第9.5話 休日はデート ~前夜 白河真琴編~
白河は悩んでいた。
『明日の日曜日、なにしてよっかなぁ~~。』
『勉強もやったしぃ・・・』
踊りの練習も一人でするのは限界がある。
今、この身体では仕事も出来ないし、友達にも会えない。
中学に入ってから芸能事務所に入った彼女は、ここ数年間、暇な日曜日などなかった。
しかし色々あって、急に仕事がキャンセルになり、何も予定は立って居ない。
一瞬、『こんな時こそ遅れている勉強をするのが一番!』
とも考えたが、ノートも写していないし、かといって教科書を開くのも面倒だ。
結局、事情はあるが折角の連休を満喫しようという結論に至った。
『部屋の掃除でもしよっかなぁ~』
そう考えて、思い留まる。
掃除といっても、狭い部屋だ。
何も明日しなくても良い。
今のうちにしてしまえば終わってしまうだろう。
『如月さんの所に行っても、美琴ちゃんの世話で忙しいよねぇ』
美琴と言うのは、先日連れ帰った自身のクローンである。
名前が無いのは可哀相だし、真琴とも呼べない。
だから、白河が勝手に呼んでいる名前なのだ。
本人としては、可愛いいから気に入っていて、この名前を浸透させようとしている。
『あ、久しぶりに、お洋服買いに行きたい!』
最近では、マネージャーさんにお願いしたり、ネットで購入したりと、なんとも味気ない買い物ばかりしていた。
これは名案!とばかりに浮かれていたが、突然、力無くうなだれる。
『だ、ダメだった・・今の私じゃ、試着できないよねぇ・・・』
中学生サイズの自分に、服を買ってどうする・・・。
結局、特に考えるのはやめにして『本屋さんにでも行こうかな』という結論に達して、冷蔵庫から飲み物を取り出し、テレビをつけた。
既に時間は土曜の夜。
そろそろ2時間ドラマが始まる。
連ドラは平日だから殆ど観れないし、かといって録画しても観る時間がない。
自分の出演した番組のオンエアは、移動中にチェックしてしまうので、録画したスペシャルや、2時間ドラマを観る事が、彼女の数少ない楽しみであった。
『そうだ! お菓子買ったんだっけ・・・』
思い出し、ドラマ用に大量のお菓子をテーブルに並べる。
別に全部食べるわけではないが、いっぱい並べるのが楽しいのだ。
「うふ♪」
白河は嬉しそうに微笑むと、チョコレートの箱を開けた。
開けたが、まだ食べない。
ドラマが始まってから食べる。
『今日はなにかな。サスペンスかなぁ』
テーブルの前にペタンと女の子座りをして、始まるのを待つ。
彼女の部屋は狭かった。
無論、高校生の一人暮らしである。広い必要もない。
彼女の寝室兼リビングには、ベッドや本棚とテーブル、そしてテレビにコンポ。
その程度で、もはやスペースは残されていなかった。
さすがに1Kは狭い。
大きいテレビも置けないし、未だにアナログだった。
『いいかげん新しいテレビ欲しいな』
なんて考えるのは、贅沢じゃないよね。
如月さんに貰って、実はお金なら充分ある。
ただ、買いに行く時間とタイミングが無いだけだ。
『明日、電器屋さんに行ってみようかなぁ・・・』
思いつくが、やっぱりやめた。
そもそも、こんな子供の姿一人でテレビを買いに行くのは変だし、電器屋さんになんかあまり行った事もない。
どれを買えばいいか、分からないだろうし、地デジ?の事も良く解ってない。
おろおろするのがオチだ。
恨めしい目でテレビを見る。
すると、定刻になり番組がスタートする。
画面には、なにやら絶叫マシーンに乗り「キャア~~」と叫ぶ女の子達の映像。
あれ? いつもと違う・・。
不審に思っていると、『夏のデートスポット大研究スペシャル!!』というテロップが流れる。
「えぇ~~~~~~~うそぉ~~~~~~~」
一気にテンションが下がった。
『あ~あぁ、サスペンスでハラハラドキドキしたかったのにぃ・・・』
仕方がないので、お風呂でも入ろう。
さっぱりして気分を高めて・・・・本でも読んで寝よ。
下がったテンションのまま立ち上がる。
そしてテレビを消そうかとリモコンに手を触れるが、消すと寂しくなるからやめる。
そのままバスルーム・・というか、ユニットバスへ向かう。
入る前に服を脱がなきゃ。
彼女は、今日も中学時代のセーラーを着ていた。
他の服は、あらかた整理してしまっていて、出すのがおっくうなのだ。
上着を脱ぎ、スカートのホックを外す。
ファスナーを下ろすと、ファサっとスカートが床に落ちる。
現れたのは、上下とも真っ白な無地の下着。
いつもは出来るだけ可愛いのを選んでいるが、今は選べない。
「はあぁ~~」
自分の胸を見て溜息をつく。
後ろ手でホックを外し、ただ当てているだけのブラを外す。
すると、申し訳程度の膨らんだ胸が現れる。
小さくなって、肩が楽なのはいいけれど、また大きくなるのかなぁ。
ちょっと不安になる。
この頃は、お決まりの牛乳を毎日飲んだ。
周りの女の子がどんどん成長する姿にあおられて、マッサージもしたし、腕立て伏せもかかさなかった。
その成果かどうかは分からないが、自分の予想していた以上にぐんぐん膨らんでいったのを覚えている。
友達からは「大きくていいなぁ~」と羨ましがられ、恥ずかしかったけど、ほんとは自慢の胸だった。
でもそれが、夢だったように思えてくる。
鏡に自分を映す・・・。
胸をマッサージしてみる。
当然、変化は無い。
先端をつまんで引っ張ってみるが、大きくなったのはそこだけ。
『なにやってんだろ・・・私・・・』
誰も見ていないのに急に恥ずかしくなって、さっさとパンツを下ろす。
そしてまた固まる。
薄っすらとしたそこを眺め、子供を再認識させられる。
『ま、ここはどうせそのうち・・・・』
パンツを脱いで洗濯機に入れる。
最後に白い靴下を脱ぐ。
そして周りに人がいたら絶対しないが、つい無意識で匂いを嗅いでしまう・・・。
女の子だからアイドルだから匂わない、というわけではない。
誰しもすると思うが、自分の匂いを確かめるという本能的なものだ。
もちろん彼女は臭いわけではないが。
裸になったので、ドアを開けてユニットへ入る。
相変わらず狭い。
浴槽へ身体を移し、カーテンを閉める。
シャワーを出して温度を確認する。
面倒なので、ついついシャワーだけになってしまう。
全身にシャワーを浴びる。
「あぁ~~~気持ちいぃ~~~」
しばらくそのまま浴びていたが、やがて顔を洗い、髪をシャンプーする。
今日は汗を掻いたので、髪は二度洗いし、リンスを付ける。
そのまま、今度はスポンジにボディーソープをたっぷり染み込ませて、身体を洗う。
左手、脇、お腹、胸、首、右手と洗ったら、一旦スポンジを置いた。
そして、お尻と股の間は手で擦って洗う。
スポンジをまた手に取り、今度は足を擦る。
内股に片足を上げて、ふくらはぎから、足の裏までしっかりと。
最後に、柄の付いたスポンジで背中を擦って終了。
身体の泡とリンスを流す。
「ふぅ~~さっぱりぃ~~」
手を伸ばして歯ブラシを取る。
浴槽からは出ず、そこに体育座りをし、足を抱えたまま歯を磨く。
彼女は、全身を綺麗にしないと気がすまない子なのだ。
コップでうがいを済ませ身体を軽く拭く。
そして、バスタオルを巻いてユニットから出る。
狭い廊下で身体を拭こうとバスタオルをはだけて・・・・また巻く。
『やだ・・・カーテン開いてた・・』
慌ててベッドの向こうへ行き、窓についたカーテンを閉める。
もっとも、ここは3階。
覗かれる事もないだろうが。
丁寧に身体を拭くと、パンツを履いてピンクのパジャマに袖を通す。
あいつに貰ったパジャマ・・・・。
『べ、別に、嬉しくて着てるわけじゃしぃ・・・』
『結構可愛いから・・・き、着てるだけなんだからねっ』
心の中でなぜか言い訳をして、ズボンを履く。
長いので、手足を折り折り・・。
「テレビ見よっと~~~」
ベッドに飛び込んで、お気に入りのでっかいケア・ベアのぬいぐるみに抱きつく。
そのまま横向きでテレビを見る。
「さっきの、まだやってるんだぁ・・」
画面には、有名な遊園地の絶叫マシーンが紹介されている。
キャーキャー言いながら、そのスピードに耐えている女の子・・・美月ちゃんだ。
「へぇ~~、いろいろ出てるんだねぇ」
実際、白河よりもさらに人気があるし、テレビ出演も圧倒的だ。
学校も結構来てるのに、いったい、いつロケに行ったんだろう・・。
しかし、そんな事より気になったのが。。。。。
『美月ちゃん、楽しそう・・・・』
マシーンに乗るその姿がほんとに楽しそうで、羨ましい。。
いいなぁ。
いいな、いいな、いいな、いいなぁ~~~。
私も行きたい。
行きたい。
行きたい、行きたい、行きたい、行きたいぃ~~~。
それでぇ。
乗りたい。
乗りたい乗りたい乗りたい乗りたい乗りたい乗りたいぃぃ~~~~~~。
ぬいぐるみをむぎゅっと抱きしめ、ゴロゴロとベッドを転がる彼女。
そしてそのままドサッと落ちた。
「痛っ!!」
・・・・・・・。
考える・・・・。
・・・・・・・。
閃いた!!
明日は遊園地に行こうっ!!
身体も子供だし、見た目は白河真琴じゃない。
注目される事もないし、なんてラッキーなの!
「やったぁー」とぬいぐるみを投げ、そしてキャッチ。
と、そこで固まる。
誰と行けばいいの・・・・?
当然、学校の友達には会えない。
じゃあ誰を誘えば・・・・。
高まったテンションが急激に下がる。
「あ~あぁ、ダメかぁ~」
と思ったが、ふと頭に浮かぶあいつの顔。
『・・・・・・・神崎君かぁ』
「ダメダメ」と頭をぶんぶん振る。
あんな変態・・・さ、誘えるわけ・・ないじゃない・・。
なぜか顔が火照る。
きっと、お風呂上りだからだ。
あ・・・・・。
また閃いた。
彩乃ちゃんはどうかな。
この姿で、既に会ってるし・・・。
でもなぁ、最近知り合ったばかりだし・・・。
自分の胸に口を付けられた、あの光景を思い出す。
『可愛いんだよねぇ、彩乃ちゃん』
確か、彩乃ちゃん私のこと大好きって言ってくれてたし・・・。
時計を見る。
もうだいぶ遅い時間。
『まだ起きてるよね』
意を決して携帯に電話する。
1コール・・・・・・・・。
2コール・・・・・・・・。
3コール・・・・・・・・。
ドキドキ・・・・。
・・・・・・・・・。
「こんばんわぁ~白河さんっ」
出た!! 嬉しい!
「もしもしぃ?」
「あぁ~ごめんっ、彩乃ちゃんまだ起きてたぁ?」
「起きてますよぉ~~。もぉ大人ですからっ」
元気な彩乃ちゃんの顔が浮かぶ。
うふっ、可愛い。
「初めてじゃないですかぁ~、電話くれたの。かかってくるの待ってたんですよぉ~~」
「あ・・そうだっけ、ごめんごめん」
「あ~あ~、謝らないでくださいよぉ。勝手に待ってただけですからぁ」
「う、うん・・」
「でも、ちょうど良かったですぅ~~、白河さん明日お暇ですかぁ?」
え? 逆に誘われる?
予想外の展開に声が詰まる。
「うんうん暇なのっ、実は彩乃ちゃんを誘おうと思って・・・・」
「ほんとですかぁ! 嬉しいですぅ~~。じゃあ明日、遊園地に行きましょう」
え! ほんとに!?
嬉しい展開に思わず笑みがこぼれる。
「行く行く行く行く、絶対行くぅ~~~!!」
「えっ、いいんですかっ!こんな突然なのに!?」
「いいの、いいのよ!私も遊園地に誘おうと思ってたからぁ」
「うわぁ~~、気が合いますねぇ~~~」
・・・・・・・・・・・。
その後、盛り上がって30分も話しちゃった・・・。
もぉ~~~彩乃ちゃん大好きっ!!
集合場所とかは、後でメールくれるって言ってた。
楽しみだなぁ~~~。
第9.5話 完