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カラダがどんどん改造されるわけ  作者: 739t5378
第1章 カラダが改造されるまで
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第1話 チンピラと科学者と妹と豚カツ

俺の名前は神崎駿かんざきしゅん


普通で平凡な、高校1年生だ。


学業、スポーツ、家柄、どれを取っても普通の人。


彼女もいなければ、イケメンでモテモテって事もない。


まあ別に、自分が平凡である事に特に文句はない。


普通に毎日楽しいし、家に帰って夜中までネトゲ(オンラインゲーム)するのも好きだ。


まあ、唯一自慢できるとしたら、出来の良い可愛い妹がいるぐらいか。


あいつの存在は、本当に母さんには感謝してる。


そんな俺だが、今は追われる身。


俺は軽いピンチに襲われている。



誰に追われてるかって・・・?



「まてテメェー! 逃げんじゃねー! 殺すぞっ!」


そう言って走る俺を追いかけてくる、派手なシャツを着た、金属バットを持ったお兄さん達。


シャツの袖口から見える、鮮やかな龍のタトゥー。


いやこの場合、刺青と言った方が適切か。


スキンヘッドの頭や、頬に傷跡のある顔など、かなりドスのきいた人達だ。


そう、俺はチンピラ数人に追われている。


いや、もしかしてヤクザですか?



しかし、あまりの現実感の無さに、俺は逆に冷静だ。



なぜこんな状況かって?



女の子を助けようとしたんだよ。


俺は普通に、本屋で漫画本を購入し、帰宅する途中だった。


だけど見ちまったんだ、俺が通っている学校の制服を着た女子が、野郎達に囲まれて路地裏に連れ込まれるのを。



ほっときゃ良かったって?



ああ、確かに俺はその場で立ちすくみ、悩んだ挙句、立ち去ろうとした。


でもさ、その子さ、超可愛い子なんだよ!


ま、まあ……チラっとしか顔見てないけどな…。


あんな子ウチの学校に居たっけか?


誰だったかなー。


いや、知ってる知らないの問題じゃないだろ。



君ならどうする?



少しは考えるよな?


ギャルゲーなら、これはイベント。ここで行けばフラグが立つかもしれない。


ああそうさ、自分はまだ世の中の汚れた世界を知らない子供がきだったんだよ!


なんとかその場を穏便にすませれば、カッコイイかなって、下心出しちまって、


「おいお前ら、俺の知り合いに何やってんだ!」


なんて、話し合いでなんとかなるって、うっかり声をかけなければ・・・。



だがそんな事を考えてる場合じゃない。



早く逃げ切らなきゃ・・・。



「ハァ、ハァ、う、うわあ!」



ズザザザーっと、俺は盛大にこけた。



その隙に、チンピラ達、1・・2・・・3・・4・・・5人!

は、あっという間に追いついてきた。



「あ~ん? もう逃げないのかな? クソガキ! 大人に対する礼儀っていうもんを、た~っぷりと教えてやるよ。」


そう言うと彼らは、ニヒヒだとか、バ~カだとか、汚い言葉を吐きながら近づいて来る。



し、しまった! くっそ、だ、ダメだ・・。

足が竦んで動きゃしねぇ・・。



そんな俺におかまいなしと、チンピラのリーダー格の男がバットを振り下ろした。



「ぐはっ!!」



背中に殴打されるバット。


ドサッ。

殴られた衝撃で地面に胸を強く打った。


おかげで呼吸が出来ない・・・、く、苦しい・・・。



「死んどけや、このクソガキー!」



再度振り下ろされる金属バット。



こ、殺される・・・・。



ガキーン!と、それが頭をかすめて地面に衝突する音。


・・・へ? た、助かっ・・た・・?



「俺達は、善良な大人だからな~あ? 別にお前を殺したりはしないさ。」

「出すもん出せば、ま、この場は見逃してやってもいいんだぜー。」



ニタりと気味の悪い表情で、人差し指と親指で輪っかを作り、これだよこれ。

と、手を突き出してくるリーダー格。



俺は瞬時に理解し、ズボンのポケットから財布を取り出し・・・

こ、これで・・と掠れた声で言いながら、そいつを差し出した。



登場だけはカッコ良かったものの、これが現実。


そして頭の中は真っ白。


ただただ怖くて、手が震えていた。



「お、物分りがいいじゃねえか。そうそう子供はそうでなきゃーな。」

ニヒヒと、また気味の悪い顔で金を確認する彼ら。



「結構持ってんじゃねえか。いいぜ、今日はこれで許してやるよ。」


バーカとそいつらは捨てゼリフを吐いて、立ち去ろうと踵を返したその先に、奇妙な彼女おばさんが立っていた・・。



そして一喝。



「お前達みたな雑魚を見ると、本当に虫唾が走る。」

「何の力もない弱者しか相手に出来ない、有象無象のチンピラどもがぁ!」



腕を組み、仁王立ちの長身の女性。その姿は赤いジャージに汚れた白衣、伸びた髪はボザボザで、さながらメドゥーサ。極めつけは分厚い淵無しメガネ。


見た目、チンピラ以上に不審者だった。



「誰だお前? ニートのババアか? 邪魔だ。すっこんでろっ。」


どけ、てめぇと、バットで殴りかかろうとする彼ら。



「ふ、ふはははは、はーはっはぁぁぁあー!!」


突然、嘲笑とも取れる高笑いをする彼女おばさん



「な、なんだこいつ、気色悪い・・。」


思わず気圧されて立ち止まるチンピラ達。



「ふむ。超天才の私に対してニートだ、ババアだ? 言ってくれるな、この三下共が・・・。」



彼女おばさんは、口元に薄笑いを浮かべると、なにやらコードの着いた手袋を右手にはめた。


そんな見下された態度に逆上して、チンピラの一人が、

「うるせんだよ、ババアー!」と叫びながらバットを持って突進していった。


そしてバットを振りかざし、彼女おばさんと接触するその瞬間、男はちゅうを舞った。



その奇妙な彼女おばさんは、殴られるその瞬間、腕を取り、間接を決め、その男を地面に叩き付けた。



だがまだ腕は放さない。関節を決めたまま、その肘に向けて、体重を乗せたエルボーをお見舞いした。



バキィィっと、明らかに骨の折れた音。



辺りが静まり返った。



倒された男は、腕を折られたのも気づかず、その場で気絶している。


チンピラ達は、完全に呆気にとられその場で立ちすくんでいる。


そんな中、ハッと我に返ったリーダー格が、この野郎と呟きながら叫んだ。



「て、てめえ!! この落とし前、指の1本や2本じゃすまさねーぞ!」



げ、やはり本物でしたか・・・。



「お前らやっちまえ!」


その号令と共に、「死ねえええ!」と襲い掛かる、チンピラ達3人。


しかし、そのこぶしやら蹴りやらバットやらを、次々にかわしていく彼女おばさん



格が違うとばかりに余裕の表情で、「ち、面倒な・・」と彼女おばさんは、手袋をはめた右手を彼らに向けると、瞬間、青白い電流がそのてのひらから放射された。



「うわあああああああ!!」

「ぎゃああああああーーー!!」

「あぎゃああああああ!!」



と悶絶するチンピラ3人衆。



そして黒い煙を漂わせ、プスプスと衣服を焦がしながら、揃ってゆっくりと、その場に崩れた。



「ふ・・・・。さて、残ったお前がリーダーか? 」



彼女おばさんは、無表情で、ただし口元だけニヤリとさせると、残ったリーダー格に1歩2歩と

近づいた。



すると男は腰が砕けたのか、地面にガクッと崩れ、尻餅ちを着いたと思いきや、すぐに反転立ち上がり、「た、助けてくれ~~!!」と叫びながら逃げて行った。



「ふ・・・、雑魚が。」



彼女おばさんは呟きながら、こちらに向かって歩き出した。


そして、「大丈夫か?」と手を差し延べてきたその瞬間、



俺の意識は途絶えた―――――――――




・・・・・・・・・・。



目覚めると、目の前には恍惚と照らすライトがあった。


そして、どうやら診療台のようなものに寝かされているらしい。


口には半透明のマスクが固定され、吸うと心地よい酸素が送られてくる。



病院か・・・・?



そっか、俺、倒れちまったんだな。


人生初だな、こんなこと。



辺りを見回すと、様々な機械や機器が置いてあり、そして奥にはジャンク品のような物が所狭しと、散乱している。



・・・ん? 病院じゃない?



ベッドから起き上がり、ふと事務用のデスクを見つけたので近寄ると、机の上に手袋と、その先コードに繋がった、小型のタンクのような物がある。



「こ、これは・・・。」



手に取ったその時、奥の扉が開き、先ほどの女性おばさんが入ってきた。



「ああ、それは一度しか使えない、使い捨てでな・・・。ま、護身用に持っていただけの物で・・。だがしかし、それを作るのに300万程費用がかかっている。だから、さすがに同じ物は作れないし、同じ物をまた作っても面白くもなんともない・・・。」



ふう~、と溜息を吐くと、彼女おばさんは、さらに続けた。



「ま、金はまだまだあるんだが、私もボランティアではない。今回の300万は私の仕事料として、お前からいただくとしよう。ということで、払ってくれるか?300万。ん?いや違うな、仕事をした上での報酬だ、原価では割りに合わないな。ふむ、まあ君も学生のようだし、500万にまけておこう。」



「は、払えるわけないだろ!」


な、何言ってんだこの人。


話長いし、勝手に自己完結しちゃうし。



俺は半ば呆れていると、彼女おばさんは不満な表情を見せ、


「む。なんだ折角助けてやったのにその態度は。呼吸困難で、酸欠の君を助けて上げた恩を、君は何も感じないのか?」


そして、やれやれ最近の若者はと呟きながら、椅子に腰掛け、ポケットからタバコを取り出した。



ああそうか、この状況。確かに俺はこの人に助けてもらったみたいだ。


ここは素直に感謝するべきだなと思い、感謝の意を述べた。



「あ、いや・・、その、ありがとうございました。あのまま倒れていたら、俺・・・。その、助かりました。」


「うむ、素直でよろしい。しかし君も頑張ったな。女の子を助けに入るなんて、なかなか勇気が・・・いや、相手はヤクザ5人。この場合、結局逃げただけのお前は、ただの無鉄砲なバカ・・か。」



え~と、まあ、その通りです、はい。確かに、今回の事で自分の浅はかさが良く分かりました。


高校生に入って大人ぶってはいたが、まだまだ考えが甘かった・・。


でもあの子は逃げたみたいだし、それだけは良かったな。うん・・。



・・・・あれ?



ちょっと気になる事がある。聞いてみるとしよう。


「え~と、女の子を助けに行ったのを知ってたんですか?」


「ああ。私はあの子が、彼らに尾行されていたところから知っている。つまり、君が助けようか悩んでいたのも、見ていた。ということだ。」


何か?と不思議なものを見る目でこちらを一瞥すると、タバコを1本取り出し火を着けた。



最初から見ていただって!?



じゃあ何でもっと早く助けてくれなかったんだ、ちきしょーーーー!!


助けてもらった立場で文句も言えず、俺はジト目で彼女おばさんを睨んだ。


「ん?なんだ?」


しかもそういえば、俺の財布は・・・。


慌ててポケットを探るが、当然そこには何も無い。



「NO~~~~~~~~~!!!!」


今月の生活費があああああああああ!!!


俺は叫び、膝から崩れ落ち、床をガンガン叩いた。



「ああ、そうか。分かったぞ。助けるならもっと早く助けてくれと言いたいのか?それはすまなかった。お前がどうなろうが、女の子がどうなろうが、興味がなかったものでな。いや、それ以上に私は面倒事が嫌いでな。まあ、あの時助けに入ったのも、私の気まぐれのようなものだ安心して・・・」


「何が安心してだ!意味分かんねえし!俺の財布を返せ~~~!!」



彼女おばさんは、うるさい奴だと小さく愚痴ると、


「財布ぐらいでメソメソするな。どうせ学生の財布の中身など、たかが知れているのだろう?」



メソメソって言うなよ・・。確かにちょっと涙目だけどさ。



「あの財布の中には、俺と妹の今月の生活費が入ってたんだ・・・。ああ、今月どうやって食っていけばいいんだ・・・。」


「ふむ・・。なんだお前、親いないのか?」


「いや、いるけどあんまり家に帰って来ないんだ。仕事で。あと、俺はお前じゃない。神崎だ。神崎駿かんざきしゅん。」


「そうか、では神崎、私もおばさんではない。さっきから何度も失礼なルビの振り方をしているようだが、私はお姉さんだ。一応まだ20代なのだぞ。」



そんな事どうでもいいよ。お姉さん?20代?肌カサカサじゃねーか。



じゃなくて、金、どうしよ。。



「ふむ、元気になったようだし、そろそろ出て行ってくれるかな。私は研究があるので。これ以上お前に割く時間はないからな。そもそも、私とお前では、時間の重みが違うのだよ。私の1分はお前の3日分ぐらいある。私が1日研究を遅らせれば、科学の進歩は3年は遅れるだろう。さあ帰れ。」


「だからお前じゃなくて、神崎だ。しかも、帰りの電車賃もねえんだよ!・・・・。あのさ、あんた俺に金貸してくんない?乗りかかった船って奴でさ。」



・・・ちっとお姉さんは舌打ちをすると、

「だから子供は」と言いながらタバコを無造作に消すと、俺を睨んで言い放った。



如月きさらぎだ。神崎君、君は本当に子供がきだね。恩を受けた身でありながら、その上、金を貸せと?帰りの電車賃程度くれてやってもいいが、君には社会の常識というものがないのか?・・・・・・・そうか、君はゆとり世代というやつだったな。このままでは日本の将来は知れたものだな。」


まったくと、ボサボサの髪を掻き上げ、またタバコを取り出して火を着けた。



「す、すみません・・・。」


俺は素直に謝った。確かに状況からみてこの人・・如月さんには借りがあったのに、失礼な態度だった。


しかし、ゆとり世代は関係ないだろ。


さて、どうするか。とりあえず、電車賃だけでも貸してもらいますかね。


と、金の話を切り出すタイミングを考えていると、如月さんからある提案が投げかけられた。



「ふむ。神崎君、生活費が無いと言ったな。分かった。バイトしないか?」


「え?バイト?何のですか?」


「私の実験の手伝いをしてほしい。なあに、簡単なバイトだ。ただの人体じ・・・ゴホン・・生体じ・・んんっ・・・そこのベッドに横になって、しばらく寝ていてもらうだけで構わない。」



・・・・。


あからさまに怪しいんですけど?


この人、見た目通りマッドサイエンティストって奴では・・・。



「ん、なんだ?こんな簡単なバイトが嫌なのか?君も変わり者だな。」



だから、あんたに言われたくないし・・。



「まあ折角、都合良く実験体・・・んんっ、協力者が調達出来そうだからな、私も誠意を見せようじゃないか。」


しょうがないと言いつつ、机の引き出しを開け、なにやら封筒を取り出した。



「これを受け取れ。前金だ。いくら入ってるか知らんが、その位あれば何とかなるだろ。」


はあ、と何気なくそれを受け取ると、


「!? あのう、物凄く厚みがあるんですけど。」


そう、それはきっと一流サラリーマン幹部が、ボーナスを手渡しで貰ったらこの位の厚みだろうと思える程のものだった。



「ん?そうか?確認してみてくれ。」


分かりましたと、中身の札束を出すと、それは全て諭吉様。


え~と、軽く百枚は下らないんですけど・・・。



「あの、こんなに貰っていいんですか?まだ実験も始めてないのに。」


「ああ、そうだったな。分かった。」



そう言うと、如月さんは封筒を手に取り、一枚取り出し、


「今日はもう遅い。とりあえずこれで帰ってくれ。残りは明日渡そう。学校帰りに寄れるか?」


とりあえず、その一枚は素直に受け取って置く。



しかし、


「寄れるけどさ、そうじゃなくて・・・。そ、そのバイトって、こんなに金を貰っていいんですか?

そもそも俺の身体、大丈夫なんですよね?」


「なんだ?色々面倒な奴だな、君は。妹と二人分なのだろう、今月はまだ始まったばかりだぞ。それで足りるのか?」



いや、あのう、充分足りますし、俺が気になってるのは身体の方なんですけど。



「はい、充分すぎます。それより、俺、実験で死んだり、身体可笑しくなったりしませんよね?」



・・・・。



無反応の如月さん。


あれ?


お~い?



ふう~と、彼女はタバコを吐くと、ちっと舌打ちし、「これだから子供は」と呟いた。


いや、子供とか関係ないでしょ、今の流れ。



そう思いますよね?



「貴様、私を誰だと思ってるんだ?私は超天才科学者なのだぞ。歴史上の稀代の天才科学者どもは、不老不死だの、宇宙の真理だの下らん研究を続けてきたようだが、私にとってはそれすら通過点にすぎないのだよ。分かるか?人はいつか死ぬ。そんな事は当たり前だ!人は細胞分裂を繰り返す、死ぬまでな。しかし、それも限界がある。テロメアだ?そんな物伸ばす方法なんていくらでもあるのさ。まだ気づかないのか?これだからいつまで経っても人の進歩は・・・。」


「あ、いや、その、すみませんでした。超天才の如月さんを疑ったりして、という事は、俺の身体の心配はいらないってことですよね。」



ごめんなさい、話長すぎるんです・・。



「ああ、もちろんだ。私に失敗はない。」


失敗はないって、何する気なんだ・・・。


まあ、恩も返さないとだし、こんなに貰えるなら様子みながら引き受けるか・・・。



「神崎君、話は以上か?終わったなら、もう帰ってくれ。」



はいはい分かりました・・・・。ったく、この人は。








さて、所変わって自宅の近くまで戻ってきました。


時計をみると、8時30分すぎ。ちょっと遅くなったな。


ま、今日はイベントが続いたからな。しょうがないさ。


住宅街の路地を曲がると、我が家が見えてきた。


都心の住宅街という一等地にある、小さめながらも、庭付き一戸建てだ。


まあ、扶養されてる俺が自慢してもしょうがないが、これは全部母さんのおかげ。


母さんは、一流薬品会社で新薬の研究をしている研究者だ。


なにやら、博士号も持っているらしい。


父親はっていうと、父さんには会ったことはない。


とはいえ、離婚や他界したとか、そう言う事ではない。


元々、母さんは結婚をしていない。


それに、父親の話はしないから、生きているのかすら知らない。


昔、自分は本当に母さんの子供なのかと、疑っていたこともあるけど、今では間違いなく自分は母さんの子だと思ってる。


なんとなくだけどね。母さんもそう言っていたし。



そんな事を考えていると、自宅に到着。



「ただいまー、遅くなってごめんなー、彩乃あやの?いないのか?」



は~い、お帰りなさーいと、風呂場の方で声がしたと思ったら、パタパタと玄関まで妹がやってきた。


妹は、俺が帰るといつも玄関まで迎えに来るのだ。



なかなか甲斐甲斐しい奴だろ?



「お帰りなさい、兄さん。」


妹は、出迎えの挨拶は笑顔だったが、すぐに不機嫌になり、もお・・、と言いながら頬を膨らませ、

「メール見たんですか?」と腕を組んで、無い胸を張っている。



頬を膨らませる前に、そろそろ胸を膨らませた方がいいぞ。とは口に出さず、メール?と思いつつ携帯を確認。



うお! 妹からメール23件。着信7件。



おいおい、今時、兄妹でこの件数おかしいだろ。他人に見られでもしたら完全に誤解されるぞ。


とはいえ、あまり怒らない妹が怒っていた(というより拗ねていた)ので、すまん、気づかなかったと、とりあえず、謝っておいた。



「今日は6月10日ですよ。兄さんの誕生日なんですよ。」


「色々準備してたのに、こんなに遅く帰ってきてぇー」


むぅと、さらに頬を膨らませ、怒った感じを強調している。


「そっか、悪かったって、今日は色々あってさ。ほら、まだ9時前だし。な?」


そう言って、携帯の時計を見えるように向ける。


「もおー。いつも早く帰って来るのにぃ、今日に限って遅いなんて。」


「お風呂も先に入っちゃたんですからねっ」



いやそんな仁王立ちで、また無い胸張られても・・・。


しかも風呂は関係ないだろ・・。



「分かった分かった。兄ちゃんが悪かった。」


「このとーり」と、両手を合わせ靴を脱ぎ、居間へと向かう。



「もお、兄さんっ」と、まだ収まらないのか、パタパタと後を着いて来る妹。



全く、いつまで経っても兄さん兄さんと、もう中学生だってのに、兄離れ出来ない奴だなと思いつつ、冷蔵庫を開け、麦茶をコップに開けると、一気に飲み干す。



あ~、今日は結構熱かったからなあ。さすがに喉が渇いた。



しかも、あのマッドサイエンティスト(如月さん)の研究室、地下にあってすげージメジメしてたし・・。



そんな事を思い出してると、妹が、兄さん兄さんとなにやら急かしてくる。



「なんだよ」と振り向くと、


「なんだよじゃないですよぉ。テーブルの上、見てないんですかぁ?ほら、兄さんの好きなお料理、

いっぱい作ったんですよぉ。」



そうか、忘れてた。こいつは褒めて褒めて魔人だった。褒めるまで何度も聞いてくる程の、大魔人さんだったっけ。



「おうそうか」と、気づいてなかった振りをして、テーブルを見渡す。


「へー、骨付きチキンに、シーザーサラダ。お、肉じゃがもあるのか。美味そうだなー。」

「しかも、今回は、ケーキも手作りだな?綺麗に出来ているし、凄いじゃないか、彩乃。」



と、ちょっと大げさに褒めてやる。



すると妹はだんだん機嫌が良くなり、「えへへ、凄いでしょぉ~」と、得意げだ。



「あとねぇ、兄さんの大好物!豚カツもあるんですよぉ。しかもこれから揚げますからぁ、揚げたてになるんですっ。」


うふふぅ~とさらに上機嫌でその場で手を広げ、1回転する綾乃さん。


そして、ツインテールがピコピコと揺れている。



その一連の動きがなかなか可愛いんだが、ただでさえ背が低く、しつこいが胸も無い為、子供っぽさに拍車をかけている。


髪型も少女趣味な感じで、そろそろツッコミたいのだが、まだ中一だし、そこはまあいいか。



それはさておき、豚カツは楽しみだ。確かに俺の大好物で、さらに妹の豚カツはとても美味い。


何でも、二種類の油を用意して、二度揚げしたり、手間をかけているらしい。


さすが、家事炊事万能の我が自慢の妹。


こいつばっかりは、誰にもやらねえぞ。


嫁には絶対行かせねえし、俺が結婚してもそのまま側に置く。


もちろん彼氏が出来たら、ぶっ殺す。


あれ?


俺の方が、妹離れ出来てないのか?


いやいや、父親がいない分、自分が代わりにならなくては。


そう、そう言う気分ってなわけ。


断じてシスコンではない!


俺が黙ってコブシを握っていると、妹が訝しがって「何してるんですか、兄さん?」と顔を覗いてくる。



「一人で変な事してないでですねぇ、先にお風呂入っちゃって下さいよぉ。その間に出来ますからぁ。」


「んじゃ、入ってくるわ」と俺は風呂場に向かった。



・・・・・・・・・・・・。



「ぷう~、気持ちいい~。夏はやっぱり、熱い風呂だね。」



湯船につかりながら考える。



本当にうちの妹は出来た妹だ。


こうやって誕生日や、クリスマスだ正月だと、イベントはいつも頑張るし、普段も家事に余念が無い。


まだ中一だってのになあ。


いつからだっけか?


こんなにあいつがしっかりしたのは。


だいぶ前からそうだった気がするなあ。


母さんは、今でこそ殆ど家にはいないが、妹が小さい頃までは毎日家にいた。


何でも、自室を研究室に改造し、自宅で研究をしていたとか。


当時は思いもしなかったが、会社員がそんな事を許されるなんて、母さんは大したポジションにいるんだなって、最近思うようになった。


そして、そのおかげもあって、俺も妹もヤサグレないですんでいる。


・・・そうか、母さんが家にいなくなった頃からだ。妹が俺に対して敬語を使うようになり、家事炊事をするようになったのは。



今考えると、なんて才能なんだ。我が妹、彩乃さん。



う~む。やっぱり俺とは違う血が流れているからだろうか。



そう、妹は実は義妹なのだ。



本人が、知っているかどうか、話題にした事がないので知る由も無いが、実は俺が4つの時に、突然母さんが連れて来たのだった。



「駿ちゃ~ん、ほら、あなたの妹でちゅよ~」って。



もちろん当時は子供だから、何も疑問を持たず妹だと受け入れられたし、その後もしっかりお兄さんぶっていた。


少し経ってから、本当の妹じゃないんだなって思ったけど、母さんに訳を聞いた事もないし、聞く気もなかった。



どうですか、一般的にみて、可笑しいですかね?



だって、赤ん坊の頃からあいつを知ってるんだ。血の繋がりなんて、どうでもいいよ。


誰がなんと言おうと、あいつは俺の妹だし。


たとえ本当の家族がやって来ても、渡す気はさらさらないしな。




・・・・・言っておくが、義妹だからといって、変な期待はするなよ?



俺はシスコンじゃない。


ま、家族として愛してるけどさ。家族としてだ。


それに妹を嫌いな兄が、世の中にいるかい?


え?いるって?


それはすまなかった。


うちの妹は、とても可愛いもんで。


誰に言うでもなく、自慢する俺。


しつこいようだが、家族愛だぞ。


・・・・・・・。


おっと、いけねえ、長風呂になっちまう。


そろそろ出ないと、綾乃さんが拗ねるからな。


じゃ、そう言う事で、俺は豚カツを食べてきます・・・・・。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・。

・・・・・。


ああ~食ったなあ。


凄い量だったが、俺は完食した。


さすがにケーキは無理かと思ったが、美味い美味いと食べてたらあいつが喜ぶもんで・・・、

つい、全部いっちまった。



おかげで胃がもたれそうだ。


・・・・・・・・・・・。


ああそうか、結婚すると幸せ太りするって言うけど、こうして毎日嫁さんの為に残さず食べて、世の男性は太っていくんだな。


納得。


将来結婚したら、気を付けるとしよう。



で、説明がくどくなるが、俺は今2階の自室にいる。


食後は当然眠くなるから、ベッドの上だ。


ちなみに妹の部屋は隣。


そうだ、妹にプレゼント貰ったんだっけ。



・・・・・・・・。


何だか、随分と可愛い感じの紙袋だ。


ファンシーな色合いで、袋の表面がエナメルのような素材で出来ている。


なんだか、袋が随分豪華で、中の物をいやでも期待させてしまう。


なるほど・・・。


何が入ってるのかなと、紙袋をガサガサ・・・。


中身を取り出し、顔の前で眺める。


キラキラ光って、なかなかきれいだ。


それは、人口水晶の中に、銀色に光り輝くハートが入ったアクセサリー。



・・・じゃなくて、紐がついているから携帯ストラップか・・。



妹は、「後で見てね~」なんて言っていたが、その後に説明していた事を思い出す。



「今若い子の間で流行ってる物でして~、恋人同士で持つと、永遠の愛が手に入るかもってやつなのです!しかも手作りですから、同じ物は他にないんですよ!」


「もちろん、彩乃は兄さんと同じ物をもっていますから、安心して下さいね!」



・・・・なんて言ってたっけ。



・・・・・何を安心するんだ?



そもそも、「そんな物は、好きな男の子にあげなさい。」と言ってやったら、「だって、好きな男の子なんていないんだもん。」とか言って、むくれてたっけ。


あれだな、流行っているからほしかったってやつだな。


まあ、折角妹がくれた誕生日プレゼントだ、素直に携帯に着けておくか・・。


さあて、宿題でもやって寝ますかね。


面倒だなあ。



・・・・・・・。



なんだか、あのマッドサイエンティストを思い出すな・・・。











第2話へ続く

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