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8.赤く残った罪の跡

朝、目を覚ますとグループチャットの既読が3つすべてついていた。

遅く目が覚める方ではないけれど、昨日の夜うまく寝付けなかったせいか時計は11時を指していた。


洗面台へ行き、蛇口をひねって顔を上げると鏡に映ったのは、まぶたと唇が赤く腫れた自分だった。

浮腫むくんだ顔ならまだ誤魔化しがきくけれど、この顔はさすがに人前に出していいものじゃない。


「……ひど」


小さく呟いて、スマホで腫れを引かせる方法でも調べようとロックを解除する。

その瞬間、グループチャットとは違う通知が目に入った。


洗顔の音で気づかなかったのかな、と思いながら開いてみると、恵からだった。


『来週買い物に行こ。花火大会終わった後に莉子にあげるプレゼント探し』


私もそれには賛成だ。やっぱり頑張っている人にはご褒美があっていいと思う。

それに、今はどんな形でもいいから莉子の喜ぶ顔が見たい。屈託のない笑顔でも恥ずかしそうにする様子でも、とにかく心に一つ栄養素をあげたいと思っていたところだった。


『それは成就したお祝いであげるもの?それとも』

タプタプと文字を打ち、絶望したペンギンのスタンプを添える。


『もちろんそうだし、そっちもいけるやつにしよう念のため 笑』


客観的で物を見ることのできる、そういうパターンも否定しないところが恵らしかった。


とにかく今日ではなくてよかったな。日焼け止めもなくなりそうだし、そのときに買い足しておこう。

ついでに花火大会に着ていくような薄めのフレアパンツとサンダルがあれば買っておきたいなぁと考えながら、朝食と昼食を兼用したものを食べにリビングへ向かった。


両親は仕事で家にいないため、冷蔵庫に作りして置きしてあったパスタを温めて食べることにした。今日は遅くなるって言ってたから夕食もできれば作っておきたい。

料理が得意というわけではないのだが、高校3年生にもなればなんとなく働く親への気遣いみたいなものも多少は芽生えてくるというものだ。

それに、来年になればもう私は一人暮らしを始めることになる。料理ができて困ることはないし、もしかしたら誰かのために作ることもあるんじゃないかなって想像をするくらいには乙女をやっている。


パスタを温めている間に改めて冷蔵庫の中身を見てみる。

………。

そして私は高校一年生の時、海に行くために買って一度も使っていなかったサングラスを、引き出しの奥から引っ張り出すことを決心した。




食事を終えて食器を洗い、歯も磨いて着替えを済ます。玄関の鏡には普段見ることのできないセレブ感漂うサングラスをかけた私がいた。

できれば人前に出たくなかったが仕方ない。仕事から帰ってきて「あー!なにもない!」と叫ぶ母親と悲壮感溢れる父親の未来を救ってあげられるのは、今日のところ私だけなのだから。


サングラスをかけているからと丈の高いヒールサンダルを履いた。誰にも会うことはないだろうと唇の腫れはもうどうしようもないので放っておくことに決めて…


今日の夕食と明日使える分くらいあれば、あとは親が買い足してくれるだろうから荷物は多くならないと予想して、歩いてデパートへ向かう。

10分くらい歩けばつく距離にあるので飲み物やハンカチは持たずに来てしまったが、14時過ぎ頃ということもあって非常に気温が高い。家を出る前、肌が露出する場所になけなしの日焼け止めを塗って、帽子を被ってはいるが、暑い日差しが髪を焼いていないか心配になる。


汗を流しながらデパートに入ると、すぐ右手側にあるフードコートコーナーから聞き馴染みがある声が聞こえてきた。

こういう時に限って毎回知り合いに会うのだ。神様がいるなら絶対に性格が悪いやつだと思う。


「あれ?有紗じゃん。サングラスなんかしてめずらしい」


軽率な印象を与えてくるその声の主は亮平だった。

昨晩想ってはいけない人を想って泣いてしまったから、その罰だとでもいうのですか。


神様……恨みますよ……





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