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物憂げなクラスメイト

「えー、遺伝の法則については重要なので、必ずテストに出るぞ。しっかりと復習しておくように。わからないことがあれば先生に聞きに来てくれ。じゃあ、今日の授業は終わりだ」

2年生の6月。僕、野口弘はいつものように授業を聞き、真面目にノートを書く。あ、立って礼をしないと。慌てて立ち上がり他の人に合わせて礼をする。


「遺伝ってあんまりピンとこないよなあ。本当にそんなわかりやすく遺伝していくものなのだろうかねえ。親からの遺伝で何を受け継いだのかもよくわからないんだけどな」

 隣の席の高から話しかけられる。隣の席になってからよく話すようになった。

「そうだなあ。ショウジョウバエの繁殖でもやってみればちょっと見えてくるのかもしれないな。飛ばないハエが誕生するまで教室で育ててみるか?」

「お、それいいな。ハエなら数週間とかで生まれるんだろ? 2年生の間に何か見えてくるかもしれないな」

「しかもネット通販で買えそうだぞ。勉強のためと言って親に買ってもらうか」


「なんか怖い話をしている人がいるんですけど。ハエを教室で育てるとか地獄だから辞めてよね」

「何でだ? ショウジョウバエなら小さいし、無害だしいいだろ」

「いっぱい生まれて逃げ出してみなよ? 考えただけでゾッとする。もし持ち込んだらすぐ捨てるからね」

「チェっ。いい案だと思ったんだけどなあ」

 後ろの席の酒井から釘を刺される。一応反論してみたものの、まあ虫嫌いの人に受け入れられる自信はない。


「教室でハエ育てるなんてテロよ、テロ。女子全員に殺されるよ?」

「そんなことないだろ、なあ森下はどう思う?」

「ん、ごめんなんの話?」

 高が会話相手を広げていく。高の後ろの席の森下みなみがターゲットになった。

「遺伝の勉強のためにショウジョウバエを買わないかという話をしていたんだよ!で、飛ばないハエが出てくるまで頑張って繁殖を繰り返す。これをやらないかという話をしていてな」

「いいじゃん、面白そう」

「えー、ハエだよ!?」

「小さいハエでしょ? それくらいの虫怖がっていたら1人暮らしできないよ? ゴキブリと戦うことだってあるんだからね」

「そっか、森下さんは1人暮らしだもんね…… 1人暮らしのハードルは高いなあ」

「慣れれば平気だよ? 最初はちょっとしんどいけど。社会人になったらみんな1人暮らしする者だし、それほど難しいことではないと思うけどね」

「うし、じゃあ俺は部活行ってくるわ。野口はショウジョウバエ調べて買っておいてくれ。頼むぞ」

「私も行かないと。私は認めてないからね」

 そういうと高と酒井は颯爽と去っていった。高は森下から許可が出て勢いが増したな。


「……本当に飼うの?」

「……いや、辞めておこうと思う。どうせあいつも明日になれば忘れているだろう」

 ニコッと笑う森下の顔が怖い。目が笑っていない。しかし反対なら反対とちゃんと言ってくれないと話がややこしくなるじゃないか。


「ねえ、野口くんって写真部でこの前賞をもらったんだよね?」

「うん、小さい役所のイベントの、だけどね」

「すごいね。それでちょっとお願いがあるんだけど……」

「写真撮影か? それなら全然いいぞ! 人物撮影も最近始めたが結構奥が深くて楽しいからな! 森下ならインスタに載せればすぐインフルエンサーになれるレベルにするぞ!」

 率直にいうと森下は可愛い。ボブの髪型と笑顔がよく似合う。おそらくこの学校の生徒であれば「学校で可愛い女の子」で皆名前を出すレベルだろう。SNSはやっていないという話だったが、遂に気が変わったか?


「んーちょっと違うんだけどね。私の写真を撮ってほしいわけではないんだけど…… いや、撮って欲しいといえば撮って欲しいんだけど……」

「?」

「犯罪の瞬間を写真に撮ってほしい、という話だよね。みなみちゃん?」

 すっと話に入ってきたのが、隣のクラスの上中澪だ。森下の親友のようで、いつも一緒にいる。黒髪ロングですっとした佇まいから、可愛いというより美人という表現がよく似合うが……

「いつからいたんだ?」

「ちょっと前から。四人で盛り上がっているようだから話に入るタイミングがなくて」

 ちょっと影が薄いのが難点だ。よくクラスに来ているのでたまに話をすることはあるが、話しかけられれば答えるが自分から話している姿を見たことはない。


「もうちょっとこう、ナチュラルに会話に入って来られないのか?」

「…… もう諦めているわ」

「まあまあ、澪ちゃんの言う通り、私をこっそりストーカーして、犯行があれば写真に収めて欲しいんだ。詳しく話すね……」

 真面目な顔をした森下の説明が始まった。


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