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誰かが言っていた、親切はかえってこない

作者: さとう あか

 これはある街の話だ。


 そこには足腰が悪いとされる夫婦が住んでいた。

 そして、その夫婦の元に毎朝パンを届ける少女がいた。

 

 少女は心優しく、夫婦の頼みで簡単な家事もこなすこともあった。

 言うことを聞いてくれるパンを届ける少女は夫婦の子供以上に可愛いものとなっていった。


 ある日、少女は言った。

 「私、結婚して隣街へ行くんです」

 それは二週間ほど先の話だった。

 少女はこの二週間で自分がパンを届けることが終わってしまうということを伝えたかった。

 そして、その二週間先からは誰か違うものが届けることになるだろうということを伝えたかった。


 しかし、夫婦の考えはそんなことではなかった。

 なぜ結婚という一大事を自分たちに相談しなかったのかということで頭はいっぱいだった。


 少し客観的になって考えることができればわかることではあるが、少女にとっては夫婦は毎日会うお客さんという認識でしかなかったのだ。

 少女から見れば結婚の相談をするほどに親しくしていたかと言われれば決してそうではなかったのだ。


 お客さんにはちゃんと結婚の約束が決まったこの時期に伝えていた。

 しかし、本当に密な付き合いをしていた人には結婚の話が進んでいたことは知られている。


 この夫婦は普段から必要最低限の会話しか求めなかったためこのような結婚が決まってからの報告となった。


 それだけの話であったのだが、夫婦にとっては違った。


 毎朝自分たちにパンを届けてくれる女の子。

 それは王都の学校へ行き勉学に励んで全く手紙も出さず、帰省もしない子供よりも可愛いものだった。


 そんな我が子以上だと思っていたのに自分達になにも相談せずに結婚?

 なにをふざけたことを!!


 そう思って夫婦は少女を怒鳴りつけた。

 あまりにも身勝手な理由で。


 少女は驚いた。

 祝ってくれるものだと思っていたから。

 少なくとも結婚するといって、怒鳴りつけられるとは思っていなかったのである。

 驚きで少女は固まってしまった。


 それを見た夫婦は激昂した。

 黙っていればなんとかなると思っているのか!

 と、さらに怒鳴りつけた。

 

 頭に血が昇っていた夫婦はその怒りを行動に移した。


 夫は少女を突き飛ばし、妻は持っていたカップを投げつけた。


 少女の体は勢いよくとび、柱に頭を打ちつけた。

 さらに追い討ちと言わんばかりに飲み物が入ってそこそこの重さがあるカップが胸を強打した。


 不運でしかなかった。

 夫婦のこの行動によって少女は亡くなってしまったのだ。


 動かなくなってしまった少女を夫婦は最初、「ふてくされている」と思った。

 が、少女はピクリとも動かない。

 だんだん夫婦がおかしいと思い始めた時だった。


 どんどん。

 家のドアが叩かれた。


「すごい音がしたけれど何かあったのかい?」


 夫婦はとっさに答えることができなかった。

 「何か」はあったのだから。

 すぐに答えなかったことをドアを叩いた人物は怪しいとでも思ったのか「はいるよ!」と言って返事も聞かずに家に入ってきた。


 そして、少女を見つけた。

 入ってきた隣人はすぐさま少女の状態を確認した。

 夫婦はその隣人にこういった。


「この子が悪いんだ」

「結婚を勝手に決めるから」


 そう口々に言った。

 自分達は悪くない、と。

 隣人はその言葉を聞いて驚いた。


「そんなことで!?そもそもこの子はあなたたちの子供でもないだろう!」


 隣人はその夫婦の言葉に思わずそう言い返した。

 だが、言い返された夫婦はなぜそんなことを言われるのかがわからないといった顔をして不満げだった。


 そんな騒ぎを聞きつけた周囲の人たちが集まってきて、少女の死はすぐさま両親に伝わった。

 嘆き悲しむ両親を見て夫婦は言った。

「少女が悪い」のだと。


 「なにが悪いっていうんだ!あんたたちが言っていた通りにパンを届けて多少のツケも多めに見てきた!あんたたちの要望に応えてきたのにこんな仕打ちをこの子にしたのか!」


 それは少女の親の心からの叫びだった。

 長い付き合いの人だから、多少は多めに見よう。

 あの夫婦だってわかってくれているだろう。

 そう思っていたのに。

 

 こんなことになるなら娘にパンを届けさせなければよかった。

 いや、あの夫婦に関わっていなければこんなことにはならなかっただろう。

 そんな後悔が少女の両親の胸を占め、嘆き悲しんだ。

読んでいただきありがとうございます!

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