17.お砂糖とスパイスと
「着いたわよ。帰るときは迎えに来るから、連絡頂戴ね」
「うん。ありがとうお母さん……浴衣も着れてよかった」
母親はにこりと笑いながら「似合っていて素敵よ」という言葉と私を、お祭りの会場に残していった。
待ち合わせの場所まで距離はないが、歩き出してみるとなかなか歩幅が開けず、ずいぶんと遅く感じてしまう。昔の女性は歩幅の狭さすら美しさの一つとして着飾っていたのかもしれない。
出店が並ぶ会場の前、小さな階段の横に見慣れた姿たちを見つけた。
「みんなお待たせー、結構待ってた?」
「いや、ほんとに少し前に揃ったところだよ。浴衣すごい綺麗で素敵だね有紗」
一番に褒めてくれたのは恵だった。やっぱりこういう見た目に気を使ったり変化したところを褒めてくれるのは嬉しいものだ。特に今日は普段のオシャレとは違って着物を身に纏う時間と苦労がかかっているので余計に心に響くようだった。
「ほら、亮平は?何か言うことないんですか~?」
いつものように悪戯心で亮平を少しいじってやろうと両手を少し広げ着物を見せびらかした。
「……」
亮平は視線を逸らし黙っていたが、その耳は見たことないくらいに赤く染まっていた。
ちょっとまずいことをしたかなと思っていると、恵は横で楽しそうにニヤニヤと笑っていた。
「ねぇ亮平。あんたいつも有紗のこと好きだからとか普通に言うのに、こういうのには弱いとか羞恥の基準どうなってんのよ」
「…うるせ。慣れるまでちょっと見られんけど、本気で綺麗だと思ってるから無理なんだろうが」
「恵あんまりからかわないでよ…こんなつもりじゃなかったんだって。亮平もご……ごめん」
なんで私が誤ってるのか言った後に不思議に思ってしまったが、男心を弄んでしまったことに対する謝罪として受け取ってくれたらなという意味を込めた。
「謝ることないだろ。俺は好きな人の綺麗な姿見られて、普通に幸せだし」
「あ……ありがとうございます……」
なんだか、まごまごとした空気が蔓延してきたころ、恵が「さぁ!」と手をたたいた。
「私お昼食べてきてないからおなかすいてるんだよね。早速お店回って食べに行こう」
そういうとおもむろに携帯を取り出し、三人並んだ写真を撮った後、私たちは会場へと足を運んだ。
買い食いというのはどうしてこうもおいしく感じてしまうのか。買っては食べて買っては食べて…
私の中の乙女がこれ以上はやめなさいと囁いているのに私の胃袋はもっと食べるのだと誘惑し続けてくる。
「有紗お前……甘いものばっかり食べてるけど塩気欲しくならんの?」
リンゴ飴、綿あめ、チョコバナナ、かき氷、人形焼…
確かに甘いものしか食べていないな
「亮平は女の子が何で作られているか知らないな、さては」
「え、なんだよ…タンパク質とかなんとかって話か?」
「違うよ。お砂糖とスパイスと素敵な何かでできているんだよ」
亮平は首を傾げて何を言っているんだという表情が顔から剝がれないままでいる
マザーグースの一文なのだが少しマイナーだっただろうか。
「ま、なんか食いたいものがあったら言ってくれよ。買ってきてやるからさ」
会場から少し離れた場所で飲食していたのだが、私の歩きにくさに気を使ってくれたのかもしれない。わんわんと大きな犬に気に入られたみたいな気分になってしまっていると、恵が横に座り口を開いた。
「ちなみに男の子はカエルとカタツムリと子犬の尻尾でできているのよね。ご主人のためにおつかいしたいなんて、本当に犬っぽくていいいじゃん」
「犬っていうなよ!」
三人でおなか一杯食べて笑い合って、すごい楽しい時間を過ごしているうちに会場はぼんやりと明かりをつけ始めた。日は落ち、そろそろ花火に向けてみんな場所を取りに行く時間だろうか。
売店も人通りが多くなってきていた。
「最後にたくさん買って、花火見るために場所とっておこ。私も一緒に買いに行く」
そうして三人で買い物に人込みの中へと入ろうとしたその時
私たちの目の前に石引君と莉子の後ろ姿が目に入ってきた。




