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2.好きの形

「私はね」


その続きを聞きたくない自分と、聞かなければならないと思う自分に挟まれて、胸の奥がきゅっと縮こまってしまう。息を吸うのも吐くのもどこかぎこちなくなくなってしまいそうで、呼吸のリズムを意識してしまう。


「あんまり好きとかまだわかんないな~!話を聞いてるとウキウキしちゃうんだけどね」

「なんだそれ!」

「企画したの莉子でしょ!」


みんなが間髪入れずに声を重ねる。

その夜いちばんの笑い声が部屋に弾けた。

急に私の気持ちは解放され、海の底から水面に顔を出したように息を吹き返せたような気がした。


「有紗はどうなの?気になる男いないのか~?」

「私は……今はいないかな」


酸素がやっと行き渡り始めたばかりの頭で考えられる、精一杯の返答だった。

急に話振るなよ困るでしょ……

華奢な体躯を緩やかに捻らせて、私から見下ろすような位置に自身を運んで笑いかけてくる。

あと顔を覗き込むんじゃない可愛いなぁもう


「有紗はクールビューティだから高身長高学歴イケメンじゃないとね」

「私にどんなイメージもってんだ」

「じゃあ有紗はどんな人が好みなの~?」


好み……好みか……難しいな…


「うーん。強いて言うなら」

「強いて言うなら?」


急に場が静かになる。

そんなに聞きたいのか私の好みが。


「明るくて、優しい人?あと、一緒にいて安心する人かな」

「へぇ~。なんか変な男に有紗のこと奪われるくらいなら私が貰っちゃいたいよ~」


軽い力で、冗談みたいに莉子が抱きついてくる。

本当にそうなってくれないかな、なんて感情の波に翻弄された夏の夜に、ほんの一瞬だけ想いを馳せてみたりしていた。

この時だけは蝉のうるさい鳴き声だって、私の気持ちの隠れ蓑になってくれるようなそんな気がして、悪い気分じゃなかった。


-----------------------------------------------


私が自分のことを理解するきっかけになったのはそんなところだ

高校生になった今でも莉子とは親友だし、私の気持ちもそのまんま。

だけど、この気持ちは伝えちゃいけない私だけの秘密。


だって莉子は普通の女の子で、普通に男子と恋愛をする。

初めて好きな人ができたんだって一番先に私に話してくれたのも、ちょっと複雑だけど嬉しかった。


「有紗~!帰ろ~!」


気の抜けたような声と毎日聞くフレーズ。なんて耳障りのいい声と心地いい性格をしているんだと感心する。

この下校の瞬間、今だけは私だけの特等席が用意されているんだ。


「莉子。帰りにご飯買いにコンビニ寄っていいかな。親遅いからさ帰ってくるの」

「おけまる!」


私たちはこのままでいい。私にとっての一番大切な「好きの形」は『莉子が私を親友として好きでいてくれること』なんだから。

ちょっとだけ自分に嘘をついて生きることくらいどうってことない。


「何買うの?ケーキ?」

「ご飯だって言ってるでしょうが」


ふにゃっと笑う莉子の姿を見て、本当は退屈であろう下校時間も綺麗に彩られていた。

二人で靴を履いて、薄く汚れた踵も履き直して、学校を背中に帰り道を歩き始めた。


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