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18.解けた結わい

「あれって……」


恵が呟くように漏らした声は屋台の呼び込みや人々の話し声に溶けて、すぐに雑踏へと吸い込まれていった。

それでも三人の視線は自然と同じ一点へと集約される。


「莉子達だな…」


亮平も続くように、三人の認識を確認するように呟いた。

淡いピンクの浴衣に身を包んだ莉子は、可愛さをそのまま写し取ったような花柄を纏い歩いていた。

隣にはカジュアルな服装で身長の高さをうかがえるがっしりとした男子の姿、石引君も並び歩いている。


二人とも仲がよさそうに笑い合いながら、人々の流れに逆らうこともなく会場の中へと姿を消した。

莉子の結い上げた後ろ髪は少し解れており、自分の身なりに少しうかつになってしまうほど、その瞳にいっぱいの石引君を映していることが見て取れた。


「とりあえず邪魔にならないようにしないとな。少し後で後ろから人の流れに沿って行けば鉢合わせることもないだろ」


「う…うん、そうだね。私たちも花火始まる前に買い物済ませちゃわないと」


うわの空になっていた気持ちを引き戻し、会場へ赴こうと足を踏み出す。

恵と並び歩き、少し前を亮平が歩いて人の流れに乗ろうとしたその時だった。


左足が突然前へ出なくなり、布の千切れる感触と同時に倒れこんだ。

咄嗟に両手で体を支えたが「カチャン」と音が聞こえ、前髪がさらりと視界を遮る。


「ちょっと有紗!大丈夫?!」


恵がそばに駆け寄り肩を支えてくれた。眼前にはコンクリートで舗装された地面。

そして、二つの破片となったバレッタが転がっていた。


左足に視線を向けると下駄の鼻緒が切れており、恐らく通行人に踵を踏まれたのだと思った。

小石が食い込んで少し痛む両手でバレッタを拾い上げ、体を起こす。


「大丈夫、ケガとかはしてないから」


亮平が前方から駆け寄って来て、心配そうにこちらを見ていた。

なんでもないよ、と笑顔で伝える。


「下駄、壊れちまったみたいだな」


「あぁ…そうだね。これじゃこの流れに合わせて歩くのは難しいかも。さっきのところまで一旦……おわぁ!!」


突然、体が亮平の腕力によって宙に浮かされたと思うくらいの勢いで抱きかかえられた。

重たいと自負している私の体はふわりと重力のくびきから外されたように亮平によって運ばれ始めた。


「ちょ、ちょっと!恥ずかしいから下ろして!重たいから下ろして!」


「重たくなんかないぞ全然。片足で歩くより全然いいだろ」


夏の涼しげな夜に熱くなった顔面はひと際赤みを帯びてしまっていそうで、両手で隠しながら元居た場所に運ばれていく。

他意無く簡単にこういうことをしだすから、女子から人気もあるのだろうか。


横からは恵がニヤニヤしながら壊れた下駄を持ちながら歩いている。

きっといつか揶揄(からか)われるんだろうな……

色んな考えを逡巡させているうちに亮平が近くにあったベンチへと体を下ろしてくれた。


「あ、ありがとう…ございました…」


亮平は「おう」と短く返事だけをして、会場へを目を向けた。


「じゃあ俺は食べ物買ってきてやるから、二人の食いたいもん教えてくれ。恵はここで有紗と待っててくれよな」


「まじ?じゃあ焼きそばと広島焼とフライドポテトとりんご飴と綿あめ…」


つらつらととんでもない量の食べ物の名前たちが恵の口から流れ出てくる。

私はなんか適当でいいよと伝えたが、携帯でメモを必死に取っていた亮平がなんだか不憫でならなかった。


会場に向かった亮平を見送り、両手に持っていた壊れたバレッタを見つめる。

金具の部分とオパールの部分が綺麗にはがれており、接着してあったと思われる部分にはのりのようなものの残骸が残っていた。

もともと乾燥していたか接着が甘くて外れやすくなっていたのかもしれない。


親指でオパールの綺麗な遊色効果が照らす表面を撫でた。

私にとって少し特別なアクセサリーは簡単に壊れてしまった。


叶わない恋。

脆くて危なっかしい心。

世間では受け入れられづらい関係を少しでも願ってしまったことへの罰のように思えてならなかった。


自らを(さいな)む多くの感情と思考が、耳に入ってくる音のすべてを遮断し、海にただ沈んでいくような感覚に襲われる。

夜風に晒された脆い心を持つ私の体躯は、先ほどとは打って変わって冷え込み、そのくせ、頭だけは冴え渡り、現実をくっきりと映し出していた。


オパールを撫でた親指は寒さで色味を失っていて、その血色は浴衣の藍に映える月下美人のようだ。


宝石を包む私の手は、感情の諦めと喪失に添えられた手向けの花のように、静かに咲いているみたいに見えていた。


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