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君の為に僕の出来ること 〜下街の小さな診療所〜

作者:

「マチルダさん。 今日も怪我ですか!?」

「……はい。 今日は大型のグリフォンを狩って来たから。 おかげでこの様です」


見ると肩から腕にかけてグリフォンの爪でえぐられた深い傷がその攻撃力の高さを物語っていた。それに他の箇所も擦り傷に切り傷、数えていったらきりがないほど負傷している。


「もう。 綺麗な肌に傷でも残ったら大変なんですから、マチルダさんは可愛いんですから、もう少し慎重に戦って下さいよ」


「かわっ………可愛いって私がっ?! そんな事を言うのロイド先生くらいですよ」


もじもじと顔を赤らめて恥ずかしがるこの女性はマチルダ・モノリスA級冒険者だ。

赤い情熱的な髪色に長く肩まで伸びた髪。彼女独特な少しつり上がった吸い込まれるような鋭い目。そして一流と言われるだけある鍛え抜かれた身体。それでいて女性らしさが残る身体つき。そんな魅力溢れる彼女は餓狼の牙のリーダーでこのオルランド王国の数少ないA級の女剣士だ。


ああ…………今日もマチルダさんは可愛い。赤らめた顔も。もじもじする姿も全てが愛おしい。

この顔を見てるだけで心が癒され元気がでる。

そう。僕が今、猛烈に推しているのがS級まであと少しのところまで登りつめたマチルダ・モノリスさんだ。


僕はマチルダさんが駆け出しの新人冒険者の頃から知っていて今でもここの診療所でお世話をしている患者の一人だ。


「いつもごめんなさい。 こんな治療ばかりさせてしまって。 でもロイド先生のおかげで私は全力で戦えるんですけどね」


「ふふ。 そうですね。 ここに来る患者の中で断トツ怪我が多いのはマチルダさんだけですからね。初めて討伐しにいった時にビックボアにお尻を牙で引っかかれて半分お尻が見えた状態で診療所に来ましたもんね」


彼女の深手を負った腕を治療しながら思い出していた。

忘れもしない、マチルダさんとの出会いは。患者でもお尻が見えた状態で受診に来る人は生涯含めておそらくマチルダさんの一人だけだろうから。


「ロイド先生っ!! それは言わない約束でしょう!! あれは黒歴史なんですから! 忘れて下さいと何度も言ったでしょう!!」


顔を真っ赤にして声を上げマチルダは治療の最中だというのに立ち上がった。余程恥ずかしい思い出だったのだろう。目に涙まで浮かべている。


昔から僕の前ではA級冒険者になった今でも態度が一つも変わらない。ランクが上がるにつれ偉そうにする冒険者も多い中、彼女はそれをしない。きっと育ちがいいのだろう。そんな彼女に彼氏がいるかいないかは分からないが僕は幸せになれるよう陰で応援しているのだ。


「ああ……ごめんごめん。そうだったね。 でもあの頃が懐かしいね。 今となってはこの王都でも有数の冒険者パーティーの一人なんだから」


「もう…………でも、それもこれも先生のおかげです。 私が初めて診療所に来た時、あれは暑い夜だったのを今でも覚えています。 ビックボアにやられて足もまともに動かせずに帰るのも遅くなって、一刻も早く治さなければいけないのに何処も診療所は閉まっていて、汗と疲労で限界だったところをここのロイド先生がいる診療所を見つけたんです」


「そうだね。 あの時は驚いたよ。 あんな遅くに来て、足を引きずって何事かと思ったらまさかお尻をえぐられていたとはさ。 でも意外と危なかったんだよ。 あの状態で一晩放置してたら雑菌が繁殖して最悪命を落としていたかもしれないからね。 本当に診察しに来てくれてよかったよ」


「そう……だったんですね……。 でも、あの時の先生の顔は今でも忘れられません。 新人冒険者を邪険に扱う診療所は多くありましたから」


冒険者は夢がある。Sランクになれば貴族とも変わらないほどの大金が手に入る。だから夢を追って冒険者になる者も多い。

だけど現実は違う。その大半は怪我などで辞めていくのが現実だ。だからその日暮らしのようなお金しか持っていない冒険者が溢れている。


「ああ……うん。 そうだね。 新人冒険者はお金がない。 だから金払いも悪いし、最悪払わない事も多い。 だから煙たがる診療所も多いからね」


「でも先生は違った。 夜遅くに来た私を何も言わずに直ぐ治療してくれた。 身なりからも新人冒険者と気付いていたのに。 まともなお金さえなかった私を。 えっと…………その…………あの時の先生………格好よかった………です」


またも顔を赤らめ伏せている。いつも仲間といる時は堂々とした顔をしているのに、こういった二人の時は砕けたようにフニャッと女性らしい顔つきになるのは反則だ。思わず胸が高鳴ってしまう。

ロイドは平常心を装い返答するように心掛けた。


勘違いしちゃいけない。彼女はいずれS級の冒険者になって世界中を飛び回る存在になる。だから俺みたいなただの治癒師が恋愛感情を抱いていいような存在ではない。


「まぁ治療するのが僕の仕事だからね。 怪我した患者を治療しただけ。 当たり前の事をしただけなんだけどね」


「そんな事はないです! 先生の治療はとても優しくて、気持ちよくて、心が温かくなるんです。 他の治癒師とは全く違うんです」


「そ…………そう? 褒めてくれるのはありがたいんだけどね。 僕を褒めても何も出ないよ?」


真剣な顔をしてロイドの手をギュッと握るマチルダはいつになく積極的なようにも見えた。


やばい。手まで握られたら僕の脈拍が高くなっているのがマチルダさんにバレてしまうじゃないか。

落ち着こう。先生と患者は一線を越えちゃダメなんだ。


「それに私がA級になってもこの王都の大聖堂ではなくこの診療所に通う理由はロイド先生がいるからですよ」


「うん。 それは知ってるよ。ありがとうマチルダさん」


大聖堂とは王都中心にある怪我や病気、呪いまで全てを治すことの出来るファルマ大司祭様が運営する治療施設だ。この施設は今言った殆どの事を治せる変わりに莫大な金額が掛かる。だからこういった王都から少し離れた所に、幾つもの小さな診療所があり、安く治療が受けれるようになっている。

その代わりと言ってはなんだが、治療の内容は勿論そこそこといったレベルに収まってしまうが。

そう、僕を含めて(・・・・・)


僕の能力はかなり特殊で、時間を操り怪我をする前の状態にまで時間を巻き戻し魔力で定着させる俺にしか使えない特殊治癒魔法だ。

とんでもない魔法かと始めは自分でも期待したが【ヒール】等の簡単に唱えて直ぐ治せる魔法とは違い、対価として魔力を大量に消費するこの魔法は正直その劣化版と言っても過言ではない。

何でこんな特殊な治癒魔法が発現したかは僕にも分からないないが、中等症くらいの怪我までならこの診療所で診ることが出来るので特別不自由を感じたことはなかった。


「ほら、治ったよ。 これでまた頑張れるね」


「ありがとうございますロイド先生。 あと二つ指定クエストをこなせばS級のランクに上がることが出来ますのでロイド先生も応援して下さると嬉しいです」


「勿論だよ。 マチルダさんがこの診療所に来る患者で初めてS級冒険者誕生を楽しみにしてるよ」


「はい!!」


そう言って傷を癒して貰ったマチルダは笑顔で診療所を後にした。


いやぁ。マジで可愛いなマチルダさんは。

好き過ぎて死んでしまいそうなほど大好きだ。あの純粋な笑顔。人懐っこい性格。何より夢を追いかける姿。俺には眩しすぎてまともに見れないよ。

この診療所にいつも来てくれるのもありがたいけど、念願のS級冒険者になったら、この王都に滞在する時間も大分少なくなるだろうな。それが冒険者だし仕方ないことだけど。


少しの寂しさ感じ、ロイドは物思いにふけると、いつもの仕事に戻るのであった。









暫くしてだろうか、朝っぱらから再び声を弾ませたマチルダがいつもの診療所に入ってきた。

様子からしていい知らせに間違いないだろう。


「ロイド先生! やっとあと一つです。 あと一つクエストをこなせば念願のS級です!!」


「おお!! それは凄いね! これなら一ヶ月もすればS級に変わっているかもしれないね。 今回は大した怪我もなさそうだし」


指定クエストはランクが上がるほど難しくなる。それくらいは治癒師の僕でも知っているが、マチルダさんは余程調子がよかったのだろう。身体を確認しても大きな外傷は見当たらない。


「はい。 今回は早く終わらせる事が出来ましたので、この調子で最後のクエストも続きたいです」


「頑張れマチルダさん。 応援してるからさ。 でも油断は禁物だよ」


「はい。 ありがとうございますロイド先生」


「ところでマチルダさんは治療もないのに今日はわざわざ診療所まで足を運んでくれたの?」


「え? あ、はい。 ダメでした?」


「ダメじゃないけどギルドから結構距離あるでしょこの診療所まで」


「こんなの距離のうちに入らないですよロイド先生。 王都内は庭と一緒なようなものですから」


「あはは。 そうだね。 いつも遠くまで狩りに行く冒険者からしたら王都内なんて庭みたいな感覚なのかもね」


「はい。それでは行きますねロイド先生」


「うん」


マチルダは扉の前で立ち止まると、振り返りいつになく真剣な顔でロイドに伝えた。


「それとロイド先生。 最近この近辺で見かけない大型の魔物が目撃されています。 殺られた冒険者も多くいます。 今はギルドと騎士団が討伐に当たっていますが、もしも街から出る際は先生も用心して下さい」


冒険者の顔をしたマチルダさんを初めて見た。こんな真面目な顔をするほど討伐難易度が高い魔物なんだろう。


「分かった。 用心しておくよ」


「はい。 くれぐれも外出時にはお気を付けて下さい」


そう言ってマチルダは出ていった。


ロイドはいつものように仕事を終え、酒場で軽く飲んでいた。ここでは僕のような治癒師から冒険者まで色々な人達が集まってくるからだ。

酒場のマスターとも会話を交わしながら周りにも聞き耳を立てていると、奥の席で二人で飲んでいる冒険者からお目当ての会話が入ってくる。おそらく中堅冒険者といったところだろうか。


「ぷっはぁ。 これでやっと安心して狩りに行けるな」


「ああ。 まさか未確認討伐対象がキラープラントだったとはなぁ。でも、この地域じゃ珍しい、亜種だったらしいな」


「おお。 花もドス黒くてパット見じゃあキラープラントと分からなかったらしいな。 しかも強力な幻惑する胞子を撒いていたらしいから、あのせいで皆殺られたみたいだな。 最終的には餓狼の牙に討伐されたけどな」


キラープラントとは食人植物の魔物だ。B級討伐ランクだが、綺麗な花と甘い香りで人間や動物をおびき出し、摂食器官で動くものなら大概捕食してしまう危険な魔物だ。


それにしても騎士団より早くマチルダさんのパーティーが討伐するなんてやっぱり凄いんだなA級パーティーってのは。


関心していた時だった。それはロイドが思いもよらない言葉が出たのだった。


「………でも餓狼の牙のリーダーは重傷みたいだな。 何でも生死不明らしい」




………………え?



今…………なんて言った?



その瞬間心臓が飛び跳ねた。思いもよらない言葉に時が止まったかのように思考が全く追いついてこない。

餓狼の牙のリーダーはマチルダさんだぞ。

そのリーダーが生死不明?


さっきまで少し火照っていた身体が一気に血の気が引いていく。

寒くもない身体がまるで氷点下に晒されたように今では小刻みに震えている。


ロイドは震えた手をポケットに入れ、ありったけの小銭をマスターに急いで渡し、自分の診療所に向かう為、挨拶もせず店から飛び出した。


「嘘だ、嘘だ、嘘だっ。 マチルダさんが生死不明な訳がない! そんな事は何かの悪い冗談に決まってる!!」


いつだってマチルダさんは傷だらけでも笑顔で診療所に来てくれる凄腕の冒険者なんだ。 そんな人がA級の魔物になんて負ける訳がない。


息を切らして診療所に向かうと餓狼の牙のメンバーが店の前に立っていた。

盾役のゾフィーさんに、支援役のオカリナさん、前衛役のミーシャさん、それにリーダーの………


3人の前で足が止まる。

そこには4人目のマチルダさんが盾役のゾフィーさんに大事そうに抱えられていた。


「はぁ………………はぁ…………はぁ………マチ………ルダさん……………?」


「……………待っていました。 ロイド先生」


無言のまま待っていたオカリナさんが重い口を開いた。

その先は言わなくても分かる。いや、もうこれは素人でも分かる。どれくらいの傷を負ったら人が死ぬかなんて。

声が出なかった。

今、自分が息をしているかさえ分からなかった。

今見ている光景が夢ではないのかと目を疑うほどにマチルダは酷い損傷だった。

右腕はなくなり、右半身の腹部もえぐれていて、内臓が一部飛び出し欠損している箇所もある。血液だって時間が経ち大量に失っている。

治癒師として亡くなる患者は何人も診てきた。

何人も、何十人も、何百人と。冒険者を含め数え切れないほど診てきた。

そんな残酷な現実を見てきても、この今の現実に受け止めきれない自分がいる。 


「う………………嘘だよね? マチルダさん?」


朝まで元気で…………笑顔で………僕にまで気を使って会いに来てくれて………会ったのだってついさっきの出来事で、それがこんな風になる訳ないじゃないか。また治療したらいつものように笑顔で『ありがとうございます!』って笑顔で返してくれるに決まってる。


「あ…………だ………大聖堂に急ごう!!! あそこならもしかしたら治せるかもしれない!! ファルマ大司祭様にお願いして直ぐにでも治して貰うように僕がなんとか言うからっ! 今から急いで向かいましょう!!!」


ファルマ大司祭様なら重症の傷も治すことが出来る王都でも有数の治療施設だ。だからここで治療を受けるより遥かに生存率が上がる筈だ。ファルマ大司祭様が起こした奇跡を何度も聞いたことがある。

だから重篤(じゅうとく)の患者だって…………



「マチルダが………最後に…………先生のところで治療を受けたいって………言ったんです。 ロイド先生に、優しく癒やして欲しいって…………マチルダが……そう言ったんです」


ミーシャは唇を震わせロイドに向けて言った。本来3人は大聖堂に行くつもりだったのだろう。強く握りしめた拳には爪が食い込んで血が滲んでいた。


「マチルダさんが……僕の治療を? こんな小さな診療所で重篤(じゅうとく)の患者を僕が治せる訳がないのはマチルダさんだって分かっていた筈でしょう? それを何で俺の所で? 中途半端な治癒魔法しか使えないこんな診療所で僕が出来る事なんてたかがしれている」


治癒師として、そこら辺の小さな診療所と何ら変わらない技術しかない僕が、どうやって重篤の患者を助けるというのだ。それこそ奇跡を起こさない限り不可能だ。


「きっと…………死ぬと分かっていたんです。 だから大好きな先生に………最後は診て貰いたかったのでしょう」



最後?

あのいつも元気なマチルダさんが。

僕の大好きなマチルダさんが最後だって?

嫌だ。そんなの俺は絶対に認めない。

夢半ばで終わるのなんて俺もマチルダさんだって望んでない。

勇気を振るい立たせロイドは覚悟を決める。

血を流しすぎている。一分一秒だってもう無駄に出来ない。


「マチルダさんを治療室へっ!」


「は………はいっ」



急いで治療室へマチルダを運び、処置台へと移す。


「―――っ」


辛うじて生きているのが不思議な程の腹部の損傷が酷い。ありったけのマジックポーションを用意し、直ぐに診察に取り掛かる。


出血性ショックも起こしている。

大量の出血で循環量が低下して起こる循環血液量減少性ショックの事だ。


「損傷してからの時間は!?」

「2時間以上前です………」

「くっ…………」



生命維持の限界を超える時間を経過している。それに輸血も、右腕と腹部の止血も必要。血液不足により低体温、更には呼吸不全まで起こしている。

助手さえいない。改めて診て、治療するには絶望的な状況だ。治すには全ての作業を同時に行わないと不可能だ。


「やってやる……僕の生命をかけてでも………君を助ける」


頭の中でイメージする。治す対象部位。失った血液。感染症。治すためにありとあらゆる事を想定し、魔法を発動させた。


時間操作治療法(タイム・レイド・ケア)


治療部位、損傷状態によって対価として大量の魔力を消費するこの魔法。複数同時にかけ、重篤患者に使用する事もロイドは初めてだった。



「ぐ…………っ」


かつてない程、全身から魔力が消費されていく。それもたった数十秒ほどでだ。いつもであれば難なく治療できる時間。しかし、思考すら停止し、意識すらまともに保つ事が困難になるほどの大量な魔力消費量。


「う………マジッ………ク………ポーション……を」


声すら上手く出せない。

意識が朦朧とする。これは………魔力欠乏症?

初めての感覚に自分でも少し驚く。

周りの餓狼の牙のメンバーの誰かにマジックポーションを治療をかけながら飲ませて貰ったが、それが誰かすら分からない。


何分?何十分?それとも何時間だろうか?

何本マジックポーションを飲んだかさえ分からない。

果てしなく長く続く治療に意識が溶け込んで自分自身すら分からなくなる。


『ここは………?』


夢の中? 僕は夢を見ているのか?

見渡すと何もない白い空間に一人ぽつんと立っていた。

何だ? 僕は死んでしまったのか?

暫く歩くと、奥に女性が立っていた。

僕は知っている。

それは見覚えある面影。

赤い情熱的な髪色に長く肩まで伸びた髪。彼女独特な少しつり上がった吸い込まれるような鋭い目


「マチルダさんっ!!」

「ロイド先生!」


駆け寄って二人は強く抱きしめあった。

ふんわりとした優しく包み込まれるような香りがロイドの鼻腔をくすぐる。

いつものマチルダさんの香り。落ち着いた女性の香り。離れたくない。ずっとこうしていたい。夢の中でもいい。俺はマチルダさんといたい。


「最後に……………会えてよかったです。 ロイド先生。 私はロイド先生の事が大好きです」


その瞬間、目が覚めた。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。

夢の中じゃない。現実の世界で俺はマチルダさんと抱きしめ合いたいんだ。

まだ告白だってしてないし、デートだってしたことない。彼女の事は診療所での事しか知らないんだ。


「僕はマチルダさんが好きだ!! 情熱的な赤い髪も、恥ずかしがりやな性格も、崩れた優しい笑顔も、もっと一緒にいたいんだ。 ずっとこれからも一緒にいたいんだ! 全部大好きなんだっ!!!だからマチルダさん、生きてくれっ!」


力強く願いを込めた瞬間、眩しい光が二人を包み、光の中で魔力を使い果たしたロイドはその場にゆっくりと崩れ落ちた。





温かい。

また夢の中なのだろうか?

意識がはっきりとしてくる中でロイドは何をしていたのかを思い出していく。

マチルダさん………?


「マチルダさん!!」


意識を取り戻したロイドは自分がベッドの上に横になっていた事に今度は不思議に思う。


「僕が気を失っていたのか、それよりもっ」


急いで起き上がろうとすると、手を握られてつんのめる感覚があった。ふと隣を見るとマチルダさんがロイドの手を繋ぎ、すやすやと寝ていたのだ。


「マチ………ルダ…さん? マチルダさん!!」


「う………ん。 ロイド………先生?」


「怪我はっ!? 身体は大丈夫なんですか!?」


肩を掴みマチルダに近寄ると恥ずかしそうに応えた。


「ロイド先生が………治してくれたから………もう大丈夫です」


「そっか。 本当によかった」


何をもじもじして顔を赤らめているのか分からなかったロイドに、隣の部屋から餓狼の牙のメンバーが声に気付いたのか入ってくる。


「おお。 先生良くなったんだ。 愛の言霊でマチルダを救った奇跡の男」


「え…………何? 愛の言霊? 全然言ってる意味が分からないんですけど………」


「覚えてないのか? 治療中に全力でマチルダに愛の告白をしてたんだせ? マチルダさんが好きだ!! 大好きだっ!! 顔も性格もみんな大好きだっ!!って。 いやぁ、意識朦朧とする中であれは見事な愛の告白だった。 そりゃあマチルダも死ねないわな。 メンバー全員感動したよ」


「え…………?」


思いが全部言葉にでてた?そんな恥ずかしいセリフを僕が大声で叫んで……


「うわぁぁぁぁっっ!!! 死にたいっ! 全部聞かれてたの? 恥ずかし過ぎて死んでしまいたいっ!!」


掴まれた手をギュと握られマチルダが言い返す。


「うれしかったですロイド先生。 夢の中でロイド先生に会いました。 でも、あれは夢じゃなかったんですよね?」


はっきりと覚えている。夢かと思ったが、マチルダさんと僕が不思議な空間で会った事。マチルダさんを治療する中で治癒魔法が意識共有をしたとでもいうのか。でもそれしか考えられない


「会ったよ。 僕がその……マチルダさんを抱きしめて……」


「おおっ!!! 夢でも一緒に抱きしめ合ってたとは、これはもうホントに愛の奇跡だ! 」


「茶化さないで! ロイド先生が恥ずかしくて死んじゃうでしょっ!!」


マチルダが餓狼の牙を止めるが、ニヤニヤと二人をまだ冷やかそうとしているのが見て取れた。


扉から見た奥にある治療台を見ると何十本もの大量のマジックポーションが空になり転がっていた。


「ロイド先生。 ありがとうございました」


真面目な顔をして全身赤くなって死にそうな

ロイドにマチルダは頭を下げた。

その姿を見て、餓狼の牙のメンバーも同時に頭を下げた。


「餓狼の牙一同。 ロイド先生には助けられました。 本当にありがとうございました」



そうだ。助かったんだ。絶望的状態だったマチルダさんを僕は救う事が出来たんだ。


「はは……本当によかった………死なせたくなかった。 大切なマチルダさんを俺の生命に変えてでも救いたいと思った。 だから本当に奇跡だったんだ。 僕一人じゃ助けれなかった。 みんなありがとう」


ベッドの上でみんなにロイドも頭を下げた。


「先生……………大好きです!!」


「うわっ…………と」


抱きついてきたマチルダの香りはあの夢の中と一緒で心地よい香りだった。


「僕も………大好きですよ。 マチルダさん」



「かぁ…………夏でもないのに暑いねぇ。 私たちはロイド先生の無事も確認出来た事だし先に御暇するよ」


餓狼のメンバーはそう言って部屋からぞろぞろと出ていった。

これから先何があるから分からない。僕が治癒魔法でマチルダさんを治した事で大聖堂から声がかかるかもしれない。

でも、やることは決まっている。


「これからも応援してるよマチルダさん」


「はい。 ロイド先生」


忙しくなる日は近いかもしれない。それでも僕は一番近くでS級を目指すマチルダさんを応援し続けたいと思う。


〜終わり〜

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