククク」
不敵に笑ってるぜ……殺したくなるなこいつ。……いや…まてよ…なんでこいつヤクザが絡んでるって知ってるんだ? 前回の報道も合わせて、ヤクザが関係してるなんて一言も言われてないぞ。まさかこいつ……。
「おい…もしかしてお前か? 嫌がらせにはお前が関係してるのか!?」
「やれやれ…先輩である僕に対して『お前』ですか……困った後輩ですね。僕が関係しているとしてどうするんです? 君になにか出来るとでも?」
「――こ、コノヤロー……」
「全く…稚拙で幼稚ですね~君は…」
まだニヤけてやがる……。なんだよこいつの態度。関係を否定もしないし……。
しかし…ただの高校生が、ヤクザ使って嫌がらせとか出来るのか? いや…まて、こいつは来栖先輩を金の力でアイドルデビューさせた男だぞ……その気になればなんだって……。
くそーーーー。やりきれない想いで斉賀を睨みつける。
「なんですか、その挑戦的な態度は……。正直、君程度のゴミに興味なんてありませんが……まあ…僕としては白河真琴――彼女が芸能界から去ってくれれば、何も問題は無い訳でして…」
「……なんでだよ……なんで、白河に……そんな事……」
「はあー。君って見た目通りの馬鹿なんですねー。白河真琴の実力は、その人気が表しているように確かなものです。いずれ美月を超えるでしょう。ですが――僕がそんな事を許すとでも? 僕の愛する美月を超えるだなんて……ありえないですよね」
な、なに言ってやがんだこいつ…。
それじゃ只の妬み…嫉妬じゃねえかよ……ふ―――
「っざけんじゃ―――」
斉賀の胸元を掴もうとした瞬間――奴は立ち上がり、俺の手は空を切った。
「ちょっとおしゃべりが過ぎましたか――ま、指でも咥えてその辺で這いずり回って下さい。それでは――」
掴み損ねた手をそのままに、フリーズする俺。
あの野郎……許せねえ。
ちくしょ~~~何か俺にも出来ないだろうか……う~む……。
ムカついた気持ちが治まらず、その場で佇んでいると、ふいに携帯がブルブルした。
電話……? 誰だ? 一瞬――白河の顔が浮かぶが、あいつは番号を知らない。まあ彩乃だろ、たぶん。
しかし、液晶画面の表示を見てほくそ笑む俺。
ふっふっふ……斉賀、てめえは死んだ。
俺には何でも頼りになる、ドラえもんみたいな人が居るんだよ。
もちろんその人とは―――如月さん。
「はい、俺です」
「私だ。今、話せるか?」
いつもの、ドライな感じの声。
「大丈夫です」
「ならば、今日も必ず来い――」
「あ――はい、分かりま――」
ツーツーツーー……
もう切れてるよ。あいかわらず用件短い人だ…。
でも用件ってなんだ? 昨日の今日だから…たぶん白河の事だと思うんだけど。
あの人、白河大好きだし……。
まあ――行けば分かるか。
第16話へ続く。