第11話 休日はデート その②
俺達3人は遊園地にいる。
ぶっちゃげ、妹以外の女の子と来たのなんか初めてだ。
だから俺は、未知の経験に期待を馳せていた。
要するに、楽しみだってこと。
しかし今は、休憩所で3人ともムッツリとしている。
それはなぜか。
見上げれば、一面の雲。
そして土砂降りの雨・・・。
可笑しいと思ったんだよ、めちゃくちゃ空いてるんだもん。
「彩乃、お前さ、天気ぐらい調べとけよ」
「ちょっと、彩乃ちゃんのせいにしないでよ! 男らしくないんだからっ」
「まーまーまー、当然そんなのは調査済みなのですよぉ」
ふっふっふと含み笑いの我が妹。
横では白河が、普通にヘコんで頬杖ついている。
「天気予報では、このまま一日降り続くと言ってましたけどぉ、午後には小雨になるとも言っていましたぁ!」
絶望的な報告に、俺と白河はさらにヘコんで、顔を見合わせる。
「しかぁし!! 彩乃の勘では、午後にはきっと晴れるのですっ!!」
へーへーそりゃ良かったね。
そうだといいね~~。
お前の勘と、天気予報のどっちを信用するってんだよ。
あきれる俺。
いじけてジュースを飲んでいる白河。
そしてボソっと呟く。
「うう・・・絶叫マシーン・・・乗りたかったなぁ」
そ、そんなにしょげんなよ~~。
可愛いこいつが悲しい顔してると、なんとかしてやりたくて堪らない気持ちになる。
「大丈夫ですよ! 彩乃はちゃんと準備してきたんですっ!!」
一人元気な我が妹は、バッグから折りたたみ傘を取り出して「見てくださいっ」と空に掲げた。
成程・・・少しは準備してきたんだな。
えらいえらい。
しかし、それで絶叫マシーンが乗れるわけじゃない。
当然、この雨で動いている乗り物なんかなかった。
「あ~あ、今日乗れなかったら、もう次いつ来れるか分かんないよぉ・・・・」
そうか・・白河は忙しいもんな。
しかも有名人だし、今日はいいチャンスだったんだな。
改めて、可哀相になってくる。
「おみやげ屋さんにでも行こうかなぁ・・・・」
もう帰る気なのかよっ!
やべっ、本当になんとかしてやりてえな。
「チッチッチ、甘いのですよみなさん。なぜ、結構遠いここを選んだのか、それには理由があるのですっ」
あいかわらず、テンション持続中の妹。
しかし、なんかあるのかここ。
「乗り物には乗れませんがぁ、当遊園地には屋内アミューズメントがいっぱいあるんです!!」
へーそうなんだ。
じゃあ一応遊べるんだな。
「これを見て下さいっ」と広げる情報誌。
そこには、この遊園地の特集ページが。
まだ重い空気のまま、目を通す。
なになに・・・『屋内のアトラクションも充実!』・・・ふむふむ。
『君が勇者だ!』『宇宙空間が体験できるスターパラダイス』『最怖との噂でもちきり!サチコの家』などなど・・・・。
確かに、屋内系のアトラクションが結構あるな・・・。
しかも紹介用のカットだけで、なんだか興味をそそられる。
どれも参加型のもので、3人で楽しめそうだしいいかもなあ・・・。
横では、白河がなにやら神妙な顔で、雑誌を食い入るように見ている。
すると記事を読む度に、「あ~なにこれっ」「えぇ~これなにぃ~」「うわっ!すごっ!!」と段々テンションが上がってくる。
ほぼ元気を取り戻したな、彩乃ナイス。
そしておもむろに立ち上がると、目をキラキラさせる白河。
「わはっ♪ 面白そう~~行ってみたい、行ってみたいっ!」
「そうでしょう、そうでしょう~~。」
えっへんといつも通り胸を張る妹。
白河も嬉しそうで、良かった良かった。
「良くやった!」頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める妹。
それじゃ午前中はインドア巡りで、後はこいつの勘を信じて午後を待つか・・・。
妹の準備した傘を受け取ると、まずはここから近い『君が勇者だ!』を目指すべく、第一歩を・・・・
と思ったら、無言で俺の傘に入ってくる白河。
「・・・・・。」
嬉しいやら緊張やらで俺も無言。
「・・・だってぇ・・・彩乃ちゃんが入れてくれないんだもん・・・」
聞いてもいないのに、言い訳してくる白河。
どうやら傘は2本しかないらしい。
そして俺を見て、親指をこっそり立ててみせる我が妹。
う・・・微妙に嬉しいじゃねえか、妹よ。
しかし、白河を雨に晒したくなかった為、身体の半分以上がずぶ濡れになる俺。
「あぁ~神崎君、ずぶ濡れじゃないのぉ~、もっと近くに寄りなさいよぉ」
「お、おう・・・」
白河に一瞬腕を組まれ、引っ張られる。
その反動でぴったりくっついてしまう俺達・・。
「ちょ、ちょっと・・ち、近すぎっ!」
「お、おう・・」
さっきから『おう』しか言えない、しょぼい俺。
近いづいた時のあいつの匂い・・・。
なんだか今日は、めちゃくちゃ良い匂いがするんだよ、マジで。
ああ~俺このままロリに目覚めたら、どうしてくれんだよ。
落ち着こうと、辺りを見廻す。
人が少なく、閑散としている。
そして数々の絶叫マシーンがあるが、どれも稼動していない。
ま、当然だよな。
そんな中、一際賑わうスペースがある。
「あ、あれじゃないですかぁ」
妹が指差すそこには、『君が勇者だ!完全版』とでかでかと看板が建っている。
お~あれか、何が完全版か知らんが行ってみよう。
列に並び、順番を待つ。
幸い、列といっても大した事はない。
立て札には、ここから10分と書いてある。
なんだか、得した感じだな。
入り口には、悪の大魔王みたいな超でかいフィギアがあって、挑戦者求むとある。
なんか面白そうだ。
「うわぁ~~なにするのかなぁ、ここ。ねぇねぇ神崎君、なにか見えるぅ?」
わくわくマックスな感じで、楽しそうに俺の服を引っ張る白河。
かっ・・・可愛すぎる・・・・!!
来て良かった・・・マジで・・。
違う意味でドキドキしながら、順番を待つ。
おっと彩乃はどうした。
後ろで呆けている妹を側に寄せ、手を繋ぐ。
ニコっと嬉しそうな彩乃。
俺は妹思いの兄だからな、こいつにも楽しんでもらわないと。
順番になり、ゲートを潜る。
で、係りの人からの説明が始まる。
内容的にはこうだ。
パーティーごとに、悪の大魔王を倒しに行く…そういうシステムらしい。
一つのパーティーは、最大4人まで。
だから、俺達は3人で遊べる。
そして、最初になりたい職業を決めるらしい。
で、職業とやらは結構種類があってだな・・・
戦士、魔法剣士、魔法使い、僧侶、科学者、風水士、召喚士・・・・など様々だ。
俺は迷わず戦士を選ぶ。
すると、剣の柄のようなものを出されて受け取ると、使い方の説明をしてくれた。
「それは勇者の剣です。その剣でタイミングよく、モンスターを切って下さい。」
はあ、これが・・・。
どう見ても刃の部分がない、ただの柄なんですけど。
二人はって言うと、どれにしようか迷っているみたいだ。
「兄さ~ん、この僧侶ってなんですかぁ?」
その質問には、係員の人が答えてくれた。
僧侶は多少攻撃も出来るが、基本はお祈りを捧げてパーティーの体力を回復をする、といった職業らしい。
「じゃぁそれにしますぅ。」
うむ、癒し系のお前にぴったりだ。
なにやら水晶のような、大きな玉が付いたロッド?を渡される妹。
白河はというと、どうやら魔法使いらしい。
頭にはとんがり帽子。
手には、長い樹脂製の杖。
木に模したデザインだ。
「似合う~これ?」と、帽子を指差す白河。
はいはいお前は美形だから、なんでも似合うよ。
実際、普通に似合ってるし。
係員の人に案内され、広いスペースに到着する。
その先には沢山のドアがあり、幾つもの部屋があるようだ。
そして、「助けてぇ~~~勇者様ぁ~~~!!」どこからか聞こえる叫び声。
『魔王に囚われたお姫様を救い出す』という設定らしい。
なかなかベタな感じでいいじゃないか。
部屋に入ると、中は円形状になっていた。
何が円形かって言うと、360度黒い円形状の壁に囲まれているのさ。
何でかは知らねえ。
床は前面ゴム張りで、ちょっとふわふわする感じだ。
そして突然明かりが消され、真っ暗になった―――――
「キャッ! や・・やだ・・・神崎く~ん、どこにいるのよぉ~~」
「・・・に・・兄さん、なにも見えません・・に、兄さんいますかぁ?」
演出だろうか。
暗闇が続く中、怯える二人が面白いので、俺は黙っている。
周りでは彩乃と白河が、うろうろと彷徨っている気配がする。
「兄さんっ!」
俺を見つけて、ガバッと身体にダイブしてくる妹。
「・・・彩乃ちゃ~ん・・・どこぉ・・・」
「ここですよぉ~。」
「えぇ~~どこなのぉ~~なんで暗いのよぉ・・・」
泣きそうな声で彷徨い続ける白河。
しかも、どんどん遠ざかって行ってるし。
しかし・・・いつまで暗いんだ。
そろそろ声かけてやるか?
すると、突然俺の横で「シュッ」と音がする。
どうやら我慢出来ず、スキルを発動させたらしい。
こんな狭い部屋で・・。
相当テンパってんな、白河。
そして「彩乃ちゃ~~ん」と言いながら、俺に抱きついてくる。
・・・・・・・・・。
瞬間、壁に映像が映し出され、部屋全体が明るくなり、
俺に抱きついている白河と目が合う。
「な、なんかそろそろ始まるみたいだ・・ぞ」
「う・・うん・・そ、そだね・・・」
ぎこちなく離れる白河。
そして室内にアナウンスの声が流れる。
「は、早く助けに来てください! 勇者様!!」
お姫様の叫び声と共に、床が動き出す。
「うおっ! なんだ?」
「わわわ!」
「キャッ、な、なに!?」
床の動きに合わせて映像が進んでいく。
成程、歩けって事か・・・。
俺達も、その速度に合わせて歩く。
なんだろ。
空港とかにある動く床を、逆走している感じだ。
そのまま草原を進んでいると、遠くから徐々に近づく物体が・・・。
段々とそれが何か分かる。
スライムだ。
「キャァ~~、なにあれ可愛いぃ~~。」
「わぁ、ぴょんぴょん跳ねてますぅ、可愛いですぅ。」
女性陣には、その愛くるしさが人気のようだ。
まずは程よく、あれを倒せって事だろう。
「シャキーン!」
機械的な効果音と共に、俺の持っていた剣の柄に見事な刃が出現した。
す、すげえ~~。
持っていたそれは、今や完全に勇者の剣と言っていい格好良さだった。
ただ、重さは感じない。
手で触ろうとしても、刃の部分は触れられない。
立体映像なのかな? 不思議だ・・・。
そうこうしていると、スライムが目の前まで来て飛び掛ってくる。
3Dなのか、画面から本当に飛び出してきた。
やべえっ、ぶつかる!!
その瞬間――――バシッと効果音が鳴り、揺れる床。
で、今気付いたけど、神崎駿と書かれた、左上に表示されている俺のHPが少し減った。
おお~~システムが解ったぞ。
要するにHPが無くなると、ゲームオーバーなんだろ?
オーケーオーケー。
俺は剣を構える。
スライムがまた飛び跳ねてくる・・・。
目の前に来たその時、タイミング良く剣を振った――――――
「ジャシュッ!」
真っ二つになるスライム。
き、気持ちいいじゃねえか・・・。
そのまま落ちて、徐々に消えていくスライム。
ふっふっふ、もう解ったぜっ!
しかしその後も剣を振り続けるが、なかなかスライムに当たらず、無駄に体力を減らす俺達。
彩乃も、「やぁ!」「とぉっ!」「はにゃ・・」と掛け声付きでロッドを振り回すが、空振りのご様子。
意外と難しいぞ・・・これ。
横では白河が、さっきから全然戦闘には参加せず、なにやら冊子のようなものを見ている。
「白河・・・お前、何やってんの?」
「え? 説明書読んでるんだけどぉ・・・」
そんなものが在ったのかよっ!!
「彩乃も見たいですっ、見せて下さいぃ~~」
彩乃が白河に駆け寄り、熟読を始める二人。
俺も見たいんですけど・・・。
そうこうしているうちに、仲間を呼んでどんどん増えていくスライムの群れ。
まずいぞ、このままゲームオーバーな予感が激しくする。
そんな俺達の事情は無視で、一斉に飛び掛ってくるスライムたち。
もうダメだ――――――
と思った瞬間。
「ファイヤー」
突然、大きな炎が噴き出し、スライムの群れを包み込んだ。
白河の魔法だった。
構えた杖から、軽快に噴き出す炎。
一瞬で塵と化すスライム。
チャララチャッチャチャ~~~ン
効果音が鳴り響き、メッセージが流れる。
勇者白河はレベルが上がった!
ファイヤーウォールを覚えた!
アイテム『女の子の秘密』を手に入れた!
「やったぁ! なんかレベル上がった! うっふふ~ん♪」
「ファイヤーウォールは・・・」とぶつぶつ呟きながら、嬉しそうに説明書をパラパラめくる白河。
「あぁ~~いいですねぇ白河さん。どんな魔法なんですかぁ?」
妹が食いつき、二人できゃ~きゃ~騒いでいる。
楽しそうだな・・・。
俺も仲間に入れてくれよ。
しかし、『女の子の秘密』ってなんだ・・・?
その後はバシバシと、雑魚モンスターを倒しまくる俺達。
スライムの他に、ゴブリン、ミニ悪魔?、ゾンビなどなど・・・良く知っている、可愛くデフォルメされたモンスター達が登場する。
女子二人にも「や~~ん可愛いぃ~~」と、大好評だ。
あいかわらず派手な魔法で敵を一網打尽にする、破壊力バツグンの白河。
そして倒し損ねた雑魚を処理する、俺と彩乃。
戦う度に体力が減るが、彩乃がお祈りを捧げて回復してくれる。
ナイスなバランスのパーティーだ。
そして映像は進み、モンスターがぱったりと出現しなくなる。
今の内にと、俺も説明書を見せてもらう。
げ! なんだよ、必殺の剣だって・・・。
俺にもカッコイイ技があるんじゃねえか。
「いよいよ魔王の城が近づいて来たぞ! 気を付けるんだっ勇者達!!」
またアナウンスが流れる。
と同時に周りが暗くなり、ダダンダッダン、ダダンッダッダダ~~ンとターミネーターのようなBGMが流れて、魔王城が登場する。
で・・でかい・・。
ギギギイイイィイと扉が開かれ、中に入る。
すると、大量のゾンビが現れた!!
しかし、さっきまでのゾンビとは違って、デフォルメされていない気持ち悪い姿。
「いやぁ~~気持ち悪いぃ~~、神崎君お願いぃ~~」
「キャァ~~気味悪いですぅ~~」
後ろの方に隠れてしまう二人。
マジかよ~~、こいつら斬っても斬っても復活すんだよな~~。
さっきは白河の魔法連発でなんとかなったけど・・・。
白河のMPを見る。
残量が殆ど無い。
仕方ない、あいつが回復するまでなんとかするか。
わらわらと、かなりの数のゾンビに囲まれる俺。
それを次々斬り捨て、真っ二つにする。
気持ちいい~~。
しかし切ったゾンビはそこから再生し、逆に数が増えていく・・・。
マ・・マジでえ!?
くそっ、埒があかねえ。
俺は剣を後ろに構え、溜め攻撃の準備をする。
わらわら集まるゾンビ・・・。
ぎりぎりまで待つ・・・。
よしっ! 今だ!!
「ハイパースラッシュソォォゥゥドッ!!」
掛け声と共に、剣で思い切り横斬りをする。
刃から広範囲に衝撃波が発生し、ゾンビを全て切る!
爽快!!
ふっ、どうだ見たか、俺の必殺剣。
しかし飛び散る破片から、次々に再生を始めるゾンビども。
げっ嘘だろ!?
さ、さすがにこれは終わった・・・。
俺がゲームオーバーを確信したその時、
「チッチッチ、甘いのですよ兄さん。そう、それは昨日食べたケーキよりも・・・ふふふ・・」
何だか、キャラチェンジして再登場する我が妹。
「ここは彩乃におまかせですぅ~~~」
そう言い放つと、お祈りのポーズを取る僧侶彩乃。
「奇跡! 浄化の祈りっ!!」
ですぅ~~とロッドを掲げると、眩い光りが辺りを照らし始める。
そして跡形もなく消えるゾンビ・・・。
「ふっふっふ~~、どうですか兄さんっ」
見ましたかっと胸を張る妹。
すげえな・・・演出も凄かった。
ただ・・・最初からそれやっとけよ。
心の中で突っ込みつつ、先を進む。
広い階段を登ると、『謁見の間』と呼べばいいのか、両サイドの柱が何本も立つ広間に出た。
真ん中にはレッドカーペットが敷かれている。
そのだいぶ先に、恐ろしくでかい魔物が触手をウネウネさせて待っている。
たぶんあれが、魔王に違いない。
「うぅ~~また気持ち悪いのがいるじゃないぃ~~」
「兄さんっ、ボスですよボスっ!! あれを倒せばきっとクリアですっ」
引き気味の白河と、先程の活躍でテンションの高い彩乃。
目の前に現れる魔王。
でかくて気持ち悪い。
爬虫類のような顔をしていて腕は無く、その代わり何本もの触手が生えている。
「お前達が勇者か・・・全員皆殺しだああああ!!」
魔王の地響きを起こすような声と共に、触手が伸びてくる。
「いやぁ~~こないでぇ~~」
「あわわわ・・・こ、これはダメですぅ・・・」
またもや逃げてしまう二人。
「お、おい、俺一人じゃやばいって!」
触手を斬り刻むが、本数が圧倒的に多い。
斬り残しにやられ、どんどん体力が減っていく・・・。
しかし身体が光り、一瞬で回復するHPゲージ。
妹の後方支援だ。
だけど、このままじゃ時間の問題だ。
彩乃のMPが無くなったら終わり。
「白河っ、魔法頼む!」
「えぇ~~仕方ないなぁ~~」
「うわっキモっ」と言いつつ、近寄り杖をかざす。
「ファイヤーウォール!」
声と同時に、目の前に炎の柱が立ち上がる。
これで、しばらく攻撃が防げるみたいだ。
ふ~~どうすっか。
白河のMPは、今のでほぼゼロ。
俺の必殺剣は、触手が邪魔で本体に当たるか分からない。
しかも、一回の戦闘で一度しか使えない。
まさに最後の砦。
どうしたら・・・
すると、魔王が大きく口を開けて空気を吸い込んでいく。
響き渡る地鳴り・・・・。
な、何かやばい攻撃がくる感じ・・・。
まだファイヤーウォールはある。
防げるか?
そして魔王が口を閉じた刹那――――――場が静まり返り、次の瞬間、冷たい豪風が吹き荒れる!
「キャァーーー寒~~い!!」
「か、顔が痛いですぅ~~」
演出なのか、若干氷の粒が混じって風が吹いている。
こりゃ堪らん!!
しかも、ファイヤーウォールは消え、HPが凄い勢いで減っていく。
風が収まった頃には、全員ゲージが赤く点滅していた。
まずい・・・彩乃もMP切れだ。
ああ~、ここまできて終わりかよ~~。
「分かったっ、あれを使ってみる」
ここまで逃げ腰だった、勇者白河が立ち上がった。
「ネーミングが嫌で使わなかったけど・・・しょうがないわね」
そう言って、杖を置き両手をかざす。
「アイテム、女の子の秘密っ!!」
がくっ
それかいっ!!
どうせヘッポコなアイテムだろ。
しかし、予想を覆す演出が始まった。
部屋がまた真っ暗になり、床が揺れ始める・・・。
そして映像が現れると、魔王は電撃のようなものに縛られて動けない様子。
なんだか凄い事が起きそうな前触れ・・・。
すると突然、床から物凄い風圧で風が吹き上がる!!
シュウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!
一体どの隙間から吹き上がっているか知らないが、身体が浮きそうなぐらいの風圧だ。
「いやぁ~~~!! ちょ、ちょっと止めてぇ~~~」
「ダ、ダメですぅうう!! め、めくれちゃいますよーーー!!」
!!!!!!!!!
声に反応して、すぐに白河へロックオン!!
ぐっ! しかし遅かった・・・。
何とか手で押さえちまってる。
俺とした事が・・・。
そのネーミングで気付くべきだった・・・・。
魔王を見る。
風でどんどん切り刻まれ、ボロボロになっていくのが分かる。
よし・・・この後がチャンスとみた!
俺は剣を後ろに構え、必殺技の体勢に入る・・・。
そして風が止んだ瞬間――――――
「ラストハイパースラッシュソォォォゥゥゥゥウウドッ!!」
立体映像に向かってジャンプ!!
そして斬るっ!!!
バシュッッッッッ!!!!!
と豪快な音が響き、魔王から体液が激しく飛び散る。
き、気持ち良すぎるぜ~~~。
「ぐわああああ!! お、おのれ勇者どもめええええ・・・・」
魔王の肉体が崩れ落ちる・・・・。
チャララチャッチャチャチャーーーーン♪
軽快な音楽と共に映し出される、『クリアー!!』の文字。
そして『監修 如月研究所』と流れるテロップ。
成程・・どうも可笑しいと思ったんだよ。
このオーバーテクノロジーと変なアイテム。
その全てに納得する俺だった。
しかし如月さん、こんなところで仕事してたんだな。
さらに謎は深まった・・・・。
達成感と動き回った疲労で、俺達は室内のベンチでぐったりしていた。
手にはクリアの賞品『勇者の証』がある。
なんて事はない、ただの腕輪だ。
銅か何かで出来ているのか、ずっしりと重い。
そして何故か「重いから持っててよぉ~~」と、三人分が俺の手に。
いや俺も充分重いし・・・。
仕方ないので、全部腕にはめてやる。
ずしっ
鉄アレイを持ってるかのような重み。
けっ・・・こうなったら鍛えてやる。
これを次に外した時、俺の本気が出るぜ!!
下らない事を考えている隣では、白河がジュースをゴクゴク・・・。
その向こうで、彩乃もお茶を飲んでいる。
「ふぅ~~暑いねぇ~~」と手でフリフリ顔を仰ぐ白河。
女って、なんで手で仰ぐんだろ?
不思議だなあ~と横目で観察する。
すると、キャミソールの胸元をパタパタし始め、身体に風を送ろうとしている。
「そんなに汗掻いたの・・・・・か・・・」
「え? う・・うん~~結構ねぇ~~」
さらりと答える白河なんてどうでもいい。
驚愕の光景に、俺は言葉が出ない。
教えてほしい?
実はさ、キャミをパタパタする度に、ピンクのブラが丸見えなんだよ。
し・・・しかも・・・しかもおおおおおおおおお!!!!!
あきらかにサイズの合わないブラがカパカパして・・・・・
カパカパして・・・・・
その・・・・
先端が・・・・
チラチラ、チラチラと・・・・
マ、マジデスカアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!
い、いかん。
これはさすがに、見ちゃいかん。
目を反らす俺。
・・・・・・・。
だ、だけど気になる・・・。
そんな俺の気も知らず、パタパタ音が聞こえる・・・。
ああダメだ。
ごめん白河! もっかいだけ!!
再度横目で見る。
薄い色素で赤く染まった先端が、チラチラと見える。
ちょっと胸の大きさに比べて大きめのそれは、そこだけ妙に大人っぽさを感じる。
た・・・立ってるのかな・・・。
い、いやいや・・・何でもない時に立つもんなの?
分かんねえ・・。
しかし・・・あの先端が、完全体の白河にあると想像すると・・・
あああ・・・た、堪んねえ~~~。
ダ、ダメだ・・・興奮してきた・・・。
み、見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃダメだ。
そうだよ、覗き見なんて卑怯すぎる。
そんな俺を知ったら、絶対白河に嫌われちゃうだろ。
でも、脳裏に浮かぶ先端突起・・・・。
やばいぞ、白河の過去最大イベント発生で、しばらく立てそうもない。
しかもこの熱いたぎりは、尋常じゃない。
妹だけでなく、白河にもバレるかも知れない。
そして俺は、一生ロリの烙印を押されてしまう・・・。
どうすれば・・・・
辺りを見廻す・・・。
白河とは逆方向にお手洗いを発見!
俺は迷ったが、現状復帰する為に手段を選んでなどいられない。
「ちょっとトイレな」
と軽く告げた俺は、お手洗いに駆け込む。
・・・・・・・・・。
そして数分後、何とか落ち着きを取り戻し現状復帰を果たした。
なんて情けない俺・・・・。
「大丈夫ぅ~? またお腹痛いのぉ?」
心配する白河を、まともに見れない俺だった・・・。
お手洗いの中で何があったかは、男子諸君にはご理解いただけると思う。
なんでデート中にこんな事態になってしまうのか。
教えて下さい。
みんなもそうなんですか?
その後は白河と距離を置きつつ、幾つかのアトラクションを楽しんだ。
最初に入ったお化け屋敷『サチコの家』はまだ良かった。
ガチで怖くて、あいつは我慢できず、すぐにスキルを発動。
目の前から消えた。
そして、怯えて動けない妹を抱えたまま、最後まで耐え抜いた俺。
いや、だからそんな事は大した事じゃなかったんだよ。
あいつがパタパタしまくりだから、並んでる時とか周りの男共の目線が気になって気になって・・・・。
なんとか他に見えないよう、死角を作るのに必死だった。
しかも、そんな俺に気付いたのか、彩乃がニヤニヤしてるしよ~~。
はあ~~、溜息でちゃうぜ。
で、問題はその後の『スペースパラダイス』だ。
如月研究所監修と書かれたそのアトラクションとは、なんと無重力空間を3分も体験出来るのだ。
普通の部屋だぞっ。
オーバーテクノロジーにも程がある。
まあ、すげえ楽しかったけどな・・・。
じゃなくて、その無重力で白河の胸元がそれはもう・・・・
全開なわけだったんですよ。
大喜びのあいつは、「神崎く~~ん、ほらほらぁ~~」と無邪気に宙を漂ってくるもんだから・・・
どうしろってんだよ!!
可愛いやら、Hやらで・・・そりゃもう先端祭りですよ・・・。
本人に言った方がいいんだろうか・・・。
言えないでしょ、「先端見えてるよ」なんて・・・。
しかし、このままでは他の男にまで見られてしまう。
それだけは、絶対にさせねえ!
ロリ状態だからといって、甘くみてはいけない。
ちっこい白河は普通に可愛いし、実際すれちがう男性どもの注目を集めているのが分かる。
ロリだろうがおばさんだろうが、取り敢えずチェックする。
それが男の性だ!!
しゃーない、事情がバレてそうな妹に頼むか・・・。
はあ~~、俺はもうげっそりなんですよ。
何度、お手洗いに行った事か・・・。
恐らく、一日での過去最高回数を超えたかも知れない。
これが悪いんだろうか・・・。
下っ腹に貼り付けた円盤のような装置。
何でも、内臓器官を活発にする装置で、2号の為に開発中だとか・・・。
如月さんの作った装置だ、副作用があっても不思議じゃない。
「次わぁ~~これかなぁ。これも屋内のやつじゃない?」
無邪気に次のアトラクションを検討中の白河。
ああ~~本当に、毎度毎度ドキドキさせられるぜ・・・マジで。
第12話へ続く・・・