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SCOUT.1 魔法少女を“クビ”になりまして……

 赤い鱗のドラゴンが、今まさに咆哮を上げている。


 「ルミナ! ユーコ! 作戦通りに!」


 「オッケー! プリン、任せたわよっ!」


 赤、黄色、青。


 三色の光がドラゴンへ向けて空を駆ける。


 赤い魔力を帯びるルミナは、ドラゴンの右足を巨大な剣を模した魔力の塊で切りつける。


 青い魔力を帯びるユーコは、ドラゴンの左足を巨大な縄を模した魔力で縛り、引き倒す。


 ドラゴンの体が、前のめりに倒れ込んだ。


 下げられた頭部を目掛け、上空から黄色の魔力が滑空する。


 「いくわよ! プリン・サンダー・アターック!」


 プリンは雷鳴と共に、一撃でドラゴンの首を斬る。


 絶命したドラゴンの頭部に立ち、プリンは上空に飛行するカメラに向かってにこやかに手を振った。


 カメラのレンズを通して、世界中の人間が彼女の笑顔に熱狂する――。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 「いやぁ~、今日もすっごい視聴者数だったわよぉ~。ほら、ファボもこんなに――」


 「マネージャー。私たち、疲れてるから……」


 「あら、ごめんなさい。気が利かなくってぇ~」


 塵一つ落ちていない、だだっ広い廊下を、飯島いいじま 風理ふうりは歩いている。


 その隣には、先ほど電子端末を弄繰り回しながら喚く男。


 彼らの後ろに、大鶴おおつる 美奈みなと、笹本ささもと 結子ゆうこが続く。

 

 「今回のドラゴン、楽勝でしたね!」


 結子が意気揚々と声を上げる。


 「――まぁ、今回も風理先輩のおかげでしたけどね。作戦とか」


 「いやいや。二人がいてくれるから勝てたんだよ~。私だけだったら、とてもとても」


 「でも、このグループの人気は、風理先輩に支えられてますから……」


 「そうそう! これからもよろしくお願いしますね! 風理先輩!」


 やめてよぉ、と自分を持ち上げる二人を宥めながら、風理はマネージャーと呼んだ男に向き直る。


 「えと、次の予定はなんでしたっけ?」


 「あら、お仕事やる気バリバリじゃない! 嬉しいわぁ~。ちょっと待ってね」


 そう言って、男は端末を二、三回タップした。


 「えーと。あら。今日はあと一つだけよ。珍しいわね。マジック・ガールズ・ネオに生出演」


 「マジック・ガールズ・ネオ!?」


 結子が食い入るように声を上げる。


 そんな結子の隣で、美奈も弄っていた携帯そっちのけでマネージャーを見ていた。


 二人の目が、ひどく輝いている。


 「二人とも、はしゃぎすぎ~」


 「いや、だって。超人気番組ですよ!? 魔法少女専用チャンネル界隈のトップ!」


 結子の発言を裏付けるように、美奈が携帯の画面を、風理に押し付けるように見せる。


 そこには、確かに桁違いの再生数とファボの数が載っていた。


 「――す、すごいわね。わたし、こういうの疎くなっちゃって……」


 「はぁ~。ダメですよ先輩。トップ魔法少女なら、こういうのも抑えとかないと」


 「ドラゴン倒せるだけでは……足りません」


 「うぅ~。精進しますぅ~」


 廊下の真ん中を歩きながら、キャイキャイと騒ぐ彼女たちの前に、スーツ姿の男が現れた。


 「やぁ! “トラフィック・スターズ”の皆。元気そうだね」


 「あ、オーナー。おかげさまで、元気にやらせていただいております」


 風理が頭を下げる動作に、美奈と結子が倣う。


 「うんうん。結構結構。ところで――、風理君、ちょっといいかな」


 「私、だけですか」


 「そう、君とマネージャーの彼だけ」


 先に行ってて、と風理は結子らに伝え、オーナーについて別室に向かう。


 (――マネジメントルーム?)


 馴染みのない部屋に通され、訝しみながら風理はあたりを見回す。


 そこには、一緒に来たオーナーとマネージャーの他、マネジメント部長、大鳳おおとりが紫煙を燻らせて座っていた。


 「おいおい。大鳳。ここは禁煙だと何度言えば……」


 「あー。はいはい。すみません。あと少しなんで――」


 オーナーの呆れ顔を尻目に、大鳳は最後まで吸いきると、それを灰皿に押し付ける。


 「さて、君が飯島 風理さん?」


 「え? あ、はい。飯島 風理です」

 

 突然、話を振られ驚きながらも、何とか風理は返答ができた。


 「結構、場慣れしてるね。この業界、何年目?」


 「今年で十四年目になりました」


 風理は胸を張って答える。

 

 去っていく魔法少女もいる中で、自分のこの歴の長さと、それに見合う実績が自分の武器と風理は自負していた。


 「長いね。君、いくつ?」


 「え――?」


 風理は戸惑い、言葉に詰まる。


 今までされたことが無い問い。


 チラリと、横に立つマネージャーを見ても、顔をこわばらせるばかりで目が合わない。


 (――ドラゴンに挑む前、結子も美奈も、こんな顔してたな……)

 

 「ん? よく聞こえなかった? 今いくつなの、って聞いたんだけど……」


 風理は、ハッと我に返り、大鳳に向き直る。


 「失礼しました。今は、27歳です」


 「うん。そうだよね……」


 トントントン、と大鳳は人差し指で机を叩きながら、品定めのように風理を見つめる。


 (何? この人。めちゃくちゃ見てくる……)


 しばしの沈黙。


 やがて、大鳳は膝を一度叩き、立ち上がった。


 「よし! 決めた。オーナー。本当によろしいんですね?」


 オーナーはゆっくりと頷く。


 内容が全く分からないやり取りを、風理はポカンと眺めているだけ。


 大鳳は、一度咳払いすると、風理をまっすぐに見つめる。

 

 「えー。では、申し上げます。飯島 風理。今日付けで、我がプロダクションは、君との契約を終了します!」


 「………………は?」


 風理の中で、時が、止まった。

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