第9話 もう何でもありですね。
だから私、なんで料理なんてしてるの?
白河は料理を教わっていた。
しかも中等部の家庭科室で。
「結構器用じゃないですかぁ。包丁の使い方もなかなかですよぅ」
隣で、親身に手解きしているのは彩乃ちゃん。
なに? この状況・・・。
気が付いたらここに居た。
そして、彩乃ちゃんと・・・葵ちゃん?だっけ?に見つかって、なにやら家庭科部へ勧誘されている。
二人は、私を転校生だと信じて疑わない。
しかも、「是非とも家庭科部へ!」「きっと貴方は救世主ですぅ」だの、妙な方向で歓迎状態。
「だ、だから彩乃ちゃん。私は白河だってば!ね?よ~く顔を見て?」
「え?あ、はい、顔ですかぁ?」
じいいいいぃぃぃぃぃ。
白河を、間近で覗き込む彩乃。
「あ~、分かった!この子、白河真琴に結構似てるよ。うんうん。なんだ~、自慢かよぉ~~」
この、この、と肘で葵ちゃんに小突かれる。
「あぁ~、ほんとですぅ、似てますねぇ。しかも、良く見るとすっごい可愛いですぅ」
「可愛いですぅ」と抱きつき、すりすりしてくる彩乃ちゃん。
「あ~んもぉ、なんで分かってくれないのよぉ~」
ちゃんと話せば分かってくれそうなものだが、白河は、説明があまり上手ではなかった。
しかも、女の子は男の子のように、理屈を並べて話しを進めるような事はあまりしない。
深く考えず、感受性豊かなのが女の子の特徴であり、男性はそういう部分に惹かれることが多い。
そしてここにいる3人は、典型的な女の子タイプだった。
埒が明かないとは、まさにこの事。
白河は焦っていた。
なぜ自分はここに居るのか、その理由が分からない。
「早く研究所に戻って、如月さんに相談しなきゃ・・・・」
当然、「こんな意味不明な時は、如月さんだよね」と白河は如月さんに会わなきゃと、強く思った。
「あれ、この子黙っちゃったよ?どうしたのかなぁ?」
突然黙り込む白河を不審に思い、心配そうに覗き込む、彩乃と葵。
沈黙が続くなか、二人にちょうど挟まれるように立っていた白河だったが、何の前触れもなく「シュッ」と風を切るような音をたて消えた。
「えええぇっ!!!」
「うそぉ~~~~!!」
突然消えた白河に、驚きの声を上げる二人。
まさに、今見ていた人が消えたのだ。
いや、人でなくても目の前の物が消えたら、逆に自分の目を疑う事だろう。
しかし、今は二人で見ていた。
二人は見つめ合い、今の現象について話し合ったが、結局答えはみつからず、
「もしかして・・・幽霊?」
という結論に至り、ぞっとするのであった。
そして場所は戻って研究所――――――――
「早いな、もう発動したのか・・・」
煙を吐きながら、如月さんが呟いた。
「何が発動したって言うんですか?」
「能力・・・とでも言えば良いか」
そう、俺は白河が消えた事実を、如月さんに相談中だ。
しかし、それについて特に驚いた様子もなく、むしろ予想していた口ぶり。
しかも能力ってどういうこった。
特殊能力?超能力ですか?
とことん非常識なこの人にはついて行けない。
もう勘弁してください。
そんな事より、白河が心配だ。
そんな俺に対して、またまたありえない事を言い出す如月さん。
「ふむ、案ずる事はない。単なる空間転移だろう」
と、今度こそ信じられない話しだ。
「普通の女の子のあいつに、いきなりそんなSFみたいな事、出切る訳ないじゃないですか?」
「前にも話したとおり、出来る出来ないの話しではない。結果が全てなのだ。それに、彼女が能力を得る為の、伏線もあった」
そう言って如月さんは、白河がなぜそんな事が出来たのか、説明を始めた。
「簡単に言えば、能力者である坂爪博士の脳波を受け、彼とシンクロしたせいで彼女の脳が進化した。という事だ」
「昨日、研究所で脳を弄られたって、やつですか?」
「そうだ。君は第6感というものを信じるか?」
「は、はあ」
「第6感とは、予知夢であったり、虫の知らせであったり、霊感であったりと、殆どの人間が多少なりとも持っている感覚だ。しかし、その感覚が大きくなれば、それは能力と言っても良いだろう。実際に海外では、超能力という職業が存在する国もあるのだ。その位は君も知っているだろう?」
「あの~、ええとつまり、超能力は存在するって話しですよね」
「そうだ。これを見ろ」
如月さんは、昨日見せてくれた、白河の脳のスキャンデータをモニターに写した。
「前頭葉が発達していると言ったが、この部分の半分は、どのような働きがあるか医学で解明されていない。しかも、怪我や病気で前半分が失われたとしても、一切後遺症等の影響は無い。しかも、データによれば、能力者の殆どが、前頭葉に大きく発達した痕跡がある。そして、私と研究をしていた頃から、坂爪博士はその部分に着目していてな・・・・」
ダメだ。分からなくなってきた。
つまり、その白河の発達した脳に秘密があるって事か?
「そしてこの部分を見ろ。今朝のデータだが、昨日と比べ、恐ろしい成長を遂げている。これは頭頂葉と呼ばれる部分で、外界の情報を認識する働きがある。いわゆる、手足の感覚だとか、空間を認識をする働きがある」
なるほど、その、触ったり、触れられたりした時の感触を理解する部分が、成長してるって事だな。
いつもは話し半分で聞く俺だが、気になる白河の事だ。
今回は、真面目に説明を聞かないとな。
「一般的に、頭頂葉には個人差があり、男性の方が優れていると言われる。例えば、車の運転などがそうであり、車庫入れなど男性の方が上手いのは、頭頂葉の構造がそもそも違っていて、空間認識力が圧倒的に女性より高い為なのだ・・・・」
ええと、頭頂葉によって空間認識力が変わると・・・う~む。
「ある意味、人の脳は死ぬまで成長し続ける。だが、白河君の前頭葉、頭頂葉の成長は、人が死ぬまで生きていても得る事が出来ないものだ。理論上、数百年かかるであろう成長を遂げているのだ。」
んん~~~~~~~~。
あのちょいおバカ天然水の、脳が成長したのは分かった。
だからといって、なんで消えたりするわけ?
「今の白河君は、数キロ離れた場所をも把握出来るだろう。さらにそこに何があるか、誰がいるかも。そして、そこに自信を転移させる事も彼女には可能だという事だ。ヨーロッパで起きた事故を知っているか?生き埋めになったはずの男が、数日後、遠く離れた山奥で発見されたのを。空間転移と呼ばれる事象は何も白河君が・・・・・」
長い説明はまだ続いているが、もういいでしょ。
何となく理解出来たけど、さらに続く如月さんの話しを聞く集中力はもう無い。
いいじぇねえか、悟空みたいに、どっかの星のなんとか星人に教えて貰ったでさ。
要するに、白河が空間転移能力を身に付けたってことだろ。
世界初の超能力アイドル誕生ってか。
もう何でもありって感じじゃん。
最近の非現実的な毎日のおかげで、すっかり順応してしまう俺。
そうして難しい説明で、ぐったりとしていると、「シュッ」という音とともに、白河が現れた。
「ぬおっ!!」
「わっ!!」
突然、目の前に現れてお互いびっくりする。
「あははははぁ~、た、ただいまぁ~、なんてね・・・」
苦笑いの白河。
「お、おかえり・・・・」
とりあえず、挨拶してみる。
特にさっきまでの白河と、何も変わらないみたいだ。
もしかしたら身体に負担とか・・・って、ちょっと心配だった。
ま、ロリな状態もそのままだけどな。
「な、なんていうのかなぁ? 気が付いたら、学園の中等部にいたの・・よねぇ。あはは・・」
頭を掻きながら、照れと恥ずかしさでなんともいえない表情の白河。
その後、如月さんの説明が、改めて白河に始まる。
だが、こいつの理解力には、さすがの如月さんも困難を極めた。
二度目で、如月さんの言いたい事は大体理解した俺は、既にソファーでくつろいでいる。
しかし、白河が全く理解出来ておらず、説明が3週目に突入した頃、「俺、帰ります」と先に研究所を出てきてしまった。
果たしてあいつに理解出来るのだろうか。
と、思いつつ帰路に着く俺であった。
・・・・・・・・・・・・・・。
自宅に戻りまったりテレビを見ていると、やがて妹が帰ってきた。
そしてドタドタと、リビングに走って来るなり、
「兄さん兄さんっ! 今日学園で幽霊を見たんですよぅ~~」
と慌てた様子。
「へ~~、そりゃ良かったな」
既に何事も動じない程の体験をしている俺は、素で返す。
すると妹は隣に腰掛、「その幽霊が、その幽霊がぁ」と俺の服を引っ張る。
「幽霊がどうした」
「その幽霊はなんと! 白河さんに雰囲気がそっくりで、しかも可愛かったんですよぉ」
「全然怖くなかったんですぅ」と自分の太ももをバシバシ叩いて興奮気味の我が妹。
だが、その一言で何が起きたのか全て理解した俺。
面倒なんで、そいつは白河の妹で超能力者だと、説明しておいた。
すると妹は、またもや柔軟な対応力を見せる。
「はえぇ~~~あんな可愛い妹さんがいたなんて・・・」
「しかも超能力者だなんて、実際に会ったのは初めてですよぅ~」
なんだよそれ。
超能力者が既にありきの考え方。
アニメや漫画の見すぎだろっ。
ま、いいか、こいつはこういう奴だし。
その後、いつものように飯食って風呂浴びて、部屋でまったりする俺。
久しぶりにゲームでもすっかな~と、愛用のX箱を立ち上げる。
しかし、ふと目に付く白河真琴のCD。
俺はおもむろにケースを開けると、PV入りDVDを取り出しセットした。
その時、後ろで風を切る音がしたが、気にしない。
ここは、俺の部屋。
誰も居ないさ。
曲が始まり、白河が踊りだす。
肩の出た、パステルピンクの衣装。
踊って体温が上昇しているのか、赤く染まった鎖骨付近の肌質がたまらない。
「やっぱ可愛いなあ」
「へぇ~、可愛いんだ?」
「まあな」
・・・・・・・・。
「ロリなあいつもいいけど、やっぱり白河はこれだよな。このボリューム感」
踊る度に揺れる胸を見る。
「大きいのが好みなの?」
「ん~~、どうだろ。特別そうじゃなかったんだけど、こいつのは・・なんていうのかな、形が良さそうっていうか、華奢な身体の割りにでかくてギャップがっていうか・・・」
・・・・・・・・・。
「しかし、こうやってアイドルしてると、さらに可愛く見えるな」
「ふ~ん、そっかぁ~。で、君はその子が好きなの?」
「大好きだな。今すぐにでも抱きたいぐらいだ。そして明日には、告白しようかと思ってる」
・・・・・・・・・・。
いる。
やつは後ろに絶対いる。
そう何度も同じ攻撃を食らうと思ったのか、このワンパターン娘。
「ああ、ダメだ。こいつ見てたらもう我慢できねえっ。興奮してきたあああ!!」
そしておもむろにズボンを脱ぐ俺。
ざまあみろっ、このカウンターに、お前が耐えられるわけがあるまい。
ふっふっふ。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
あれ?
止めてくれないんですか?
止めてくれないと、俺恥ずかしいんですけど。
後ろを見る。
すると白河は、俺に背中を向け、しゃがみ込んでぶつぶつと呟いている。
「や、やだ・・・か、神崎君、私に告白するって・・・どうしよどうしよ・・・」
・・・・・・・・・・・。
ズボンを下げたまま、放置プレイされる俺。
気付かれないって、恥ずかしいね。
「NOおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「キャッ」
「え、なに? なにが起きたの? か、神崎君、どうかした・・・の・・。」
「!? !!!!!!!!!」
俺のパンツを見て、絶句中の白河。
ふっ、さぞ驚いただろう。
なんせ、今日はブリーフだからな。
じいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃ。
い、いやそんなに見られると俺の方が恥ずかしいんですけど・・・。
すると、俺の大事な部分を凝視しながら、後ずさりする白河。
「いや・・・。ダ、ダメよ、抱いたりとか・・そういうのはまだ、は、早いっていうか・・・」
「お、おい・・・。」
「ち、近寄らないでっ!!」
後ずさりする白河。
「バ、バカ、誤解だって!」
「彩乃ちゃ~~~~~~ん!!」
妹の名前を叫びながら、部屋を飛び出す白河。
一瞬固まりかけ、俺も慌てて追いかける。
パンツだが、気にしてはいられない。
そして、リビングに辿り着くと、妹が腕を組んで仁王立ちしていた。
「にい~さんっ! こんな、年端も行かない子供にっ、なんてことするんですっ!!」
お、お前が言うか、その台詞・・・・。
その後、妹の説教をたっぷりと喰らい、今度は白河が放置プレイされていた。
そして、その日は、「ロリ兄さん」と呼ばれる俺だった・・・。
第10話に続く