1話 二重人格は突然に・・・
僕は今、ある事に悩まされている。
それは、突然、僕の身を襲った。なんの脈絡もなく・・・。
ある朝、目覚めると何処からともなく声が聴こえてきた。
それは、耳から聴こえるのでなく、頭の中に直接に。
「よぉ!ジータ=ジン=ジムリス。早速で悪いがこの身体、俺がもらうぜ!」
意味がわからない。僕は頭を抱えた。
「これは、ジータ=ジン=ジムリスあんたの為に言ってやってるんだぜ。」
うるさい、うるさい、うるさい。なんなんだ、この声は?
「ジータ=ジン=ジムリス・・・なげーから、これからは、ジジジでいいよな!」
勝手にあだ名を付けられるし。普通にジータでいいでしょ。
「いいから、よく聞けジジジ。お前はこのままだと、死ぬぞ。」
なんなんだよ、いきなり死ぬとか、怖すぎるんですけど・・・。
「信じられないだろうが、これは本当の事だ。お前がどんなに頑張っても、その運命は変えられない・・・そこで、俺の登場だ。俺がその運命を変えてやるからよぉ・・・とっとと、変われこの野郎。」
本当になんだこの声は?て、言うか誰なんだよあんたは?
「俺は・・・神。なんてことはねぇ。この世界に転生するはずだった阿熊 翔。」
やっぱり悪魔じゃないか。
「あぐま、あぐましょう。」
その、アグマさんが、僕になんの用が?
「ジジジ。お前は後・・・2、3日中に死ぬ。」
そうなんですか・・・
「信じてねえな。まあ、聞け。本当だったら、お前は、今日、死ぬはずだった。その死んだおまえの身体を使って、この俺が転生を果たすはずだった。」
へーそうですか・・・
「・・・だが、ちょっとした手違いで、死ぬ前のお前の身体に入っちまったんだ。」
だったら、僕が死ぬまで待てばいいじゃないですか・・・
「それだと、俺まで死んじまうだろが!」
はーそーですか・・・
「全く信じてねぇ・・・」
そろそろ、帰ってくれませんかアグマさん。
「帰れるもんなら、とっとと帰ってるわ。」
はあ・・・じゃあ、僕にどうしろと?
「だから、この身体、俺に渡せ。」
どうやって渡すんですか?
「・・・・・・知らん。」
・・・・・・・・・
「ジジジ。知らんのか?」
知るわけないでしょ。
「あの役人!!やりやがった。この状況どうせぇって言うんじゃい!」
・・・じゃあ、僕は学校がありますんで・・・
「馬鹿!行くな!死ぬぞ!!」
あ~~うるさい。でも、わかりました。アグマさん、あなた・・・何も出来ないですよね。
「うぐ。。」
何も出来ないんなら黙っててください。
「おい!本当に行くな!後悔するぞ!!」
・・・どう、後悔するんですかね。具体的に知りたいですね。
「今日から、お前に対して・・・イジメが始まる。それが、エスカレートして、お前は死ぬ。」
そもそも、イジメってなんですか?
「だから、イジメだよ。」
だから、イジメってなんですか?
「あーあれだ、嫌がらせ的なあれだよ。わかんだろ?」
はあ・・・わからないんで、もう、いいですか。遅刻してしまいます。
「こら、まだ、話しは終わって・・・・・・
それから、アグマと名乗る者の声が頭の中で語りかけ続けている。
どうしようもない、頭痛の種である。
◇◇◇
俺は阿熊 翔。
なんの因果か知らないが、異世界転生なるものすることになった。
短いながらも、精一杯、生きてきたつもりだ。
初めは1人で単車を転がすだけだった。
そのうち、1人、2人と増えて行き、何時しか大きな集団になっていた。
そうなってくると、敵対する連中も現れる。
そいつらと、事あるごとに衝突した。
喧嘩、喧嘩、喧嘩。毎日が喧嘩だった。
でも、気の合う連中と一緒に単車を転がし、喧嘩をし、馬鹿をやって、毎日がお祭り騒ぎで、それなりに充実していた。
そんな毎日が当たり前になっていた時、俺の最期は、唐突にやって来た。
色んな所で恨みをかっていたのだろう。
後ろから誰かが体当たりされ、背中に激痛が走った。
鋭利なナイフの様なモノで刺されていた。
俺は最期の力を振り絞り、刺した男を殴り倒し取り押さえた。
男の顔を拝むとその男は・・・ダチのケンジだった。
「ショウさん、あんたが全部、悪いんだ!」
「なんでだよ・・・ケンジ・・・」
俺が覚えている生前の記憶はここまでだった。
◇◇◇
気づくと俺は、事務所的な部屋にいた。
キーボードを叩くカチカチという音が響いていた。
見るとパソコンに向かい合う眼鏡の白髪の男がモニターと睨めっこしている。
俺は、ケンジに刺されて・・・
痛みもない。治療された様子もない。何がどうなっている。
俺は、本当に死んだのか・・・
俺は、そこにいる白髪の男に問いかけた。
「おい、貴様、ここは何処だ。」
白髪の男は、振り向くと俺の顔を見た。
俺は、情景反射のようにガンを飛ばした。
「ああ、なんだやるのかこらぁ!」
男は眼鏡をクイッと上げると、事務的な態度で話しはじめた。
「え~と、君は阿熊 翔くんでいいのかな?」
「それがどうした。やるんのか!」
「本人確認OKっと。今から手続きをしますんで、このカードを持ってお待ちください。」
男は数字の書かれた紙を俺に渡した。
「おいこら!ここは何処かって聞いてるんだよ!」
「順番をお守りください。」
男がそう言うと、不思議な力で引っ張られ待合席に座らされた。
「今のはなんだ!!」
俺が大声をあげているのを迷惑顔で見ている者たちがいた。
先に待合席に座っていた3人。
一人は、小学生ぽいガキ。
もう一人は、しわくちゃなババァ。
そして、お嬢様ぽい高校生?何処かで見たことのある制服だ。
「ああ!なんだ文句あんのか!」
誰も何も答えない。ただ、白い眼で見られている気がした。
俺は、舌打ちして押し黙った。
暫くすると電子音がポンと鳴ると電光掲示板に数字が表示された。
「僕の番だ。」
ガキが駆けだし事務所の奥に消えて行った。
又、電子音がすると、今度はババァが奥へと。
先に奥にいったガキは帰ってこない。
次は、高校生が奥に。
「次は、俺の番か・・・にしても、誰も戻ってこねぇな・・・」
この状況を不審に思っていると、電子音が鳴り渡された紙に書かれた数字が掲示板に表示された。
俺は行かなかったらどうなるのかと思い、その場に座り込んでいたが、又、不思議な力で引っ張られ奥の部屋へと引き寄せられた。
そこには、最初に会った白髪の男がいた。
男は、資料を見ながら話す。
「阿熊さん。端的に言ってあなたは・・・地獄行ですね。」
「はあ?なに言ってんだおら!!」
まあ、天国に行けるとは更々思っていないけど、なんか腹が立つ。
「ここは何処かって聞いてんだよ!」
「閻魔区役所ですがなにか?」
エンマ区役所???聞いたことねえな。大丈夫かこいつ・・・。
「どうやら、記憶に混乱があるようですね。」
「いやいや、死んだてーのは、なんとなくわかる。ここはなんだってことだよ。」
「閻魔様は知っていますか?」
「あれだろ、天国か地獄に行くかを決める神様だろ。」
「はい。正解です。ここは、多忙な閻魔様の代わりにお沙汰を申し渡す出張所です。」
「はあ?なんじゃそりゃ!いつからお役所仕事になったんだ。」
「はあ?はじめっからお役所なんですが・・・」
「・・・・・・」
「それでは、話しを続けますね。あなたは地獄行決定・・・っと言いたいとこなんですが、死亡原因が刺殺と言うことで、情状酌量の余地があると判断されました。そこで・・・地獄行か異世界転生かを選ぶ権利が発生しました。」
「はい??」
「要するに別世界でもう一度生きるチャンスを得たのですよ。」
「そんなことあるのかよ・・・」
「あるんです。でも、喜ぶのは早いですよ。」
「どう言うことだ?」
「本来なら生まれ変わって一からやり直すのが通例なのですが、あなたの場合、悪行を積み重ねてしまっていますので、ペナルティが課せられます。」
「そうか・・・それはなんだ?」
「はい。それは、別世界の人間が死を迎えた時、その死んだ人間とあなたの魂を交換します。」
「それって、入れかわった時点で死ぬやつじぇね。」
「その辺は運しだいかと・・・それもペナルティに含まれますが、本当のペナルティは、その別世界の人間の経歴を引き継ぐことです。」
「それが、なんの問題があるんだ。」
「大有です。その人に成りすます事になるのですから。」
「・・・・・・」
「わかってない様ですね。その人の記憶や経験も引き継がれるなら問題ないのですが、あなたに与えられる情報は、略歴だけ。本人の名前、父母の名、生まれ、学歴等ですね・・・あ、そうだ、死因もお教えします。」
「てことは・・・」
「友人関係とか個人情報は、全くわかりません。」
「それで、別世界人として生きてけってか。」
「そう言うことになります。面倒な手続きをしたくないので、地獄行をお勧めします。」
「こいつ・・・」
「では、お選び下さい。」
「今、決めなきゃならないのか?」
「はい。即決でお願いします。でないと、地獄行決定です。」
「俺は・・・転生するぞぉ!!」
て言うか、これしか選択肢はねえだろ。
「はあ、そうですか・・・」男は面倒臭そうな顔をしていた。
「では、この先にお進み下さい。危機管理課にて、リスクの説明がありますので。」
「リスク!?」
「普通の転生ではありませんので、同意書にサインしてからになります。」
同意書?って思いながらも、俺は先に進んだ。