SCOUT.3 「金の卵」を見つけたようです
秋晴れの空が天高く広がる。
都内某所の大きな公園のベンチで、さっきまで見ていた携帯電話を片手で弄びながら空を見上げる影が一つ。
「はぁ~」
飯島 風理は、もう何度目かもわからないため息を吐く。
「あー。どうして決まらないんだろう……。私、そんなにブランド無いのかなぁ」
チラッと携帯電話の画面をもう一度見る。
画面に並ぶのは、大手から中堅とされる複数の魔法少女プロダクションから届いた『不採用』の三文字。
風理は、不必要に大袈裟な仕草で、携帯電話をカバンへと放り込む。
風理が前を見ると、低学年くらいの少女が三人、輪になって遊んでいた。
少女たちの高い声が、風理が座るベンチまで届く。
「滅しなさい! ツインドラゴン・トルネード!」
「これで終わりよ! バーニング・ノヴァ!」
「いくわよ! プリン・サンダー・アターック!」
(魔法少女ごっこかぁ。懐かしいなぁ)
風理は郷愁に浸りながら、自分の技名が聞こえたことに喜びを感じていた。
「……プリンはダサいくない?」
「えー。そうかなぁ」
「もう引退したっぽいし、“トラスタ”はルミナの、ギャラクシー・ブルーでしょ」
「私は“ラビキュー”とか“シャイブラ”が好きだなぁ」
「分かる! “シャイブラ”いいよね~」
そんなことを話しながら、少女たちは遠くの遊具へ走り去った。
ベンチに残された風理は、肩を落としながら、俯く。
(プリンはダサい、かぁ……)
秋も深まるこの日。
風理は、求人サイト漁りを初めて放棄した。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「べくしょい!」
盛大なくしゃみをかましながら、風理は引っ越し先のアパート近くにある商店街を当てどもなく歩く。
公園での一件以来、風理はプロダクションへの応募をしていない。
魔法少女をしていた時の蓄えを食いつぶす日々も、早一か月になろうとしていた。
(――そろそろ、仕事探さないとなぁ)
店の前に貼られた求人募集の張り紙を、物色しながら歩く風理の耳へ不穏な会話が入ってくる。
「ぐへへ……。姉ぇちゃん、俺たちと遊ぼうぜ?」
「悪いようにはしねぇよ、ちょーッとそこまで付き合ってくれるだけでいいからさ」
「いや……やめて、くだ……さい」
風理は、声が聞こえる薄暗い路地を覗く。
いかにも、悪そうな風体の男が二人。
その男たちに迫られ、長い黒髪が目を引く少女が、涙目で震えていた。
「あの子……」
風理は、右手を軽く回す。
男たちの頭上に水が集まり、やがて大きな水球が二つ作られた。
「それっ!」
風理が右手の人差し指を上から下へ動かす。
「ぐわっ!」
「え? なんだよ、これ!」
落下した水球は、男たちを盛大に濡らした。
何が起こったのか分からないまま、男たちは逃げるようにその場を去る。
目を丸くする少女の前に、風理は歩み出た。
「キミ。大丈夫?」
「あ、あなたが、あれを……?」
恐る恐る尋ねてくる少女の質問に、風理は頷く。
「魔法を見るのは初めてだったかな?」
「……はい。初めてです」
風理から目逸らし、答える少女。
風理はその頬に手を伸ばし、その顔を自分と正対させた。
風理と、少女の目が合う。
「――嘘言ってんじゃないよ。キミも使えるんでしょ? 魔法」
少女の目が、驚愕に染まる。
「……どう……して」
素直な子だ、と風理は目の前で小動物のように怯え切っている少女を見る。
「あなたの魔力量……並みの魔法少女なんて蹴散らせるくらいよ」
まるで、核弾頭に触れているかのような錯覚に、風理は陥りそうになる。
「あなたには……分かるんですか……」
「そりゃあ――」
風理は、右手の人差し指で、自らの瞳を指さす。
「私には“眼”があるもの。他人の魔力がみえる“眼”。珍しいのよ?」
緊張か、驚嘆故か。
声が出せない少女の肩を、風理は優しく叩く。
「とにかく。魔法の暴発には気を付けること。まともに制御できるまでは、むやみに使わないこと!」
ゆっくりと頷く少女を見て、風理は大きく笑顔を作る。
「私、この商店街を出てすぐのアパートに住んでるから。魔法のことなら相談のるからね」
くるり、と踵を返し、風理は狭い裏路地を出口に向かい、歩く。
「あ、あの!」
自分を呼び止める少女の声に、風理は振り返った。
「あの……お名前! 聞いても、いいですか?」
「私? 飯島 風理。よろしくねぇ~。あなたの名前は?」
「あ、手代木 来未です」
「来未ちゃんね。可愛い名前。じゃあ、いつでもおいで」
そう言って、今度こそ風理は裏路地から通りへ戻る。
再び商店街を練り歩き始めた彼女の後を、鋭い双眸が追いかけた――。




