三ツ星ガソリンスタンド
ロード中のPSPから聞こえるザーって言う音、耳障りですよね。
「ロイドさん、何を?」
おれがガソリンスタンドのトイレから帰ってくると、緑のノズルを頭に突き立てたロイドさんが立っていた。
「一体これは?」
よく見ると彼女の側頭部にはノズルがぴったり入るような穴が開いていた。
「……ごめんなさい。実は私、ヒューマノイドなの。ガソリンで動くタイプの」
言葉が出てこなかった。艶やかな髪、潤った瞳、透き通った肌、そして美しい心。その全てに惹かれ、愛していた。それがまやかしだったというのか。
「我慢出来なかった! ここのレギュラー、三ツ星だって聞いてたし。あなたトイレ長いからいけるかなって」
そういえば、彼女からピーピーという音が鳴った後、急にカタコトになったことがあった。一昔前のゲーム機がロード中に鳴らす、ザーという耳障りな音が聞こえたこともあった。何故気付かなかったんだ、7年間も。
「これがないと生きていけないの」
「待って!」
「止めないで!」
「違う!それはレギュラーじゃ――」
頭からドクドクと注がれる軽油を味わい、天にも昇るような快楽に包まれた表情を見るのは初めてだった。その妖艶な佇まいに目を離すことが出来ない。
ピクっと身体が疼いた瞬間、ロイドさんはその場に倒れた。おれはロイドさんの傍に駆け寄り、身体を強く抱きしめた。
「ロイドさん!」
「まさか、毒物。こんな形でお別れだなんて」
「やっぱり軽油じゃなかったんだ……!」
「店長さんに言っておいて。味は悪くなかった、って」
おれはその場で泣き続けた。オイルと涙でぐちゃぐちゃになったロイドさんを抱え、車に戻ろうとした時、赤いランプと共にピコンピコンとロイドさんの声が鳴いた。
「電池を換えてください。電池を換えてください」
見て頂いてありがとうございます!