2話 ジータ=ジン=ジムリスの憂鬱
「おいこら!聞いてんのかジジジ。」
頭の中で悪魔が囁く。
「悪魔じゃねぇ!阿熊だ!!」
この悪魔は、うるさいだけで、なんの役にも立たないポンコツだと言うことがわかった。
「おい、今、なんって言った!」
言っていません。頭の中で考えているだけです。
「あんだとこらぁ!」
じゃあ、僕は学校に行ってきます。
「おいこら、何度も学校には行くなと言ってるだろ。」
アグマさんは、黙っててくれませんかね。頭痛が酷くなります。
「なにぃ!頭痛が痛いってか!!」
やっぱり馬鹿だ。この悪魔。
「はーーーー馬鹿って言った奴が馬鹿なんだぜ!」
こんな具合で、頭の中は、ギャーギャーうるさいのです。
◇◇◇
僕は、ジータ=ジン=ジムリス。
父、ジーク=ジン=ジムリスと母、クリスティ=ジムリスの間に生まれたジムリス男爵家の長男。
兄弟は、弟2人に妹が1人の四兄弟。
「ジート、ジース、キャスリンだろ知ってる知ってる。」
・・・本日から王立魔導学院に通うことになりました。
貴族の子弟は必ず行くことになる学校です。
「いいな!絶対に行くな!絶対だぞ!」
・・・僕は朝食を済ませ登校する。
いいとこの貴族なら、馬車での登校なのだが、何分、貧乏貴族故、徒歩での登校。
「だから、行くなってんだろ!」
僕が屋敷を出ると、待っている子がいる。
幼馴染のユースティア=フルフラッドシュッテンタルト。
彼女は、子爵家の令嬢。
うちと同じで、そこまで裕福な貴族ではないので徒歩での登校。
「なげ~苗字だな・・・お!?ショートヘアの可愛い子じゃね~か。」
おはよう。ジータ。
おはよう。ユース。
「ユースって呼んでんのか。」
ジータ・・・どうしたの?変な顔して・・・この制服・・・ヘン?
そんなことないよユース。似合っているよ。
ありがとう。でも、どうしたの?
ちょっと、頭痛が・・・
休む?
初日だから行くよ・・・
無理しちゃだめだよ。
わかってる。
「いい子じゃね~か。」
・・・アグマさん、いちいち反応しないで下さい。
「別にいいじゃねぇか。口しか出せないんだから。」
口も出さないで欲しいんですけど・・・
ジータ、ジータ。ユースが僕を呼んでいる。
なに?ユース。
本当に大丈夫?ボーっとしてたわよ。
ごめんごめん。もう、大丈夫だから、行こうか。
僕とユースは、学校へと向かった。
「引き返せ~今なら、間に合う!」
悪魔の囁きは、シャットアウト。
「悪魔じゃねぇ阿熊だぁ!」
◇◇◇
俺は、危機管理課と言うところにやってきた。
そこには、眼光鋭い、おばはんがいた。このおばはん・・・できる!
その鋭い眼光に俺もガンを飛ばす。バチバチと火花散る・・・みたいな錯覚を覚える。
「あんたが、阿熊さんかい?」
「おう。そうだ。」
「ふん。そうかい。じゃあ、説明するよ。」
おばはんは、ぶっきらぼうに言う。
「頼む。」
「あんたは、今から成り代わり転生するって話しは聞いたよね。」
「おう、聞いたぜ。」
「成り代わり転生には、3つの危険性があるよ。」
「3つもあるのか・・・」
「まずは、一つ目。転生先が転生前に死んでしまった場合。行き場がなくなるよ。運が良ければここに戻って来れる。」
「運が悪い場合は?」
「現地で浮遊霊さ。」
「二つ目。転生先に上手く転生できた。でも、転生先が致命的損傷を負っていた場合。」
「それそれ、転生したらすぐ死にました。ってなことになるんじゃねえのか。」
「一応、救済措置がある。転生希望者の魂を使って身体の修復がなされる。勿論、オプションだけどね。」
「要は対価を払えってか。」
「そうなるね。それで三つ目。これが一番やばいよ。」
俺は、ゴクリと生唾を呑んだ。
「こっちも、言いにくいんだけどね・・・お役所仕事だから勘弁な。ごく稀に運命を変えちまう者がいるんだ。」
「ほう・・・それが何だと言うだ。」
「運命を変えるって言っても大した事じゃない。本来、死ぬべき日に死なないってケースがあるのさ。だからと言って、死ぬ運命は変わらない。精々、2、3日ずれるって程度だけどね。」
「ふ~ん。それで?」
「お役所仕事って言ったろ。決まった日時にあんたを転生させる。もし、転生先が死の運命を変えていたら・・・」
「ど、どうなるんだ?」
「一つの身体に二つの魂が宿る。」
「つまり、どう言うことだってばよ。」
「簡単に言えば・・・二重人格になるってことよ。」
「ふん!それがなんの問題があるんだ。そいつが死ねば俺、1人で身体を使うことができる様になるんだろ。」
「馬鹿言っちゃいけないよ。身体が死ねばあんたも死ぬ。」
「はあ?オプションってヤツがあるだろ!」
「ほんと馬鹿だね。そのオプションってのは、魂が身体に入った時のみ付与される力なんだよ。つまり・・・一度入った後では、使用不可なのよ。」
「なんだってぇ!?」
「まあ、ついでだから良くない情報を教えてあげるわ。」
「良くない情報?」
「一つの身体に二つの魂が宿った場合・・・主人格は、転生先に優先権があります。なので、そうなった場合あなたは・・・何も出来ませ~ん。」
「おいこら、なんだそれは!!」
「ああ、転生先に口だけは出せるそうよ。これは、確定情報じゃないんだけど、転生先の人格と交渉で人格を入れ替えることができるらしいわね。」
「おお、そうなのか。」
「まあ、稀な事例だしこんな事は無いと思うわ。」
「で、どうする?成り代わり転生しますか?」
「勿論する。」
「オプションは付けますか?」
「付ける。」
「では、ここに同意書を用意したんで、確認したらサインと捺印・・・拇印をしな。」
俺は、ろくに同意書の内容を読まずにサインと拇印を押した。
「はい。確かに頂きました。最後に確認します。特殊技能は利用するかい?」
「特殊技能?」
「転生特典ってヤツだよ。」
「貰えるものは貰う。」
「本当に利用するのかい?」
「なんだ、貰っちゃ悪いのか?」
「大事なことなので・・・一応ね。」
「くどい!貰えるものは貰う。」
「ご利用っと・・・では、この同意書を持って、特殊技能付与課に行きな。突き当りを左ね。」
おばはんから、同意書を渡される。
「まだ、あんのかよ・・・」
これが、タライ回しってヤツなのか・・・全く役所ってヤツはよ・・・
俺は、特殊技能付与課なる場所に向かった。