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SCOUT.2 世間の風は冷たいようです……

 大手魔法少女プロダクション、マネイジ・メイジ。


 その一室、マネジメントルームにて、魔法少女、飯島いいじま 風理ふうりは硬直していた。


 「――な」


 徐々に、体のいろいろな感覚が戻ってくる。


 「なんで……」


 真っ白な風理の脳内には、なぜ、の言葉しか浮かばない。


 そんな風理の様子を見ながら、大鳳おおとりは淡々と告げる。


 「なんで、わが社が君と、これ以上契約しないかというと――」


 大鳳は自身の後ろにあるプロジェクターのスイッチを入れる。


 風理の目の前に映し出されたのは、多種多様な数字とグラフ。


 「いいかい? これが君のグッズ売り上げ。三年前から下がってきてるね。逆に、美奈と結子は上がっている」


 風理の前で、プロジェクターの画面が切り替わる。


 「次に、配信動画のアナリティクス。君のシーンは視聴者の離脱が多い」


 サッと、画面は動画のコメント欄へ移行する。


 「極めつけは、これ」


 ――あ、魔法オバサンw


 ――この人、俺が生まれる前から魔法少女なんでしょ?


 ――もっと若い子見てぇ~


 「――! 風理!」


 遠のく意識の中で、風理が見たのは、必死に自分を支えるマネージャーの顔だった。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 風理は、マネジメントルームに置かれた、やけに柔らかなソファの上で目を覚ました。


 ゆっくりと開いた視界の先で、天井の証明が暖かなオレンジの光を放つ。


 「風理! 気が付いた?」


 頭の方から、マネージャーの声が聞こえた。


 「……私……」


 「倒れちゃったのよ。疲れが溜まってたんでしょうね」


 ちがう、と風理は内心で否定する。


 (疲れてなんていない。私は……現実から逃げたんだ。無意識に)


 風理は上半身を起こすと、ソファに座り直し、正面の大鳳を見る。

 

 「ご迷惑おかけして申し訳ありません」


 「別に、僕はいいけど……。大丈夫なの? キミ」


 「はい。……私も、聞いていいですか」


 「ん? 何?」


 大鳳は、じっと風理を見る。


 試すような大鳳の視線に、気圧されそうになりながら風理は口を開く。


 「私は、本当にクビなんでしょうか」


 「うん。クビ」


 「それは、オーナーの意向なのですか?」


 「オーナーから人事権をもらってるのは、俺」


 「しかし――」


 「風理君」


 食い下がろうとする風理を止めたのは、ソファの後ろに立って成り行きを見ていたオーナーだった。


 「風理君。君の気持ちはよくわかる。しかし、彼の言う通り、我々には君を雇い続けることはできない」


 反論しようと開きかけた風理の口を、オーナーは手で制する。


 「……いくつかのスポンサーからね、もっと若い子を前に出してくれ、と言われている」


 風理の頭に、意識を飛ばす直前の映像がよみがえる。

 

 ――もっと若い子見てぇ~


 心無い、ごく一部の声と、そう信じたかった。


 風理は、それが自分勝手な願望であったと理解する。


 「――分かりました」


 スクっと、風理は立ち上がり、部屋の扉へと向かう。


 ドアノブに手を掛ける直前、風理はくるりと振り返り、部屋にいる者たちをゆっくりと見渡す。


 「皆さん。今まで、お世話になりました」


 ゆっくりと頭を下げ、彼女は部屋を出て行った。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 風理は、自分のために用意されたプライベートルームへ入る。


 「今日で、この部屋ともお別れか……」


 ヒョイヒョイ、と私物と備え付けのものとを仕分けながら、魔法で浮かせてバッグへ詰め込む。


 「14年と言っても、結構、私物は少ないんだなぁ」


 大きめのボストンバッグ一つ、少し余裕がある程度の量で収まった。


 パッと見ではさほど変化が感じられない部屋を見渡す。


 「――買い物する暇も惜しんで、魔法少女やってたからなぁ」


 風理は、頬を伝う涙に気が付かない。


 柔らかく、静かに、それはカーペットの上へと落ちて行った。


 トントントン。


 部屋をノックする音で、風理の意識は戻される。


 ぼやけている視界を必死で擦りながら、風理は扉へと足を向ける。


 「はーい。どなた~?」


 扉を開けると、そこには結子と美奈が立っていた。


 「風理先輩。大丈夫ですか? 急に連れていかれたから心配で……」


 結子が恐る恐る尋ねる。


 隣では、美奈も無言で風理を見つめていた。


 「心配ありがとう、二人とも。丁度いいわ、話しておきたいことがあるの――」


 風理は部屋の中で、自分に告げられた現実を、二人に告げた――。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 木枯らしが、風理の髪を揺らす。


 ボストンバッグを地面に置き、風理はマネイジ・メイジが誇る、超高層ビルを見上げる。


 「――14年前も、こうして見上げてたっけなぁ」


 ――自分は何も変わっていない。


 ――変わったのは、周りの自分への視線。


 一段と強く吹き付けた風に、風理は思わず帽子を押さえた。


 「さて……行くか」


 ボストンバッグを持ち上げ、風理はクルリと超高層ビルに背を向ける。


 「風理~。待ってぇ~!」


 後ろから呼び止められ、風理は歩き出した足を止める。


 「……マネージャー? どうしてここに……」


 目の前で息を整える男に、風理は困惑の視線を向ける。


 「どうしたも何も……。あなた、これからどうする気よ! マジック・ガールズ・ネオ、蹴るつもり?」


 「ええ。それには出ないわ。私が出たら、美奈と結子が後ろに行っちゃう」


 「でも、あなたの最後の仕事かもしれないのよ?」


 「いいの。もう決めたから……」


 潤ませながらも、真っすぐに自分を見つめる視線に、風理は決意を込める。


 「分かったわ。もう言わない。――これから、どうするの?」


 「んー。当てはないけど、とりあえず動いてみるよ」


 強がるように、風理は笑う。


 木枯らしのせいだけじゃない、彼女の震える手を、マネージャーは両手で包む。


 「風理。忘れないでね。私は、あなたの味方よ。14年前から、ずっと」


 「うん。ありがとう、北大路きたおおじさん」


 スルリ、と手を放し、風理は歩き出す。


 その背中を、北大路は見えなくなるまで、ずっと、見守っていた。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 「はいよ! 味噌ラーメンね!」


 風理は冷えた体を温めようと、小さなラーメン屋にいた。


 目の前には、大きいチャーシューが3枚乗ったラーメンが、熱い湯気を立ち上らせる。


 (……眼鏡、要らなかったかなぁ)


 いつまでも白く濁る視界に辟易しながら、風理はスープを口に運ぶ。


 ふと顔を上げると、店内の液晶では、マジック・ガールズ・ネオが映っていた。


 (……あ、ルミナとユーコ。頑張ってしゃべってるなぁ)


 音が無く、字幕を追うと、どうやら先日のドラゴン討伐のことを話しているようだ。


 ふと、風理の目は、画面端の煽りに向けられる。


 ――トラフィック・スターズに新メンバー!?


 風理がそれを認識したのも束の間。


 画面に現れたのは、黄色の衣装を纏った少女。

 

 14歳、と字幕が流れた。

 

 「たはっ……!」


 思わず、風理は声を上げる。


 (さすが、やり手事務所だわ。仕事早ぇ……)


 ズルズルと、風理は勢いよく麵をすする。


 「――熱っ!」

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