第十四話 訓練(凛、風華)
「凛、まぁ呼吸法より先に凛に足りないものがある」
「足りないもの?」
「ああ、いくら呼吸法を覚えようが、その足りないもののせいで成長を妨げる。なんだと、思う?」
「剣の実力?それとも力?」
「いや、違うな。今の凛の実力ならまぁまぁ悪くない線だ。剣術に置いて力はそんな必要ないんだ。凛に足りないものは目だよ」
「目?」
凛は首を傾げるのだった。
「クソジジィ...俺の師匠の教えは一眼二足三胆四力。最も重要なのが洞察力。その次は足捌き、その次は胆力なんだ。力はその次だな。もちろん、力が重要ではないという訳ではない。それ以上に重要なのがその3つって所なんだ...まぁ、俺のバトルスタイルは目より他に重要なのがあるが、凛にとっては目が重要なんだ」
「でも、力とかなら鍛えられるけど、目はどうやって鍛えるの?」
凛は分かりやすく、眼球を動かせば動体視力が良くなると思い周りをキョロキョロと見渡す。その行動に可愛いらしいと、零夜はニヤけてしまうが、ここは我慢する。
「そう言う事じゃない」
すると零夜は持っていた木刀で凛の首を狙おうとした。
だが、凛は瞬時に反応してその攻撃を木剣で受け止めるのだった。
「うん、やっぱり。凛の目は良いね。今の不意打ちを簡単に止めるなんて凄いよ。でも、あまりにも凛の目は節穴すぎる」
「嘘!」
零夜の右手には凛が持っていた先端の木剣だった。
いつ斬られたのか、いつそれを手に取ったのか一度も見えなかった。
「見えなかっただろ?今の凛は俺の木刀しか見てなかった。ここに隠し持っていたナイフまでは気付かなかっただろ?」
木剣の先端と一緒に小さなナイフを隠し持っていた。
そして零夜は、風華に何かを教えている宗一郎の方に指を指した。
「10秒間。ジィさんに集中して。10秒後、ちゃんと覚えたか問題出すからね」
「分かった」
凛は宗一郎をジッと見つめるのだった。
(灰色の髪に髭...丸いサングラス...薄い茶色服...額には刃物で斬られたような傷?...あっ、薬指に指輪がある)
「はい、10秒。目を閉じて」
零夜の言う通り、凛は目を瞑る。
「じゃー、ジィさんの後ろにいた鳥は何匹いた?」
「え?」
宗一郎に関係ない問題が出た事に戸惑う凛。
「覚えてないだろ?」
「...意地悪。校長を見ろって言った」
「あはは、確かにジィさんに集中しろとは言ったが、それだけ見ろとは言ってないだろ?」
「...」
「爺さんの後ろの鳥には、確かに視界は入っていた、そうだろ?」
「うん」
「なら、何故10秒間視界に入っていた鳥の数は覚えていないか、分かるか?」
「...分からない」
「うん、そうだね。なら、教えるよ。凛は正直者だからね」
「正直者?」
「ああ、凛の目は確かに良いが、それは必要なものしか見ようとしてないからだ。目は思っている以上に不便なんだ。必要な情報だけしか見ない。人間は不利な情報を排除する為か視界をフル活用する奴なんて、そうそういないんだ」
零夜は次は木刀で学園の方を指した。
「凛、視界全体に集中するんだ。目に映ったモノの全てを写真のように覚えるんだ。これを凛には10秒じゃなく、瞬間に出来るようにしたい。これをマスターした時は、凛が今まで見てきた世界観が変わるよ。この円瞳術をマシターしよ...はい、10秒経過。学園の屋上の旗の数は?」
その頃、風華の修行では宗一郎が教えるのだった。
「一条風華君。君にはまず体力作りをしてもらいたいのじゃ。ここのグランドを5周してもらいたいのじゃ。毎日のようにしている訓練で簡単じゃろ?」
「はい!」
グランド5周は大体3キロぐらいある程の広いグランド。
宗一郎の言う通りに走るのだった。
「よし!次は片足ジャンプで動いてくれ!」
「え?」
そう言われ、風華は片足を上げて片足でジャンプしながら前へと移動するのだった。そして次はワンツーしながら前へ進んだり、逆立ちしながら前へ進んだりと声をかけられる。そして、やっと5周走り回って疲れた事にその場で座り込むのだった。
「どうじゃ?いつも5周入っているのに疲れたじゃろ?何故じゃと思う?」
「それは、慣れてない走り方をしたからじゃないですか?」
「うむ、ビンゴじゃ。訓練に慣れた、つまりそれは停滞をしている意味じゃ。同じ訓練には到達出来る領域が限りられているのじゃ。別に反復練習を悪いとは言っておらぬのじゃ、だが訓練を慣れてしまった、それは拳闘士としてあってはならない事なのじゃ」
「だから、色々な走り方をさせたのですね」
「うむ、そうじゃ。お主には慣れてない部分を知る必要があるのじゃ。どこを鍛えるかによって人間は筋肉や骨、神経などがそれぞれ発展するのじゃ。強みを活かして弱点を補充する。それがワシにとって究極な鍛錬法じゃ。お主の動きを解説して分かった事は、強みは自分の夢を叶える為に、とてつもない努力の量や鍛えられた身体能力に強いメンタルじゃ。だが、逆に弱い部分は同じ訓練を繰り返したせいで、凝り固まってしまった体。身体能力の柔軟性なあるが精神的な柔軟性が足りないのじゃ」
「精神的な柔軟性...」
「1ヶ月後。お主には緋村凛君に勝ってもらうのじゃ」
「え?」
「え?ではない。あの子は試験の時に一度だけ見たが、まだ不十分だが精神的な柔軟性を生まれ持った才能なのじゃ。あの子の目は良すぎる。良すぎるこそ危険じゃがな」
「でも、どうやって私が...」
散々凛の戦い方を後ろで見てきた風華にとって勝ち目はないと分かっていた。
「初めから負けると確信するのじゃない。あの子にお主には敵わない力がある。だが、逆も然りなのじゃ。あの子にない強みがお主に存在するのじゃ。ワシはそれを鍛えるのじゃ」
「はい!改めてよろしくお願いします!」
風華は1ヶ月後に凛を倒せるぐらい強くなろうと、やる気が込み上げてくるのだった。




