SCOUT.1 魔法少女を“クビ”になりまして……
赤い鱗のドラゴンが、今まさに咆哮を上げている。
「ルミナ! ユーコ! 作戦通りに!」
「オッケー! プリン、任せたわよっ!」
赤、黄色、青。
三色の光がドラゴンへ向けて空を駆ける。
赤い魔力を帯びるルミナは、ドラゴンの右足を巨大な剣を模した魔力の塊で切りつける。
青い魔力を帯びるユーコは、ドラゴンの左足を巨大な縄を模した魔力で縛り、引き倒す。
ドラゴンの体が、前のめりに倒れ込んだ。
下げられた頭部を目掛け、上空から黄色の魔力が滑空する。
「いくわよ! プリン・サンダー・アターック!」
プリンは雷鳴と共に、一撃でドラゴンの首を斬る。
絶命したドラゴンの頭部に立ち、プリンは上空に飛行するカメラに向かってにこやかに手を振った。
カメラのレンズを通して、世界中の人間が彼女の笑顔に熱狂する――。
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「いやぁ~、今日もすっごい視聴者数だったわよぉ~。ほら、ファボもこんなに――」
「マネージャー。私たち、疲れてるから……」
「あら、ごめんなさい。気が利かなくってぇ~」
塵一つ落ちていない、だだっ広い廊下を、飯島 風理は歩いている。
その隣には、先ほど電子端末を弄繰り回しながら喚く男。
彼らの後ろに、大鶴 美奈と、笹本 結子が続く。
「今回のドラゴン、楽勝でしたね!」
結子が意気揚々と声を上げる。
「――まぁ、今回も風理先輩のおかげでしたけどね。作戦とか」
「いやいや。二人がいてくれるから勝てたんだよ~。私だけだったら、とてもとても」
「でも、このグループの人気は、風理先輩に支えられてますから……」
「そうそう! これからもよろしくお願いしますね! 風理先輩!」
やめてよぉ、と自分を持ち上げる二人を宥めながら、風理はマネージャーと呼んだ男に向き直る。
「えと、次の予定はなんでしたっけ?」
「あら、お仕事やる気バリバリじゃない! 嬉しいわぁ~。ちょっと待ってね」
そう言って、男は端末を二、三回タップした。
「えーと。あら。今日はあと一つだけよ。珍しいわね。マジック・ガールズ・ネオに生出演」
「マジック・ガールズ・ネオ!?」
結子が食い入るように声を上げる。
そんな結子の隣で、美奈も弄っていた携帯そっちのけでマネージャーを見ていた。
二人の目が、ひどく輝いている。
「二人とも、はしゃぎすぎ~」
「いや、だって。超人気番組ですよ!? 魔法少女専用チャンネル界隈のトップ!」
結子の発言を裏付けるように、美奈が携帯の画面を、風理に押し付けるように見せる。
そこには、確かに桁違いの再生数とファボの数が載っていた。
「――す、すごいわね。わたし、こういうの疎くなっちゃって……」
「はぁ~。ダメですよ先輩。トップ魔法少女なら、こういうのも抑えとかないと」
「ドラゴン倒せるだけでは……足りません」
「うぅ~。精進しますぅ~」
廊下の真ん中を歩きながら、キャイキャイと騒ぐ彼女たちの前に、スーツ姿の男が現れた。
「やぁ! “トラフィック・スターズ”の皆。元気そうだね」
「あ、オーナー。おかげさまで、元気にやらせていただいております」
風理が頭を下げる動作に、美奈と結子が倣う。
「うんうん。結構結構。ところで――、風理君、ちょっといいかな」
「私、だけですか」
「そう、君とマネージャーの彼だけ」
先に行ってて、と風理は結子らに伝え、オーナーについて別室に向かう。
(――マネジメントルーム?)
馴染みのない部屋に通され、訝しみながら風理はあたりを見回す。
そこには、一緒に来たオーナーとマネージャーの他、マネジメント部長、大鳳が紫煙を燻らせて座っていた。
「おいおい。大鳳。ここは禁煙だと何度言えば……」
「あー。はいはい。すみません。あと少しなんで――」
オーナーの呆れ顔を尻目に、大鳳は最後まで吸いきると、それを灰皿に押し付ける。
「さて、君が飯島 風理さん?」
「え? あ、はい。飯島 風理です」
突然、話を振られ驚きながらも、何とか風理は返答ができた。
「結構、場慣れしてるね。この業界、何年目?」
「今年で十四年目になりました」
風理は胸を張って答える。
去っていく魔法少女もいる中で、自分のこの歴の長さと、それに見合う実績が自分の武器と風理は自負していた。
「長いね。君、いくつ?」
「え――?」
風理は戸惑い、言葉に詰まる。
今までされたことが無い問い。
チラリと、横に立つマネージャーを見ても、顔をこわばらせるばかりで目が合わない。
(――ドラゴンに挑む前、結子も美奈も、こんな顔してたな……)
「ん? よく聞こえなかった? 今いくつなの、って聞いたんだけど……」
風理は、ハッと我に返り、大鳳に向き直る。
「失礼しました。今は、27歳です」
「うん。そうだよね……」
トントントン、と大鳳は人差し指で机を叩きながら、品定めのように風理を見つめる。
(何? この人。めちゃくちゃ見てくる……)
しばしの沈黙。
やがて、大鳳は膝を一度叩き、立ち上がった。
「よし! 決めた。オーナー。本当によろしいんですね?」
オーナーはゆっくりと頷く。
内容が全く分からないやり取りを、風理はポカンと眺めているだけ。
大鳳は、一度咳払いすると、風理をまっすぐに見つめる。
「えー。では、申し上げます。飯島 風理。今日付けで、我がプロダクションは、君との契約を終了します!」
「………………は?」
風理の中で、時が、止まった。




